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第9章
第158話
しおりを挟む城まで行くと、すでに戦士達は殆どいなくなっていた。城前で、ロゼッタと紅葉が疲れたのか座りながら言い合いをしている。
そして上を見上げると、城の最上階の窓からテオスが下を見下ろしていた。目が合ったと思ったら、嬉しそうに笑っている。
「マスター、あとでご褒美を…。」
「何を言ってるんだ。それは妾のー」
「2人ともお疲れ様。」
2人に礼をし、すぐに最上階まで飛んで窓を突き破った。中にいたテオスは驚く様子もなく、笑顔で俺を見ている。
「副団長君、だったかな?随分手荒な訪問だね。」
「お前…何がしたいんだよ。クソ野郎でも皇帝だろ?」
「あはは、初めて話してクソ野郎呼ばわりか…。どうやら、君が王国で1番強いみたいだね。」
テオスは空笑をしながら、近くにあった机からメスを取り出した。それを自分の腕に当て傷をつけると、斬った所から緑色の血が出てきた。いつからこいつはナメック星人になったんだ。いや、あれは紫色だったか。
「素晴らしいだろ?君の大陸にいた神の魔力を取り込んだんだよ…。八将神は体の魔水槽に魔力を貯めただけだけど、僕は血液の代わりに魔力を入れた。結果、僕は神になったんだよ!」
かなり狂った事を言っているが、確かにテオスから感じる魔力は凄まじいものだった。
「どうやってスズリ様のクローンを作った?」
「簡単だよ、爆発で飛び散った細胞片を回収してこの国で培養しただけさ。機械だけじゃ複製は無理だったけど、魔法があるからね。僕の実験は大成功だよ。」
「でも複製も八将神もほとんど壊滅状態だ。それと、フローリアは死んだんじゃないのか?」
「あぁ…姉さんは、僕が手術を終えてすぐに蘇生魔法を試したんだ。ただ、僕の魔法が不完全なのか完全には蘇生できなかった…あれは、失敗例だね。」
「…ゲス野郎だな…。本当にお前何がしたいんだよ。」
テオスはメスをしまい、近くの椅子に深く腰掛け窓の外を見た。
その横顔は、国の破壊を企んでいる者の顔とは思えないくらい寂しいような表情をしている。
「…新しい何かを生み出すには、どうすればいいと思う?」
「は?」
「従来からある悪しき物を修繕するのもいいが…それでは失敗するケースが多い。それなら、1度全て無くして新しい善き物から始めればいい。」
「まさか…本当にこの国を終わらせる気か?」
「そうだよ。八将神が全滅しようが、神1人でもそれくらいなら出来る。先生を奪ったこの国を壊して、僕は新しい種族の国を作る。」
「それがお前の目的か…。」
テオスは立ち上がると、コートを脱いで動きやすそうな格好になった。
「君達を招待したのは、僕の力がどれほどなのか試したかっただけさ。研究者として自らの体を使って実験するのも、たまには必要だからね。」
「あっそ…。」
「それと最後に質問なんだが、僕はもう10回ほど記憶消滅を使ったはずだけど…君はなぜ僕の事を覚えているんだい?覚えているフリかな?」
「俺に魔法は効かねぇからな。」
俺の言葉に、テオスはいたずらっ子のように笑った。
「面白いね、なら神の魔法はどうかな?」
「さぁな。」
それを区切りに、王城で激しい戦闘が始まった。
テオスの拳を受け止め、そのまま力を入れて右手の骨を砕く。かなり荒い戦い方かもしれないが、そんな事を気にしている場合ではない。
「ぐっ……!なかなかやるね。」
テオスは一瞬顔をしかめたが、口から火をはいて俺から距離をとった。
「これはどうかな?」
テオスが消えたと思ったら、いつのまにか俺の体に何本もの鎖がまかれていた。俺がずっと、製作者を探していた物だ。
「やっぱりお前のか…。」
「それは魔力を吸収する鉱石が埋め込まれていてる。君のような人族なら、すぐに魔力切れにー」
「魔力切れが、なんだって?」
鎖を引きちぎって投げ捨てると、テオスは少し目を見開いただけで口元を緩ませた。
「君は…姉さんから聞いてたけど、本当に面白いね。どうだい、僕と一緒に神の境地にー」
くだらない事を言っているテオスの背後に転移し、背中に回し蹴りを入れる。
テオスは顔面から壁に突っ込み、城が少し揺れた。
「そんなもん興味ねぇよ。ほら、早く立てよ。人族を実験台にするんじゃなかったのか?神もどき野郎。」
「あはは…少し、本気を出さないとね。」
テオスがそう言うと、辺りに魔力の嵐が吹き荒れた。
「がっ…!」
アルガリスの突き出した拳により、ヨシノの体はくの字に曲がって建物に弾き飛ばされた。
ヨシノは口から血の塊を吐き出し、その場でむせた。
「ごほっ…はぁ……はぁ………ぐっ…!」
なんとか痛みを我慢して立ち上がり、ゆっくり歩いてくるアルガリスを見据えた。もう何度も呼びかけたが、アルガリスは一向に目を醒まさない。
血を垂れ流すヨシノに、アルガリスは手を向け魔法陣を出現させた。
しかし、流石にもう終わりかと思った瞬間、空から青い龍の羽を持った男が降ってきて、アルガリスに力任せの踵落としを炸裂させた。
アルガリスは反応もできずに蹴りをくらい、地面に叩き落とされて気絶した。
その姿はまるで、勇ましい青龍を具現化したようなものだった。
「だ、誰だ…?」
「主人殿ほど回復魔法は得意ではないが…。」
ポカンとするヨシノに、スサノオは『龍神水』を一滴垂らした。すると、ヨシノの傷が瞬時に回復していった。
「遅れてすまなかった。大丈夫か?」
「は、はい…。あっ。」
スサノオの手を取りヨシノはゆっくり立ち上がったが、血が足りていないのか足元がふらつきスサノオの胸に抱きつく形になってしまった。
スサノオの厚く男らしい胸筋に、ヨシノは己の顔が熱くなるのを感じた。
「大丈夫じゃなさそうだな…。ん?」
スサノオの視線の先には、まだ生き残っている戦士たちがいた。
「ここに放っておくわけにもいかないな…。」
「え…?うひゃぁっ?!」
ヨシノは突然のお姫様抱っこに変な声を出し、スサノオの首にしがみついた。
「お、降ろせ!うちこんな事された事ないぜよ!」
「安心しろ、初めてを頂戴したからには責任を取る。」
「な、な、何をいっとるのだ貴様ー!いやあぁぁ…」
顔を真っ赤にして暴れるヨシノを無視して、スサノオは上空に飛び立ち避難区の遊郭へとヨシノを連れていった。
「『影潜り』」
慣れてないであろう魔法をあしらっていたら、テオスが影の中へと消えた。
『さぁ、僕を探せるかな?』
楽しそうな声が、部屋のいたるところにある影から反響して聞こえる。
「お前は知らないかもしれないけど、姿を消そうが影に潜ろうが相手の魔力は気持ち悪いくらいに感じる。でも…」
俺はあえてテオスを探さず、両手に魔力を込めて床に手をついた。イメージは、海賊王の兄にして革命軍のNo.2。
「『赤龍王の旋回撃』」
『何を?!』
テオスの驚く声がする中、俺を中心に部屋の床に螺旋状の炎が駆け巡った。
そして大きな轟音と共に、城は簡単に崩れていった。
城が崩れる中、飛びながらテオスを探した。あらゆる影の中を移っているようで、なかなか出でこない。
「早くしろよ…。」
苛つきながら口を開くと、崩れる瓦礫の影からテオスが魔剣を突きながら飛び出してきた。
「…すごいな君は。」
「バレバレだよ。」
剣を手で弾いて空中で腕を掴み、下へと投げ飛ばす。投げ飛ばされたテオスは空中で止まり、魔弾を放ちながら俺の方へと飛んできた。
魔弾を食らいつつも、俺は両手をテオスに向けた。
「『妖精王の怒号』」
「『雷神の盾』…がはっ!?」
テオスの雷の盾を突き破り、虹色の光線はテオスを底へと突き落としていく。城の床を何段も突き破り、テオスは地に堕ちた。
「そろそろ終わりか…。」
城が崩れゆく中、俺はテオスの落ちていった方へと降下していった。
城の地下のような部屋で、テオスは座って自分が貫通してきた穴を眺めていた。
「君は…僕の想像を簡単に超えていく…。時間があったら、君を研究したいくらいだよ。」
「…そうか。」
テオスは傷を治して、笑いながら立ち上がった。その執着心を、何か別の事に活かして欲しいくらいだ。
「そろそろ諦めろよ。」
「嫌…かな。神と等しき力を手に入れたのに、人間ごときに命令されたくはないね。」
「へぇ。『制限解除』」
部屋に大きな結界を張り、久しぶりに自分にかけている制限を解除した。結界の中に嵐のような魔力の風が吹き荒れる。
「これは…あはは!君は本当に僕の可能性をどこまでも伸ばしてくれる存在のようだ!」
「あっそ。」
喜び打ち震えるテオスの眼前に転移し、デコを指で弾いた。常人なら頭が粉々に吹っ飛んでいてもおかしくないが、神もどきはそのまま結界の壁に激突した。
「…あはは…かなり効くねぇ…。」
テオスは緑色の鼻血を垂らしながら、手を異形化させて飛んできた。俺も姿を『龍王』に変え、龍の脚で拳を蹴り飛ばす。
テオスの拳は綺麗に弾け、あたりに緑色の液体が飛び散った。
「ぐがぁぁぁあああ!ふふ…あははは!いいよ、神でも痛みは感じるんだね!」
「くだらない。」
痛みに酔いしれるテオスに、口から炎をはいた。辺りは火の海になったが、テオスはそれを全て凍らせる。
「ここからは僕もどうなるかわからないよ…。」
テオスは魔法袋から、注射が10本ほど束ねられたような器具を取り出した。中は緑色の液体で満たされている。
俺が動くよりも早くテオスはそれを腕に刺し、全ての液体を注入していった。
「げほっ…」
液体を入れ終えると、テオスの顔色は明らかに悪くなりその場で胃液をぶちまけた。だがそれと同時に、テオスから感じる魔力は今までと比べ物にならないくらいに膨れ上がっていく。
「何をした…?」
「神の本気を、見せてあげよう。」
テオスは口元をぬぐい、嬉しそうに嗤った。
フローリアは、砂浜で海を眺めて1人立ち尽くしていた。側には、自身が王国に設置した爆弾が入った袋が置かれている。
そしてその全ては解除されておらず、テオスがスイッチを押せば、すぐにでも爆発する状態だった。
「…ごめんなさい。」
フローリアは小さな声で謝罪し、涙をこぼした。
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