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第一章
第117話 崩れ落ちる
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隊長さん達が夜営地を出ていってから数時間経ち、森の中を進んできた者達の先頭が森との境目まで来て止まった。
来るまで時間があったから擬装で街道側に馬車を出し、焚き火をいくつかとカカシを沢山作り、アンラがいっぱい持ってた鎧を着せて、人がいるように見せかけておいた。
アンラは姿を消して、今は森の中を魔道具持ってる奴らから気付かれないように回収しに行っている。
クローセも手伝ってくれているしな。
奴らの最後尾に回り込んで、異変を感じて逃げ出さないように見張っていて、今はいつも通りの大きさだが、いざという時は大きくなって追いたててくれるように頼んでおいた。
『ケーンートー。結構魔道具持ってるよー、それにー、話を聞いてるけどー、みんなが森の際に集まって来るまではー、出ていかないみたいー』
了解だが……念話だからそんな叫ぶように言わなくても届くんじゃねえのか?
ま、まあバラバラと出てこられたら面倒だなと思ってたから助かるな。
それから十数分、先頭からだいぶ遅れてはいたがようやく森の中の奴らは森の際に集まったようで動いていた気配が止まった。
ただ待つのもなんだしと晩御飯を食べた後、ソラーレに掃除してもらった鍋で湯を沸かし、茶をいれておく。
奴らが止まって数分後に、アンラがひょこひょこと森から出てきたんだが、出たところで止まって一本の木を指差している。
『ケントー、この木に一人登ってるから眠りを試さないー? 木の上だしー落ちて気絶したと思うだろうしさー』
なるほどなと思った俺は、アンラの指差す木の上の部分だけを包むように眠りを唱えた。
唱えた後、一呼吸置いてガサガサ、ドサッと木から人が地面に落ちた。
すげえな……眠りもだが、突然上から落ちても声も出さねえなんてな。
俺なら絶対声出してるぜ。
『おお! ケントやったね♪ 声は出してないけど無茶苦茶慌ててるよ~。魔道具も回収できたし戻るね~』
落ちたのを見てからアンラがこっちに戻ってきて、うちの馬車の裏に回った後、姿を現せて焚き火の世話をしている俺のところにニコニコしながらやってきた。
「眠り成功おめでとうケント。見たところ、そこそこ強そうな人はいたけど、あまり気にするほどでもないかな」
腕を組んでどの程度の戦力か教えてくれる。
「ありがとうな。まあ、眠らせてしまえば強くてもどうとでもなるしな。っと動き出したぞ」
「んじゃ私はケントの眠りに重ねがけしておくね」
「頼んだ」
アンラが馬車の裏から現れた時に動き出した奴ら、森の際から一斉にガサガサと下草をかき分けながら、一気に大人数が走り出してきた。
座ってた俺は立ち上がり、アンラを守るように前に立ち、広範囲を意識して迫る奴らに今度は手を向けて、手のひらを力一杯広げて眠りを唱える。
唱えた後、眠って崩れ落ちる奴を気にせず腕の方向を変え、また広範囲を意識しながら二発目を放つ。
森から俺達の焚き火にまでは三十メートルほどしかない距離だったが、次々に数度唱えた後、半数近く倒れたのを見て、足元に転がる仲間を避けるため、走る早さが鈍る襲撃者達。
そのままの速さで来られたら、ちとヤバかったが間に合いそうだ。
「クソッ! どうなってやがる! だが奴を! 奴だけは殺してしまわねえと! 残った者で一番デカい馬車を襲え! 後のは放っておいてもかまわ――」
ん? 奴を殺す? 助けに来たんじゃねえのか?
最後までは言わせなかったが、手前にいた俺達を避けた残りの十数人は街道側に置かれた馬車に向かう。
それと、まだ森の中に残っていた十人をクローセが『フシャー!』と大きくなった姿で威嚇し追い出してきた。
「なぁぁぁ! なんでこんなところにエンペラーキャットが! く、喰われる!」
「ヤバい! に、逃げろ!」
散り散りに逃げようとする奴らの行く手を目にも止まらない速さで回り込んで阻み、夜営地の真ん中に向けて追いたててくれた。
一旦ソイツらは放っておいて馬車に向かった奴らに眠りをかけ、倒れたのを見て残りの奴らにも唱えて今夜の襲撃を退けた。
「みんなお疲れさん。クローセありがとうな。アンラはもうちょいコイツらを縛るの手伝ってくれ」
「ほ~い。ケントの眠りだと数時間がやっとだけど連発もできていたし、完璧ね♪ よ~し簡単に終わったしお茶でも――痛っ!」
「どうした!」
クロセルに出してもらったロープで転がる奴らを縛ろうかとしゃがみこんだ時、俺の横にいたアンラが声を震わせた。
見るとアンラの首にほんのり光るナイフが刺さっていた。
頭が一瞬で真っ白になる。
ゆっくりと後ろに倒れていくアンラに立ち上がると同時に駆け寄り抱える。
そして白い首に刺さったナイフを掴んで引き抜いた。
「アンラ!」
ナイフを投げ捨て吹き出る血を止めるように手で押さえる。
「回復! アンラ! しっかりしろ!」
首と手の間から流れ出ていた血は勢いを止め、傷は塞がったはずだがアンラは返事をしない。
頭が回らない。
温かい血が手を伝う。
手首を越える赤い血。
ひじに到達して……。
地面に落ちた。
「……嘘……だろ……ア……ン……ラ」
何かが頭の中でガラガラと崩れ落ちる音を聞いた気がする。
来るまで時間があったから擬装で街道側に馬車を出し、焚き火をいくつかとカカシを沢山作り、アンラがいっぱい持ってた鎧を着せて、人がいるように見せかけておいた。
アンラは姿を消して、今は森の中を魔道具持ってる奴らから気付かれないように回収しに行っている。
クローセも手伝ってくれているしな。
奴らの最後尾に回り込んで、異変を感じて逃げ出さないように見張っていて、今はいつも通りの大きさだが、いざという時は大きくなって追いたててくれるように頼んでおいた。
『ケーンートー。結構魔道具持ってるよー、それにー、話を聞いてるけどー、みんなが森の際に集まって来るまではー、出ていかないみたいー』
了解だが……念話だからそんな叫ぶように言わなくても届くんじゃねえのか?
ま、まあバラバラと出てこられたら面倒だなと思ってたから助かるな。
それから十数分、先頭からだいぶ遅れてはいたがようやく森の中の奴らは森の際に集まったようで動いていた気配が止まった。
ただ待つのもなんだしと晩御飯を食べた後、ソラーレに掃除してもらった鍋で湯を沸かし、茶をいれておく。
奴らが止まって数分後に、アンラがひょこひょこと森から出てきたんだが、出たところで止まって一本の木を指差している。
『ケントー、この木に一人登ってるから眠りを試さないー? 木の上だしー落ちて気絶したと思うだろうしさー』
なるほどなと思った俺は、アンラの指差す木の上の部分だけを包むように眠りを唱えた。
唱えた後、一呼吸置いてガサガサ、ドサッと木から人が地面に落ちた。
すげえな……眠りもだが、突然上から落ちても声も出さねえなんてな。
俺なら絶対声出してるぜ。
『おお! ケントやったね♪ 声は出してないけど無茶苦茶慌ててるよ~。魔道具も回収できたし戻るね~』
落ちたのを見てからアンラがこっちに戻ってきて、うちの馬車の裏に回った後、姿を現せて焚き火の世話をしている俺のところにニコニコしながらやってきた。
「眠り成功おめでとうケント。見たところ、そこそこ強そうな人はいたけど、あまり気にするほどでもないかな」
腕を組んでどの程度の戦力か教えてくれる。
「ありがとうな。まあ、眠らせてしまえば強くてもどうとでもなるしな。っと動き出したぞ」
「んじゃ私はケントの眠りに重ねがけしておくね」
「頼んだ」
アンラが馬車の裏から現れた時に動き出した奴ら、森の際から一斉にガサガサと下草をかき分けながら、一気に大人数が走り出してきた。
座ってた俺は立ち上がり、アンラを守るように前に立ち、広範囲を意識して迫る奴らに今度は手を向けて、手のひらを力一杯広げて眠りを唱える。
唱えた後、眠って崩れ落ちる奴を気にせず腕の方向を変え、また広範囲を意識しながら二発目を放つ。
森から俺達の焚き火にまでは三十メートルほどしかない距離だったが、次々に数度唱えた後、半数近く倒れたのを見て、足元に転がる仲間を避けるため、走る早さが鈍る襲撃者達。
そのままの速さで来られたら、ちとヤバかったが間に合いそうだ。
「クソッ! どうなってやがる! だが奴を! 奴だけは殺してしまわねえと! 残った者で一番デカい馬車を襲え! 後のは放っておいてもかまわ――」
ん? 奴を殺す? 助けに来たんじゃねえのか?
最後までは言わせなかったが、手前にいた俺達を避けた残りの十数人は街道側に置かれた馬車に向かう。
それと、まだ森の中に残っていた十人をクローセが『フシャー!』と大きくなった姿で威嚇し追い出してきた。
「なぁぁぁ! なんでこんなところにエンペラーキャットが! く、喰われる!」
「ヤバい! に、逃げろ!」
散り散りに逃げようとする奴らの行く手を目にも止まらない速さで回り込んで阻み、夜営地の真ん中に向けて追いたててくれた。
一旦ソイツらは放っておいて馬車に向かった奴らに眠りをかけ、倒れたのを見て残りの奴らにも唱えて今夜の襲撃を退けた。
「みんなお疲れさん。クローセありがとうな。アンラはもうちょいコイツらを縛るの手伝ってくれ」
「ほ~い。ケントの眠りだと数時間がやっとだけど連発もできていたし、完璧ね♪ よ~し簡単に終わったしお茶でも――痛っ!」
「どうした!」
クロセルに出してもらったロープで転がる奴らを縛ろうかとしゃがみこんだ時、俺の横にいたアンラが声を震わせた。
見るとアンラの首にほんのり光るナイフが刺さっていた。
頭が一瞬で真っ白になる。
ゆっくりと後ろに倒れていくアンラに立ち上がると同時に駆け寄り抱える。
そして白い首に刺さったナイフを掴んで引き抜いた。
「アンラ!」
ナイフを投げ捨て吹き出る血を止めるように手で押さえる。
「回復! アンラ! しっかりしろ!」
首と手の間から流れ出ていた血は勢いを止め、傷は塞がったはずだがアンラは返事をしない。
頭が回らない。
温かい血が手を伝う。
手首を越える赤い血。
ひじに到達して……。
地面に落ちた。
「……嘘……だろ……ア……ン……ラ」
何かが頭の中でガラガラと崩れ落ちる音を聞いた気がする。
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