勇者辞めます

緑川

文字の大きさ
20 / 27

何者かになりたくて 勇者としての務め

しおりを挟む
 初めに一番付き合いの長いスロテウスから半歩、足を横に懐に迫るように歩み寄って、

「長きに渡る職から離れたここまでの道中、幾つの幸福を味わえましたか。……師よ」

 ありきたりでも奥には嫉妬に近い感情を、言葉の節々には同情に等しいモノを覚えた。

「わからないな。それくらい今の自分に――きっと満足してる」

 目は素直に、自分には決してないそれを見た。そして、敵を視界からは離さぬようにして、宛もなく回遊魚さながらに只管泳いだ。

「ありがとう、御座います」

「あぁ」

 次に出会った時は骨と皮ばかりだったアリアが立派な姿となって俺の前に姿を現した。

 其処に嬉しさの欠片もなく、次第に過ぎ去ってゆく時間の流れに俺は息を呑んでいた。

「ご無沙汰をしております」

 かしこまった丁重語が、これまで以上に届かない距離に遠ざかった現実を直視させる。

 もし、負けたら。

 そう脳裏によぎってならない。

「ちゃんと食ってるんだな」

「はい。お陰様で進む道に壊せぬ壁は、一つもありません。オルス様もそうでしょう?」

「もう暴力は辞めた。今はただ、普通に生きてんだよ」

「でしたら何故、剣と共に?」
「成り行きだ」
やけになり放った一言は沈黙を齎し、新たなる者の大きな一歩を踏み出させてしまった。

「後悔はありませんか?」

 第一声から将来が期待できそうだ。

 だが正直、俺の最新の記憶の中にお前のような顔のした青少年は一切、残っていない。

 それでも、

「そうだな。色々あったけど、やっぱり昼が来て、夜が来て、朝が来る。このサイクルに感動したのはあの瞬間が生まれて初めてだから」

「僕にもルークという弟が居て、一緒に過ごすのが生き甲斐でした。どんな時でも常に。でもある日、移動民族に奴隷法が制定され、皆、殺されました。たった一人、僕以外は」

「そうか、お前は」

「はい、名をアルタイルと申します。以前、窮地を救って頂き、この歳を迎える事が叶いました」

「……」

 全員、成長している。俺より何千倍もだ。

 ――。

「すまないな」

 一同は次の言葉に文字通り、注目した。

「俺、馬鹿だから大したことを教えてやれなくて」

「いや」

 古き友が代表して。

「お前はこの者らに生き方を、歩き方を、剣の振り方を、教えた。それ以上、求めることはあるまい」

 思わず、体が突っ走りにそうになった。

「お陰で我々はこの乱世を生き延びました」

 ぁぁ。

「そっか、俺、ちゃんと勇者やってたんだ」

 大空を仰げば、星が見えたような気がした。

「でも、他は」

「えぇ、皆、殉職しました。悲しみに明け暮れましたか」

「――――見ろよ、この俺を。こうなっちまったらもう手遅れさ」

 終わる。

 流れも、何もかも。

 そして、まるで奇跡のように、

「?」

 それは救いの手か、死の足音か。

 全ての自然災害が瞬く間に晴れ渡り、次なる使者が訪れる。

 紛れもなく人の創りし神の意を纏って。

「遅ればせながら、挨拶を。我々は信奉者。四代目の意志を分けた同胞の集です」

 俺含め、十二人か。

「こっちはあったまってんだ。はやくやろうや」

「そう急くこともありません」

「何がっ」

 投擲。

 眼前、奴に反応した一瞬の隙を見逃さずに放たれた一矢はヒスロアの反射神経をも凌ぐ。

 目の前で大切な人が殺される。

 でも、俺が手を伸ばしたのは剣だった。

 ま、に合ねぇ。

 誰もが、数の再確認を行おうとした瞬間、大地を割り出た強かな蔓が死を絡め取った。

「⁉︎」

 それも、白装束側が。

「素晴らしい。自然とは神秘。故にこの星を守らなくてはならないのです」

 王女狩りの先手必勝を見抜いていたのか、一番後方で構えと呼べぬ棒立ちをしていた、好青年であろう背筋のした者が指先を下に。

 圧倒的不利な状況からの形成逆転。

 とまでは行かずとも、なんとかこの場を切り抜けそうだ。

 その意向を示そうとヒスロアに目を向ければ、目の前の生存者に対する安堵より先に、信奉者の姿形を見開く目に焼き付けていた。

 まるで、知り合いだったかのように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...