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第一章
変身、斬心の魔法少女・クアンタ-04
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男一人を遠くまで放り投げ、しかし表情一つ変えず、汗一つかく事も無くそういったクアンタが前に出ると、それを静止するリンナ。
「コイツらは、あくまで商売に来てるだけだ。ムカつく奴らではあるけど、アンタみたいなベッピンさんが出る幕じゃねぇ」
「了解、静観する」
すん、とその場で真っすぐ身体を伸ばして立っているだけの、無口な女の存在に、全員が驚きと恐怖によって黙っていたが、しかし数秒ほど時間経過すると「ふん」と鼻を鳴らしながら、ヴァルブが不機嫌そうにした。
「では今回は諦めよう。しかし、その不遜な態度やそこの女の暴行、私の我慢もそろそろ限界だ。次に来た時までにその態度が直っていない場合、分かっているだろうな?」
「このベッピンさんがやった事は謝るけどね、別に悪い事はしてないでしょーよ。アタシの仕事場で勝手な事されちゃ困るから、この子がやってなきゃアタシがアイツの頭カチ割ってたよ」
「いいか。次までにあの刀をしっかりと用意し、何時でも私へ献上する準備を整えておけよ!」
そう言って男たちを引き連れ、リンナの家より立ち去っていく四人の姿を見届けた後、彼女は頭を掻きむしりながら「ムカつく!」と一度叫んだ後、早足で家の中へと入った後、恐らく塩だと思われる白い結晶を周りへ撒いた。
「あーチクショーあの連中マジでしつこいんだから」
「刀の買い手か」
「そーよ。でも欲しがってんのはただの刀じゃなくてねぇ」
そうして気持ちを落ち着かせたのか、ふぅっと息を吐いたリンナが、クアンタの手を取って引き戸の玄関を開け、リンナを中へ招く。
通された畳の居間。日本式の居住と殆ど同じであると記録しつつ、クアンタはリンナがどこからか持ってきた刀を渡されて、首を傾げる。
「これは」
「アタシの親父が遺作として打った刀。名前は無いけど、かなりの業物なの」
「価値がある刀か」
「娘のアタシが言うのも何だけどさ、マジでソイツは他の刀と違う。さっき言った魂が全て打ち込まれているような、そんな刀」
「では、高値を付けて売ればいい。刀は使用される事が本分であるはずだ」
「しない。……そりゃ、こんだけの業物なら、贅沢しなきゃ一生暮らせるほどの大金は手に入るだろうし、買い叩かれてはいるけど、あのヴァルブも相当の額を提示してくれてる」
「ではなぜ」
「親父の魂が籠った遺作だもんよ。無神経で親不孝者だったアタシだけど、自分の父親を売れる程、人でなしでもねーって思ってるから」
言っていて気恥ずかしくなったのか、少々顔を赤くしたリンナが「それより!」と胡坐をかく足を叩きながら、クアンタの頭を撫でた。
「さっきのアンタ、スカッとしたよ! あんだけ大の男をぶん投げられるって筋肉スゲーわね? 鍛えてんの?」
「筋肉トレーニングなどの経験はない」
「ほーん、あんだけ暑い場所で金槌振ってたにも関わらず汗一つもかいてねぇし、逸材だよ」
クアンタの背中を叩きながら、何か思いついたように「そーだ」と肩を掴んだリンナ。
「アンタさぁ、帰る家が無いって言ってたけど、求職者かなんか?」
「少々事情があるのだが、今この世に自分が身を寄せる場所がなく、働き口がない事も確かだ」
「じゃあさぁ、アタシの弟子になんなさいよ! 少ないけど給金は出すし、この家に住み込みで飯も用意する! いい条件じゃないかね!?」
数秒、クアンタは目を閉じて思考する。
現状身を寄せる場所が無く、今いるこの地に明るくないクアンタは、元いた世界に帰る方法さえわからぬ状況である。
法律や倫理等に縛られる事なく過ごす事は可能だが、しかし要らぬ問題を生んでしまう事にも繋がってしまう。
であるならば、彼女の申し出を受ける事が何よりも適切ではないか。
そう考えつつも、しかしクアンタは別の理由を以て、その提案に頷いた。
「――私も刀についてもっと知りたい。リンナの弟子になろう」
「うっし、労働力に加えて有望な弟子もゲットぉっ!」
ガッツポーズをして喜ぶリンナ。
だがクアンタは、今自身が言った言葉に、自分自身で驚き、困惑している。
思わぬ想いを口にしてしまった。
それが自分にとっての異常行動であると、彼女は分かっていたが、しかし本心ではある事を認め、訂正する必要は無いと口を紡ぐ。
「? なんかあんま嬉しそうじゃない感じ?」
「いや、先ほどの言葉に偽りはない。気にしないでくれ」
「あ、そ。じゃあクアンタ、アンタはこれからアタシの事、お師匠と呼びなさい!」
「了解した、お師匠」
「お、っほぉ……っ、お師匠って呼ばれるのこんなにキモチいいのねぇ……っ! 最高よ最高っ! ね、もっかい言って!?」
「お師匠」
「やーんメチャクチャ気持ちいいーっ! やっべ、女みたいな声出ちゃった!」
「お師匠は女では」
「女ってのはクアンタみたいなベッピンさんの事を言うの! アタシみたいなガサツな奴は男みたいなモンよ」
「そうか、私も女か」
「何当たり前の事言ってんの? それより、飯にしましょ。クアンタ、アンタ食べたいものある?」
「私に食事は必要ない」
「必要ないわけ無いじゃんよ。んー、まぁ無いなら適当に作っちゃうから、アンタはそこにある箒でも使って軽く掃き掃除でもお願い」
「了解」
「コイツらは、あくまで商売に来てるだけだ。ムカつく奴らではあるけど、アンタみたいなベッピンさんが出る幕じゃねぇ」
「了解、静観する」
すん、とその場で真っすぐ身体を伸ばして立っているだけの、無口な女の存在に、全員が驚きと恐怖によって黙っていたが、しかし数秒ほど時間経過すると「ふん」と鼻を鳴らしながら、ヴァルブが不機嫌そうにした。
「では今回は諦めよう。しかし、その不遜な態度やそこの女の暴行、私の我慢もそろそろ限界だ。次に来た時までにその態度が直っていない場合、分かっているだろうな?」
「このベッピンさんがやった事は謝るけどね、別に悪い事はしてないでしょーよ。アタシの仕事場で勝手な事されちゃ困るから、この子がやってなきゃアタシがアイツの頭カチ割ってたよ」
「いいか。次までにあの刀をしっかりと用意し、何時でも私へ献上する準備を整えておけよ!」
そう言って男たちを引き連れ、リンナの家より立ち去っていく四人の姿を見届けた後、彼女は頭を掻きむしりながら「ムカつく!」と一度叫んだ後、早足で家の中へと入った後、恐らく塩だと思われる白い結晶を周りへ撒いた。
「あーチクショーあの連中マジでしつこいんだから」
「刀の買い手か」
「そーよ。でも欲しがってんのはただの刀じゃなくてねぇ」
そうして気持ちを落ち着かせたのか、ふぅっと息を吐いたリンナが、クアンタの手を取って引き戸の玄関を開け、リンナを中へ招く。
通された畳の居間。日本式の居住と殆ど同じであると記録しつつ、クアンタはリンナがどこからか持ってきた刀を渡されて、首を傾げる。
「これは」
「アタシの親父が遺作として打った刀。名前は無いけど、かなりの業物なの」
「価値がある刀か」
「娘のアタシが言うのも何だけどさ、マジでソイツは他の刀と違う。さっき言った魂が全て打ち込まれているような、そんな刀」
「では、高値を付けて売ればいい。刀は使用される事が本分であるはずだ」
「しない。……そりゃ、こんだけの業物なら、贅沢しなきゃ一生暮らせるほどの大金は手に入るだろうし、買い叩かれてはいるけど、あのヴァルブも相当の額を提示してくれてる」
「ではなぜ」
「親父の魂が籠った遺作だもんよ。無神経で親不孝者だったアタシだけど、自分の父親を売れる程、人でなしでもねーって思ってるから」
言っていて気恥ずかしくなったのか、少々顔を赤くしたリンナが「それより!」と胡坐をかく足を叩きながら、クアンタの頭を撫でた。
「さっきのアンタ、スカッとしたよ! あんだけ大の男をぶん投げられるって筋肉スゲーわね? 鍛えてんの?」
「筋肉トレーニングなどの経験はない」
「ほーん、あんだけ暑い場所で金槌振ってたにも関わらず汗一つもかいてねぇし、逸材だよ」
クアンタの背中を叩きながら、何か思いついたように「そーだ」と肩を掴んだリンナ。
「アンタさぁ、帰る家が無いって言ってたけど、求職者かなんか?」
「少々事情があるのだが、今この世に自分が身を寄せる場所がなく、働き口がない事も確かだ」
「じゃあさぁ、アタシの弟子になんなさいよ! 少ないけど給金は出すし、この家に住み込みで飯も用意する! いい条件じゃないかね!?」
数秒、クアンタは目を閉じて思考する。
現状身を寄せる場所が無く、今いるこの地に明るくないクアンタは、元いた世界に帰る方法さえわからぬ状況である。
法律や倫理等に縛られる事なく過ごす事は可能だが、しかし要らぬ問題を生んでしまう事にも繋がってしまう。
であるならば、彼女の申し出を受ける事が何よりも適切ではないか。
そう考えつつも、しかしクアンタは別の理由を以て、その提案に頷いた。
「――私も刀についてもっと知りたい。リンナの弟子になろう」
「うっし、労働力に加えて有望な弟子もゲットぉっ!」
ガッツポーズをして喜ぶリンナ。
だがクアンタは、今自身が言った言葉に、自分自身で驚き、困惑している。
思わぬ想いを口にしてしまった。
それが自分にとっての異常行動であると、彼女は分かっていたが、しかし本心ではある事を認め、訂正する必要は無いと口を紡ぐ。
「? なんかあんま嬉しそうじゃない感じ?」
「いや、先ほどの言葉に偽りはない。気にしないでくれ」
「あ、そ。じゃあクアンタ、アンタはこれからアタシの事、お師匠と呼びなさい!」
「了解した、お師匠」
「お、っほぉ……っ、お師匠って呼ばれるのこんなにキモチいいのねぇ……っ! 最高よ最高っ! ね、もっかい言って!?」
「お師匠」
「やーんメチャクチャ気持ちいいーっ! やっべ、女みたいな声出ちゃった!」
「お師匠は女では」
「女ってのはクアンタみたいなベッピンさんの事を言うの! アタシみたいなガサツな奴は男みたいなモンよ」
「そうか、私も女か」
「何当たり前の事言ってんの? それより、飯にしましょ。クアンタ、アンタ食べたいものある?」
「私に食事は必要ない」
「必要ないわけ無いじゃんよ。んー、まぁ無いなら適当に作っちゃうから、アンタはそこにある箒でも使って軽く掃き掃除でもお願い」
「了解」
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