それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

31話 ギフリードが戦うと周囲に甚大な被害が

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 興奮状態に陥っていた女性が、深く息を吸い込み目蓋まぶたを閉じると大きく息を吐き出した。
 乱れた呼吸を整える。
 初対面の相手に取り乱した姿を見せてしまった事を恥じらうようにして、腰をくねくねと動かした。

「私ったら取り乱しちゃったわね」
 顔を赤らめる。
 小声で呟かれた言葉に力強さはなく、さっきまでの威勢は何処へ行ったのか。
 毛皮をしたマフラーで口元を覆い隠した女性の視線が足元に下りる。

「情緒不安定?」
 怒っているかと思えば急に笑いだす。
 高笑いをしていたかと思えば恥ずかしそうに腰を、くねらせた女性を言葉で表現するなら、その言葉がしっくり来るだろう。
 第三者から見ると彼女の言動は訳が分からない。

「ギフリードに向けた攻撃を避けられたから、また油断を誘うつもりでいるんじゃないか?」 
 ヒビキの独り言を近くで聞き取った鬼灯が彼女の態度がコロコロと変わる理由を予測した。
 真っ赤な髪を右手でかき上げながら全身、黒ずくめのローブを纏う鬼灯がヒビキの元に歩みよりヒビキの側でしゃがみこむ。
 仰向けに横たわっているヒビキを見下ろした。

「騙し討ちをするためか。見境がないな」
 彼女には前例があったため鬼灯の言葉を、すんなりと受け入れる。
 小綺麗な女性はギフリードがブラックボールを出現させたさい、一度は剣を手放して相手が警戒を解くように無抵抗な態度をとった。
 実際に武器から手を離すと剣を地面に落とし、攻撃の意思が無いことを周囲を取り囲む者達に示した。
 彼女の行動は、周囲を取り囲み傍観している冒険者や街の住人を騙す事が出来たのかもしれない。
 路面の一部を血の海にした恐ろしい女性がギフリードの圧倒的な強さを見て、戦う意志を失ったのだと思った者もいるだろう。

 鬼灯の予測は見事に当たっていた。
 女性はギフリードの背後にある剣を、どのようにして取り戻そうか考えていた。
 武器の柄頭を蹴り、ギフリードに向け剣を飛ばしたのは自分自身。
 後先の事を考えずに武器を離したことを後悔していた。
 まさか飛ばした剣を避けられるとは思ってもいなかったから、女性は予備の武器を準備していなかった。
 素手で暗黒騎士の隊長であるギフリードに襲いかかって勝てるのか。

 勝負は五分五分だ。
 ギフリードの油断を誘って攻撃を仕掛ければ、かわされる確率は極端に低くなる。
 頭を働かせて、剣を取り戻す方法を考えていた女性の耳にヒビキと鬼灯の声は届いていた。

「そこの二人、聞こえてるわよ」
 取り乱した姿を人に見せ、恥ずかしがっていたはずの女性は地獄耳だった。
 離れた位置で会話をしていた鬼灯とヒビキを指差し淡々とした口調で言い放つ。

「見境がないのは君の方でしょう。気絶した振りをしていたんだから」
 真っ直ぐヒビキを指差した女性は、ムッとした表情を浮かべていた。
 眉をつり上げる女性は目力が強くなったように思える。
 口をへの字形に結び興奮状態に陥っていた。

「やっぱり、情緒不安定なだけかもしんねぇ」
 肩で息をする女性を眺めながら、眉間にシワを寄せた鬼灯が小さな声で呟く。

「俺も、そう思う」
 今にも襲いかかってきそうな女性を眺めていたヒビキが鬼灯の言葉に同意した。

「失礼ねぇ」
 女性が呟くのと唐突に走り出したのは、ほぼ同時だったように思える。
 攻撃の対象はヒビキ達ではなく、無数のブラックボールを出現させているギフリードに向けられた。
 コロッと態度を変えた女性に、冒険者や街の住人は大きく肩を揺らし動揺する。
 故にギフリードも街の住人と同様に油断している事を前提にしての行動だった。

 瞬く間に周囲が騒がしくなる。

 傍観していた冒険者や街の住人が戸惑う中、走り出した女性に真っ先に気づいたのはギフリードだった。
 無抵抗を装った女性の態度に騙される事なく、すぐさま人差し指を振り下ろすと攻撃開始の合図が出され、無数のブラックボールが急降下を始める。

 女性の思わくは見事に外れてしまった。

 走る女性に目掛けて無数のブラックボールが降り注ぐ。
 右へ左へ時には空中に飛び上がり宙返りを行いながら女性は闇魔法を避けていた。
 一発でも攻撃を受けたら、その瞬間に体が溶け醜い姿を晒すことになる。
 ブラックボールの直撃を受けた葉が茶色に変色して、枝がふにゃりと垂れ下がった街路樹がブラックボールの威力を物語っていた。

 顔に目掛けて降り注ぐ闇属性の攻撃魔法を避けると、女性は地面を蹴りつけて一気に移動速度を上げる。
 ギフリードのすぐ目の前に迫ると、二本の指を薄い赤色の瞳に向かって突き出した。
 狙いはギフリードの視界を奪うこと。
 女性の移動速度は980レベルのトロールと同様、視界から一瞬にして消えるほど速かった。
 女性の姿を見失って辺りを見渡している冒険者もいる。
 二本の指が目の前に迫るまで、全く身動きを取らなかったギフリードに対して勝ったと勝利を確信した女性がほくそ笑む。
 しかし、眼球に突き刺さる寸前に表情を変えることなく一歩足を引いたギフリードによって目潰し攻撃は、あっさりとかわされた。
 かわしただけでは無く、ギフリードが剣を女性の腰に目掛けて水平に振り切った。

 敏捷性を高める魔法を使ったギフリードの攻撃は女性の胴体を真っ二つにしたかのように思えた。
 きっと、女性の胴体が真っ二つに分かれ血しぶきが飛びちると、傍観を決め込んでいた住人の誰もが思っただろう。
 腕を前方に伸ばしたまま前のめりになった女性の姿勢が崩れる。
 側方に腕を伸ばしたまま手のひらを地面につき勢いのままに左足、右足と地面から離して体を回転させると振り切られた剣を、すれすれでかわす。
 瞬きをしている間に行われた行動を目で追うことが出来ず、ギフリードの剣が空振りした事実だけを見た冒険者達が、あんぐりと口を開いた。

 ギフリードの背後に着地した女性が慌てて後方に大きく飛び退くと、目の前をブラックボールが通過する。
 仰向けに横たわるヒビキの、すぐ隣に着地をした女性が降り注ぐブラックボールを次々と避ける。
 女性に目掛けて落ちるブラックボールは近くにいたヒビキ達も巻き添えにした。

「ちょっ、わっ!」
 いきなり巻き添えを受けたヒビキが声を上げる。
 ごろんと右へ転がり魔法攻撃を避け。
 次は左へごろんごろんと転がると両手、両ひざを付き慌てて立ち上がる。
 鬼灯はフードを被り直しながら、指先でヒビキにフードを被れと指示を出した。
 降り注ぐブラックボールを避けながらフードを被り直すと、すぐに幻術魔法が解けた。
 角が消え尖っていた耳が元の形に戻る。

 無数のブラックボールが降り注ぐ街路を中心にして、通行人や冒険者達が周囲を取り囲んでいた。
 巻き込まれないように少し離れた位置から争いを傍観ぼうかんしており、子供達はギフリードの応援に勤しんでいた。

 斜め上の方向から一直線に落ちるブラックボールを跳びはねる事により避けると、ヒビキの間下で路面に激突したブラックボールが破裂する。
 破裂の衝撃で路面の一部を砕いた。
 破片がヒビキの頬すれすれを通過する。
 見物をしていた子供達が、あんぐりと口を開き穴の空いた部分を凝視した。

「かぁちゃん、見て! 地面が砕けたよ。攻撃を避けた兄ちゃんも、すっげぇ。けど、暗黒騎士のギフリードが一番かっけぇ」
 大勢の子供達が、ぽかーんと口を開いているけど中には目を輝かせて母親のお尻をパシパシと叩く子供もいる。
 興奮して口数が多くなった我が子の背中を母親が手加減をしながら叩く。

「言葉遣いが悪いと、お母さん何時も言ってるでしょう。すっげぇではなくて凄いと言いなさい。かっけぇではなくてカッコいいでしょう!」
 はしゃぐ子供をしかりつける。

「俺もあんな風に無数のブラックボールを作りたいな!」
 しかし、母親の忠告を子供は聞いちゃいない。
 キラキラと目を輝かせる子供が一心にギフリードを見つめている。

「俺もギフリードのように悪者を退治したい!」
 何度も跳び跳ねながら子供が大声で叫ぶ。

「何て事を言うの、この子は!」
 ギフリードと戦っている小綺麗な身形をした女性を指差して、悪者扱いをした子供の口を母親が慌てて両手で塞ぐ。

 先程から駿足しゅんそくを見せる小綺麗な女性が、いつ外野にいる自分達に攻撃を仕掛けてくるか分からない状況の中で、小綺麗な女性が気分を害すようなことを言い放った子供を母親はしかりつける。
 母親の顔は真っ青である。
 しかし、子供は母親の怒る理由が分からない。
 母親の手を強引に引き剥がすと頬を膨らまし唇を尖らせる。
 膨れっ面をする子供は母親の気持ちも考えず、目蓋を閉じると勢いよく顔を背けた。

 口を開けば可愛いげのない子供だけど見た目は中性的。
 神秘的な雰囲気を持つ子供であり、とても整った顔立ちをしている。
 金色の髪の毛に長い銀色の睫毛が印象的。
 種族は魔族とは違う何かであり妖精や人間とも違う。
 薄い黄色の瞳をした子供に抵抗され反抗的な態度をとられている女性もまた、白を基調とした少し青みがかった髪色の似合う美女だった。
 種族は魔族とは違う何かであり妖精や人間とも違う。
 腰まである長いストレートの髪の毛が、ふわりと広がりを見せると突然、女性の体が大きくのけ反った。
 我が子をしっかりと両腕で抱きしめて、力なくその場に座り込んだ女性は目を見開き大きく口を開いている。
 呼吸をする事を忘れてしまう程の激痛が身体中を駆け巡った。

 子供が言った言葉はギフリードと敵対してた女性の耳に、しっかりと届いていた。
 目蓋を閉じて寂しそうな笑みを浮かべた女性を沢山の冒険者が取り囲む。
 母親は我が子が腕の中で微かに身動きをとった事を喜んでいた。
 我が子が成長していく姿を見ることが楽しくて、毎日が幸せだったから。
 我が子に向けて投げつけられた巨大な剣が視界に入った時は、迷わず子供と自分の位置を入れ換えた。
 剣の刀身が女性の体を貫通したけれど剣は女性が抱きしめる子供の腹部に刺さる寸前で止まったため子供は無傷ですむ。
 母親の腕の中で子供は何が起こったのか分からず、きょとんとした表情を浮かべていた。

「治せそうか?」
 魔術師が問い掛ける。

「剣が貫通しちゃってるから私には無理よ」
「出血が多いから俺にも無理だ」
「血を止めなきゃ」
「でも、どうやって」
「刀身の幅は鎖骨から、おへその下まであるのよ」
「引き抜いたら血が吹き出すけど、だからと言ってこのままにも出来ないだろう」
 魔術師達が戸惑いや不安を抱く中で、幼い子供を持つ母親の顔からは血の気が引き、だらんと腕を垂らした女性の体が大きく傾いた。
 母親の体が、どさっと音を立てて倒れた事で初めて腕の中で守られていた子供が現在の状況に気づく。

 母親の体が倒れたことにより眺望ちょうぼうが開け、憤怒ふんぬの形相を浮かべる女性が視界に入り込む。
 状況を理解した子供が、わなわなと体を振るわせる。
 巨大な剣の刀身が母親の体を貫通しており、横たわる華奢きゃしゃな体を激しく揺すり母親を呼ぶ。
 悲痛な叫び声が上がる。子供の成長する姿を見たかった。
 将来はどのような職業に付き誰と結婚をするのか。
 我が子がどのような人生を歩むのか、母親として見守りたかった。
 しかし、母親は未練を残したままの状態で我が子の呼び掛けに答えることなく息絶えてしまう。



 子供の言葉に激怒していた女性が我に返り、目の前に迫ったブラックボールを避けるため後方に大きく飛び退こうとした。
 深く屈んだ女性の動きを先読みした鬼灯が女性の後方に業火の炎を出現させる。
 業火の炎を避けるため、咄嗟に横へ飛び退いた女性めがけてヒビキが赤い炎に包まれた剣を振り下ろす。
 後方に飛び退いた女性に攻撃を避けられると、ヒビキは素早く急降下してきたブラックボールを剣で弾き飛ばす。
 ヒビキによって急遽、軌道を変えたブラックボールは女性の腹部に命中した。
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