天使エールはいっっっっつも笑顔

夏木ユキ

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08話 下水道

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 ヤスたちは日課のスライム討伐を終えて、報酬をもらいにアリスの元へ向かった。

「申し訳ありませんが、明日からスライムを倒しても報酬は出ません......」

「あらあら(笑)」

 収入源が急に絶たれた。

「どうしましょう、ヤスさんが明日から無職です(笑)」

「根はいい人なんです! どこかヤスさんを雇ってくれそうな所はありませんか!?」

「いや、俺たちスライム専門業者じゃないから! 冒険者だから! 何で俺だけ無職みたいな感じなんだよ!!」

 ボケが多すぎてきつい。

「アリスさん、どうして急に?」

「この辺りのスライムの数が減ったため、これ以上はお金出してまで倒してもらう必要がないという通知が上から来まして......」

 狩りすぎたみたいだ。
 スライムはそこまで危険じゃないため、多すぎなければ問題ないらしい。

「何か他のクエスト探さないとな......」

「アリスさん、何か安全なクエストありませんか?」

「あんまり危険じゃないクエストならありますけど......」

 なんだか苦い顔をしている。

「人気のないクエストでして......受けてくれるのでしたら助かるのですが......」

「どんなクエストなんですか?」

「町の下水道に溜まっているヘドロを漁る......」
「ドブさらいかよっ!」

 モンスター討伐ができなくなったと思ったら、肉体労働か。
 生きていくためとはいえ世知辛いな......

「もしかしたら天職かもしれないですよ(笑)」

「もちろん君たちもやるんだよ?」

 エール達が来る気無さそうなので釘を刺しておく。

「違いますよ。ヘドロを漁るモンスターが現れたので調査と、できれば討伐して欲しいというクエストです」

 どうやら早とちりだったようだ。

「とりあえず調査クエストですし下水道にはモンスターもほとんどいないので、そこまで危険はないと思います。ただ、下水道に入るので臭いが酷いです......」

 ......臭いのか。

「私は下水道入るくらいなら良いんですけど、調査クエストって本当に安全なんですか?」

「とりあえず倒さなくて良いので、遠くから観察して情報を集めていただければ助かります。もちろん、倒していただけるならそれに越したことはありませんが......」

 遠くから観察するだけなら大丈夫そうかな?
 アリスが言うには、下水道に強いモンスターはいないようだし。

「とりあえず、他にできそうなクエストもありませんし、明日はこれの調査しませんか?」

「そうですね(笑)」

 ルンの意見にエールも賛同する。

「それでは、明日ヘドロモンスターの調査クエストお願いしますね」

 明日は調査クエストをすることになった。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 次の日

 アリスに指示された下水道への入り口に向かう。

「下水道への入り口はここか」

「既にだいぶ臭いますね......」

「私はもうなれました(笑)」

 天使は適応が早い。

「じゃあ入るか......」

 アリスから預かった鍵を使い、入り口を開ける。

「ちょっと待ちなさいな」

 声がした方を見る。
 見覚えがあるような気がするけど......誰だ?

「どちらさまでしょう?」

「あら、何度か会ってるのに随分な挨拶ね」

「こんにちは(笑)」

「エールちゃんはいつも可愛いわね」

 エールの知り合いらしい。

「よく食堂にいらっしゃいますよ。今日は格好が違うので雰囲気が違いますが」

 ルンも知っている人らしい。

「......食堂?」

「まだわからないの? いつも舞台で踊ってるカンナよ。もう、失礼しちゃうわ」

 派手な格好で踊っている人たちがいるのを思い出す。
 ケイン達が鼻の下を伸ばしながら魅入っていた踊り子の1人なのだろう。

「あー」

 チップが高いのであまり見ないようにしていたため気がつかなかった。
 それを抜きにしても舞台で踊っているときと今の格好が違いすぎて気がつかないのも仕方ないだろう。

「だいぶ印象が違いますね」

「メイクと衣装が違いますからね。でも今のカンナさんもお綺麗ですよ(笑)」

「あら、ありがと。エールちゃんも可愛いから今度舞台上がらない?」

「楽しそうですね(笑)」

 もしエールが稼いでくれるなら止める理由はない

「でもヤスさんの目がいやらしいので悩みどころですね(笑)」

「おい、何言ってるんだ」

「見られるだけなら良いじゃない。触ってきたら警察ね♥」



「......ところで、何のご用でしょうか?」

 握られた拳から目を逸らしつつ、話題を逸らす。

「ああ、そうそう。私もこの中に用があるのよ」

「ヘドロモンスターの調査クエストですか?」

「まあ、私も調査よ。モンスターではないけどね」

「そうなんですか」

「じゃあ一緒に行きましょう(笑)」

 仲間が増えた。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「ヘドロモンスターはどの辺にいるのでしょう?(笑)」

「この辺じゃない?」

 カンナが地図を見ながら指差している。
 え......? 地図あるの?

「見た感じ凄い細かい地図ですけど、どこで手に入れたんですか?」

「ふふっ、内緒よ」

「内緒って......」

「人のプライベートを詮索するのは失礼ですよ(笑)」

「私のこと知りたいなら夜のお誘い待ってるわ♥」

 うわー。嫌な予感しかしない......

「ちなみにおいくらなんですか?」

「ルンちゃんならタダよ。いつでも呼んでちょうだい♥」

「ヤスさんも同じ部屋ですよ(笑)」

「警察いきましょ」

 カンナが冷たい視線を向けてくる。

「いや、金なくて仕方なく一緒に寝てるだけだから! やましいことは一切無いぞ!」

「一緒に寝てるですって!? もう手遅れね......」

 ......何でナイフを向けられているのだろう。

「カンナさん大丈夫ですよ。ヤスさんは私たちの足元で丸まってるだけなので」

「あら、そっち系の趣味の人?」

 カンナがナイフを仕舞い、危険は去ったが......

「なんだか楽しそうね、今度呼んでちょうだいな♥」

「......」

 部屋から追い出されないことを願うばかりだ。

「目的地も決まりましたし、レッツゴーです(笑)」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 ヤス達一行は、カンナの地図に従って下水道を進んでいる。

「これなら棒も余裕で使えますね」

 ルンが天井の高さを確認している。
 下水道は思っていたより広い空間だった。

「さて、ヘドロモンスターを探すか」

 例のモンスターはカンナの予想通り、下水道の奥で見つかった。
 配管の所に2匹いる。

「いましたね」

 ルンは普段とは違い、警戒モードになっている。

「襲ってくるかもしれません。ヤスさんは後ろ側の警戒をお願いします」

 アリスによると下水道に強いモンスターはいないはずとのことだが、警戒はしておく。

「わかった」

 この状態のルンは怖いので素直に指示に従う。
 あれ?

「カンナさんがいないぞ?」

「ちょっと用事があるって言ってましたよ(笑)」

「大丈夫なのか?」

 というか黙って消えるなよ。
 今のところ危険は無さそうだが......

「用事って何だろうな」

「不思議な人ですね(笑)」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 しばらくヘドロモンスターを遠くから観察していると、動きがとても遅いことがわかった。

「飽きてきたな」

「石でもぶつけてみますか?(笑)」

「ふん!」

 ルンがヘドロモンスターに向かって石を投げつける。

 石がモンスターにめり込んだ。

「あれは......取り込まれたのか?」

「かもしれません。ただ、この距離からだとよくわからないので、もう少し近づいてみましょう」

 ヘドロモンスターは石が当たっても意に介さず配管に群がっている。

「襲ってくる様子もないですし、こっちから手を出さなければ平気そうですね」

 しばらく観察して、特に危険がなさそうと判断したのか、ルンの雰囲気がいつも通りに戻っている。

「これからどうします?」

「とりあえず、いつまでもヘドロモンスターだと呼びにくいから名前でも付けるか」

「じゃあ、ヘドロンで」

「ゆるキャラかよ」

「ゆるいというよりどろどろですけどね(笑)」

 ヘドロンに決定した。

「それにしても臭いですね」

「もう帰っても良い気がしてきた」

「調査クエストなのでこれ以上やる必要もないですもんね」

「よし、帰ろう」

「倒そうとか一切考えないんですね(笑)」

「余計なことに首を突っ込まないのが長生きの秘訣ですよ」

「そういうことだ! 撤収っ!」

「はーい(笑)」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 来た道を戻っていくと、いつの間にカンナが合流している。

「あ、カンナさん(笑)」

「ふふっ」

「どこ行ってたんですか?」

「初めに言ったでしょ。私も調査しに来たのよ」

 謎だ。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 調査報告をするためにギルドへ戻ると、いつも通りアリスが窓口にいた。

「あ、調査クエストの報告ですか......」

 アリスの様子がいつもと違う。

「そうですけど、どうかしました?」

「あ、いえ何でもありませんよ」

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「報告ありがとうございます。名前ちょうど良いので、ヘドロンで登録しておきますね」

 ヘドロンが通った。

「とりあえず、害は無さそうということが分かって良かったです。今後、討伐クエストが出るかは上の判断なので、ヘドロンのクエストは一応これでおしまいです」

「了解でーす」

 アリスから報酬を受け取ったヤスたちは、夕食を食べるために食堂へ向かう。
 カンナは疲れたから舞台に立たないらしい。

「ようヤス。......臭っっっっっ!」

 食堂に着くと声をかけられた。

「ようケイン。失礼なやつだな」

 半日下水道にいたせいで身体に臭いが染み付いたらしい。
 アリス様子が変だったのはこのせいか......

「いや、マジで臭いぞ。そんなので食堂来るなよ」

「誰ですか? この失礼な人は?」

「この失礼な人はケインさんですよ(笑)」

 そういえばルンは初対面か。

「女の子に向かって臭いだなんて傷ついちゃいます(笑)」

「いや、それは......」

 なんだかエールの距離がいつもより近い

「やっぱり臭いんですね......」

「そ、そんなことないよっ」

 ケインの顔がひきつっている

「本当ですか?(笑)」

 エールがケインの手を握りながら上目使いで尋ねる

「もっ、もちろんだよ」

「安心しました(笑)」

 すりすり。

「失礼な人だなんて言ってごめんなさい」

 すりすり。

「良い香りでしょ♥」

 すりすり。

 エール、ルン、カンナがケインを取り囲んで臭いを擦り付けている。
 端から見れば羨ましい光景ではあるが......

「お前、帰ってこないと思ったら......ってエールちゃんと何してるんだ!?」

 奥の方に座っていたショーンとサイトが近づいてくる。

「ケインがモテモテなんて珍し......」

 サイトの眉間にシワが寄り始める。

「俺らご飯の途中だから。エールちゃんまたね!」

「ごきげんよう(笑)」

 ケインの事など振り替えることもなくテーブルに帰っていく。
 賢明な判断だ。

「そろそろ許してやれよ」

 恐らく俺たちと同じ臭いになったであろうケインは虚空を見つめている。

「許すも何も、別に怒ってませんよ(笑)」

「そうです。スキンシップです」

「ちょっと涙目になってるから、離れてやれよ......」

 ヤスは3人を引っ張って、とりあえず外に出た。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

「楽しかったですね」

「人との触れ合いって大事ですよね(笑)」

「ほどほどにしといてやれよ」

 途中からケインが虚空を見つめていたのを思い出す。

「まあ、良いじゃないの。さっきの子から貰ったお金でぱーっといきましょう」

 カンナの手には財布が握られている。
 すったのか......

「それはさすがに不味いんじゃないか?」

「可愛い女の子3人にベタベタされてこの値段なら安い方よ」

「最後はケインさん自体がベタベタでしたけどね(笑)」

「踏んだり蹴ったりだな......」

 今度、ご飯でも奢ってあげよう。

「とりあえず、お風呂ね♥」

 食堂の隣にある大浴場に行くことになった。
 宿にはシャワーが付いているので、大浴場は初めてだ。

「はい、ヤスの分。出たら食堂で集合ね♥」

 カンナが入浴代をくれた。まあ、ケインの金だけど......

 脱衣所で着替えがないことに気付いた。

「新しいの買うか......」

 余計な出費で懐が痛い。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 風呂を終えて外に出ると、まだ誰もいなかった。

「食堂で待てばいいんだよな」

 食堂に行き、3人を探したが見当たらない。

「ビール1つと唐揚げで」

 いつ来るかわからないので先に始めていよう。

「お待たせしましたー」

 風呂上がりのビールとか久しぶりだな。
 ごきゅっ、ごっきゅっ

「あー、うまー」

 何だか今日は疲れたな。

「からあげでーす」

 唐揚げを頬張る。
 どばっ。
 ビールで冷えた口の中に肉汁が広がっていく。

「んー」

 油まみれの口にビールを流し込む

「ああー」

 ダメだ。止まらん。
 ビールと油の組み合わせに満足しつつ、まぶたが重くなっていくのを感じた。
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