天使エールはいっっっっつも笑顔

夏木ユキ

文字の大きさ
8 / 27

07話 成長

しおりを挟む
「前から思っていたのですが、ヤスさんは武器使わないんですか?(笑)」

 スライム討伐は特に武器がなくてもできたので、お金に余裕のないヤスには武器を買おうという選択肢が浮かばなかった。

「武器って高いじゃん」

 この世界は物価が高い。それを考慮しても武器はもっと高い。

「何か良いアイデア無いか?」

「自作したら良いんじゃないですか?」

 ......確かに。

「じゃあ雑貨屋で武器になりそうなものでも買ってくるか」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 雑貨屋

「この鍋とかどうでしょう?」

 ルンはフライパンを手に取り、その場で振り始めた。

「良い感じですよ。盾にもなりそうですね」

 ガンっ!!!

「あっ......」

 ルンの振っていたフライパンに鉄の棒が刺さっている。

「何か、すごい音したけど?」

 店の奥から出てきた店主と目があった。

「......買い取ってね」

「はい......」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「たらららったらー。ヤスは壊れたフライパンと、それに刺さった鉄の棒を入手したー(笑)」

 ヤスたちは手に入れたガラクタを持って雑貨屋の近くの木陰で一休みすることにした。

「なんとお店のご主人が落し蓋をサービスしてくれました(笑)」

「フライパンとして使えないのに蓋もらっても......」

「大丈夫です! きっと何かに使えますから!」

「当たり前だ。銀貨2枚無駄にしやがって」

 まさかガラクタに貴重な貯金が削られるとは......

「じゃあ、これをどう使うかみんなで考えるぞ」

「イノベーションが世界を変えるんですね(笑)」

 さてどうするか
 現実的に武器として使えると助かるんだが......

「ルン。ちょっとそれ貸してくれ。俺も振ってみる」

「ヤスさんも振りたくなっちゃたんですね」

 ルンからフライパンを受け取り、握ってみる。

「お、確かに振りやすい」

 すぽっ

「危なっ」

 振った勢いで、鍋に刺さっていた鉄の棒が抜けルンめがけて飛んでいった。

「何ですかいきなり。殺す気ですか?」

 鉄の棒は、ルンの後ろに生えてた木にぶっ刺さっていた。

「すまん。大丈夫か?」

 フライパンを放り投げ、慌ててルンに近づく。

「私は大丈夫ですけど......ヤスさんなら死んでましたね」

 ルンが刺さった棒を引き抜きながら答える。

「笑えないな。本当にごめん」

「もういいですよ」

「それにしてもルンちゃんの反射神経凄いですね(笑)」

 この至近距離からかなりの勢いで飛んでいった棒を普通に避けていた。

「ヤスさんが振る時点で何か嫌な予感がしていたので」

「予感って......」

 なんか釈然としない。

「察知したり先読みする能力も大事ですよ。違和感とか何となくでも嫌な予感がしたら気を付けた方がいいです。実際、今死ななくて済みました」

「ごめんなさい」

 説得力が凄かった。

「向こう側がよく見えます(笑)」

 フライパンを拾ったエールが、空いた穴からこっちを見ている。

「穴が空いてたらスライムにとどめを刺すこともできませんね」

「穴から出てきちゃいますね(笑)」

 ところてんかよ。

「......いや、これ使えるかもしれない」

 ニヤリ

「ヤスさーん、悪い顔してますよー(笑)」

 すぐに支度をして討伐ポイントへ向かうことにした。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「今日もスライム日和だな」

 ヤス達はここ数日の経験により、スライムがどこにいるのかわかるようになっていた。

「それで、今日はどうするんですか?」

 2人に今日の作戦を説明する。

「なるほど」

「今回もまた容赦ない感じですね(笑)」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「スライム持ってきました」

 スライムは攻撃するまで逃げないので、簡単に捕まえることができる。

「よし、じゃあこの鍋にセットだ」

「了解です!」

「エール、落し蓋」

「はい(笑)」

「じゃあ押し出すから、出てきたスライム手当たり次第に切りまくってくれ」

「いつでも大丈夫です!」

 鍋に蓋をはめて思いっきり押す。

 にゅるん

「出てきましたね(笑)」

「これだけ見ると、何か美味しそうですね」

 スライムを攻撃するのに力は要らないので、棒を振りながらの会話も余裕そうだ。
 ただ、棒の先は目に追えない早さで動き続けている。

 しゅぱぱぱぱぱぱ

「小石が量産されていくな」

「あ、この子、石になってないですよ(笑)」

「よし! エール潰せぇっ!!!」

「えい(笑)」

 ぷち

「これ、いけるな」

「ますね」

 ここからは作業だった。
 スライムの近くに行き、鍋に入れ、押し出し、切って、潰す。鍋に入れ、押し出し、切って、潰す。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「いやー。大量でしたねー」

「20以上倒したんじゃないか?」

「私の右足が24匹潰しました(笑)」

「生々しい表現ですね」

「業が深いな」

 冒険者ギルドに着きアリスの元へ向かう。

「ヤスさん達、お疲れさまです。今日もスライムですか?」

 スライム討伐は初回以外、事後報告でいい。

「では、今日も何匹倒したか水晶の前で申告お願いしますね」

「今日は24匹です」

「え? そんなに倒せたんですか?」

 アリスが水晶を見る。
 虚偽申告をすると水晶が黒くなるが、透明なままだ。

「はえー。すごいですねー」

 アリスは純粋に驚いているようだった。

「スライムこんなに倒せるなんて、ヤスさん達レベル上がってますね」

「やっぱりレベルが上がるとステータスとかも上がって強くなるんですか?」

「?」

 アリスがきょとんとしてこっちを見ている
 あ、これ伝わってないやつだ。

「何でもないです。忘れてください」

 後でエールに確認すると、レベルが上がるというのは、物の例えであって、ゲームみたいな意味はないらしい。

「じゃあ、アリスさんが言っていたレベルが上がったっていうのは......」

「慣れてきましたねーくらいの意味ですね(笑)」

「......じゃあ俺たちは特に変わってないのか」

 こっちの世界に来てからランクとかレベルとかステータスとか、そういったファンタジー感を期待していたが、特になかった。

「でも、来たときと比べて筋肉ついたんじゃないですか?(笑)」

「そりゃそうだろうけどさー」

「信じられるのは己の肉体のみです(笑)」

「筋肉は裏切りませんね!」

 強くなるのに近道などないみたいだ......
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...