異世界旅行

ツチノコのお口

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上下のない世界 2日目

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 昨日どっと疲れたからか、ここ数年で一番良い眠りに着くことが出来ました。
 睡眠自体は気持ちよかったです。睡眠自体は。疲れてなければもっと良かったのに……。
 違和感は無いです。ただ、体を上下に回転させる時の酔いが凄くて……。
 正直今すぐにでも別の世界へ行きたいのですが、せっかくですし、どうしてこんなにも放浪者に優しくないことになってるのか気になりますよね。
「お客様、昨晩はよく眠れましたか?」
 ホテルの窓口で、職員さんが元気に接客をされています。すごく元気が出ますね。この世界じゃなければとてもいい朝だったのでしょう。
「はい。いい部屋でしたよ 」薄っぺらいお世辞を述べたあとに私は質問しました。
「ところでこの世界、上下の感覚がおかしいようですけど、それについて教えていただけませんか?」
「すいません……私はあまり勉学が得意な方では無いので……」と顔を下げた後、「ですが、図書館になら勤勉な方々がいらっしゃると思うので!」と。

 そういうわけで、来ましたとも。図書館。
 しかし、この図書館、今日まで入った建物の中で一番厄介な代物でした。
 本棚の上下がひとつずつ変わっているのです。そのため、天井を歩く人と地面を歩く人がおり、そして受け付けは壁に。
 帰ろうかと本気で迷いました。
 ただ、異界の扉から意外と遠い所までせっかく来たのです。こっから帰るのは癪です。
「あの、すみません」
 受け付けの方に声をかける私。ちなみに、ひげもじゃのおじ様でした。
「ふむ、君はあれか。放浪者か」
 髭をいじくりながらそう返したおじ様。
「はい。ここの世界が初めてなんですけど」
「ほぉ、君はあれか。幸運か」さっきからなんですかその喋り方。
「この世界の上下がごっちゃごちゃな理由が知りたくてきたんですけど。」
「うむ、わからんのか?」アホを見る目で見られましたこのやろう喧嘩ですか?
「そうなんですよ」怒りをこらえて手早く回答を引き出そうとしました。
「そうか、じゃあ軽く説明をするぞ。
 この国の人はまぁ、外がこんなんだからすごい努力をしてなんとか建物を建てたんじゃ。その時の上下が建物の外観の向きだったんじゃよ。
 じゃが、異界の扉が出現してから、放浪者向けにここを改造する必要があるとなったんじゃ。だが、建物を作り直すのには想像もできない苦労が起こる。じゃって、ここ、家作れる技術者が1人もおらんのじゃ。
 そこで、内装だけ異界の扉と同じ向きに変えたんじゃ。どうじゃ?お主もおかげで住みやすかったろ?」
 なるほど、納得半分、なんでだよ半分ですね。
「ここの棚が上下ごっちゃごちゃなのは放浪者向けに改造するなんておかしいだろ!先駆者と同じ向きで過ごさせろ!と言った輩用のなんじゃ」
 なるほど、納得半分共感少しのなんでだよ多量です。
「あ、あと情報料としてそこのしおり買っていくのじゃ」くそじじいめ。

 異界の扉への帰り道の途中で色んな人に聞いてみましたが、この世界の内装が放浪者のためになっていると思っているバカ共がほとんどでした。
 いみわからんです。考えりゃわかるだろ。
 最後に、放浪者日記の隠れた名作「扉の先は」でのこの国に対する記述がすごく的を得ていたので記してこの話は終わりにします。
「放浪者のためと言いながら、実際は自分たちの自己満足のために改造しただけなんだろ?」
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