勇者辞めます

緑川

文字の大きさ
23 / 27

酸と本 二代勇者の口喧嘩

しおりを挟む
 背に外套マントを羽織り、鎧には黒き光が輝く。

「本気で殺るか」

 完全体は何年ぶりかな。疲れんの苦手なんだが。

 そう独り言を午後のティータイムのように興じる隙を見逃さず、信徒は胸を貫きやがる。

 血か、絶妙に環境に寄り添った立場だな。

「元勇者殿を血を吸いになられる花々は、果たしてどのような芽を咲かすのですかな?」

「黙れ」

「ほう」

 不敵な笑みは陰る。旧友らの影によって。

 けれども敵か味方か、背から迫った獲物を早技で両手に抱え切れんばかりに奪い取り、祈る道から外れた出癖の悪さを披露された。

「⁉︎」

 直様、指先に走った空虚な違和感を覚えたようで……順々に様々な反応を見せていく。

「なっ」
「あれ」

「こんな物、我々の愛する星にあってはならない」

 と、武器を地面に落とす度、磨かれた一級品が朽ちていくと同時に清らかに花を咲かす。

「ろくな芽ぇ開かねえぞ」

「では、共に見守りますかな?」

「命に換えてもお断りだ」

 先刻、背後を取った信奉者被害者Bを準備体操がてら首根っこ捕まえて手玉に取り、先っぽの一太刀で陸地で溺れさせる。

「ぁぁ」

 噴き出す血飛沫は頬に触れんばかりの勢いだ。

「辛いんだろ、わかるよ」

 苦しみに踠く様は神も仏も信じてやまない異様な光景と同等にお粗末な瞬間であった。

 おまけに、

「古くに四代目の精錬した旧版の鎧を使用。剣も同様に最高峰の金属を用いた十字架で」「――絶え絶えぇ。だぜ、無理すんな。って」

「死など疾うに通り過ぎた事」

「だったら二度、死ね」

 真っ赤な刃が出来上がり、一番の口数を誇る半端な訓練で導きを示したトップを襲う。

 もうやめにしないか。

 剣が魂を吸う度に口にしてきた言葉だが、最早――意味のないことなのかもしれない。

「じゃあな」

 これもあれも必要なことだ。
 そうだ、きっとそうなんだよ。

「っ‼︎」

 大雑把な一撃は確実に胸を穿つ。

 予定をぶち壊しにする、一つの手。

 自分でも閉じてんのかわかんねぇ目でも捉えきれない速さで差し伸べられたようにも、

「よせ」

 突き放すが為の一手にも見えてならない。

「お前は」

 こんな新人紛いの野郎が止めたのか?
 ピクリとも動かねぇ。
 それは明らかに人殺しの目だ。

「四代目。貴様の宿敵だろう」

「っ‼︎ 何故、お前が……ッ」

 純白ローブのフードから垣間見えるのは、精巧な人形に鏤めた宝石が落ちたような顔。

 想像していた凍てつく眼差しとは程遠く、土砂降りの豪雨に捨てられた仔猫がぐしゃぐしゃな光景のような尽きぬ憐れみを向ける。

「消えろぉ‼︎」

「それは叶わぬ相談だ」

 奴は輪廻転生していたんだ。
 大して特別でもない存在に。

「これはあくまで一時的な憑依に過ぎない。どうか誤解せぬように踏まえて頂きたい」

「そこまでして、俺に……俺に何の用だ!」

「嘆願を申したく馳せ参じた所存。無論――当代の意志にも沿った形で終えるつもりだ」

「死人は黙って墓に戻れ」

 一字一句に溜めを要した重い怒号を放ち、今正に振り翳さんとせん切先を寄り添える。

「私を殺すか? それで気が済むのならば、思う存分に過去の労力分を費やすといい」

「あぁ、言われなくともそのつもりだ」

 一旦、かなり伸ばされた距離を縮めていく。

「だが、仮の身を拝借する以上、傷付ける訳にはいかない」

「御託はいい。お前に身を貸したが運の尽きだ」

「四代目に死への恐れはありません。生前、左腕を任せた人間は相対していましたがね」

「何?」

「過去の感傷に浸るつもりはない。選択に誤りがあった。故に命を落としたに過ぎない」

「ぉい」

「ですが、貴方様は先におりました」

「其処へ手招く姿は死神に見えたのだろう」

「おい」

「我々は何処までもお側に」

「すまないな」

「いえ」

「おいっ!」

 一方通行に飛び交う会話に終止符を打ち、戯言に花咲かす農家野郎に睨みを効かせて、実質的な先代との感動的な出会いに改めて。

「お前は何の為に来たんだ」

「前職へ戻って貰わなくてはならない。故に」

「代わりなんていくらでもいるだろうがぁ。あいつだって、まさに――」

「いや、お前にしか出来ない」

「なんでだ!」

「皆、勇者になる者は必ず先代の背を追っている」

 剣を握る手が震えた。

「ふっ、ふざけるなぁ!」

「これが運命だ。ただ……幻想的な夢から残酷な現実に変貌した。直視した結果なんだ」

「違う、俺は。違う!」

「此奴は兄者を」

 ヒロを指し、

「私は先達を」

 自らを指し、

「そして、貴様は私を」

「ありえない」

「恐らく父の背中越しに見ていたのだろう」

 脱力感で力んだ指先が解け、刃が落ちた。

「だって、ずっと。だから!」

 こんな俺を終始、周りは見守り続けていた。

「ふざけるな。なんで…………そうあれる」

 答えはずっと沈黙だ。

「おれは」

 その瞬間、世界はまた暗闇に閉ざされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...