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24話 エールの菜園
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カンナが合流して数日後
「みなさーん。ご飯ですよー(笑)」
エールの声で1日が始まる。
「今日も美味しそうですね」
「相変わらずここは豪華ねー」
今まで気にしていなかったが、ヤス達の食卓は品数が多く、カンナにとっては珍しかったようだ。
「ふふっ、採れたてですよ(笑)」
ヤス達の食卓には料理だけでなく、食後の果物やお茶まで並ぶようになった。
エールが育てている野菜や果物、ハーブなどは気候が温暖なためよく育つようだ。
「野菜なんて肉のおまけだと思ってたけど、これは美味しいわー」
「飢え死にしかけた時は育てようなんて発想ありませんでしたよ。育てるくらいなら食べますし」
「私が育て始めた時にヤスさんがご飯確保してくれたおかげです(笑)」
「あの時は大丈夫かこいつって思ったけどな」
家を作っている時に野菜植えていた時は正気を疑ったが、結果オーライだ。
「こんなに用意するの大変じゃないの?」
「確かにカンナさんの言う通りです......エールさんが頑張っている間、私はヤスさんと遊んでるだけなんて......何て申し訳ない気持ちが溢れて吐きそうです」
「え? そこまで?」
「ふむ。遊んでるのは否定しないのだな」
吐きそうというセリフの衝撃で、遊んでる発言に突っ込み損ねた。
「ふふっ、育てるのって楽しいんですよ? 皆さんもやりませんか?(笑)」
エールの菜園を手伝うことになった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ふむ。収穫してきたぞ」
「なんで木ごと引っこ抜いてくるんですか!?」
「早く育ってくださいねー」
「ルン! 水やりすぎ!」
手伝い始めて1分でエールの菜園の一画が壊滅した。
さすがのエールもキレるかもしれない......
✳︎ ✳︎ ✳︎
「こうやってやるんですよー。あ、ルンちゃん上手です(笑)」
壊滅した菜園を前にしてもエールは笑顔だった。
「エールちゃんって怒ったりしないの?」
怒る素振りなど一切見せないエールにカンナは驚いているようだ。
「俺の知ってる限り常に笑顔ですねー」
たまに引いてる時もあるけど......
「ふーん」
しゃりしゃり
「カンナさんはリンゴが好きなんですか?」
「わりと」
「ならもう1ついかがですか?(笑)」
ルンとタマキへの指導が一段落ついたのか、エールが追加のリンゴを持って来た。
「お疲れさん。教えるの大変じゃないか?」
「ふふっ楽しいですよ(笑)」
「エールちゃんが育てた野菜とか壊滅してたけど......大丈夫なの?」
「まあ、誰だって初めはわからないことだらけですし(笑)」
「エールは心が広いなー」
「長い目で見ればちゃんと教えた方が収穫量が上がりますから(笑)」
人を育てる良い上司になれるかもしれない。
考えてみれば、エールはたくさんの天使に推薦されてここにいるのだ。こういうところも人気の理由なのだろう。
「私よりもあの2人の方が遥かに体力ありますし、適材適所ですよ(笑)」
上司というより経営者の考え方だった。家を作っている時も先を見据えて行動して結果を出している。人望もあるしコミュ力および人脈も広く、いつも笑顔で人当たりも良い......何この子怖い。
「私は楽しく過ごしているだけですよ(笑)」
「前向き要素も持ってたな」
きっと、この天使は何でも器用にこなしてしまうんだろう。
「ん? 何か大事なことを忘れているような......」
「どうかしましたか?(笑)」
「あ......試練だ」
この世界で生き残るのに必死ですっかりエールの試練を忘れていた。
「まだこっちに来て半年も経ってないですし、そんなに急がなくても平気ですよ(笑)」
「そんな感じでいいの?」
「そもそも何すれば良いかわかりませんから(笑)」
「まあ、そうだけど」
エールの試練。達成条件は謎。
以前試練について話した時、この世界の女神様が喜びそうなことをしてみようという結論に至ったが今のところ何もしていない。
先のことはわからない。かと言って何もしないのも気持ち悪い......
「ならとりあえず今年の目標を立ててみませんか?(笑)」
「目標か」
「わからないことを考えても仕方ないですし、だからといって何もしないわけにもいかないですから(笑)」
「そうだな。じゃあ、みんな集めて今後の目標立てよう」
「ねえ、さっきから試練とか目標とか......何の話してるの?」
カンナがいることをすっかり忘れていた。
「実は私、天使なんです(笑)」
「ねえヤス」
「何でしょう」
「天使って何?」
......天使って何だ?
「えっと、こんな感じの人?」
ヤスがエールを指差すが、人じゃない気もする。
「本物?」
「本物です(笑)」
「そう。天使っているのねー」
「信じるんですか?」
「まあ、エールちゃんだし」
天使を自称して信じてもらえるなんて、教祖の才能があるのかもしれない。
まあ、本物だが......
「で? 試練って何なのよ?」
「うーん」
ヤスとエールの試練について、みんなに話しておいた方が良いだろう。
「では、夕飯の後に話しましょう(笑)」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ご馳走様でした(笑)」
「みんなちょっとこの後、話があるんだけどいいかな?」
「どうしたんですか? 何かやらかしたんですか?」
「ふむ。謝るなら早いほうがいいぞ」
なんでやらかした前提なのか
「違いますよ。ちょっとみんなで相談したいことがあるんです」
「何か重要な話らしいわよ」
「私とヤスさんについてです(笑)」
「天使とビミョーな人ですよね? 前に聞きました」
「ふむ。私も知っているぞ」
相変わらずの認識だが、それなら話は早い。
「エールがこの世界に来た理由についてみんなに話しておこうかと思って」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「......というわけなんですよー(笑)」
「エールさんも色々大変なんですねー」
「ふむ。エールが女神になるとは驚きだ」
「試練を達成できればですけどね(笑)」
そして、その試練は現状かなり厳しい。
「それにしても......神様って女神だったのね」
「カンナさんにも信仰心とかあるんですか?」
「あら、どういう意味かしら?」
「そりゃあもう、盗ったりスったりですよ」
ヤスは、ケインの財布の件を忘れてはいない。
「腐りかけの物を食べるときだけ信仰してるわ」
意外とチャレンジャーなようだ。
「まあ、もう信じてないけど」
やらかしたみたいなので、これ以上触れないほうが良さそうだ。
「そんな理由で私はヤスさんの協力で試練を達成しないといけないんです(笑)」
「急に言われても困るとは思うけど、みんなも協力してくれると助かるんだが......」
「もちろんです! エールさんのためなら頑張りますよ!」
「ふむ。長生きしてるとこんなこともあるんだな。女神になるための試練......楽しそうじゃないか」
「うーん」
カンナが乗り気じゃないようだ。
「無理にとは言いませんので(笑)」
「仮にエールちゃんが女神になったとしたら......私は天国とか行けるの?」
「天国行きたいんですか?(笑)」
「そりゃあ楽しそうな方が良いに決まってるじゃない。で、行けるの? 行けない?」
「女神になれたなら余裕ですよ(笑)」
「ふーん。なら手伝うわ」
「ふふっ、ありがとうございます(笑)」
「で、試練って何すればいいんですか?」
先ほどの説明では、試練の内容までは話していなかった。
「試練の内容がわからないんですよ(笑)」
「どういう意味ですか?」
ヤスは天界での女神とのやり取りをそのままルンに伝えた。
「試練なのでという理由で何も教えてくれなかったんだよ」
「そんなのどうしたら良いかわからないじゃないですか!?」
ルンの反応はもっともだ。
「ふむ。流石に内容が不明だとは思わなかったな」
「神様になるのも大変なのねー」
「試練の内容は不明なんだけど、一応この世界の女神が気に入りそうなことをするって方針にはなってるんだ」
「ふむ。何もないよりかはマシだな」
「で、気に入りそうなことって何なんですか?」
「それがわからないんだ......」
「「「......」」」
みんな何も言わなくなってしまった。
「気持ちはわかる」
ヤスだって同じ思いだ。
「でもヤスさん達と違って、私たちは神様が女神だということすら知らなかったんですよ? どうしようもないじゃないですか......」
「ふむ。2人はその女神様に会ったのだろう? ならば女神様の印象とか、好きそうな事とか教えてくれないか?」
「実は俺たちが会ったのは元々いた世界の女神様で、俺もエールもこの世界の女神様には会った事ないんです......」
「そんなの無理じゃない」
「カンナさんの言う通りです。無理です」
「確かに難しいかもしれませんが......もう始まってしまったのでやるしかないんです」
「何とかなります(笑)」
「ふむ。当事者が言うのなら大丈夫......なのか?」
エールの一言でこの場が少し軽くなった気がする。
「で、しばらくの目標というか、方針なんだけど」
ヤスが昼から考えていたことみんなに伝える。
「試練の内容はわからないけど、何かあった時のための戦力アップが大事なんじゃないかと思うんだ」
「それなら今までも私と一緒に鍛えてたじゃないですか?」
「まあそうなんだけど、鍛えるということを明確に目標にしようかと思って」
「うーん。なら私たちは特に何かを変えて行動する必要はないってことですかね?」
「そうだな。だけど今までみたいにただ何となく鍛えるのではなくて、期間を設けたいと思う」
「なるほど。私はいつまでにヤスさんを鍛え上げれば良いんですか?」
「1年間でお願いします(笑)」
「短いですね......まあなるべく強くなれるよう頑張ります」
「よろしくお願いします。私はその間に町でこの世界のことを調べてみます(笑)」
「ふむ。なら私もエールに同行しよう。私の知っていることが役に立つかもしれない」
「助かります(笑)」
「カンナさんはどうしますか?」
「そうねー。ヤスのことはルンちゃんに任せて私も調べ物かしらね」
「以前、詳細な地図持ってましたもんね。ヤスさんは私に任せて皆さんは情報収集お願いしますね」
下水道のクエスト時にカンナの持っていた詳細な地図は、ギルドでも用意できなかったのだ。入手場所については教えてくれなかったが、きっと特殊な伝手があるのだろう。
「じゃあ1年間、とりあえずこの目標で頑張ろう! もちろん目標は状況によって変わるかもしれないけど、その時は臨機応変に動いてくれ」
「「「異議なーし」」」
この何も情報がない理不尽な試練に対して、みんな今できることをしっかりやろうとしてくれている。それぞれしっかりとした考えを持っているのだから下手にヤスが指示しない方が良さそうだ。
「心強いですね(笑)」
「エールの人徳のおかげだよ」
「ふふっ、人ではないですけどね(笑)」
先のことはどうなるかわからない。不安しかないまま始まった異世界での試練だったが、この仲間達と一緒なら前に進める気がした。
「みなさーん。ご飯ですよー(笑)」
エールの声で1日が始まる。
「今日も美味しそうですね」
「相変わらずここは豪華ねー」
今まで気にしていなかったが、ヤス達の食卓は品数が多く、カンナにとっては珍しかったようだ。
「ふふっ、採れたてですよ(笑)」
ヤス達の食卓には料理だけでなく、食後の果物やお茶まで並ぶようになった。
エールが育てている野菜や果物、ハーブなどは気候が温暖なためよく育つようだ。
「野菜なんて肉のおまけだと思ってたけど、これは美味しいわー」
「飢え死にしかけた時は育てようなんて発想ありませんでしたよ。育てるくらいなら食べますし」
「私が育て始めた時にヤスさんがご飯確保してくれたおかげです(笑)」
「あの時は大丈夫かこいつって思ったけどな」
家を作っている時に野菜植えていた時は正気を疑ったが、結果オーライだ。
「こんなに用意するの大変じゃないの?」
「確かにカンナさんの言う通りです......エールさんが頑張っている間、私はヤスさんと遊んでるだけなんて......何て申し訳ない気持ちが溢れて吐きそうです」
「え? そこまで?」
「ふむ。遊んでるのは否定しないのだな」
吐きそうというセリフの衝撃で、遊んでる発言に突っ込み損ねた。
「ふふっ、育てるのって楽しいんですよ? 皆さんもやりませんか?(笑)」
エールの菜園を手伝うことになった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ふむ。収穫してきたぞ」
「なんで木ごと引っこ抜いてくるんですか!?」
「早く育ってくださいねー」
「ルン! 水やりすぎ!」
手伝い始めて1分でエールの菜園の一画が壊滅した。
さすがのエールもキレるかもしれない......
✳︎ ✳︎ ✳︎
「こうやってやるんですよー。あ、ルンちゃん上手です(笑)」
壊滅した菜園を前にしてもエールは笑顔だった。
「エールちゃんって怒ったりしないの?」
怒る素振りなど一切見せないエールにカンナは驚いているようだ。
「俺の知ってる限り常に笑顔ですねー」
たまに引いてる時もあるけど......
「ふーん」
しゃりしゃり
「カンナさんはリンゴが好きなんですか?」
「わりと」
「ならもう1ついかがですか?(笑)」
ルンとタマキへの指導が一段落ついたのか、エールが追加のリンゴを持って来た。
「お疲れさん。教えるの大変じゃないか?」
「ふふっ楽しいですよ(笑)」
「エールちゃんが育てた野菜とか壊滅してたけど......大丈夫なの?」
「まあ、誰だって初めはわからないことだらけですし(笑)」
「エールは心が広いなー」
「長い目で見ればちゃんと教えた方が収穫量が上がりますから(笑)」
人を育てる良い上司になれるかもしれない。
考えてみれば、エールはたくさんの天使に推薦されてここにいるのだ。こういうところも人気の理由なのだろう。
「私よりもあの2人の方が遥かに体力ありますし、適材適所ですよ(笑)」
上司というより経営者の考え方だった。家を作っている時も先を見据えて行動して結果を出している。人望もあるしコミュ力および人脈も広く、いつも笑顔で人当たりも良い......何この子怖い。
「私は楽しく過ごしているだけですよ(笑)」
「前向き要素も持ってたな」
きっと、この天使は何でも器用にこなしてしまうんだろう。
「ん? 何か大事なことを忘れているような......」
「どうかしましたか?(笑)」
「あ......試練だ」
この世界で生き残るのに必死ですっかりエールの試練を忘れていた。
「まだこっちに来て半年も経ってないですし、そんなに急がなくても平気ですよ(笑)」
「そんな感じでいいの?」
「そもそも何すれば良いかわかりませんから(笑)」
「まあ、そうだけど」
エールの試練。達成条件は謎。
以前試練について話した時、この世界の女神様が喜びそうなことをしてみようという結論に至ったが今のところ何もしていない。
先のことはわからない。かと言って何もしないのも気持ち悪い......
「ならとりあえず今年の目標を立ててみませんか?(笑)」
「目標か」
「わからないことを考えても仕方ないですし、だからといって何もしないわけにもいかないですから(笑)」
「そうだな。じゃあ、みんな集めて今後の目標立てよう」
「ねえ、さっきから試練とか目標とか......何の話してるの?」
カンナがいることをすっかり忘れていた。
「実は私、天使なんです(笑)」
「ねえヤス」
「何でしょう」
「天使って何?」
......天使って何だ?
「えっと、こんな感じの人?」
ヤスがエールを指差すが、人じゃない気もする。
「本物?」
「本物です(笑)」
「そう。天使っているのねー」
「信じるんですか?」
「まあ、エールちゃんだし」
天使を自称して信じてもらえるなんて、教祖の才能があるのかもしれない。
まあ、本物だが......
「で? 試練って何なのよ?」
「うーん」
ヤスとエールの試練について、みんなに話しておいた方が良いだろう。
「では、夕飯の後に話しましょう(笑)」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ご馳走様でした(笑)」
「みんなちょっとこの後、話があるんだけどいいかな?」
「どうしたんですか? 何かやらかしたんですか?」
「ふむ。謝るなら早いほうがいいぞ」
なんでやらかした前提なのか
「違いますよ。ちょっとみんなで相談したいことがあるんです」
「何か重要な話らしいわよ」
「私とヤスさんについてです(笑)」
「天使とビミョーな人ですよね? 前に聞きました」
「ふむ。私も知っているぞ」
相変わらずの認識だが、それなら話は早い。
「エールがこの世界に来た理由についてみんなに話しておこうかと思って」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「......というわけなんですよー(笑)」
「エールさんも色々大変なんですねー」
「ふむ。エールが女神になるとは驚きだ」
「試練を達成できればですけどね(笑)」
そして、その試練は現状かなり厳しい。
「それにしても......神様って女神だったのね」
「カンナさんにも信仰心とかあるんですか?」
「あら、どういう意味かしら?」
「そりゃあもう、盗ったりスったりですよ」
ヤスは、ケインの財布の件を忘れてはいない。
「腐りかけの物を食べるときだけ信仰してるわ」
意外とチャレンジャーなようだ。
「まあ、もう信じてないけど」
やらかしたみたいなので、これ以上触れないほうが良さそうだ。
「そんな理由で私はヤスさんの協力で試練を達成しないといけないんです(笑)」
「急に言われても困るとは思うけど、みんなも協力してくれると助かるんだが......」
「もちろんです! エールさんのためなら頑張りますよ!」
「ふむ。長生きしてるとこんなこともあるんだな。女神になるための試練......楽しそうじゃないか」
「うーん」
カンナが乗り気じゃないようだ。
「無理にとは言いませんので(笑)」
「仮にエールちゃんが女神になったとしたら......私は天国とか行けるの?」
「天国行きたいんですか?(笑)」
「そりゃあ楽しそうな方が良いに決まってるじゃない。で、行けるの? 行けない?」
「女神になれたなら余裕ですよ(笑)」
「ふーん。なら手伝うわ」
「ふふっ、ありがとうございます(笑)」
「で、試練って何すればいいんですか?」
先ほどの説明では、試練の内容までは話していなかった。
「試練の内容がわからないんですよ(笑)」
「どういう意味ですか?」
ヤスは天界での女神とのやり取りをそのままルンに伝えた。
「試練なのでという理由で何も教えてくれなかったんだよ」
「そんなのどうしたら良いかわからないじゃないですか!?」
ルンの反応はもっともだ。
「ふむ。流石に内容が不明だとは思わなかったな」
「神様になるのも大変なのねー」
「試練の内容は不明なんだけど、一応この世界の女神が気に入りそうなことをするって方針にはなってるんだ」
「ふむ。何もないよりかはマシだな」
「で、気に入りそうなことって何なんですか?」
「それがわからないんだ......」
「「「......」」」
みんな何も言わなくなってしまった。
「気持ちはわかる」
ヤスだって同じ思いだ。
「でもヤスさん達と違って、私たちは神様が女神だということすら知らなかったんですよ? どうしようもないじゃないですか......」
「ふむ。2人はその女神様に会ったのだろう? ならば女神様の印象とか、好きそうな事とか教えてくれないか?」
「実は俺たちが会ったのは元々いた世界の女神様で、俺もエールもこの世界の女神様には会った事ないんです......」
「そんなの無理じゃない」
「カンナさんの言う通りです。無理です」
「確かに難しいかもしれませんが......もう始まってしまったのでやるしかないんです」
「何とかなります(笑)」
「ふむ。当事者が言うのなら大丈夫......なのか?」
エールの一言でこの場が少し軽くなった気がする。
「で、しばらくの目標というか、方針なんだけど」
ヤスが昼から考えていたことみんなに伝える。
「試練の内容はわからないけど、何かあった時のための戦力アップが大事なんじゃないかと思うんだ」
「それなら今までも私と一緒に鍛えてたじゃないですか?」
「まあそうなんだけど、鍛えるということを明確に目標にしようかと思って」
「うーん。なら私たちは特に何かを変えて行動する必要はないってことですかね?」
「そうだな。だけど今までみたいにただ何となく鍛えるのではなくて、期間を設けたいと思う」
「なるほど。私はいつまでにヤスさんを鍛え上げれば良いんですか?」
「1年間でお願いします(笑)」
「短いですね......まあなるべく強くなれるよう頑張ります」
「よろしくお願いします。私はその間に町でこの世界のことを調べてみます(笑)」
「ふむ。なら私もエールに同行しよう。私の知っていることが役に立つかもしれない」
「助かります(笑)」
「カンナさんはどうしますか?」
「そうねー。ヤスのことはルンちゃんに任せて私も調べ物かしらね」
「以前、詳細な地図持ってましたもんね。ヤスさんは私に任せて皆さんは情報収集お願いしますね」
下水道のクエスト時にカンナの持っていた詳細な地図は、ギルドでも用意できなかったのだ。入手場所については教えてくれなかったが、きっと特殊な伝手があるのだろう。
「じゃあ1年間、とりあえずこの目標で頑張ろう! もちろん目標は状況によって変わるかもしれないけど、その時は臨機応変に動いてくれ」
「「「異議なーし」」」
この何も情報がない理不尽な試練に対して、みんな今できることをしっかりやろうとしてくれている。それぞれしっかりとした考えを持っているのだから下手にヤスが指示しない方が良さそうだ。
「心強いですね(笑)」
「エールの人徳のおかげだよ」
「ふふっ、人ではないですけどね(笑)」
先のことはどうなるかわからない。不安しかないまま始まった異世界での試練だったが、この仲間達と一緒なら前に進める気がした。
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