169 / 210
第9章
第150話
しおりを挟む「…か!陛下!」
「…ぁ、フロストか。どうしたの?」
「とても魘されていました…。大丈夫ですか?」
明朝、ベットのそばでフロストは心配そうにテオスの様子を伺った。テオスは大量の汗を流し、顔色も優れない。
「随分昔の夢を…もう、15年近く前だね。」
「あの時の事が?」
「…そうだね、でも大丈夫。先生の夢は僕が必ず。」
テオスは虚ろな目で呟きながら、首から下げていたロザリオを握りしめた。
「とりあえず 鎖の事は わし知らん」
「じゃあなんでヨシノさんを…」
「この国の 陛下について 話させる」
じいさんの言葉に、ヨシノは少し悲しそうな表情で俯いた。
「あの、無理に話さなくても…」
「いや、うちしか知らん話だから構わんぜよ。この国の皇帝…テオスは昔、うちと同じ捨て子だった。」
ヨシノが語った話は、残酷で悲しい1人の少年の話だったー。
15年程前、エスト皇国のある村に小さな孤児院があった。
孤児院は村の教会に併設されていたもので、そこにはテオス・フローリア・カナ・フロスト・ルーク・スナッチ・ヨシノと、現皇帝と八将神のメンバーが数人いた。
そして孤児院の子供達の世話は、教会の若い唯一のシスター・アリエスが担当していた。子供達は面倒見のいいアリエスが大好きで、アリエスもまた、元気で優しい子供達を愛していた。
「先生!見てーお花!」
「本当、キレイね!」
「ヨシノとスナッチも見つけたんだよね!」
「わ、私は別に…」
「うちのはその黄色いのぜよ。」
「3人ともありがとう。」
カナ達は花を見つけてはアリエスに渡し、スナッチとヨシノは礼を言われて頰を赤らめた。
「あ、テオス!」
「あら、おかえりなさい。」
カナの視線の先には、釣竿を持ったテオスと沢山の魚が入ったカゴを持つフローリア、その後ろにフロストとルークもいた。
フローリアはカゴをアリエスに渡し、3人を前に出した。
「みんなが釣ってくれたんですよ。」
「ぼ、僕はそんなに…!」
「私もテオスさんの作った釣竿がなければ、殆ど釣れませんでした。」
「テオス君、ありがとね。」
「僕は、何も。それよりせっかく釣った魚をダメにしないでくださいね?」
テオスの言葉に、アリエスは顔を真っ赤にした。
「そ、そんな事ないわよ?!最近は私もー」
「昨日のスープ、野菜に火があまり通っていませんでしたよ。」
「うそ?!お、おかしいわね…。」
「先生、私が手伝いますよ。」
フローリアは苦笑しながらアリエスの手をとり、教会へと歩いて行った。
みんなが帰っていく中、テオスはその後ろ姿を見て自然と頰が緩んだ。自分と姉のフローリアは親に捨てられたが、この孤児院に来てむしろ良かったと思っていた。前の家では、毎日暴力をふるわれ、姉と一緒に毎晩寝る前に涙を流した。だがら、この特別なことなど何もない、されど暖かいこの日常をテオスは大切にしていた。
そんな孤児院を、村の住人達も気にかけ畑で採れた野菜などを分けたりしていた。村は、平和だった。
ある日、みんなで川遊びに出かけた時だった。アリエスは木陰でみんなを見守り、テオスも座って足を拭いていた。
「ねぇ、テオス君はなんで色んなものを作るの?趣味とか?」
「えっと…姉と僕はあまりいい環境で育たなくて、少しでもそんな状況を変えようと思ったのがきっかけですかね。昔から得意なんです。先生は、なんで孤児院を?」
「私も、小さい頃は別の孤児院にいてすごい寂しい思いをしたの。だから、もう私みたいな人が増えて欲しくないし守ってあげたいから、かな。」
「そうだったんですね…。」
辛い表情をするテオスの頭を、アリエスは優しく撫でた。
「でもね、みんなとこうやって過ごせて今はすごく嬉しいの。テオス君も、ありがとね。」
目の前でニコッと微笑まれ、テオスは自分の方が熱くなるのを感じた。
「そ、そんな事ないです…。」
「ふふっ、あなたもたまにはわがままを言っていいのよ?」
「僕は別にー」
「せんせーい!」
声のした方に視線を向けると、ヨシノが大きなカエルを捕まえて掲げていた。可愛い見た目に反して、かなり大胆なその行動に、2人は思わず笑ってしまった。
「さぁ、今日はもう帰りましょうか。」
「そうですね。」
2人も川へと向かい、みんなを連れて孤児院に帰った。
だが、そんな平和な日々は突如終わりを告げる事となる。
「先生、こんな所にキレイなお花です!」
「そうね、でももう直ぐ暗くなるから早く帰りましょう。神様に怒られちゃうわよ?」
「わかりましたっ!」
その日の夜、教会のそばの物置小屋に咲く花を見て喜ぶカナを、アリエスは微笑みながら孤児院に連れて帰った。
「先生、今日の夜はお祈りするんですか?」
孤児院で、テオスはカナを部屋へと連れて帰り、アリエスに尋ねた。
「今日の夜は、村の集会に呼ばれてるの。だから今日はなしね。」
「この前あったばかりなのにまたですか?それなら僕も行きます。先生1人だと、心配です。」
「なんでも、話しておきたい事があるらしいの。お願いしたいところだけど、テオス君はまだ子供だから…。」
「それなら、私が行きますよ。」
「そうね、じゃあお願いしようかな!ごめんねフローリアちゃん、すぐに終わると思うから。」
「大丈夫ですよ。」
会話を聞いていたフローリアが名乗り出て、その話は終わった。
テオスは少し残念な気がしたが、フローリアになだめられ布団で眠りについた。
「……あれ?」
真夜中、テオスはトイレに行きたくなり目が覚め、ある異変に気がついた。同じ部屋にいるはずの姉の姿が、どこにも見当たらないのだ。
足音を立てないように孤児院の中を探しまわったが、姉の姿はどこにもない。それどころか、アリエスもいなかった。
「テオスさん?」
「あ、ごめんね。起こしちゃったかな?」
廊下をひっそり歩いていると、背後にフロストと眠そうなジークがいた。
「どうかしましたか?」
「姉さんと先生がいないんだ。」
「確か集会があったんでしたよね?」
「でも、もうこんな時間だし…。」
3人はその後も院の中を探したが、一向に2人は見つからない。
だが途中で院の廊下から、外の物置小屋に明かりがついているのが見えた。いつもならあそこは夜の間、消灯されているはずだ。
「あそこかな。」
眠そうだったジークを寝かせ、テオスとフロストは物置小屋へと向かった。
「なぜ、このような時間に…。」
「わからない…。」
小屋に近づくにつれ、テオスは何か悪い予感がした。それがなんなのかはわからなかったが、それはテオスの心の中にジワジワと広がっていく。
小屋の扉に近づき、2人は耳をすませて中の音を聞いた。何人かの声がする。
「テオスさん…。」
「………。」
心配そうなフロストをよそに、テオスはゆっくりと扉を開けた。
そして、中の光景を見て愕然とした。
アリエスとフローリアは、村の男達に拘束され蹂躙されていた。
2人とも目に光を失い、抵抗する気力も失いかけている。
「な、なんで…。」
フロストが信じられないといった表情で尻餅をつく隣で、テオスは目の前の光景に己の中の何かが広がっていく感じがした。
それは、今までの思い出を闇のように浸食して壊し、テオスの心を黒く染めていった。
「おい、ガキがきてるぞ!」
「ちっ、邪魔しやがって…いつも世話かけてやってんだからこんくらい見逃せよな。」
「テオスさん…!」
男の1人が近づいてくる中、テオスは無意識に体が動き、側にあった鍬を手に取った。
そして無心で走り出し、男の頭に鍬を突き刺した。
「ぐぎゃぁぁぁぁあああ!」
のたうちまわる男に鍬を何度も振り下ろし、絶命してもそれをやめることをしなかった。周りの男達はその光景に怯み固まっていたが、すぐにテオスを取り押さえようとした。
だが、テオスは鍬を振り回して男達の息の根を確実にとめていった。
あとでフロストに聞いた話だが、男達を殺している時のテオスは、嗤っていたー。
ものの数分で小屋の中は血の海となり、立っているのはテオスだけになっていた。そしてテオスも、返り血で全身が真っ赤になっている。
「先生、姉さん…。」
だが、すぐに我に返って2人のもとに駆け寄った。2人の首には手で締められたような跡があり、フローリアはまだ呼吸が安定していたが、アリエスは意識を失いかけていた。
「テ、オス君…。」
「先生…!」
「…ごめんな、さい…あなた達を、守ってあげられなかった…」
「違います、僕が…僕があの時止めていれば…!」
「…泣かないで…あなたは、悪くないわ…私のお祈りが、たりなかったのかもね…」
アリエスは涙を流しながら小さく笑い、震える手でテオスにロザリオを渡した。
「…あなたなら…この国を少しでも良くできるわ……だから、お願い……ね…。」
「先生……」
アリエスは眠りにつき、テオスは声を殺して泣いた。
小屋のそばに咲いていた花は、踏みにじられていた。
アリエスは亡くなり、フローリアも事件のショックで憔悴しすぐに亡くなった。
事件は闇に葬られ、村から人はいなくなったというー。
14
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※2025年2月中旬にアルファポリス様より第四巻が刊行予定です
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる