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第一章
第25話 空を走る
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「あの、その、着替えの服があるのですが、それだけでも取りに行けませんか? 新たに買うお金も無いので」
「絶対入れるなと言われている。諦めるんだな」
なあアンラ、お前プリムがいたところ分かるんだよな? そっから持ってきてくれるか?
(仕方無いわね~、今筆がのって良いところだったのに。まあ、行ってきてあげるよ、本も借りていいよね?)
はぁ、後でちゃんと返せよ。
(うんうん。んじゃ行ってきま~す)
アンラはスルスルっと門番達の間を抜けて『ぴょ~ん』とか念話で言いながら二十メートルは離れたところにある屋敷の屋根まで飛び上がり、屋根についてる窓を開けて中に入っていった。
「はへ?」
「プリム、入れねえみてえだから足りない物は、稼いで買うしかねえな」
俺はアンラを見て変な声を出したプリムの手を取り、ゆっくりと門から離れた。
そして十歩も歩いてない内にアンラは俺の横に戻ってきたんだが、早すぎねえか?
「ちゃんと持ってきたんか?」
「もっちろ~ん。屋根裏部屋ってはじめからほとんど空っぽだしね~。プリムが寝てた寝台と~、古ぼけた本棚と木箱が一つしか無かったし。それで持ってきた荷物は木箱が一つと、本は五冊ほどだもん。それでいいんだよね?」
「はい。木箱に全部入っていますので、アンラお姉ちゃんありがとうございます」
「ど~ってことないよ~。あっ、それとさ、グールに墓地を襲うようにしたの管理監? 領主だっけ? の命令だから入れなくて正解かもね」
「「はあ!?」」
一瞬考えて、アンラがとんでもない事を言ってる事に気が付いて、俺とプリムは同じ拍子に変な声が出てしまった。
「暗殺ギルドに頼んでたみたいよ。騒ぎが起きてないから、今頃イライラしてるでしょうね。プリムの洗礼に来たのだってそれを確認するためとかじゃない?」
「いえ、初めから一緒に行く予定でしたよ。でも、そう言えば教会につくまでは機嫌が良かったですし、護衛もいつもの倍以上の方がいたのですけど、教会が見えた途端不機嫌になりましたね。えっと、確か『なぜ騒ぎがない? 何人か裏に回れ』と言ってたので」
「おい、あのグールは森から来ただけじゃないのかよ!? ってかそんな事できんのか? 相手は魔物だぜ?」
「ん~、薬を撒くとかなんとか言ってたかなぁ。まあお陰でランクも上がったんだし良いじゃん」
「良かねえよ! たまたまじゃなくて、分かっててやったんだろ!? んなの許せねえぞ! 今から戻ってとっちめてやる!」
「はわわわっ! だ、駄目です捕まっちゃいます! 貴族なんですから、えと、不敬罪とかで犯罪奴隷にされちゃいますよ!」
「ん~、私もやめておいた方が良いと思うな~。今のケントじゃグールみたいにまっすぐ来る魔物とかなら良いけどさ~、人間相手だと殺したりできないでしょ? 命令されているだけの兵士を」
んぐっ、確かにそうだがなんとかできねえもんか······。
「くそっ! とりあえず司祭のおっさんには知らせねえとな、行くぞ」
俺はプリムの手を握ったまま早足で教会に急ぐ。
アンラは同じようについて来ながらうろうろと『おっ、コイツはもう少しで中位ね』『この人五匹もつけてるじゃん』とか、アシアんちでやってたみたいに行き交う人の中で、たま~についてるモヤモヤを捕まえている。
「この街は少ないわね。お墓に集まってるのかな? あの食堂にいた人にはあんなについてたのに。ケント、あんたの村、ヤバいかもね」
両手に少なくない数のモヤモヤを握り帰ってきたアンラがソイツらを握り潰しながらそんな事を······はぁっ!
「おい! なんだよそれ! すげえヤバいじゃねえかよ! この街も心配だが、村もかよ!」
「そ、そのモヤモヤがいっぱいいるのですか!?」
「ああ、飯屋だけでも結構いたぞ。ここの墓場よりは少なかったけどよ、人の数も全然違うのに、それだけいたんじゃ······よし。司祭のおっさんに言ってから村行きの馬車を探すぞ」
「この街のは放っとくの? 私はどっちでも良いけど」
「さっさとやっつけて、また戻ってくる。そうしねえと――っ! なんだ、教会の方から煙が上がってんぞ! 走っぞプリム!」
大通りの先に黒い煙が立ち上ってる。
俺はプリムの手を引き走り出したんだが。
「きゃっ!」
急に走り出した俺についてこれず、足がもつれてプリムが転けそうに――。
「すまねえ! プリム大丈夫か!?」
なんとかプリムのお腹に、繋いでない左手を回し、支える事ができた。
『ケント。急ぐのでしたら神剣を解放すれば、身体強化されますので、プリムを抱えたままでも普通に走るよりずっと早く走れますよ』
「驚きましたが大丈夫です。急ぎま――」
「クロセル頼む! 解放!」
「ひょえー! お姫様抱っこですよー!」
神剣を解放してプリムを引き寄せ両手に抱えて走る。
「プリム! 舌噛むから大人しくしとけ! おらおらおらおらっ!」
体が無茶苦茶軽く、プリムを抱えているがいつもより早く走れる。
人が邪魔だ! くそっ、このままだと速度がこれより上げらんねえ。
「ん~、仕方無いわね、私が跳んで上げるからプリムを落とさないようにね。行っくよー、ぴょーん!」
「「ぬぉぉぉー!」」
俺の襟首を掴んでアンラは飛び上がり、建ち並ぶ家の屋根に飛び乗り――。
バキャ! と屋根を踏み抜きそうな音を立てながら煙に向かって加速していく。
「おおー! 久しぶりに走るのたのしぃー! ひゃっほーい♪」
歩いていくなら二時間はかかるだろう距離をアンラは、屋根だけでなく、空中も足場にして跳びはね、数歩走っただけで真っ暗な煙を上げる教会に辿り着いた······んだが、そこは――。
「絶対入れるなと言われている。諦めるんだな」
なあアンラ、お前プリムがいたところ分かるんだよな? そっから持ってきてくれるか?
(仕方無いわね~、今筆がのって良いところだったのに。まあ、行ってきてあげるよ、本も借りていいよね?)
はぁ、後でちゃんと返せよ。
(うんうん。んじゃ行ってきま~す)
アンラはスルスルっと門番達の間を抜けて『ぴょ~ん』とか念話で言いながら二十メートルは離れたところにある屋敷の屋根まで飛び上がり、屋根についてる窓を開けて中に入っていった。
「はへ?」
「プリム、入れねえみてえだから足りない物は、稼いで買うしかねえな」
俺はアンラを見て変な声を出したプリムの手を取り、ゆっくりと門から離れた。
そして十歩も歩いてない内にアンラは俺の横に戻ってきたんだが、早すぎねえか?
「ちゃんと持ってきたんか?」
「もっちろ~ん。屋根裏部屋ってはじめからほとんど空っぽだしね~。プリムが寝てた寝台と~、古ぼけた本棚と木箱が一つしか無かったし。それで持ってきた荷物は木箱が一つと、本は五冊ほどだもん。それでいいんだよね?」
「はい。木箱に全部入っていますので、アンラお姉ちゃんありがとうございます」
「ど~ってことないよ~。あっ、それとさ、グールに墓地を襲うようにしたの管理監? 領主だっけ? の命令だから入れなくて正解かもね」
「「はあ!?」」
一瞬考えて、アンラがとんでもない事を言ってる事に気が付いて、俺とプリムは同じ拍子に変な声が出てしまった。
「暗殺ギルドに頼んでたみたいよ。騒ぎが起きてないから、今頃イライラしてるでしょうね。プリムの洗礼に来たのだってそれを確認するためとかじゃない?」
「いえ、初めから一緒に行く予定でしたよ。でも、そう言えば教会につくまでは機嫌が良かったですし、護衛もいつもの倍以上の方がいたのですけど、教会が見えた途端不機嫌になりましたね。えっと、確か『なぜ騒ぎがない? 何人か裏に回れ』と言ってたので」
「おい、あのグールは森から来ただけじゃないのかよ!? ってかそんな事できんのか? 相手は魔物だぜ?」
「ん~、薬を撒くとかなんとか言ってたかなぁ。まあお陰でランクも上がったんだし良いじゃん」
「良かねえよ! たまたまじゃなくて、分かっててやったんだろ!? んなの許せねえぞ! 今から戻ってとっちめてやる!」
「はわわわっ! だ、駄目です捕まっちゃいます! 貴族なんですから、えと、不敬罪とかで犯罪奴隷にされちゃいますよ!」
「ん~、私もやめておいた方が良いと思うな~。今のケントじゃグールみたいにまっすぐ来る魔物とかなら良いけどさ~、人間相手だと殺したりできないでしょ? 命令されているだけの兵士を」
んぐっ、確かにそうだがなんとかできねえもんか······。
「くそっ! とりあえず司祭のおっさんには知らせねえとな、行くぞ」
俺はプリムの手を握ったまま早足で教会に急ぐ。
アンラは同じようについて来ながらうろうろと『おっ、コイツはもう少しで中位ね』『この人五匹もつけてるじゃん』とか、アシアんちでやってたみたいに行き交う人の中で、たま~についてるモヤモヤを捕まえている。
「この街は少ないわね。お墓に集まってるのかな? あの食堂にいた人にはあんなについてたのに。ケント、あんたの村、ヤバいかもね」
両手に少なくない数のモヤモヤを握り帰ってきたアンラがソイツらを握り潰しながらそんな事を······はぁっ!
「おい! なんだよそれ! すげえヤバいじゃねえかよ! この街も心配だが、村もかよ!」
「そ、そのモヤモヤがいっぱいいるのですか!?」
「ああ、飯屋だけでも結構いたぞ。ここの墓場よりは少なかったけどよ、人の数も全然違うのに、それだけいたんじゃ······よし。司祭のおっさんに言ってから村行きの馬車を探すぞ」
「この街のは放っとくの? 私はどっちでも良いけど」
「さっさとやっつけて、また戻ってくる。そうしねえと――っ! なんだ、教会の方から煙が上がってんぞ! 走っぞプリム!」
大通りの先に黒い煙が立ち上ってる。
俺はプリムの手を引き走り出したんだが。
「きゃっ!」
急に走り出した俺についてこれず、足がもつれてプリムが転けそうに――。
「すまねえ! プリム大丈夫か!?」
なんとかプリムのお腹に、繋いでない左手を回し、支える事ができた。
『ケント。急ぐのでしたら神剣を解放すれば、身体強化されますので、プリムを抱えたままでも普通に走るよりずっと早く走れますよ』
「驚きましたが大丈夫です。急ぎま――」
「クロセル頼む! 解放!」
「ひょえー! お姫様抱っこですよー!」
神剣を解放してプリムを引き寄せ両手に抱えて走る。
「プリム! 舌噛むから大人しくしとけ! おらおらおらおらっ!」
体が無茶苦茶軽く、プリムを抱えているがいつもより早く走れる。
人が邪魔だ! くそっ、このままだと速度がこれより上げらんねえ。
「ん~、仕方無いわね、私が跳んで上げるからプリムを落とさないようにね。行っくよー、ぴょーん!」
「「ぬぉぉぉー!」」
俺の襟首を掴んでアンラは飛び上がり、建ち並ぶ家の屋根に飛び乗り――。
バキャ! と屋根を踏み抜きそうな音を立てながら煙に向かって加速していく。
「おおー! 久しぶりに走るのたのしぃー! ひゃっほーい♪」
歩いていくなら二時間はかかるだろう距離をアンラは、屋根だけでなく、空中も足場にして跳びはね、数歩走っただけで真っ暗な煙を上げる教会に辿り着いた······んだが、そこは――。
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