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第一章

第51話 解体用ナイフ

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 三人を部屋に残して俺はクソ爺についていく事にする。

 初めはついてこようとしたんだが、先に行ったクソ爺が『来るのはケントだけにしてくれ!』と廊下の先から聞こえた。

 アシア達は『待ってるから』と三人で寝台の木箱をバラシ、椅子にして、また話を始めるようだ。

 廊下から礼拝所に出ると、待っていたクソ爺は、俺だけしかいない事を見てから話し始める。

「来たか、本当はリチウムに向かう前に渡そうと思っていたんだが、準備ができていなかったのでな」

 腕を組み、俺に話しかけてくる、机のところにいるクソ爺に歩み寄る。

(なんの話だろうね? 渡してくれるって、お酒かな? それとも本?)

 ってかよ、お前はついて来てんのか、まあ見えてねえし、良いか。

「何くれるんだ? 剣ならあるしよ」

「うむ、武器ではあるが、これだ」

 よく見ると、机の上には黒地に銀の装飾がされた横に五十センチ、縦二十センチ、高さが十センチの木箱が置いてある。

 見た事もない物だけど、箱の大きさ的にナイフかなんかか?

「開けて良いんか? ん~と、鍵もねえし、ほいっと」

 くるりと回して、鍵がなく、丁番が付いていてパカっと開けられそうだ。思ったより軽い箱だが、蓋を開けてみた。

 開けた箱の中を覗くまでもなく、箱と同じ、黒地に銀の装飾がされたやはり思った通りナイフが入っていた。

 よく見ると、装飾は銀の鎖が巻き付けられているように見え、その鎖が鞘から伸びて箱の四角に繋がり浮いている。

「変わってんな、態々わざわざ浮かしてんのか?」

 何気無く手を伸ばして鞘を掴んだ瞬間、四角に伸びていた鎖が千切れ、消えてしまった。

「のわっ! なんだよこれは! ……大丈夫なんか?」

「ほう、簡単に取り出せるのだな、やはりそのナイフはケントの物のようだ」

 思わず手放してしまいそうになったが、なんともねえようだ。

(へえ、中々格好いいナイフじゃない、魔力も内封してるし、良い物のようね)

『そのようですね、神剣までは届きませんが、それに近い力を持っているようです』

「前から言ってた通り、お前はこの村に捨てられていて私が拾った、その時ケントが入っていた籠に入っていた物だ」

「へえ、それをなんで今ごろくれるんだ?」

 クソ爺はボリボリと頭を掻きながら箱の蓋を指差す。

「そこを読んでみろ」

「なんだよ面倒くせえな、なになに……」

 指差された蓋の表に、黒地に黒で書かれた文字がある事に気が付いた。

 ――――――――――――――――――――

 我等が子に贈る物なり

 洗礼を受けし時まで封印せよ

 ――――――――――――――――――――

「なんだこれ? 俺の親がくれたって事なんか?」

 クソ爺が言うには、凄い魔力が感じられたから、沢山の奴が持とうとしたが、誰も箱に繋がっていたナイフを取り出せなかったという。

 それも、教皇も、勇者のスキル持ち主でさえ駄目だったから、このナイフと一緒に拾われた俺の成長を待ち、持てるかどうか確かめるため、長らく教会本殿の宝物庫の最奥に封印されていたそうだ。

 俺の洗礼に合わせて届く予定だったが、手違いがあり、俺が旅立つまでに間に合わず、だから一度帰って来いと言ってたようだ。

「んで、教皇様や勇者が持てなかったナイフは俺がもらって良いんか?」

「ああ、教会の偉い奴らはなんとしてでも教会で所持していたいと言うだろうが、構わん、ケントの物なんだ、それを取り上げるなど、私が許さん」

「そんな事だから司祭から上に上がれねえんじゃ? まあ良いけどよ」

 鞘から抜き、刃の鋭さを見る。

 軽く爪の上を滑らせると、シュルっと薄皮がめくれるように少し伸びた爪を切る事ができた。

「ふむ、切れ味も良さそうだ、解体用に良い感じだな」

「はっ、魔力のあるナイフで解体か、そりゃ良い、くははは」

 笑った後、また真剣な顔に変わり、話を続ける。

「ケント、お前を拾った時に着ていた産着があったのだが、それは行方不明の聖女様が着ていたローブで作られていた」

「聖女? もしかして聖女が俺の母ちゃんって事か?」

「可能性は高いが、そうでなくともケントの出生を知っていそうではあるな」

 クソ爺はなんでか優しい目で俺を見てくる。

 ちと気持ち悪……そうだよな、そんな哀れむ気分にもなるか、俺がクソ爺の立場でも可哀想だと思うしよ。

 カチャとナイフを鞘に戻し、ベルトに挟んでおく。

 だが今さらそんな事を聞かされてもなぁ、まあ、冒険者として色んな所を旅して、修行しまくる予定だ、目標はやっぱり強くなる、いや、最強くらいは目指さねえとな。

 んで、その途中で見付かれば、そうだな、文句の一つでも言ってやるか。

「教会が総力をあげて大陸中を探して見付からなかった聖女を探せ、自分の事を知りたければな」

 クソ爺はそう言うと、ふいっと横を向いた。

「まあ見付からなかったとしても、私はお前の事を孫と思っているぞ」

 その横顔は照れているのか赤く染まっていたが、からかう気分じゃねえな。

「けっ、あんがとよ。そこは俺も感謝してるぜ、クソ爺」

「よし、話は終わりだ、みんなのところに戻れ」

 話は終わりのようだ、俺はナイフの入っていた箱ももらっておこうと手に取り、クソ爺を礼拝所において部屋に戻った。
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