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第一章

第116話 護送隊と森の中

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「なっ! で、ではあなた方がケント殿とアンラ嬢? です……か?」

 剣を抜こうと身構えていた二人は驚いてそんなことを聞いてくる。

 アンラは収納から五センチほど厚みのある木の板と芋を出して、俺のリュックから解体用のナイフを取り出し、皮を剥いて適当な大きさに切っていつの間にか焚き火にかけた鍋に水と一緒に入れていた。

 ま、まあ良いけどよ。

「そうだぞ、それに、人攫いもしてたランタンだし、捕まって王都に送られっとは思ってたからな」

「な、なるほ――」

「ケントー、オークの干し肉と~腸詰めをくれない? 後、塩とかもね~」

 言葉を遮りながらそんな事を……目の前にいる男達の事は完全に終わったことのように、葉物野菜も適当な大きさに切って、俺の方を向き、手を出してくる。

 遮られ、口をパクパクしている男達は一旦放っておいてクロセルに頼むと、言われた物を。

『はぁ~、アンラはまったく、緊張感がないですね。森の中にこちらに向かってくる者達がいると言うのに』

 なんて言いながらも出してくれたから、干し肉手渡し、残りは持ちきれそうにないから手渡しじゃなく、板の端に出しておいてやる。

「……マジかぁ」

 気配は探るようにしていたが気配はなく、ちと集中して遠くまで気配を探ると、五十……いや、もっとだ。

「なあ、あんたらの仲間って森の、この方向にもいるんか? たぶん五十人から七十ってところか」

「なっ! ……い、いや、それはない。まさかランタン伯爵を取り返しに? だがそんな事をしても、罪の証拠は早馬で王都に向かって、今頃は峠を超えているはずだ」

 森の中に誰かいると聞いて、バッとそちらを向く二人。
 自分達でも探っている素振りを見せるが感じられていないようだ。

 それより先に報せを走らせてると……だとすれば、身柄だけ取り返せても、身分はもうランタン本人がお城に行かなくても取り消しとかになるだろうな。

「じゃあ迎え撃つか。あんたらも、準備しておいた方がいいぞ、魔物じゃなくて、人だからただ突っ込んで来るだけじゃねえだろう」

 アンラに眠りヒュプノスをかけてもらうとしても、耐性の魔道具を持っている者も結構いるだろうしな。

「ほ、本当なのか? 夜の森をそんな大人数で移動していると、魔物が気付いて寄ってくるぞ? それに私にはそのような気配は感じられなかった」

「いや。この方向だ、距離は……一キロくらいだな。ここに来るのは早くて数時間、深夜にはならねえだろう。そうだ、迎え撃たなくても今から夜通し馬車を走らせれば追い付けないだろうな。どうすんだ?」

 森の一方向を指差し、向かってくる方向を教えて、戦わなくても良い方法も教えてやった。

「それが本当なら確かに……七十人か、私には方向を示されてもまったく気配は感じられないが、あの馬車狙いの盗賊団を捕まえた実績のあるケント殿がそう言ってるとなれば……」

「隊長。うちの斥候なら方向が分かればその距離なら感じられるはずです」

「うむ、すぐに確かめよ、どう動くかは、それからだ。一応出立の準備も進めよ、急げ!」

 隊長さんだったんか。
 二人とも構えていた体勢をやっと戻して、手も剣から外し、隊長さんは一緒に来ていた人に命令をして走らせた。

 まあ、そんなに焦らなくても時間はまだある。
 夜のため、馬車の速度は出ないが、相手は森の中を来るくらいだ。
 馬には乗ってないし、追いかけるために何時間も走ってられねえだろうしな。

「そうだ、捕まえておくからよ、馬車を寄越してくれっか? 七十人も連れて歩けねえからよ」

 そんな事を言っている間に、走り去った男はもう一人小柄な男を連れて戻ってきた。

「隊長! ケント殿の言う通りの方向から気配を感じ、やはりこちらに向かっている動きがあるそうです!」

「くっ、分かった。ご苦労だったな、だがもう少し働いてもらうぞ、すぐに夜営準備を止め、出立の準備を急げ! それから五人の、いや、十人はランタンへ戻り、七十人を詰め込める馬車を用意して、ここに戻るように手配しろ! 足の早い馬を使え!」

「「はっ!はっ!」」

 ちゃんと気配を感じられたようだな。
 また隊長から命令を受け、走り戻る男達に続いて、隊長も準備をするため戻ると言い走り去った。

「沸いてきたよ~。ねえ、この夜営地に出てきてから眠らせれば良いよね? 早く煮えないかなぁ~」

「くくっ。そうだな、煮えるまで、俺にも眠りヒュプノスを教えてくれねえか? いつもアンラに任せてばかりなのも気が引けるしよ」

 たまに鍋を木の匙で、底に焦げ付かないようにまぜながら、アンラに指導してもらう。

 まあ、相手がいないんで効いてるんかどうか分かんねえのがあれだが、試すのは気配の主が来てからって事にするか。

 ランタンを護送する準備が整ったようで、全員が馬車や馬に乗り込み、焚き火を篝火にして灯りを取り、先頭が進み出した。

 その時隊長が馬に乗り、近くに来て挨拶をして来た。

 ザッと馬から飛び降り、軽く頭を下げる。

「ケント殿、この度は近付く者達の事を教えていただきありがとうございます。気付くのが遅ければ、最悪こちらは全滅、そしてランタンを連れ去られるところでした」

「良いって、そんなのは当たり前の事だろ? 良い方法があるなら知らせた方が良いに決まってるからよ。この先は見通しも良い道で、最後はちと登らねえといけねえが、事故らねえようにな」

 隊長さんが隊列に戻り、街道に出て静かになった夜営地。
 俺達はスープとパンを食べながら、近付いてくるのを待つことにした。
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