勇者辞めます

緑川

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西 歩いてるのに進んでる気がしねぇ

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「零火は?」

「おねんねの真っ最中」

「使えねぇよな」

「鏡見た方がいいよ」
「え?」

「あとさ、あの」

「我々を省いて与太話とは、大変お気楽で」

 ……。

「続けて?」

「うん。で、」

「此処は東に隣接する重要な領域! 許可なく土足で踏み入るなどあってはなりません」

「別に、東に興味はないんだけど」

「では、ご退場願えますかな」

「どうすんのよ」

「あんまり知名度ないんだね」

「え、あぁうん。まぁ戦場じゃ俺を見た奴は一人残らず消してきたからな。況してや味方はー彼奴、だけだったし」

 下手が裏目に出たと言わんばかりに後ろに陳列する部下御三方は内緒話を申し付ける。

「――このままでは示しがつきません!」
「あの余裕。相当な手練れと思われます!」
「此処は一度撤退し、作戦を練り直すのが」

 薄っすら聞こえてくるけどぜーんぶ愚痴三昧。

「案ずるな」

 と……単身、一歩前に出てしまった。

 大地に踏み抜くこざっぱりした靴が砂埃を微かに舞い上げるのを見届けようとする中、傍らのちびっ子君は破天荒にも程があるッッ‼︎

「ゲホッ、ゲホッ。ウェッッホ!!」

 お前の無責任な簡易竜巻で充血するって。何で魔法陣使わんの? 嫌がらせ? ねぇ。

「ぁ」

 巧みな話術をお披露目せんと堂々と振る舞ったのに結果は皆の前で喉笛を派手に鳴らす。

「ぁーぁ」

 空中浮遊の手品師が持つナイフに貫かれ、逃れられない状況下、この期に及んで――。

「なっ、ぜ?」

「『何故?』」

 あーもう幼児退行しちゃってんのに容赦なく打ち返してくるって卑劣だよ、野郎だよ。

「お前が生まれるずっと前から此処は戦場だ」

 暴論だよ。

「法を超えた世界に倫理はない」

 うーん。

「なんと傲慢な」

 反撃の図星攻撃がトドメを刺される原因となり、はい、成仏。

 ゴツゴツした手から輝く指輪が抜け落ち、我々一同の視線は残された雛鳥に向けられた。

「雑魚の群れに何が出来る」

 まんま挑発。狂戦士のウゼェ煽りにそれっぽい統一性の失われた能力で対抗していく。

「所詮は烏合の衆か」

 決め台詞まで様になってるよ、この人。でもそういうの今更じゃね? 見飽きたかな。

「リンク」

「おぉ」

「な、なんだと」

 皆を代表とした反応がそよ風に過ぎてく間も許さず、奴は雷電さながら駆け抜けていく。

「おぉ、見事」

 多彩だねぇ。

 いやー、戦争がなければ見れなかったよ。

 ……。

「もう終わりか、テンポいいな」

「どうする、全部僕がやるの?」

 最後の一匹。司令塔の役割に立ってんのに終始、手を拱いていた屑野郎に、腕が鳴る。

「いや、彼奴は俺がやる」

「我々は正義」

 などと自信ありげに嘲笑ってから、つい、

「おいおい、てめぇの背に赤旗靡いてんぜ」

「……」

「金で雇われてる西の人間だろ? お前も直ぐに赤く染めてやるから気にしなくていい」

 腹黒な見た目に似合わぬ白一色の衣装も、馬鹿みたいに時間掛けてそうなサラサラしてる長ったらしい髪も全部、ぶち壊してやる。

「部下の死を弔うだけの時間は残してやるよ」

「我が僕に愛の意思表示など、愚かなこと」

「だから死ぬんだよ」

 視診による肉体調査を済ませて鞘を払い、未だに余裕綽々な王者の構えに向かってく。

 前のめりの眼前までの侵入を許したかと思えば、上から見下ろす形で微笑みの一手を繰り出し、四肢切断を描いた刃は空を切った。

 透明、

 か。

 すかさず第二の猛攻を挑まんと、飛び込みの姿勢から軸足で勢いを殺さずに裏取りを。

 また、同じことの繰り返し。

 きっと此奴だけこの環境を使いこなしている。寧ろ、此奴の命令でこんな悪環境を強いられたから、あんな目にあったに違いない。

 途中まで、憎たらしさは変わらなかった。

 なら、切り替えが必要且つ上下からの順番。

 あっ。

 ヒスロアの地毛と違って、人工物感満載な長髪がウザさをキープしたまま踊ってやがる。

「なっ」

 こよなく愛する野郎の生命線を鷲掴みに。

 耳を澄ませばギチギチと聞こえそうなくらい、毟ってやるくらいの気持ちで握りしめ、

「ん、ですと!」

 ガラ空きの土手っ腹に切先をぶち込んだ。

 決定打となる一撃を与えたのに仕込んだ保険のせいで血が出てない。大分、子供向けな光景な上に空見ながら死ねるロマンチック。

 そんな最期を迎えさせる訳にも行かず――俺自ら陽を翳らせて見下ろした。

 一応、髪が下から舞い上がってこないよう、少しだけ避けてちょっとばかり雑談を。

「どんなきぃ」

「主よ、赦したまえ」

 化粧顔に真っ黒な十字架が浮かび上がり、確か自分こそ星の一部で死に際に破滅の刃。

 え。

 意思関係なく、自動的に振り翳してきた。

 防御不可避。

 直撃は免れない。

 どっかで見たような、全身鎧はお眠り中。

「勇者であろうが人間には変わりないのです。我が身に宿した神の一手が正義の鉄槌をっ‼︎」

 単なる魔道具に異常な熱意を見せてるが、
この大量の砂埃で前は見えていないようだ。

「さぁ、死体とご対面! 後はあのガキだけですよ」

 さぞ晴れやかな気分だろうな。

 でもよ、

「ァァ?」

 こっちは最悪だ。

 頬のかすり傷から零れた鮮血が剣の柄頭に弾けるとともに遥かな地下まで陥没させた。

 剣無くしては為せない所業。

「な、何を捧げれば、生かして頂けますか」

「あぁ? 土下座だ、土下座。跪いて詫び入れろや、そしたら踏み付けてやっからさ。その腐った小根が叩き治るまでなぁ!」

「はい!」

 ヘラヘラと奴隷みたいに喜んでるが冷酷、傲慢、非情の三拍子が揃った真打がご登場。

「人の本質はそう変わらないものだ」

 と、同様の能力で安らかに眠りについた。

「戦争未経験者は楽だね」

「あぁ、そうだな」

 最後まで印象の変わらぬお言葉を頂き、曇っていく真っ赤な霧に殺風景な城下町跡地。

 そして、これからの道行きに目を向けた。

「ぁ」

 俺の進むべき道は、本当にこの先にあるのだろうか。
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