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第二章

49 宣言 ト 問答

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「もう一度だけお聞きします。
本当に殿下はお目通り叶いませんのね?」

ある意味、最終通告なんだけど伝わるかな?

「··········はい。お忙し」
「すぐに確認してまいりますっっ!!」

忙しいから会えないを一辺倒に繰り返す伝令の言葉をぶったぎり、メイドが大声で告げる。

「今すぐ確認してきてくださいませ!」

「え、でも殿下は「忙しいから会えないと伝えておけ」と仰せで·····」

「本日、お会いになると約束されたのはその殿下なのですよ?
相手は婚約者なのですよ?忙しいではすまないでしょう!」

「しかし、それが殿下のご意向なのです。
確かにお約束を果たすこと叶わず誠に申し訳なく思いますが、それをどうにかするのが我々の使命ではありませんか。」

あー、そういうスタンスか。
まあ、それもある意味では正しい姿勢なのだけどね。

でもこの場合の『どうにかする』ってのは「どうにか殿下との面会の場を設ける」が正解であって、「どうにか誤魔化して帰らせる」ではないのよね。

どうにもできてないから『限界だ』って言ってんのよ?

「あーもう!この際ハッキリ言います!
いいですか、ここにいらっしゃるのは公女です。です!
お嬢様がお父様に相談するというのは『確実に陛下に伝わります』という意味です!!」

見事にエキサイトしているメイドの発言は正しい。
完全に空気になった私は腕を組んでメイドの発言にうんうんと頷いてしまう。

「それは理解できますが、我々は殿下の従者です。
殿下のご意向に基づいた行動をするのが我々の役目です。」

「殿下の従者であれば、その婚約者を蔑ろにしてもよろしいのですか?
その結果、主君である殿下がどうなるか予想できませんか?
今日に至るまでお嬢様には何度も失礼な対応をしています。これまで我々はお嬢様の優しさに甘えて来たのです。
·····今だって何も言わずに公爵閣下に報告すればいいのに我々に最後のチャンスをくださっているのです。」

「婚約者であればこそ、殿下の心中を慮りご理解いただけるものではありませんか」

いや、それが限界だって言ってんだけどね?
むしろ今までそう思われてたのか?

もうメイドさん、ポカーンとしてる。
ダメだこいつ。話が通じない。

「貴方は今『面会の約束は殿下のご意向によって果たされない』と言いました?」

「·····え?」

私の発言に家令が言葉を失う。
何を言っているのか理解できないという表情だ。
『それがどうかしたのか』と言わんばかりの顔。

「なるほど、婚約者であれば約束を一方的に破棄しても構わないと·····。
つまり殿下は『公爵家との約定は守るに値しない』とお考えですのね?」

メイドはついに頭を抱えだした。

「まさか、子供の口約束が果たされなかっただけなどとお考えではないでしょうね?
確かに私は子供ですが婚約者の責務と私の年齢は無関係ですわ。

貴方は今、と発言したのですよ?

私はそれを報告しなければならないのです。」

ようやく事の大きさを理解したのか家令の顔は色を失っていく。

メイドは頭を抱え、深いため息をついた。
分かりやすく落胆し、諦めた表情をしている。

 

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