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第一章

第119話 ランタン街に向けて

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 襲撃者を連れて行ってもらうための馬車を待っている間、アンラを投げナイフで傷つけた奴に色々聞いてみる。

「――かはっ、そ、そのナイフはっ、ダ、ダンジョンで手に入れだっ――そ、それより、な、なぜソイツは生きてるんだぁぁっ」

『なるほど、ダンジョンの宝箱で出たなら聖属性のナイフも手に入れることは可能でしょうね』

『クロセル様の言う通り、属性を持つ武器、防具はドワーフが造る装備でも一握りの者しか造ることはできないはずですからね』

 ドワーフか、今度会ってみてえよな、武器は良いが、防具もそろそろ揃えたいってのもあるし、目標の一つにしておくか。

『しかし属性付きの装備、それも聖属性となれば教会で管理しているはずですが、上手く隠し持っていたのでしょう』

 だから、俺の解体用のナイフもクロセルも教会は欲しがったんだな。

 結局はランタン伯爵の裏には隣国が絡んでいるそうだ。
 今回の襲撃者は暗殺ギルドから派遣され、ランタン伯爵本人の奪還が目的で、それが叶わないなら殺害。

 バレないようにするにはそれくらいやらねえとって事だな。

 リチウムの野郎は暗殺ギルドのギルドマスターで、隣にある領地の領主、ランタン伯爵は隣国、セシウム王国と繋がってるしよ、この国大丈夫かよ。と思わないでもないが、コイツらを向かえに来た人に王様と公爵様に伝えてもらうしかねえな。

 ランタンまでは普通に走って一日。
 たぶん急ぎで行けば昼過ぎにはここに到着するかも知れねえな。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 昼が過ぎ、まだ来る気配はなく、時間潰しに森に入り、薬草の採取をして、日が傾いた頃、夜営をするために入ってきた馬車が三台の商隊と、その後に箱馬車六台が、騎馬の護衛をつれて夜営地に入ってきた。

 よく見ると、隊長と一緒にいた兄ちゃんが馬に乗り先頭だ。

 商隊の人達は地面に縛られ寝ている奴らを見て『なんだありゃ』『後ろから来た騎士達の目当てはあの者達?』『あの少年少女はなにしてるんだ?』と疑問だらけのようだな。

 まあ、俺もこの状況を知らずに見ればそう思うだろうが。

 兄ちゃんが先頭でその後を馬車がついて来て、縛られた男達の前で止まり、馬から降りて俺たちのところにやってきた。

「こんなにいたのですか……お二人でやっつけたと? あっ、危険を事前に知らせてくれた事、それとこの者達の捕縛、ありがとうございます」

 夕方になっちまったから、晩ごはんの用意をしているアンラと出迎えた俺を交互に見て、その後転がった奴らで目が止まった。

「おう。全員縛って、一人以外は眠らせてあるからよ、早いところ馬車に詰め込んじまえよ」

「あ~、そこの顔が腫れてる奴は起きていて、何でも喋ってくれるから、好きに聞くと良いよ~、痛い自白ペインコンフェッションかけてあるからちょっと聞き取りにくいけどね~」

「あ、ああ。おい、この者達を馬車へ放り込むぞ。それとこの者だけはテントを張り、そこで話を聞く」

 兄ちゃんはアンラの痛い自白ペインコンフェッションってところで、ピクピクと顔を引きつらせていた。

 だが、兄ちゃんの後ろについて来ていたもう一人に向けてそう言うと、回れ右をして馬車の近くに残るみんなに指示して、すぐ足元にいた寝ている男を引きずっていく。

「じゃあ後は頼んでおいて良いか? それとコイツらは隣国のセシウムに雇われた暗殺ギルド員だ。ランタン伯爵の奪還か殺害をしに来たそうだぜ」

「あ、ああ……は? セシウム王国? 暗殺ギルド? そ、それは……」

「だからよ、ランタンの街に連れて行くより、ちと遠いが王都に連れていって、しっかり調べた方が良いんじゃねえかと思うぞ」

 隣国の話をすると、兄ちゃんは呆けた後にアゴへ手をやり考え始めたが、ランタン伯爵も連れて行くんだ、一緒に調べた方が手間無くて良いと思ったから言っておいた。

 三十人ほどが来ていたんで、十分ほどで積み終わり、『検討してみる』と言って顔がボコボコの起きてる奴を引きずってテントに消えていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝、まだ薄暗い時間に起きて俺達は出発した。

 昨日一日この夜営地で足止めをくらったから、早く先に進みてえってのもある。

 出発前に兄ちゃんと話したんだが、行く先を王都へ変更するそうだ。

 で……馬を休ませるために水場のあるところで止まったんだが……。

「た、助けてぇっ! うわぁ! こ、来ないで! あっち行けってば!」

 ん~、一匹のソラーレと同じグラトニースライムにまとわり着かれて、振り払おうと頑張ってる姉ちゃんがいる。

 黒髪を後ろで一つに束ね、黒い目の冒険者のようだ。
 見たことねえ形の細身の長剣、見たことねえ服を着てるんだが、張り付いてるグラトニースライムを叩き落とし、ぽよんと地面に落ちたグラトニースライムはまたぴょ~んと跳んでスカートみたいなズボンに張り付いた。

「なあ姉ちゃん。そのグラトニースライムは無害だからくっ付けとけば良いぞ、俺もソラーレを肩に乗せてるしよ」

「え? グラトニースライム? …………ほ、本当だ……悪さしてるんじゃないのね? よく見ると、ぷるぷるしていて可愛いかも……名前つければいいの?」

「悪さなんかしねえよ、そんな事も知らねえのか? まあ、そうだな、そんだけ好かれてんだ、名前くらい着けてやれよ」

 姉ちゃんは変なスカートにくっつくグラトニースライムを見て、名前を考えてるんか、動きが止まった。
 俺達は馬車を停め、馬の世話を始めたら姉ちゃんが近くにやってきた。

「さっきはありがとう。名前を決めました。見た目的に『水ようかん』か『くず餅』か『蒟蒻こんにゃくゼリー』とか色々考えたの」

 何か変わった聞き慣れない響きの名前を並べ始める。

「おっ、決めたんだな。まあミズヨーカンでもクズモチーでもゼリーでも良いけどよ。良かったな」

「はい。それで感触が蒟蒻ゼリーが一番近いと思ったから、名前は『ゼリー』にしたの」

 手のひらに乗せられたゼリーって名のグラトニースライムを、笑顔でモミモミしてる。

「それでさ、こんなスライムなんているんだからここは異世界だと思うけど、私、どうすれば良いのかな?」

 どうすれば良いとか聞かれてもな。ところで異世界ってなんだ?
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