51 / 67
逸れ者と受付嬢
第7話
しおりを挟む「何かあったら、そのお札を破るずら。そしたら現実に戻ってこれるから」
「わかりました」
ネムリから変わった模様の描かれた札を受け取り、シルヴィアはブーツだけを脱いで泉に入って行く。
だが少しした所で足を止め、クロカの方へ振り返った。
「本当に私が行ってよろしいのでしょうか?」
「…あぁ。私は無事に帰ってこれる自信ないし」
「わかりました」
シルヴィアは小さく頷き、泉の中心へと歩いていく。その後ろ姿を眺め、クロカの脳裏に過去の記憶が蘇ってきた。
あの日も確か、こんな風に彼女を見送ったはずだったー。
エルフとは、大陸に繁栄する種族の中でも珍しい部類に入る。その数は他種に比べて少なく、彼らは森の中に村を作って自給自足の生活をしているのだ。そのため、彼らが他種族と関わる事はあまりない。
彼らは純血の同種族でいる事を好む傾向が強い。しかしそんな中で、ある日エルフと人族の混血種が産まれた。それが、クロカだった。
クロカの母親は大陸中を旅する者で、旅先で出会った人族の男性と恋に落ち、クロカを産んだ。だが産まれ子の肌が黒いのを見て、2人は迷った挙句にクロカを捨てた。
クロカのような黒い肌に白髪のエルフはダークエルフと呼ばれ、災いの象徴としてエルフ達から忌み嫌われる存在なのだ。その上、クロカはエルフ以外の血が混じった混血種。捨てられる条件は完璧に揃っていた。
「あっちに逃げたぞ!」
「早く見つけて殺せ!」
薄い壁越しに聞こえる怒号を耳にして、幼いクロカは身を潜めながら震えた。捨てられてから数年経ったが、何処かで噂を聞きつけたエルフ達がクロカを消そうと躍起となっているのだ。
クロカは近くにあった小屋に身を潜め、足に刺さっている矢を見て顔をしかめた。自分は何もせず静かに生きていただけなのに、何故こんなにも酷い仕打ちを受けなければいけないのかわからない。
(もう疲れた…)
足の傷や肌を指すような冷たい空気も相まって、無意識のうちに負の感情が募っていく。
そうしてボーッとしているうちに、こちらに足音が1つ近づいてくるのを感じた。姿を確認したわけではないが、自分の所へと来ているのは何となくだが察した。
「……っ」
クロカは足に刺さった矢を引き抜き、両手で握って首元に近づけていく。誰かに乱暴に殺されるくらいなら、自分で楽になった方が何倍もマシだ。
そう思って矢をギュッと握り、喉元に矢先を突き刺そうとした時だった。
「待って!」
知らない女性の声がしたと思ったら、小屋の扉が開いて一瞬でクロカの前に走ってきた。女性の手は矢を持つクロカの手を握っており、矢先は喉仏の手前で止まっていた。
「良かった…間に合ったよぉ」
目の前で安堵の表情で話す女性を見て、クロカは混乱した。耳は尖っているおり、同じエルフである事はわかる。
女性は安心したせいか泣きそうになっていたが、矢を奪って遠くへ投げ捨てた。そしてクロカを抱きしめ、頭をそっと撫でてやる。
「怖かったね…もう大丈夫よ」
彼女が何者なのかはわからなかったが、初めて感じた温もりにクロカは静かに涙を流した。
クロカが目を覚ますと、知らない天井が目に映った。そしてもう1つ、自分の手をあの女性が握っていた。女性はベッドのそばに座り、静かに寝息をたてている。忌々しいくらいに肌が白く、クロカとは正反対の存在のようだった。
クロカはその場を逃げようと身をよじったが、そのせいで女性が目を覚ましてしまった。青い瞳に光が満ちていき、終いにはキラキラした双眼が向けられる。
「あ、起きたのね!良かったわ」
女性は嬉しそうに微笑むと、クロカにそっと手を伸ばした。だがクロカはその手を払い除け、ベッドから飛び降りて部屋の隅で威嚇の姿勢をとる。見知らぬ者に連れてこられ、何をされるかわかったものではなかった。
「……なんだ、お前」
「ご、ごめんね!私はシロナ・スノーフィリア、この村の長の娘よ」
「長の娘?そんな奴が私なんかに何の用だ」
自分とは住む世界が全く異なるシロナに、クロカは敵意を剥き出しにする。だがシロナはそれに怯む素振りは見せず、クロカに近づいてそっと手を握った。
「えっと、その…私と…と、友達になってくれない?!」
恥ずかしそうに呟くシロナを見て、クロカの眉間に深いシワが刻まれ、鋭い歯がシロナの手に突き刺さった。
13
あなたにおすすめの小説
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
モブっと異世界転生
月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。
ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。
目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。
サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。
死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?!
しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ!
*誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる