4 / 12
第三羽 友達?
しおりを挟む
目を覚まし、真っ白なカーテン越しに外を眺めれば、水縹なる空色が俺を迎えた。
つぶさな雨音が数多の雑音を吸い込んで、清濁な雫でぼやけた窓を静かに叩いている。
静寂とは程遠いけれど、煩わしい喧騒に、そっと耳を塞いでくれるような不思議な感覚だ。
彼女は今頃、どうしているのだろう。
今日も、あの場所に行くのだろうか。
うつらうつらとした意識と微睡んだ眼を、切り払らうかのように醒まして駆り出した。
梅雨時の部屋の四隅みたいな場所へと。
雑多な喧騒が賑わう校舎に踏み込んで、怒号が飛び交い、哄笑が行き交う廊下を俯きに進んでいく。
すると、またしても阻まれた。
見上げて確認するまでもなく明確に、同じ上履きの同じ足幅の同じ男が、俺の眼前に佇んでいる。
早々に憂鬱の元凶たる者の現れに、俺の胸が静かに警鐘を鳴らし始めていた。
「よお」
「あぁ、おはよう」
スッと針に糸を通すかのように、彼の真横をすり抜けて行こうとするが、当然のことながら、障壁となって禦いできてしまった。
「何か用?」
「昨日の話がまだ終わってねぇだろうが」
「あぁ。そういえば、そうだった」
「忘れてたのか?ハァ、お前なぁ」
「……もう忘れてもらっていいよ」
「は?」
「どうせ、役に立たないだろうし」
朝から元気な相川を雑にあしらい、教室へと踏み出さんとした瞬間。
疾くに屈強な膂力で胸ぐらを掴み上げて、軽々と俺を持ち上げた。
「ちゃんと、目ェ見て話せや」
二つの意味で足が地に着かない。
猛禽たる眼差しでじっと凝視し、鬼気迫る形相を浮かべる様は、鷹さながらであった。
徐に一瞥すれば、武者震いかの如く、今正に振り上げんと拳を小刻みに震わせていた。
「お前に頼んだ俺が間違ってたんだ、ごめん」
「……。チッ」
数発の殴打を覚悟に、辟易した想いを赤裸々に漏らしたが、斯くも呆気なく握りしめた拳を解き、固めた掌をそっと手放した。
「役に立つ立たないは、言ってからでも遅くないだろう」
「過去に縋ってる奴は当てに何ないんだよ」
「……。随分とよく喋るじゃねえか」
「昨日も今日も気分が優れないんだ。もしかしたら、傷の痛みが原因かもしれないな」
「今日のお前は一々、癇に障るな」
「普段は大人しくしているつもりだけどさ。流石にお前の言動に疲れてきてんだよ」
こいつに時間を費やしている場合じゃない。こっちは、色々とやらないといけないことがあるんだよ。
「っ!んだと、こっちは心配し……」
「心配してる割には関わってこないな?そんなに罪滅ぼしがしたいのかよ」
「お前……ッッ!」
周囲の視線が、俺たちに注がれていく。
様々な言動が四方八方から飛び交っていたが、それは段々と一つの的に絞られる。
それを気取った相川は、俺を強引に連れてゆき、人気のない階段裏へと足を運ばせた。
「やっぱ殴るのか。やるんなら、さっさと済ませてくれ」
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
「お前に構ってる暇ないんだよ、俺は」
「それはお互い様だろ。それよりも、そんなに忙しないのは、やっぱ昨日の事と関係あるのか?」
「あぁ。どうせだから、訊いておこうかな」
彼女の所在を、その有無を問いただそうと、言葉を並べ立てんとしたとき、俺は…。
「ハッ。はは。何やってんだよ俺は」
己の浅はかさを思い知った。
「あ?どうした?」
「いいや、何でもない。……。整った顔立ちで眠たげな目に、身長は俺よりも若干低めの、ちょっと暗めな感じの女の子なんだけど…」
「犯人の特徴みたいな覚え方だな。他は?」
「多分同級生なんだけど……」
「なら、あいつじゃないか?」
解んのかよ。
「いつも教室の隅っこで本ばっか読んでる、暗そうな奴だから、大方あってるだろ」
「同じクラスか?」
「いや、隣の3組だ」
相川の背に続いてゆき、他クラスへと歩みを進めていた。前まではそう変わらない身長で競り合っていたのに、いつの間にか……。
「お前、背伸びたな」
「生きてんだから、そりゃ伸びるだろ」
「……」
「……」
目的地まで数分と掛からない筈なのに、妙に延々として、重苦しいのは何故だろうか。
「お前、あいつみたいなのがタイプなのか?」
「は?そんな訳で無いだろ」
「なら、何で訊くんだよ?」
「……。ちょっと、ね」
相川は静かに一瞥する。
「お前、今日暇か?」
「は?」
突然の誘引に白眼視を向けるとともに、引き摺るように一歩を後ずさる。
「今日も部活あるだろ」
「あんなの暇つぶしに決まってんだろ」
その哀愁漂わせる一言が、相川とのキャッチボールを走馬灯のように振り返らせた。
「そっか。そういえばお前って、野球好きだったよな……」
こいつの山なりな上に大暴投な返球に、いつも無理やり付き合わされていたっけな。
「まぁ、いいよ。少しだけなら」
「ありがとよ……」
つぶさな雨音が数多の雑音を吸い込んで、清濁な雫でぼやけた窓を静かに叩いている。
静寂とは程遠いけれど、煩わしい喧騒に、そっと耳を塞いでくれるような不思議な感覚だ。
彼女は今頃、どうしているのだろう。
今日も、あの場所に行くのだろうか。
うつらうつらとした意識と微睡んだ眼を、切り払らうかのように醒まして駆り出した。
梅雨時の部屋の四隅みたいな場所へと。
雑多な喧騒が賑わう校舎に踏み込んで、怒号が飛び交い、哄笑が行き交う廊下を俯きに進んでいく。
すると、またしても阻まれた。
見上げて確認するまでもなく明確に、同じ上履きの同じ足幅の同じ男が、俺の眼前に佇んでいる。
早々に憂鬱の元凶たる者の現れに、俺の胸が静かに警鐘を鳴らし始めていた。
「よお」
「あぁ、おはよう」
スッと針に糸を通すかのように、彼の真横をすり抜けて行こうとするが、当然のことながら、障壁となって禦いできてしまった。
「何か用?」
「昨日の話がまだ終わってねぇだろうが」
「あぁ。そういえば、そうだった」
「忘れてたのか?ハァ、お前なぁ」
「……もう忘れてもらっていいよ」
「は?」
「どうせ、役に立たないだろうし」
朝から元気な相川を雑にあしらい、教室へと踏み出さんとした瞬間。
疾くに屈強な膂力で胸ぐらを掴み上げて、軽々と俺を持ち上げた。
「ちゃんと、目ェ見て話せや」
二つの意味で足が地に着かない。
猛禽たる眼差しでじっと凝視し、鬼気迫る形相を浮かべる様は、鷹さながらであった。
徐に一瞥すれば、武者震いかの如く、今正に振り上げんと拳を小刻みに震わせていた。
「お前に頼んだ俺が間違ってたんだ、ごめん」
「……。チッ」
数発の殴打を覚悟に、辟易した想いを赤裸々に漏らしたが、斯くも呆気なく握りしめた拳を解き、固めた掌をそっと手放した。
「役に立つ立たないは、言ってからでも遅くないだろう」
「過去に縋ってる奴は当てに何ないんだよ」
「……。随分とよく喋るじゃねえか」
「昨日も今日も気分が優れないんだ。もしかしたら、傷の痛みが原因かもしれないな」
「今日のお前は一々、癇に障るな」
「普段は大人しくしているつもりだけどさ。流石にお前の言動に疲れてきてんだよ」
こいつに時間を費やしている場合じゃない。こっちは、色々とやらないといけないことがあるんだよ。
「っ!んだと、こっちは心配し……」
「心配してる割には関わってこないな?そんなに罪滅ぼしがしたいのかよ」
「お前……ッッ!」
周囲の視線が、俺たちに注がれていく。
様々な言動が四方八方から飛び交っていたが、それは段々と一つの的に絞られる。
それを気取った相川は、俺を強引に連れてゆき、人気のない階段裏へと足を運ばせた。
「やっぱ殴るのか。やるんなら、さっさと済ませてくれ」
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
「お前に構ってる暇ないんだよ、俺は」
「それはお互い様だろ。それよりも、そんなに忙しないのは、やっぱ昨日の事と関係あるのか?」
「あぁ。どうせだから、訊いておこうかな」
彼女の所在を、その有無を問いただそうと、言葉を並べ立てんとしたとき、俺は…。
「ハッ。はは。何やってんだよ俺は」
己の浅はかさを思い知った。
「あ?どうした?」
「いいや、何でもない。……。整った顔立ちで眠たげな目に、身長は俺よりも若干低めの、ちょっと暗めな感じの女の子なんだけど…」
「犯人の特徴みたいな覚え方だな。他は?」
「多分同級生なんだけど……」
「なら、あいつじゃないか?」
解んのかよ。
「いつも教室の隅っこで本ばっか読んでる、暗そうな奴だから、大方あってるだろ」
「同じクラスか?」
「いや、隣の3組だ」
相川の背に続いてゆき、他クラスへと歩みを進めていた。前まではそう変わらない身長で競り合っていたのに、いつの間にか……。
「お前、背伸びたな」
「生きてんだから、そりゃ伸びるだろ」
「……」
「……」
目的地まで数分と掛からない筈なのに、妙に延々として、重苦しいのは何故だろうか。
「お前、あいつみたいなのがタイプなのか?」
「は?そんな訳で無いだろ」
「なら、何で訊くんだよ?」
「……。ちょっと、ね」
相川は静かに一瞥する。
「お前、今日暇か?」
「は?」
突然の誘引に白眼視を向けるとともに、引き摺るように一歩を後ずさる。
「今日も部活あるだろ」
「あんなの暇つぶしに決まってんだろ」
その哀愁漂わせる一言が、相川とのキャッチボールを走馬灯のように振り返らせた。
「そっか。そういえばお前って、野球好きだったよな……」
こいつの山なりな上に大暴投な返球に、いつも無理やり付き合わされていたっけな。
「まぁ、いいよ。少しだけなら」
「ありがとよ……」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる