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第一章

第121話 セシウム王国へ

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 ランタンの街に到着した俺達は、門前広場にある宿を取り馬車は収納し馬を預けると、その足で冒険者ギルドに向かう。

 受け付けのハゲたおっさんに手紙を渡し、受け取りの書名をギルマスにもらおうとしたんだが、そのおっさんがギルマスだったようだ。

「うむ、確かに預かった。用件はそれだけか?」

「いや、こっちの姉ちゃんの冒険者登録だな」

「……そう……でした! 私もついに冒険者ですよ! よろしくお願いいたします!」

 街について魔法の練習を止めた後、友達の事を思いだしたんか、どんよりしていたんだが、冒険者登録が嬉しかったんか、また調子が上がったようだ。

 うつ向いていた顔がゆっくり上がると、ビシッと手を上げそのままカウンターで頭を打ちそうなほど頭を下げた。

 ゴン――当たったようだ。

「ふぐあっ! 痛いーっ!」

「おいおいなんだよこの嬢ちゃんは……大丈夫か?」

「はい! この程度何ともないであります! 登録よろしくお願いしますっす!」

 喋り方が変だし大丈夫じゃねえように思えて仕方ねえぞ。

 カウンター奥ではギルドの職員達も心配そうな顔で見てくる。
 今ギルドにいる冒険者達も、振り返ってまで見てきたほど大きな声だった。

 心配した顔だったギルマスも、キラキラした目で見つめてくる様子にあきれ顔になり、かかわり合いになりたくねえって顔で姉ちゃんの登録を済ませ、仮でパーティーも組んでおいてもらった。

 変な空気ができたギルドを出て、門前広場にあり冒険者ギルドがやってる雑貨屋に入る。
 姉ちゃんの装備を揃える予定なんだが、金はもちろん持ってねえから俺が立て替えて、初心者用の胸当てと、本当かどうか分かんねえが使えるってんで槍を買っておいた。

 雑貨屋を出て、向かいにある宿へ向かう。

「お金ありがとうございます。必ずお返ししますので、ちょっと待ってくださいね、依頼をバンバン請けて活躍しますから」

「おう、無理ない程度でな。ってかよ、よく考えたら名前を言ってなかったな。俺はケント、それにアンラ、ソラーレにフルフル。リュックにクローセだ。姉ちゃんが一人前になるまでは同じパーティーだ。よろしくな」

「アンラだよ~、気軽に頑張ってね~」

「そう言えば! 私は御神みかみ ゆうです。ケントくん、アンラちゃん、それからソラーレにフルフル、クローセは見えないけどよろしくね」

「ユウ姉ちゃんだな」

「ユウよろしくね~」

 宿に入り、ちと早いが晩ごはんを食べてしまうことにする。

 オークのシチューを三人前頼み、クローセとソラーレ用に、もう一人前追加して、フルフルには木の実を頼んでおいた。

 料理が届き、食事を始めると聞こえてきた話に耳を傾けることになる。

「――シウム王国で勇者召喚が行われるそうだ」
「それは私も聞いたぞ。戦争でもやる気か?」
「セシウムの国王は本気でこのシルヴァン王国を攻めるきなのかよ」

 なんか物騒なってか勇者召喚? セシウム王国で?

 俺達は三人顔を見合わせさらに耳を傾けたが、それ以上の事は聞くことはできなかった。

 食事を終えて、二階の三人部屋に入ると、三台の寝台が並んだだけの部屋だ。

 寝台に腰を下ろした俺達は、さっき下の食堂で聞いた事で考えを突き合わせる。

「今やってる依頼なんだが、方向的にセシウム王国の国境までは行く。ちと、時間がかかるが俺達と行くか、ユウ姉ちゃん一人で乗り合い馬車で向かう。の二つに一つなんだが、どうしたい?」

「フルフルに乗せていってもらえれば、行くだけなら今夜中に行って帰ってくることも出きるんじゃない?」

「ううっ、早く会いたい気持ちは強いけれど、この世界に来て、まだ一日だから一人は心細いよ~、それにこんなに可愛いフルフルに乗れないでしょ?」

 ソラーレに乗ってるフルフルを見て、そんなことを言うが、乗れるんだけどな。
 まあ、良い考えだがユウ姉ちゃんは足で掴まれっかもだがよ。

 ってか、そうか、来たばっかで一人は心細いか。

「なあフルフル、まだ俺達と居てくれんなら、頼めねえか?」

 指先で、フルフルをサワサワと撫でると、『ピッ』と一声。

『まだしばらくいるから構わないそうですよ。それに、フルフルでしたら馬も一緒に飛んでもらい、国境の街から戻ってくる形で手紙を渡しても良いのでは?』

 クロセルがフルフルの言葉を教えてくれた。

 確かに配る順番は無いから、馬も連れて行ってもらえんなら、それでも問題は無い。

 それなら明日の朝に街の外から飛んだ方が騒ぎも起きねえだろうし、良いかも知れねえな。

「ならよ、ユウ姉ちゃん。依頼はちと休憩して先に友達を見に行くか」

「良いわね、それならいっそのことセシウムの王都まで行っちゃえば? フルフルならそれくらいの距離なんて、あっという間だし」

「え? 良いのですか? 依頼なら期限がありますよね。……そりゃ早く会えるなら会いたいですけど」

 アンラはお酒を出して、飲み始めながらフルフルが乗ってるソラーレをひとつつきして、フルフルを撫で出した。

 先に行けると聞いたユウ姉ちゃんは申し訳なさそうに、人差し指で頬をポリポリとかきながら、そう聞いてくる。

 そしてアンラと同じようにフルフルを撫で始めた。

「よし、決まりだな、明日は早めに起きて、さっさと街を出るぞ。目的地はセシウム王国の王都。目標はユウ姉ちゃんの友達だ。今日はさっさと寝ちまうぞ」

「ほ~い。私はランタン伯爵のお屋敷から本借りてくるね~」

「は、はい。はい。ありがとうございます」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 翌朝、俺達は予定通りまだ暗い早朝に起き、朝ごはんを食べて宿を出た。

 馬車は出さずに馬を引きながら街を出て、門番のおっさんには驚かねえでくれよと言ってから、フルフルにデカくなってもらう。
 馬のお腹をくるむようにワイバーンの皮でフルフルが掴めるように、ロープを何重にもして持ち手を作り、俺達は背に、乗り込み飛び立った。

 下から『ひぃぃぃぃーっ!』と声が聞こえたが、構わず俺達は文字通りセシウム王国へ飛び立った。
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