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第一章

6 噂話 ト 世俗

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一通り挨拶回りが終わったら、適当なテーブルでお茶をいただきたい。

お母様は颯爽と盛り上がってるご婦人方の輪の中に入っていったけど、私は人の少ないテーブルを狙っていく。


各所に控えている侍女が私の動きに合わせてサッと椅子を引き、紅茶を用意してくれる。
ここでうっかり「ありがとう」なんて言っちゃいけない。当たり前のように振る舞わないと。
どうでもいいけど、椅子が高いっ...

近くで談笑していた妙齢の女性が私に気付き、そっと目を伏せ黙礼してくれる。
私もにっこり微笑むことで返礼としておく。

挨拶しまくって疲れてるから、相手から声をかけて来ないってのが今はすごく助かるー。


「お聞きになりまして?西方のザイヴェルス伯領で魔物が出たとか」

「まあ、近くにダンジョンがありましたの?」

「存じませんわ。野良ダンジョンでも隠れていたのやもしれませんわね」

「嫌ですわ。ギルドは一体何をしているのかしら?」

美味しくお茶をいただいてると早速噂話が聞こえてくる。

ふーん、魔物かー。

魔物は基本的にダンジョンに発生する。
稀にダンジョン内の魔物が入口から迷い出て人に危害を加えることがあるのだ。

冒険者は魔物を倒し、レベルを上げ、ドロップ品を売ったり使ったりして生活するが、ダンジョンから溢れた魔物を駆除する自警団みたいな側面もある。
それらを統括し、依頼や買取を一元化する事で不正を防ぎ、訓練所やパーティ斡旋所を併設して生存率を上げる組織が皆さんご存知の冒険者ギルド━━━━━━通称、ギルド━━━━━━━だ。

まあ、ダンジョンの外で倒してもちゃんと経験値になるしアイテムもドロップするらしいから倒せる冒険者にとっては臨時収入。
一般市民にとっては災害みたいなもんよね。

てゆーか、なんでギルドって民営なんだろ?
貴族が出資すりゃいいじゃん。何のための税金よ?
川が溢れたから治水工事するぜ!ってのと、魔物が溢れたから駆除するぜ!って同じじゃないの?って思うけどね。

現実は被害に合うのは主に平民だし、実害を受けた本人や遺族が礼金を用意してギルドに駆除依頼を出すのが今の正式なやり方みたいね。


心中では行儀の悪い事を考えながら、外面は優雅に紅茶を一口。
各テーブルに用意されているお菓子に手を伸ばすと、その間に控えている侍女が紅茶を入れ直してくれる。

どうでもいいけど、お菓子不味いな。
災害時の乾パンみたいなパッサパサのクッキー(?)に甘ったるいクリームで見た目は可愛らしく飾られている。

前世の給食、美味しかったなー。
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