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今世はアンタがいい
しおりを挟むもう一度逢いたい。
貴方と番いたい。
だから待ってて。
最後までちゃんと生きるから。
外砦の外側の麦畑のさらに外側に羊の放牧地がある。
21年前ここには小さな集落があった。
西領の治安が悪くて、この北領に移り住んだ虎獣人達の小さな集落。
「寒いけど治安が良い」って言う噂だけを頼りに縋る思いで逃げてきた余所者の爺ちゃんたちに、北領の東側を管理していた熊が家と羊を与えてくれた。
今は…朽ちたいくつもの木の杭があるだけ。
アタシがここで暮らしてた頃…凄く強い片腕の白熊が近くに住んでて、その熊が飛び地の様にある森から時々湧く魔獣を排除してくれた。
床下のシェルターに逃げ込む事はあったけど穏やかだった。
短く鮮やかな夏の日にそれは起こった。
片腕の白熊が大量の食糧を持って集落に来て「森から絶対に出てこない魔獣の幼体の死体が放牧地で何匹も見つかった、羊は諦めろ。シェルターから決して出るな。」と、そう言葉短かに大人達に告げて足早に帰って行った。
…そう言われたけれど…父さん達は柵囲いに結界を張って放牧していた羊を集めた。夏は餌が豊富にあるから魔獣も羊は襲わない、子供達は魔獣が出たら捕縛でシェルターに強制的に入るようにしてあるから心配はないと。
兄さん達は羊の世話をする為に外に出てたけど、アタシはまだ小さくて…邪魔になるからってシェルターから出してもらえなかった。
他の家の子は庭先で遊んでるのに…。
シェルターの扉を開け放して窓の外を眺めてた。
夕暮れ、やけに静かで鳥の囀りすら聞こえなかった。
一瞬、窓の外が真っ暗になって…頭の中がキーンと鳴って…父さんの捕縛が発動して…。
錆びた鉄の匂いのする何かがシェルターの中に転がり込んで…扉が閉じた。
…アタシの足元に転がったのは…引きちぎられた兄さん達だったモノ…
命の火が消えていく…
出して!お願い!出して!
アタシを置いて行かないで!
お願い!アタシも連れて行って!
泣いても…叫んでも返事はなくて。
押しても…叩いても扉は開かなかった。
ランプをつけるのも …怖かった。
どのくらい経ったかわからないけど片腕の白熊に似た白熊が…シェルターの扉を開けてくれて外に出ることが出来た。
…集落で生き残ったのはアタシだけだった。
兵隊さん達が墓を作るのを手伝ってくれて。
残滓を頼りに…欠片を集めて…ひとつひとつ杭を立てた。
西領は墓に石を使わない。石の代わりに木の杭を使う。この杭が朽ち落ちたら…生まれ変われるって言い伝えがあるから。
…金のない奴が思いついた苦し紛れの言い訳だと大人になったらわかったんだけど…。
不思議な事に幼い子の杭が朽ちた後に似た子が産まれたり、番紋を刻めなかった2人の杭が同じ頃に朽ちたり…。言い伝えも…満更嘘って訳でもないって思えた…御伽話みたいだけど。
その後、アタシは東区の孤児院に保護された。
待遇は良かったと思う、学校にも行かせてもらえたし、家も仕事も斡旋してもらえた。人化して成人しても3年間税金は免除されたし、無利子でお金を貸してくれて…親が居なくても生きていく為の力をつける事が出来た。
アタシは強い魔力持ちが近くに居ても…魔力に酔ったり当てられたりしない質だったからホテルのラウンジで働ける事になった。
ラウンジ嬢は派手な印象だけど仕事の邪魔にならない程度の認識阻害をかけるのがルールだったし、客はパートナーを連れて来るから絡まれる事もなくて…後ろ盾のないアタシには安全で快適な職場だった。
発情期の時の相手はそれなりにいた。でも…必ずアタシより相性のいい相手が、その人にはいる。
だって…あの日アタシの唯一も逝ったから。
5つ歳上の黒虎、アタシが人化したら…番うって。
側に居たくて仕事中もずっと後ろから着いて歩いて…仕事の邪魔しても怒らない。いつも抱きしめてくれて、優しくて、いい匂いで…格好良くて…。
…秋の終わり頃。
いつもひとりで来てお茶を頼んで…ずっとアタシを見てる灰虎がいて…。
アタシを見る瞳が…深い緑に金の混ざった瞳が…
あの人に似てて…。
…あの人が…もう少し大人になったら、こんな感じかな?って思っちゃって…少しだけ笑いかけたのが…きっかけ。
従業員用の出入り口で待ってて…口説かれた。
9歳も歳下だった。
この…匂い…好き。
…そろそろ冬だから…若いから…パートナーがいないと辛いよね?って…自分に言い訳して…。
…声が好き。
強いのに優しい魔力も好き。
少し強引な…のも好き。
求められれば求められるほど…切なくて。
だって…アタシはこの人の唯一じゃない。
アタシはこの人が唯一と出会うまでの相手。
…この人の幸せを邪魔したくない。
こんなに…こんなに好きなのに…生まれ変わったら、あの人がいい。
もう…自分がわからない。
冬の終わりに番ってくれって言われて…。
黙ってるのは卑怯かな?って思って唯一が番う前に逝った事を話した。
生まれ変わったらアタシはあの人がいいの。
だから、アンタとは今世だけ。
だけど、今世はアンタがいいの。
…こんなアタシでいい?
……それでいいって、アタシだけだって言ってくれて…。
ちょっと待ってろって…その日のうちに職場に番休暇の申請をして…猫科同士だから…孕まないように冬の間ずっと入れてもらってた殺精紋の切れる3日後の次の日から休暇をもぎ取って来て…本当、こういう強引な所が…好き。
お義母さんが…ずっと用意してたってフィッシュテイルのミニの白いドレスを渡してくれて。
子供の頃に憧れてた白のドレス…丈が凄く短かったけど…サイズはピッタリで…。
…お義母さんに教えてもらって寝る間も惜しんで房を作った。…西領は帯につけるけど北領は剣帯につける。
4日後の朝イチに教会に行って神官に祝福だけしてもらった。エイドリックは滅多に着ない軍服姿で…アタシの作った房を剣帯につけてくれて…格好いい。
「神は互いを愛を持って許し助け合うことを望んでいます。貴方達に神の加護がありますように。」
怖いくらい幸せで…教会を出て階段を降りて……
…………神様 …今なの?
エイドリックが…通りの向こう側を見てる。
ごぎゅって喉が鳴って。
…………バイバイ。
アンタが幸せならそれでいいよ。
邪魔にならない様に…全部消して2人で住む予定の家まで転移した。
庭先に置いてあった薪割り用の鉈を持ってもう一度、
魔力の残量なんて気にする必要ないから…墓のある外側まで一気に転移で飛んだ。
20年経ってるのに…アタシの家族の…杭は朽ちてない。アタシを待っててくれてるの?
黒虎の…アタシの唯一の杭は1年経たずに朽ちた…
もう…どこかに生まれ変わってるの?
また …母さんと父さんの子供で生まれたい…。
また …貴方と出会いたい。
そんな事ばかり考えながら生きてきた。
もう20年。…まだ20年。
もう 無理。
もう 充分。
かけていた防御系魔術を全て解除する。薪割り用の鉈なんて…何の役にも立たないけど自死すると生まれ変わる事は出来ないから形だけでも戦って逝かなくちゃ…。
…2本足の角の生えたデカイ狼が森の中からアタシを見てる。
鉈を握る手に力を入れる。
エイドリック…今世はアンタと一緒がよかった。
「そんなに逝きたいなら 俺が殺してやる」
10
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