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ボリスside 小話「…そんな事もあったな?」
しおりを挟む仕事から帰ると入れ違いにドワーフが出ていく所だった。
「今日は帰りが遅かったんだな?帰ろうとした所だった。…会えてよかった。お前、少し前にお灸を据えた若い狼…覚えてるいか?」
……お灸?
「外の…虫が取れる集落の狼だ。」
…あぁ!雌の取り合いで負けたヤツ。
「そいつがどうかしたのか?」
「ライフラインの調整で集落に行った時に、お礼を言っておいてくれと頼まれた。羊追いの犬と番ったらしい。お前の言う通りに頑張ったら選んでもらえたって良い顔してたぞ。」
「…そうか。」
「それと秋のタオルの販売数が決まった。詳しくは山羊に聞いてくれ。…またな。」
「お疲れ様。」
にやりと…ご機嫌な顔で後ろ手に手を振って帰って行った。
すっかり忘れてた…そんな事もあったな。
春の始め頃、狼が捕まったんだ。
『お前が行けよ』って目配せされた。
俺はこう言う時に何故だか居合わせる事が多い。
虎が魔術で捩じ伏せると、なんかやたら拗れたりして上手くいかない事があって…ヤンチャだったりするから力技の事も多くて…そうなると単純に…熊だよな?
仕方ねぇ…行きますか。
西領に向かって街道を行くと飛地のような小さい森がいくつかあって、その森の近くに花虫の蜜を作るっている集落がある。そこの狼だった。
狼同士での番の取り合い…とりあえず話を聞こうか?
「森の中から優しい声が聞こえて…見つけたら、すげぇいい匂いがしたんだ!」
「そうか。…で?」
「他の雄の匂いはしなかった!」
「そうか。…で?」
「だから!俺のモノにしようとしたんだ!なのに!アイツ…後から来たのに!」
だいたいわかった。もう…本当に一体どこの時代の倫理観で生きているんだよ…。前半は…わかるよ。春だしな?雌がいい匂いさせてたんだよな?番たいよな?
そこまでは普通だよ…俺もそうだ。
「俺が見つけたんだ!俺のモノにしようとして何が悪いんだ!」
そこだよ…なんで無理矢理なんだよ。
これ…話したって納得しないだろ?面倒くせぇ…左拳握りしめてドガっと殴りつけてやった。
「なんだよ!いきなり!」
「お前の理屈で動いただけだろ?」
「はぁ?」
「力が強いヤツは何をしてもいいってお前が言ったんだろ?」
「言ってない!」
「言ったよ。相手の気持ちなんて考えずに自分のしたい様にしていいって。力で捩じ伏せていいって言ったんだよ。」
「………。」
よし!黙った!見込みありだ。もうひと押し。
…あそこの集落育ちなら魔素も大丈夫だろ?
…おらっ。緩衝帯に転移して魔物の前に放置してやった。
「まっ 魔獣! 助けてくれ!」
「…何故?弱い者を助けないお前を何故?
そもそも弱いヤツ雄なんて要らないだろ。」
……いや。お仕置きだからね?ちょっと反省してくれればいいのよ?ちゃんと固有結界張ってあるよ?擦り傷ひとつさせないよ?
殴られるくらいは…勉強代だと思って?
「…死にたく ない」
…漏らすなよ。汚ねえなぁ。
もう一度、部屋に転移した。
「……で?どうよ?力じゃ敵わないヤツを目の前にした感想は。お前が力尽くで手に入れようとした子も同じくらい怖かったと思うよ?自分がされたらどんな感じだった?
嫌だっただろ?怖かっただろ?自分がした事わかった?
強いなら優しくしろよ。守ってやれよ。
剣となり盾になれよ。…雌にしたら力が強いばとかりが魅力じゃねぇんだよ。それなら俺はモテモテだろ?…なんだよ?俺は強いよ?
あのな?選ぶのは雌なんだよ。
でも、雌は選ばれたいんだよ。
自分の気に入った雄にお前がいいと言われたいんだよ。だから選んでもらえる雄にお前がなればいいんだ。
お前は約束を破るヤツは好きか?
頑張った事を笑うヤツは好きか?
理不尽な力で捩じ伏せられたいか?
…そう言う父親になりたいのか?
魔獣から逃げる時間を作る雄になるんだよ。
お前があの集落を守るんだよ。…漏らしたのは内緒にしてやるから…な?帰るぞ?
集落まで転移で送った。
「こんな所まで…飛べるのかよ」って驚いてた。
…俺にも色々あるんだよ。
羊の放牧地に頭掻いてる姿が見えた…ルカの父親だ。
「爺だが、あの狼は強いぞ?…匂いでわかるだろ?連んでる奴ら集めて森から出る魔物から身を守る方法を教えてもらえ。紹介してやる。
…そこで待ってろ。」
目視出来る距離の転移なんぞチョイチョイだ。
…ひとりで下見しに来たんだろうな。
朽ちたボロ屋に浄化かけて、使った事のない修繕魔法が上手く作用しなくて頭掻いてるんだろ?……見覚えのある風景だ。
「お久しぶりです。手伝いますよ。」
「すまんな。屋敷の離れだけを転移して再構築する予定なんだが…上手くいかん。」
手伝いをしながら近くの集落のイキってヤンチャな奴らをまとめて全員魔獣から身を守れる様にして欲しいと話をした。
「構わんよ。そっちの方が得意だ。…ルカは甘やかし過ぎた。迷惑をかけるが宜しく頼む。アレは長男の様に討伐隊では役に立たない。…あそこしか居場所がないんだ。」
…そこまでじゃないと思うが。
待たせておいた狼を呼び寄せたら…走って来やがった。…若いな。
「替わりに羊の世話の仕方を教えて欲しい。
番も私も酪農は初めてなんだ。宜しく頼む。」
気さくに目尻に皺寄せた。
「よろしくお願いします」って頭を下げた顔が
覚悟の決まった雄の顔だった…いい顔だ。
…あの集落も少しはマシになるだろ。
すれ違った2匹の子犬を連れた大型犬に小さく頭を下げられた。そう言えばこの犬もこの集落だったな……頑張れ。
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