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本編

弟子との共闘

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 ウェストラは徐に天を仰ぐ。

「そうか……そういうことか」

 次第に澱み切った黒き表情に沈んでいく。
 
 一人のアンデットが、立ち尽くすウェストラの元に歩み寄った瞬間、右足を振り抜いて下顎を疾風怒濤の如く、蹴り上げる。

「クソッタレがッッ!!」

 だが、怯むこと知らぬと言わんばかりに、蹴られた直後には再び、平然と突き進んだ。

「作戦変更だ。騎士団《お前ら》全員、此処で死ね」

 魔導書をようやっと開き、空いた片手に、忽然と黒き紫紺の長剣が生み出される。

 緩やかな一打の拳を躱して、刃を振るう。

 然るにその刃はアンデットの皮膚さえも、傷一つ付けることなく、刃に亀裂が走った。

「…チッ。一匹ずつ狩るしか無さそうだな」

 新たなる頁を開いて、流れるように長剣を体躯を遥かに上回った大鎌へと変換させる。

 そして、勇者たちに一瞥する。

「あの馬鹿野郎っ、私情で動きやがって!」

 その突き刺すような視線に気付いた、アルベルトが仁王立ちする勇者に、問い掛ける。

「彼等はどうしますか?」

「そう簡単に死ぬほど柔では無い」

 瑣末な事柄に過ぎんと、周囲の者たちが、市の危機に瀕して尚、眼前の相手に決して目を離す事なく、血走った眼で凝視していた。

「…恩師殿との共闘は何年ぶりでしたかね」

「さぁな」

 其々が武器を携えて、慎重に三者三様の、異なる間合いを測りながら詰め寄っていく。

「合わせろ」

「了解」

 瞬く間に、掌から凛とした白き霜が降りてゆき、パキパキと音を立てながら氷の槍を、形成していく勇者と、その未完成な槍を鷲掴みにし、既に振りかぶる動作に入っていた。

 あまりにも緩慢に放たれた氷槍は、空を抉り取るように幹部の眼前へと迫り、勇者は、静かに眼下から白き魔法陣を巡らせてゆき、アルベルトは徐に印を結ぶ。

「斬。形状変化、氷龍鬼の術!」

「……己を成せ」

 鼻先に触れんとした鋒は綺麗に真っ二つに切り裂かれ、片割れの氷槍は一本角の龍に、勢いが完全に死んだもう一方は、足元に突き刺さったまま、刺々しい見た目に変形し、両足を大地に繋ぎ止めた。

 大口開いて搔っ食らわんとした氷龍鬼を、
忽ち、作り出された光の帯の長剣で突き刺して、紫紺の陣に足を乗せ、目にも留まらぬ速さで懐に掻い潜った勇者と刃で競り合う。

 金属音が鳴り響くとともに、幹部は勇者の丹田に掌を捩りながら打ち込んで、突き刺す。

 先の見透かせるほどの光の刃で。

 その背後、大地を這うように進んでいた一条の白き光が、幹部の背後で魔法陣を生む。

 生み出した魔法陣から姿を現す、二つの影。

 二者の握りしめた刃は振り返る間も無く、無防備な頸に振り下ろされた。

 一太刀。真の長剣で叩き斬られた場所を、新たなる勇者の続く第二撃が追随する。

 しかし、二人の刃は欠けて宙に舞う。

 折れた長剣に愕然と目を見開くアルベルトと、相不変に仏頂面を続ける勇者であった。

 黄金を帯びた無数の光の矢を、虚無から撃ち放って、二人を数十メートルと退かせた。

 アルベルトは欠けた剣に酷く目を震わせ、乱れた呼吸を整えるべく、勇者に目を向ける。

「人間の強度じゃないですよ、あれはっ!」

「恐らく、光の庇護を纏っているのだろう。想像以上の硬さだったがな」

「どうしますか?」

「願わくば、次まで残しておきたかったんだがな。やむを得ないな、使わせてもらおう」

「……?」

「アルベルト!」

「ハッ!」

 戦慄く寸前であった己の心境を一瞬にして鎮め、冷静に常に冷徹な勇者の指示を仰ぐ。

「大技を扱う。一瞬でいい、隙を作れ。できれば、宙に浮かしてもらえると助かる」

「承知致しました」

 そして、そんな最中、アンデットと化した翁との刃の競り合いに押される一人の若造。

「チッ、強えな……!」

 百戦錬磨たる翁の剣技に翻弄される若造は、剣を握りしめる両手が震える様を見て、引き攣った苦笑を浮かべた。

「またアンタと酒が飲みたかったんだがな、どうやら無理そうだ。テメェは、俺が殺す」

 師に刃を向け、冷め切った鋭い眼差しが虚ろながらも、心なしか悲しげな目を突き刺す。

 その仕打ちに、他の追随を許さぬ猛攻が、完全に後手に回った兵の眼前へと迫った。

 小技。

 緩みなき矢継ぎ早に振るう剣戟に、刃は時を超えたかのように刃こぼれの剣に変化し、たった数秒足らずで、鈍らに姿を堕とした。

 決して、僅かな隙が生じる大振りに走らず、慎重に、着実に、兵に手傷を負わせていく。

「チッ!!」

 防戦一方から戦局は揺るぐ事なく、段々と終局へと起死回生の一手を後《死》ろに退かせた。

「……。一か八か、やるしかない」

 そう呟いて、疾くに印を結ぶ。
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