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急ぎなので簡潔に
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まず、このようなことになったとはいえ、素晴らしい体験をありがとう。
今は急いでこれを綴っている。字を消すことができないから誤字には目をつむってほしい。
まず、事の経緯から。私は昔から気になっていた。死後の世界というものに。というよりも、死後の視界、について知りたかった。
意識がない、視覚も機能しない、脳も機能しない、そのような状況の中、見えている、映っているものはなんだろうかと。
真っ黒、真っ白。私はこれが正解だと初めは思っていたが、これだと色が見えているというのが脳の機能の停止と矛盾しているように思う。
夢を見ているはずもない。考えていると段々頭が痛くなってきて、後日大学の教授に聞いてみた。
教授からも的を得た話は聞き出せなかったが、それを聞いていたあなた。そうこれを読んでいるあなたです。あなたが私をこのプロジェクトに誘ってくれた。おっとすまない血が垂れてしまった。
あなたは私に「仮死剤」を体験してくれと話をもちかはてくれた。これが実用につながれば医療の幅が広まる、と。
また、死後の世界の観測は科学的に見ても進歩のひとつだ、という意向のもと、仮死剤の安全性、そして死後の世界の観測とそのレポートを提出という条件付きで私はこのプロジェクトに参加することができた。
つまり、この文章はレポートであると捉えてもらって構わない。信じられないと思うが、私は真面目にこのレポートを書いているんだ。だから、もう少し付き合っておくれ。
私は他の関係者と完全に隔離された別室に案内された。
死後の世界の観測には意識を強く持つことが必要との説明を受けた。でなければ、死から覚めたときにすべてを忘れてしまうとの説明もされた。
あたり一面真っ白の部屋の中央に置かれていた机には、水と錠剤一粒。
私は目をかっぴらいてこの薬を飲んだ。
しかし、何も起きなかった。
初めは遅効性なのだろうとぼーっとしていたが、何も起きない。
薬の不備を訴えるために部屋の外に出たが、誰もいない。
ここが死後の世界なのか?と疑問におもっていたが妙な違和感を感じる。やはり死後、脳がこのような世界を見せるというのはおかしな話だと思った。
そして気づいた当たり前のことに。
僕は上空から自分を眺めていたのだ。これは夢で時々起こる現象だ。まさか、先程飲んだ薬は、睡眠薬?
仮死剤の可能性もあったが、そこまで可能性に賭けるほどの精神でもなかった。
僕はなんとか現実の自分の舌を噛み、目を覚ました。
何度も、今日の朝も経験した謎の頭の痛みからやはりただ眠っていただけだと直感した。
それと同時に、今の状況も理解した。
私は棺の中だ。そしてその棺は車に乗っている。
完璧に聞き取れたわけではないが、運転していると思われるあなたは電話相手と思わしき人物に向かい、「銃」「山」「バラバラに」という単語は聞こえた。
私はここから脱出する手立てはないと察した。棺は開かず、開いたところで車の中からどう逃げろというのだ。すぐあなたに殺されるだけだと。
それならば、私は条件として提示されていた「レポートを書く」ことにした。
もしかしたら、あの薬は本当に仮死剤だったかもしれないのだから。
しかし書くものも書けるものもない。
そんなときに人はできないことでもできるようになるものだ。
私は親指の爪や歯を使い、自分の腕の皮膚を剥ぎ取った。
痛みより先に、義務感が湧いてきて、辛くはなかった。
あらわになってきた骨に自分の爪を使って文字を削るようにして書いていく。
一文字書くのに一苦労。
今もう右手は使い物にならず、左手もボロボロだ。
右腕だけじゃ書ききれず、左腕の骨、最後は右足の骨も使った。
俺の体すべてを使って書いたレポートだ。これなら条件として充分だろう。
最後に、改めてだが、私にこのような体験をありがとう。
もしあれが仮死剤なのならもちろんすごく嬉しい限りだ。
それに、あれがただの睡眠薬だったとしても、私はあなたに感謝しなくてはならない。
銃で殺すって言ったよね?
僕の顔を最後まで見ていたかい?
僕はきっと、意識を強く持つため、目をかっぴらいていただろう。
今は急いでこれを綴っている。字を消すことができないから誤字には目をつむってほしい。
まず、事の経緯から。私は昔から気になっていた。死後の世界というものに。というよりも、死後の視界、について知りたかった。
意識がない、視覚も機能しない、脳も機能しない、そのような状況の中、見えている、映っているものはなんだろうかと。
真っ黒、真っ白。私はこれが正解だと初めは思っていたが、これだと色が見えているというのが脳の機能の停止と矛盾しているように思う。
夢を見ているはずもない。考えていると段々頭が痛くなってきて、後日大学の教授に聞いてみた。
教授からも的を得た話は聞き出せなかったが、それを聞いていたあなた。そうこれを読んでいるあなたです。あなたが私をこのプロジェクトに誘ってくれた。おっとすまない血が垂れてしまった。
あなたは私に「仮死剤」を体験してくれと話をもちかはてくれた。これが実用につながれば医療の幅が広まる、と。
また、死後の世界の観測は科学的に見ても進歩のひとつだ、という意向のもと、仮死剤の安全性、そして死後の世界の観測とそのレポートを提出という条件付きで私はこのプロジェクトに参加することができた。
つまり、この文章はレポートであると捉えてもらって構わない。信じられないと思うが、私は真面目にこのレポートを書いているんだ。だから、もう少し付き合っておくれ。
私は他の関係者と完全に隔離された別室に案内された。
死後の世界の観測には意識を強く持つことが必要との説明を受けた。でなければ、死から覚めたときにすべてを忘れてしまうとの説明もされた。
あたり一面真っ白の部屋の中央に置かれていた机には、水と錠剤一粒。
私は目をかっぴらいてこの薬を飲んだ。
しかし、何も起きなかった。
初めは遅効性なのだろうとぼーっとしていたが、何も起きない。
薬の不備を訴えるために部屋の外に出たが、誰もいない。
ここが死後の世界なのか?と疑問におもっていたが妙な違和感を感じる。やはり死後、脳がこのような世界を見せるというのはおかしな話だと思った。
そして気づいた当たり前のことに。
僕は上空から自分を眺めていたのだ。これは夢で時々起こる現象だ。まさか、先程飲んだ薬は、睡眠薬?
仮死剤の可能性もあったが、そこまで可能性に賭けるほどの精神でもなかった。
僕はなんとか現実の自分の舌を噛み、目を覚ました。
何度も、今日の朝も経験した謎の頭の痛みからやはりただ眠っていただけだと直感した。
それと同時に、今の状況も理解した。
私は棺の中だ。そしてその棺は車に乗っている。
完璧に聞き取れたわけではないが、運転していると思われるあなたは電話相手と思わしき人物に向かい、「銃」「山」「バラバラに」という単語は聞こえた。
私はここから脱出する手立てはないと察した。棺は開かず、開いたところで車の中からどう逃げろというのだ。すぐあなたに殺されるだけだと。
それならば、私は条件として提示されていた「レポートを書く」ことにした。
もしかしたら、あの薬は本当に仮死剤だったかもしれないのだから。
しかし書くものも書けるものもない。
そんなときに人はできないことでもできるようになるものだ。
私は親指の爪や歯を使い、自分の腕の皮膚を剥ぎ取った。
痛みより先に、義務感が湧いてきて、辛くはなかった。
あらわになってきた骨に自分の爪を使って文字を削るようにして書いていく。
一文字書くのに一苦労。
今もう右手は使い物にならず、左手もボロボロだ。
右腕だけじゃ書ききれず、左腕の骨、最後は右足の骨も使った。
俺の体すべてを使って書いたレポートだ。これなら条件として充分だろう。
最後に、改めてだが、私にこのような体験をありがとう。
もしあれが仮死剤なのならもちろんすごく嬉しい限りだ。
それに、あれがただの睡眠薬だったとしても、私はあなたに感謝しなくてはならない。
銃で殺すって言ったよね?
僕の顔を最後まで見ていたかい?
僕はきっと、意識を強く持つため、目をかっぴらいていただろう。
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