好きだった

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第1話

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「今日までに完成させるように」
4時限のチャイムが鳴るのと同時に、担任の篠目が言った。

「私、まだ腐食防止液塗ってない!」
「うちら残りだわ。昼ご飯なしかぁ」
隣で、クラスメートが話している。

 ヤバっ‼︎わたしなんて、まだ削ってる途中なんだけど。コレじゃ一緒に帰れないじゃん。

少し焦って彫刻刀を取り出し、三角刀に力を込めて木片を削り出す。何度も繰り返すうちに、彫刻刀が木の表面を滑り親指側の手首に刺さった。ジワっと出血し始めるが、冷静に刺さった彫刻刀を抜いてハンカチで押さえた。

「川瀬、なにやってんの」
見ていた菅野涼太が眉間に皺を寄せ、声をかけてきた。
「やっちゃった。コレ多分、動脈刺したかも」と圧迫していた手を緩めると、勢いよく出血して床を赤くした。

「ほら。静脈ならこんなに勢いよく出てこないもん」
「ほらじゃねえよ。先生!病院連れていかないとまずいよ」
篠目は教壇から降りて様子を見にきた。
「ドジだな。俺の車で病院いくぞ。下行って連絡してくるから、靴履いて西門前で待ってろ」と言い残し、教室を出て行った。

「俺も行くよ。アイツあんまりいい噂ないから、二人きりはやめとけ」
「悪いからいいよ。一人で行ってくる」
「なんかあったら、嫌な思いするのは川瀬だぞ。いいから行くぞ」

何も持たず、出て行く背中を追いかけた。上靴を脱いでから、圧迫している手が使えないことに気づく。横から手が伸びて、上靴を靴箱に入れ、靴が足元に置かれた。
「ありがとう」と言うと何も返さず西門に向かって行く。
 
気がきく奴。モテるわけだよね。顔もいいから尚更。
背後で、クスクスと笑いながらついて行く。
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