人間兵器

ツチノコのお口

文字の大きさ
上 下
9 / 23
本編

第7話 再び始まる話

しおりを挟む
「友樹くん。君は第2貴族第一階層なのだよ?これほどまでに素晴らしい階級を捨ててまで、人間兵器として戦場に出ようと言うのかい?」
 志願兵器のオーディション会場で、キトランス皇帝は初めて誰かに質問をした。
 建国当時から、カチュカンでは必ず志願兵器を募集していた。しかし、もちろん集まる者などおらず、いらない伝統だと、長年指摘されてきていた。
 しかしここに、歴代初の志願兵器、手城友樹がいる。
「はい。僕はこの戦争でも人間兵器として、戦いたいのです。どんな辛いことがあっても耐えることができると思います。是非、採用していただきたいと思っております。」

 当たり前だが、見事人間兵器として再び戦場へ赴くことになった友樹。まず、少しの休暇をいただき、体を休めてから訓練を開始するとのこと。
 そうだ。一度顔を合わせるべき奴がいたのを、何故か今更思いだし、そのまま走りだした。
「よっ、ノール」
 ノールはボロッボロ涙をこぼしながら、「よかった。よかった」と、機械のようにつぶやいていた。少し嬉しくなったと同時に、また戦場に行くことへの罪悪感を感じた。なぜ、そんなことを思ってしまったのか。お腹のあたりが異様に重くなってきた。
 まぁ、そんな気持ちになりつつも、ノールとの会話ははずんだ。戦場での友樹の素晴らしいアドバイス(皇帝お墨付き)の話をしてやったり、訓練のあれやこれや。
 しかし、ノールがいきなり顔を暗くして、少し俯いた。どうしたのか聴くと、思いがけないことを言われた。
「凄く...楽しそうに話すな...」
そうか、やっぱり俺は知らずしらずの内に戦争に洗脳されていたのかもしれない。戦争が娯楽となってしまったのかもしれない。
 尚更、また兵器になることを言いづらくなった。
 言うか言わまいか迷ってると、ノールが一言。

「俺さ、人間兵器のオーディション受けたんだよ。」
 ちょっと意味がわからなかった。なぜわざわざ?
 聞く前に、それはノールが教えてくれた。
「ブリスの領土だけは、他の国に与えたくねえんだよ。カチュカンのせっかくの領土が...とかじゃない。ブリスが、また奴隷の溜まり場になるのが嫌だったんだよ。」
 ブリスとは、ブリエシタンの蔑称のことである。
 確かに、ブリスは過去に何度か他の国の領土になったことがあったが、いつでも奴隷市街だった歴史がある。その流れを汲み、ブリエシタン奴隷国が生まれたのだ。
 しかし、カチュカンは奴隷の禁止を憲法で定めているため、奴隷が苦しむこれまでの流れを変えることができる。世界中の人たちも、それを望んでいた。
 しかし、やはり領土が増えると権力も増える。そのために戦争が起ころうとしているのだ。
 まぁ、言わんとしてることはわかる。しかし、だからといって自分から戦争に参加したいと思わんだろ。すると...
「お前もまた戦場に行くと思ったしなw」とノールが。
 なるほど。え、怖くね?予知者?
 まぁ、そんなわけで俺らはまた人間兵器として戦うことになった。俺からすれば2回目の講義や演習も、ノールがいたから退屈せずに終われた。
 人を殺しておいてこの考えは、やっぱり俺は狂っているのだろう。実際、ノールは死んだ目で帰ってきたし。
 とりあえず、話したらいけないからアイコンタクトで会話をするのも楽しかった。
 やっぱり、仲間がいるというのは心強い。さぁ、そろそろ新しい訓練じゃなかろうか。
 引き締めていくかぁ。
しおりを挟む

処理中です...