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第一章

第67話 勝負の行方

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 見えてねえはずなのに、目をキラキラさせてついてくる兵士の兄ちゃん……。

(ねえケント、途中から数え忘れちゃったんだけど、ケントは何匹?)

 天井をちょこまか小走りであちらこちら走り回り、捕まえてから浄化しているアンラを見上げ、思い出した。

 あっ……俺も数えてなかったぜ……この競争は勝負無しか。

『ケントが百二十五匹、アンラは二百八十匹目を掴んでいますね』

(ほへ? これで二百八十匹? えいっ)

 鷲掴みにしていたモヤモヤを握りつぶして二百八十匹……。

 くそっ! 全然負けてんぞ!

「うりゃ! せいっ!」

 よく見ると、通路の俺に手が出せそうなモヤモヤは、なぜか避けるように上に逃げてアンラに捕まり浄化されてる……なんでだ?

『私を持っているからでしょうか。一定以上強いレイスだと、向かってくるようですが、弱いレイスは逃れようとして上、または壁を通り抜け逃げていってますね……』

 ふ~ん……は? んじゃアンラにそんだけ差をつけられてんのはクロセルのせいって事なんか?

 飛び上がり、アンラの方へ行こうとしたモヤモヤを叩き落とし浄化し、着地と同時に壁際に走り、体の半分が壁に消えそうな奴もギリギリだが浄化。

『そのようです。それに私か、アンラが原因だと思うのですが、レイスが近付くにつれ、強化されているようです。それも、中位の中でもそこそこ強いレイスだけですが……』

 どういう事だ?

(あっ……それ私のせいかも? まあ言えば私みたいな悪魔の凄く下位がレイスと言われてたはず)

 たたたと天井を走り、むんずとモヤモヤを捕まえるアンラ。

(見ててね、むむむっ!)

 アンラがなんか力んだと思ったら、顔が狼のワーウルフが通路に落ちてきた。

「なっ! ま、魔物!」

「マジか! うりゃ!」

 ワーウルフが空中で体勢を変え、通路に着地したところに踏み込んで、首を狙って横薙にクロセルを振り切った。

「ギャオッ!」

 とっさに腕を伸ばして防御したが、腕では俺の振りは止められず、だが軌道がずれて、左肩に食い込みそのまま切り進んで右わきに抜けた。

 ドサッと一撃で倒せたんだが、これはどういう事なんだ?

(やっぱりね~、私の魔力に反応して、実体化してるから、あの蜘蛛にトロールに蛇も、私が近付いたから実体化したのよ)

 は? アンラが悪いんか?

(違うよ~、あの三匹は、上位間近だったからかな。ほんの少し漏れ出ている私の魔力に気付いたんだよね~、今のワンワンは、無理やり気付かせたから実体化しただけね)

『なるほど、レイスのままではすぐに浄化されますが、実体化すればもしかしてと考えたのですね』

 アンラの説明だとよく分からなかったが、クロセルの説明だとなんとなく分かる気がする。

 って事は……レイスにとっても悪魔のアンラは敵って事なんか? いや、親玉みたいなもんか。

(あのね! 私とレイスは全然別物だからね! 魔力の質がちょっと似てるだけで別物なんだから! 下位って言ったけど、悪魔は初めから悪魔として産まれるんだから!)

 天井から飛び上がり、くるりと体の向きを変えて俺の横に着地したアンラは、俺の襟を掴んで詰め寄ってきた。

 わ、分かったからよ、悪かったな、親玉とか言ってよ。

 俺は上目遣いで睨んでくるが……可愛いじゃねえか……。

 仕方なく頭を撫でておくと、表情が崩れ、にへらと笑う。

(にゅふふ~、頭を撫でられるの気持ちいいね~)

 でもよ、魔力で実体化するんだろ? それじゃあ森とかにいる魔物はどうやって実体化してるんだ? 森に悪魔がいんのか?

 襟を掴んだままくねくねと体をよじるアンラに聞いてみたんだが……。

(ん~、それはね~、ちゃんと見た事ないけどさ~、人が多いところだと、滅多にないけど、森とかには魔力が溢れだしてるところがあるんだよ~、たぶんそこで私がやったのは無理矢理だけど~、同じように魔力を吸収しちゃったんじゃないかなぁ~)

『なるほど、人が多いとそれだけ魔力が分散されて、一人が吸収できる魔力は減りますからね。森や、人が近付かない場所でなら……動物は魔力を吸収しませんし、濃くなり、実体化するレイスがいるのですね』

 難しいが、そうなんだろうと思う。だから街なんかの近くでも、その魔力が沢山あれば魔物が出てくるって事か。

 一つ勉強になったぜ、だとすると、魔力が溢れてっところに行けば、最強になるための修行ができそうだな。

 俺は心の中で、一つの修行場を候補にいれて、まだまだ城の中を漂うモヤモヤ達を浄化してまわる。

 アンラはまた天井に戻り、ある程度まわり終えた時、宰相の取り調べが終わったと、連絡が来た。

 王様の執務室に呼ばれ、兵士の兄ちゃんに案内されながら、クロセルから今回の結果を聞いた。

 この勝負は俺が三百ちょっと、アンラは七百を余裕で超えやがった……。

 ってかよ、多くね?

 王様の執務室に案内されながらも俺とアンラは浄化をしている。

 少しでも減らせるんなら、その方が良いに決まってるからな。

「しっ!」

 執務室に向かう途中でもやっつけている。

 ってかよ、多くね? 二回目だがよ……多いって!

 それに反応してアンラは、ちょろちょろと天井を歩きながら、モヤモヤを捕まえては握りつぶし、念話を送ってきた。

(あのね~、レイスをやっつけ回っていて気付いたんだけどさ~、このお城ってば魔力のいっぱいある場所に建ってるんだよね~)

『はい、私もそう感じましたね、元々魔力に引かれるレイスが集まる場所なのかもしれません、それも向かっている方向がその中心、お城の真ん中ですね』

 ふ~ん……は? それじゃあ実体化して魔物になるんじゃねえのか!?

 いや、今までお城から魔物が溢れたなんて聞いたこともねえぞ!?

(きゃはは♪ 魔力は溢れてないよ~、いっぱいあるってだけ、ダンジョンがあるんだけだもん、まあ、そこから魔物が溢れる事は~あるかも知んないけどね~)

 はぁ、そんなら良いか……良くねえよ!
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