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第10章
第170話
しおりを挟む街から離れ、俺たちは森の東側にいた。
「すげぇ…。」
「エルフの森は、世界で最も美しい森と言われていますよ。」
太陽の木漏れ日が林床を照らし、とても澄んだ空気で森は満ちていた。殆どの木の幹はギガンテス族の腕よりも太く、視線を上げればエルフの家がいくつか見受けられる。ここに住むのはなかなか気持ち良さそうだ。
「でも情報が少なすぎて…森にいるんですかね?」
「ここが身を隠すには1番良いと思うのですが…」
フリーエルと話しながら、森を歩いている時だった。
突然、どこかに何かの気配を感じて俺は辺りを見回した。何も来ていないのだが…というよりは、周りに誰の気配もなさすぎて逆におかしい空気を感じる。
フリエールと護衛の男は気づいていないようだが、俺はそのまま立ち止まって警戒を続けた。
「どうかされましたか?」
「何か…いや、気のせいか…?」
そう呟いた瞬間、森の影が伸びて護衛の男に巻きついた。影は男の体だけでなく、口から入っていき中からも侵食していく。
「こ、これは…?!」
「離れて!」
男を助けようとしていたフリーエルの手首を掴み、ひとまず木の陰に転移した。
「レイ様?!あれは一体…」
「わかりません…でも魔力を感じないから、魔法じゃないのかも…。」
影がおさまると、男の体に黒い刺青のような模様が浮かび上がった。
そして男は辺りを見回し、すっと手を前に出した。
「まさか…!」
俺が転移するよりも早く、男は魔法を目の前に向かって放った。魔法陣から黒い魔弾が放たれ、一瞬にして森の一部が黒い炎で包まれた。
「少し待っていてください!」
「あ!レイ様!?」
すぐに転移して男を水のドームに閉じ込め、酸素のない状態にする。そのまま気絶を狙ったのだが、男は地面に魔弾を放ってドームから飛び出してきた。
「それならこれで…!」
魔弾を放とうとする男よりも早く、周りの木から蔦を伸ばして拘束する。そのまま魔法で頭を揺らし、気絶させようとした時だった。
「何をしている!」
ちょうどそこに、長の息子・イグニスがエルフの部隊を連れて歩いてきた。かなり怒りのこもった眼差しを俺に向けている。
「ぐっ…!は、離してくれ!」
そして視線を元に戻すと、拘束されている護衛の黒い模様は消えて元の姿に戻っていた。
「…これは、尋問をするまでもないな。この男と隠れている女を連れて行け!」
「は?!な、なんで…!」
「これは貴様の仕業だろ!これ以上何か問題を起こそうものなら、即刻死罪にしても構わないんだぞ?」
「ぐっ…!」
言われて気付いたが、この状況を見れば俺が暴れて森を燃やし、仲間に手をかけようとしたように見える。反論しても聞いてくれるはずなどなかった。
すぐに俺とフリーエルは縄で縛られ、牢獄へと連れていかれた。
「すみません、俺のせいで…」
「森に行くのを提案したのは私ですし、何も気に病む事はありませんわ。」
俺とフリーエルは拘束され、地下の檻にぶち込まれていた。足には鎖が繋がれ、あたりは日の光もないので真っ暗だ。
逃げようと思えば簡単に逃げられるのだが、今そんな事をしても状況がより悪化するだけだった。
「それにしても、地下にこんな場所があったんですね…。」
「私も何度かこの島に来た事はありますが、ここに来たのは初めてですね…。」
俺たちの入っている以外の檻は全て空いており、2人の声しか響いていたなかった。罪を犯す者がいないのか、今は使われていないのかわからなかった。
「あ!」
「え?」
突然フリーエルが声を出したと思ったら、嬉しそうな泣きそうな顔になっていた。
「ど、どうしたんですか?」
「今、確かに感じましたわ…!間違いありません、近くにシオンがいます!」
暗い牢獄の中で、フリーエルは歓喜の声をあげた。
その頃、ダライアス王国の闘技場ではー
「どいてください!」
「うるさい鉄娘が!妾が1位になるんじゃ!」
魔導ボートのレースで、他のギルドのボートが沈んでいる中、同じギルドのはずのロゼッタと紅葉が1位をかけて争っていた。
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