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第10章

第177話

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「ばんばーん」

フローリアは両手を銃の形にして、指先から魔弾を辺りに放ちまくっていた。弾は分身たちをかき消していくが、新たな分身が次から次へと出てくる。

「めんどくさい」

フローリアは小さく呟き、体の中心に魔力を貯めた。そのまま一気にそれを熱に変えて放出すればー

「ストップ!」

「カミサマ。もう怪我は大丈夫?」

「それより…お前今この辺り全て吹き飛ばそうとしてただろ」

「効率的☆」

真顔でピースを決めるフローリアに、レイは小さなため息を漏らした。



フリーエルはシオンの手をとり、上空を飛んでいた。目の前では、ファルファラが森を破壊を続けている。

「これは…止める方法はあるんですの?」

「私はハイエルフだからね。伝承通りだったら…ファルファラと会話出来るかも」

「そ、そんな事が可能なの?!」

「やってみるわ。ファルファラの上に私を落として!」

「気をつけてね!」

フリーエルは高速で飛び、ファルファラの上空を目指した。ファルファラはそれに気がついたのか、巨大な体からは想像できない速さで逃げようとするが、天翼族のスピードからは逃げ切れない。

「行くわよ!」

「お願い!」

フリーエルは手を離し、シオンを落とした。シオンはファルファラの背中に飛び乗ると、体にしがみついて語りかけた。

「ファルファラ!聞こえる?!」

シオンの呼びかけに、ファルファラは苦しそうな声を出した。そしてシオンを振り落とそうと、上空まで飛んで回転しながら飛行した。

「ゔっ?!」

「シオン!」

強い遠心力で振り落とされたシオンを、ロゼッタが空中で綺麗にキャッチする。肩にはフェルも乗っている。

「大丈夫ですか?」

『ピャー?』

「あ、ありがとう…」

「っ!捕まってください!」

休む間も無く、空中にいた2人にファルファラは触角から光線を放った。エルフの島に被害が出ないよう、ロゼッタは高度を下げずに空中を逃げ回る。

「このままじゃ…!」

「シオン、あれ!」

いつの間にか光線が止み振り返ると、ファルファラが空中で呻き声を出しながら行動を停止させられていた。下に視線を送れば、何人ものエルフ達がファルファラに手を向け、1つの巨大な魔法陣を展開している。

「お母様!」

「シオン!今のうちに術を!」

「わかりました!」

シオンは今度はファルファラの額に降り立ち、額にそっと手を触れた。

「大丈夫…私があなたを楽にさせてあげるわね」

シオンはそう呟くと己の魔力を高め、ファルファラにゆっくりと流していった。魔力が流れていくと、シオンとファルファラは優しい緑色の光に包まれていく。

「これは…」

「…共鳴術」

シオンが短く詠唱すると、辺りは眩い光に包まれた。



「どれが本物だ…!」

先程から全員で分身を倒しているが、本体がダメージを受けていないせいか一向に分身が減る気配がない。

「手こずっているようだね」

「そこか!」

後ろから声がして背後にいたフォルカスを消すが、それも分身のようで黒い霧となっていった。分身と魔力を共有しているせいで、本体の区別がつかない。

「キリがないよー!」

「困りましたねぇ…」

エレナとジョーカーも分身を消しているが、一向に本体に辿り着いていないようだ。こうなったら破壊王子作戦しかない。

「みんな離れてくれ!」

「了解で~す♫」

エレナはフローリアの腕を掴み、ジョーカーは姫と遠くへ飛んでいく。全員が離れたところで、俺の周りに巨大な立方体の魔法障壁を張った。

「これは…?なるほど、そういう事か」

「これをやるのはガララワニもどき以来だな」

分身達は周りを見て嬉しそうにしているが、無視して体の中心に魔力を高めていく。そして詠唱前に、全身に魔力の鎧を纏った。

豪炎爆発イグナイト

魔法障壁の中で、巨大な爆発が起こり炎と風が吹き荒れた。


「さてと…」

魔法障壁を無くすと、周りには火傷を負ったフォルカスが何人もいた。ただ1人、前方に無傷のフォルカスがいた。分身は魔力が足りなかったのか、爆発に耐えられなかったらしい。
そいつが何かを唱えると、分身達は本体に重なるようにして消えていった。

「見つかってしまったね」

「さぁ…これでまともにやれるな」

「あははは…1対5とは、随分卑怯な気もするけどね」

俺の両隣にはエレナ達が戻ってきていたが、フォルカスは降参する気など微塵もないらしく、本の1ページを破った。

「変幻術」

変わった形の魔法陣が出現すると、ページは2本の刀に変わった。

「なんだよそれ…」

「エルフに伝わる術を、僕なりに改良したものだね。アルトゥル・ショーペンハウアーを知ってるかい?」

「誰だよ」

「レイ君は勉強不足ですねぇ♬哲学者の名前ですよぉ~」

「あっそ。…ちょっと待て、なんでお前がそんな事知ってー」

「彼はね、『普通人は時をつぶす事に心を用い、才能ある人間が心を用いるのは、時を利用する事である』と言ったんだよ。だから僕は、術の研究に人生を捧げていたんだ。この術もそれ故に産まれたものだね」

「はいはいわかりましたよ…誰かのパスカルを引用するのは、槙島聖護だけで充分だ」

俺も2本の魔剣を創り、フォルカスに構えた。

そして息を呑んだ次の瞬間、俺とフォルカスの剣がぶつかり、周囲に金属音が響き膨大な衝撃波が発生した。
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