Sランク冒険者の受付嬢

おすし

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綺麗な土と水に美しい花

第6話

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 家を飛び出したアクアは、行くあてもなく薄暗い街を走り続けた。もう何もかもが嫌になり、水のように蒸発して消えてしまいたくなる。
 だが流石に疲れて足が辛くなり、近くにあったベンチに倒れこんだ。そして息を落ち着かせながら、ゆっくり目を閉じた。



「どうしたの…?」  

 エルマは大きな声が気になって2人の部屋に来ると、シルヴィアがベッドに座って俯いていた。部屋に明かりは灯っておらず、彼女の瞳に光はない。
 エルマがしゃがんで彼女の顔を伺うと、シルヴィアはようやく気づいたのか、『…申し訳ありません』と小さく呟いた。

「アクアちゃんと喧嘩でもした?」

 出来るだけ優しい声で尋ねれば、シルヴィアは小さくかぶりをふった。

「…いえ、私が悪いのです。やはり私には、人の心や感情が理解出来ません。そのせいで、アクア様を怒らせてしまいました」

「そんな事ないわ」

「あります」

 頑なに否定をするシルヴィアの手に、エルマはそっと自分の手を添えた。ギュッと握られていた彼女の手から、少しだけ力が抜ける。

「でもあなた今、悲しそうな顔してるわよ?」

「私が…?」

「そうよ。とっても悲しそうで、見てるこっちが泣きそうになるわ」

 前にも似たような事を言われたが、シルヴィアは何も分からなかった。

「何故、エルマ様に私の事がわかるのですか?自分の事すら理解してない私には、他人の事など…わかりません」

「わかるわよ、同じ受付嬢だからね」

 エルマはシルヴィアの隣に腰を下ろすと、落ち着いた様子で話し始めた。

「受付嬢ってさ、『愛想がいいだけの女の集まり』って思われがちじゃない?実際私もそういう風に言われた事、何回かあったなぁ…」

 エルマは懐かしそうに語りながら、シルヴィアの制服に目を向けた。白銀の刺繍がされたそれは、彼女が受付嬢である事を証明しており、同時に彼女の存在意義のようにも受け取れる。この制服が無ければ、きっと彼女がここにいる事など無かったのだろう。

「でもね、私はそうは思わない。確かに愛想も大事だけど、本当に大事なのはもっと別の事だと思うわ」

「別の事…?」
 
「そう。依頼を受付するだけじゃなくて、依頼書の作成だったり経費処理もあるし…ギルドの掃除もあるわね。大変な仕事だけど、受付嬢はギルドに必要不可欠な、やりがいのある仕事よ」

 嬉しそうに話すエルマを見て、シルヴィアは俯いた。彼女と違い、自分のような無表情で愛想すらない者など受付嬢に相応しいのかわからなかった。
 そんなシルヴィアに気づいたのか、エルマはそっと顔を覗き込んだ。

「もしかして、自分なんか受付嬢に向いてないって思ってる?」

「…思考が読めるのですか?」

「違うわよ。言ったでしょ、受付嬢だって。毎日冒険者の人達の顔を合わせてれば、その人の感情や体調なんて察しがつくものよ。あなたもきっと、そうなる日が来るわ」

「そんな事はー」

「ある」

 エルマは俯くシルヴィアの頭をそっと撫でた。馴れ馴れしすぎない触れ方に、シルヴィアはされるがままになっている。

「ギルドマスター直々に、受付嬢を任されたんでしょ?」

「…はい」

「だったら、少しは自分に自信を持ちなさい。マスターさんもきっと、適任だと思ったからあなたに受付嬢という仕事を任せたんだと思うわ」

「…ぁ」


『君にこの仕事を薦めたのは、今の君に受付嬢という仕事はピッタリだと思ったからだ』


 エルマの言葉に、シルヴィアはハッとなりグレイに言われた事を思い出した。それは彼女が、自分がどう判断しようが、『受付嬢』はギルドの長が与えてくれた大切な仕事だという事に気付いた瞬間でもあった。
 
「私はもう少し…この仕事を続けても良いのでしょうか?」

「もちろん。ダメなんて言う人がいたら、私が代わりに怒っちゃうかも」

 エルマは自信ありげに胸を張って言ったが、シルヴィアは頭に?を浮かべて首をコテンと傾けた。

「何故私の代わりにエルマさんが怒るのですか?」

 その子供のような仕草に、エルマは思わず笑ってしまった。シルヴィアは何が起きているのか分からず、依然首を傾げたままだ。

「友達が、ましてや同じ受付嬢が馬鹿にされたら腹が立つじゃない」

「…なるほど」

 本当に納得したのか分からなかったが、エルマは一安心してリビングから小包を持ってきてシルヴィアに渡した。中には出来立てのサンドイッチが数個入れられており、少し温かい。

「これ、弟に渡してきてくれる?きっとまだ作業場にいるだろうから」

「連れて帰ってこなくてよろしいのですか?」

「いいの。多分、今日も帰ってはこないから」

「…わかりました」

 シルヴィアは小包を受け取り、エルマは薄手のコートを羽織って外出の準備をした。

「じゃあ、私はアクアちゃんを探してくるわね。帰ったら3人でご飯にしましょう」

「はい。では、また後で」

 2人は玄関を出て、それぞれ目的の人物の元へと足を向けた。
 

 

 作業場の隅で、ソイルは座って静かに目に映る風景を眺めていた。数日前までは、自分以外にも夜通し作業をしている者もいたが、薄暗い作業場にもうその姿は見受けられない。きっと復興が進み、少しずつだが誰もが家族との日常を取り戻しつつあるのだろう。
 その事実に満足しながらも、ソイルは自分の両手を眺めた。瓦礫の還土作業で酷使した手には、至る所に土がついて汚れている。

「あ…」

 だが右手の指先が突然、何の前触れもなく崩れて地面に落ちた。落ちた指は砂となって崩れ、すぐに地面の砂と混ざっていく。どの砂が自分の指のものか判断は出来なくなった。

(そろそろ限界か…)

 ソイルは天井を見上げ小さく息を吐き、ゆっくり瞳を閉じた。
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