勇者辞めます

緑川

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骨の髄まで肉食いてぇ俺は 社畜ッ 社畜ぅ!

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「ご歓談、楽しんで頂けましたかな」

「お陰様で」

「では――」

「どうだ? ヒロよ、勝算あるか?」

 開戦間際、俺は颯と小声で耳打ちに走る。

「まだまだ役者不足。時間稼ぎが必要だね。でも、長期戦が行けるなら確率は五分かな」

「そんなら任せろ。こっちは現役時代、帰宅は定時翌朝だからな。社畜舐めんなあぁァ……」

「それは頼もしいね」

「よし、行くぞ」

 多勢に無勢。
 過去の俺では矜持で成し得ぬ、目眩し狙いの地面に刃の叩きつけで砂埃を舞い上げた。

 でも、
 次の瞬間には空は晴れ、視界は曇ってた。

 から、掌を天に掲げたのに、無い。

 というか――

 もげてた、

 四肢が。

「え」

 何で。

 寝起きで動かしにくい首で横向けば……。

 ヒロが地面に座って連れ共と戯れていた。

 駄犬の首の分厚い毛に指ィ食い込ませて、早起きな過保護な母性の塊と仲良く手を繋ぎ、
親バカの視線は、無色透明の暴れた何かを、片目瞑りで咥えた白騎士に向けられていた。

 如何に契約が恐ろしいかを知らしめてやろうと呪印を光らせようとも肝心の手がねぇ。

 血の契約なんだから、身体で機能しろよ。首を根源に縛り上げた鎖の首輪だって、大した意味なんざねぇんだから。ふざけんなよ。

 結局、何も変わらねぇ。

「やっぱりお前もそっち側か」

「うん」

「お前ふざけんなよ」

「自分の言葉には責任持とうよ」

「おれ、死ぬのか」

 。

「俺だってェたくさん頑張ってここまで来たのに、なんでお前らなんかに邪魔されなくちゃいけないんだっよ! 色んなの解決してきただろ‼︎ 頼むから消えてくれよよぉ……ォ。もーッ。嫌だよ、辞めてくれよ。はやくぅ‼︎ ぁぁ!」

 体まで真っ黒になってく。でも、もうどうでもいいや。絶対お前ら全員、殺してやっから。

 。

 死ねば、星になるのだろうか。

 親父のように。

 名誉の戦死からは程遠くかけ離れている。でも、自害は勘弁だ。せっかく生まれて来たんだし、ちゃんと自分を愛してやらねぇと。

 まだきっと、チャンスはある。ある筈だ。

 さっき敗因を、まだ負けてねぇけど。ボロボロにされた理由を思い起こせば、必ず……。

 走馬灯くらいに鮮烈なフラッシュバックを。

 確か――小手調べでメリス御一行、個々の無駄に洗練された数手に見事に翻弄されて、矢継ぎ早の正直、見分け付かねぇ信奉者の。

 ぁ、そうだ。
 俺、彼奴に八つ裂きにされたんだ。

 有象無象率いる隊長全員の攻撃躱したってのに独りだけ、やらしい技繰り出しやがって。俺の弱点本でも読んだみたいに全て知り尽くした上に、最弱の最年長者に微笑まれてた。

 他所の我流連中に即席で合わせて巧妙な不可避の形取ってきたのに、星に優しい花びら咲かす掌技や眩しい光線だのと、気色悪い。

 環境過保護活動家やんなら道でも塞いどけや。

 うん。

 そういや、ガキの知り合いみたいだったな。

 え、いや長くない? もしかして本当に死んじゃったの? まさか此処でくたばんの? まだ志半ば! まだ早いって、絶対早いって、誰が見ても早いって、主人公だよ? 俺。

「どうされました。もうお眠りに? 貴方が起きてくださらないと始まらないのですが」

「え、寝てた」

 気付けば、また現実に引き戻されていた。

「えぇ、瞬き程度に」

 寝そべった俺を一同は、温か死角なく見守って。

 片目の霞みを指先で沿わようと手を伸ばす。でも、届かない。立ちあがろうとしても足が動かねぇ。身を丸めても視界に映らねぇよ。

「あ」

 左に精一杯首傾げば待ち構えた連中が。逆は同じ釜の飯を食った奴が見てすらもない。

「ぁぁ」

 天にだって。

 神の従僕如きに陰られている。

「ぁ、ぁぁ」

「おや」

「ァァァァァァ‼︎」

「フッ、まるで稚児の駄々」

 まるで迷路に迷い込んだ蝶のように、

「……ですね」

 ただ羽が欠け落ちるのを待つばかりだ。でも、どうか最後の羽撃きだけは許してくれ。

 最新の注意を払って差し伸べた掌の先、飢えを満たしてくれる布に隠れた喉があった。

 もう、何も失うことなどない。
 好きにやろう。

「ヴァぁウッ‼︎」

 初めてだ。人の喉を、噛みちぎったのは。

 舌に載った肉やら骨は酷く素朴で不味い。だが、悪くない展開だ。+で、そのまま飲み込むには丁度いいサイズ。

 ゴクッ。

 そう大々的に公表された音も然る事乍ら、失われた一部たちを自らの力で取り戻した。

 魔法というモノで。

「死に際で禁忌に触れるとは……。漏洩した魔力を増加し、縫合。荒療治ですが、妙案」

 まだ本調子じゃねぇ。

 この人数相手にすんのは流石にキツい。

 父さん。もしかしたら本当に俺は貴方と。

「お父さんへの思いはそんなものだったの?」

 側から余計な言葉が耳にブッ刺さった。

 それはきっと、悪戯好きの小悪魔に違いない。

 まだ俺には、希望の光がある。

 その一縷の願いを信じ、剣を大地に突き立てる。

「起きろ」
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