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第一章
変身、斬心の魔法少女・クアンタ-03
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「アンタ筋いいわ」
「それは何よりだ」
「あ、一旦止めて」
平らに伸ばされた鋼の真ん中近くで、鉈の様な器具を置いたリンナが「そこに打って」と短く指示を出したので、先ほどと同じ力で金槌を鉈へ向けて振り下ろし、切れ目が入った所でリンナが鉈から金槌に持ち替え、切れ目を入れた部分から折り曲げ、重ねるように調整した事で、平坦に伸ばされていた鋼が再び幅を有した。
鋼を持ち上げたリンナが、脇に備えていた藁灰を鋼に付けた後、均一にかかるように泥を塗る。熱されていた鋼は泥をかけられた事で急激に冷えるが、しかし再び火床に入れられ、熱される。
「もう一回」
「了解」
指示を出される場所に打ち込み、打ち込み、打ち込み……そうして伸ばされた鋼にまた切れ込みを入れ、折り曲げて、塊へと戻し、そして藁灰と泥を塗りたくり、熱して、再び平坦な形になるよう、打つ……そんな事を続けていたら、いつの間にか外は夜。
「おっし、芯鉄はコレで終了。次は皮鉄を作る……って、もうこんな時間か。ベッピンさん、アンタ時間大丈夫? この辺変な奴ウロウロしてっから、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「帰る家がない」
クアンタが正直にそう言うと「マジ?」と驚いた様子のリンナ。彼女は少し考えつつ、そこで「じゃあ」と何か考えついたように提案する。
「今日アンタを泊めたげるから、このまま手伝って。甲伏せまでやっちゃわないと気持ち悪くてね」
「構わない。むしろお願いしたい」
「んじゃ、続けるよ――あ、そうだ。アンタ名前は?」
「クアンタ」
「あんま聞かない名前ね。別の領土から来た感じ?」
「概ねその理解で構わない」
「オマケに変な喋り方。アンタベッピンさんなんだから、もっと可愛らしい言葉使った方がいいんじゃん?」
「それが必要ならばそうしよう」
「……いんや、やっぱアンタはそのまんまでいいと思うよ? アタシもこんな雑把な奴だし、人の事言えねーってね」
ニヒヒと笑うリンナの表情に対して、クアンタは一切表情を変えない。
感情が無い機械のようなクアンタに少々疑問を抱くように首を傾げるも、リンナは先ほどまで打ち込んでいた【芯鉄】ではなく【皮鉄】の材料となる積み上げた鋼を用意する。
「んじゃ、始めるわよ」
積み上げた鋼を火床の中へ投じ、熱していく。
しっかりと内部まで熱が通った事を確認しつつ、打ち込み用の台へ乗せたリンナが、小さな金槌で打ち込む場所を指定しつつ、クアンタが打ち込む寸前に水を熱した鉄にかける事により、金槌が打ち込まれたと同時に発生する小さな水蒸気爆発。
だが、クアンタはそれでも表情一つ変えぬものだから、大層肝の据わった女だ事と思いつつ、続ける。
作業を繰り返して先ほどまでと同じ【折返し】を五回程続けた後、リンナは「こっからはアタシの作業だから休んでな」と言って、藁灰と泥をかけた後に熱される鋼の形を、凹の形へと作って、先ほどの芯鉄にかぶせる形に調整していく。
そんな彼女の行う動作を見逃すわけにはいかないと、良く観察するクアンタに「火傷するよアンタ」と警告しながらも、そうして興味を持ってもらえている事が嬉しかったか、僅かに表情を綻ばす。
「なるほど、皮鉄と芯鉄を合わせる事によって強度を増す製法と言う事か」
「そーいう事。この後薄く延ばして刀の形にしてくけど、今日はここまで」
皮鉄と芯鉄の間に隙間を無くし、何千層と鋼の層を重ねられた一個を、大切に保管するリンナ。
「それにしても助かったよ。アタシ一人だと製作スピード落ちるし、そろそろ機械を導入しようか考えてた所なのよ」
「その方が効率は良いのか」
「勿論。けど人の手で打たれて、刀って奴は初めて魂が宿るって親父から教わってたし、あんま機械に頼りたくなかったのよねぇ」
「魂。それは何だ」
「んー、心みたいなモンかな。それが無いと、刀って奴はただ人を斬る為だけに特化した刃物だからね」
そう言ってリンナがクアンタの手を引き、工房から家まで彼女を連れて行こうとしたが――
「失礼するよ」
随分と煌びやかな格好の男性が、口元にある白い髭を撫でながら、工房へと入って来た。
彼の周りには三人ほど、男と違って布切れ一枚をまとっているような、みすぼらしい格好をした体格のいい男たちを引き連れて続々と工房内へ入り、リンナが睨みつける。
「こらこら。勝手に工房入んなって何度言ったら分かんのよオッサン」
「オッサンではない、ヴァルブ・フォン・リエルティックであると、こちらこそ何度名乗ればいいのかね?」
「は、家名だけで威張っちゃってまぁ。金持ちはだから嫌いなのよ」
「その金持ちに刀を買われる事で生計を立てる鍛冶屋風情が。口の利き方に気を付けろとも、何度も言った筈だぞ」
「ごめんなさいねぇ。アンタと違って、アタシャまともな教育も受けてねぇガキなモンですから。……まぁ、アンタが取り巻きにしてるその辺の貧困街連中よりは、よっぽどマシな生活してるとは思うけど」
リンナの言葉にギロリと睨む三人の男たち。しかし動じることなく小さな金槌を、ヴァルブ・フォン・リエルティックと名乗った男へ向ける。
「あの刀はアンタに譲る気はねぇって、アタシも散々言ったわよね?」
「だからこうして交渉に来ているのだろう? 本来ならば、君の方から『買ってくれ』と商いに来る事が自然である筈なのに、わざわざ何度も足を運んでいるのだ。感謝してほしい」
「売ってる刀は街の美術商に全部流してんだよ。そうじゃねぇのは全部非売品だから、値を積まれたって売ったりしねぇの」
そう二者による会話の最中、一人の男が工房内を「おー、こりゃスゲェ」と言いながらジロジロと見て、作業道具に触れようとした瞬間、クアンタがその手を捻り、工房の外へと放り投げる。
軽く、十メートル程は飛んで行った男を見据え、ヴァルブが「な」と驚くようにして、一歩後ろへと下がった。
「――必要ならば殺すが」
「それは何よりだ」
「あ、一旦止めて」
平らに伸ばされた鋼の真ん中近くで、鉈の様な器具を置いたリンナが「そこに打って」と短く指示を出したので、先ほどと同じ力で金槌を鉈へ向けて振り下ろし、切れ目が入った所でリンナが鉈から金槌に持ち替え、切れ目を入れた部分から折り曲げ、重ねるように調整した事で、平坦に伸ばされていた鋼が再び幅を有した。
鋼を持ち上げたリンナが、脇に備えていた藁灰を鋼に付けた後、均一にかかるように泥を塗る。熱されていた鋼は泥をかけられた事で急激に冷えるが、しかし再び火床に入れられ、熱される。
「もう一回」
「了解」
指示を出される場所に打ち込み、打ち込み、打ち込み……そうして伸ばされた鋼にまた切れ込みを入れ、折り曲げて、塊へと戻し、そして藁灰と泥を塗りたくり、熱して、再び平坦な形になるよう、打つ……そんな事を続けていたら、いつの間にか外は夜。
「おっし、芯鉄はコレで終了。次は皮鉄を作る……って、もうこんな時間か。ベッピンさん、アンタ時間大丈夫? この辺変な奴ウロウロしてっから、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「帰る家がない」
クアンタが正直にそう言うと「マジ?」と驚いた様子のリンナ。彼女は少し考えつつ、そこで「じゃあ」と何か考えついたように提案する。
「今日アンタを泊めたげるから、このまま手伝って。甲伏せまでやっちゃわないと気持ち悪くてね」
「構わない。むしろお願いしたい」
「んじゃ、続けるよ――あ、そうだ。アンタ名前は?」
「クアンタ」
「あんま聞かない名前ね。別の領土から来た感じ?」
「概ねその理解で構わない」
「オマケに変な喋り方。アンタベッピンさんなんだから、もっと可愛らしい言葉使った方がいいんじゃん?」
「それが必要ならばそうしよう」
「……いんや、やっぱアンタはそのまんまでいいと思うよ? アタシもこんな雑把な奴だし、人の事言えねーってね」
ニヒヒと笑うリンナの表情に対して、クアンタは一切表情を変えない。
感情が無い機械のようなクアンタに少々疑問を抱くように首を傾げるも、リンナは先ほどまで打ち込んでいた【芯鉄】ではなく【皮鉄】の材料となる積み上げた鋼を用意する。
「んじゃ、始めるわよ」
積み上げた鋼を火床の中へ投じ、熱していく。
しっかりと内部まで熱が通った事を確認しつつ、打ち込み用の台へ乗せたリンナが、小さな金槌で打ち込む場所を指定しつつ、クアンタが打ち込む寸前に水を熱した鉄にかける事により、金槌が打ち込まれたと同時に発生する小さな水蒸気爆発。
だが、クアンタはそれでも表情一つ変えぬものだから、大層肝の据わった女だ事と思いつつ、続ける。
作業を繰り返して先ほどまでと同じ【折返し】を五回程続けた後、リンナは「こっからはアタシの作業だから休んでな」と言って、藁灰と泥をかけた後に熱される鋼の形を、凹の形へと作って、先ほどの芯鉄にかぶせる形に調整していく。
そんな彼女の行う動作を見逃すわけにはいかないと、良く観察するクアンタに「火傷するよアンタ」と警告しながらも、そうして興味を持ってもらえている事が嬉しかったか、僅かに表情を綻ばす。
「なるほど、皮鉄と芯鉄を合わせる事によって強度を増す製法と言う事か」
「そーいう事。この後薄く延ばして刀の形にしてくけど、今日はここまで」
皮鉄と芯鉄の間に隙間を無くし、何千層と鋼の層を重ねられた一個を、大切に保管するリンナ。
「それにしても助かったよ。アタシ一人だと製作スピード落ちるし、そろそろ機械を導入しようか考えてた所なのよ」
「その方が効率は良いのか」
「勿論。けど人の手で打たれて、刀って奴は初めて魂が宿るって親父から教わってたし、あんま機械に頼りたくなかったのよねぇ」
「魂。それは何だ」
「んー、心みたいなモンかな。それが無いと、刀って奴はただ人を斬る為だけに特化した刃物だからね」
そう言ってリンナがクアンタの手を引き、工房から家まで彼女を連れて行こうとしたが――
「失礼するよ」
随分と煌びやかな格好の男性が、口元にある白い髭を撫でながら、工房へと入って来た。
彼の周りには三人ほど、男と違って布切れ一枚をまとっているような、みすぼらしい格好をした体格のいい男たちを引き連れて続々と工房内へ入り、リンナが睨みつける。
「こらこら。勝手に工房入んなって何度言ったら分かんのよオッサン」
「オッサンではない、ヴァルブ・フォン・リエルティックであると、こちらこそ何度名乗ればいいのかね?」
「は、家名だけで威張っちゃってまぁ。金持ちはだから嫌いなのよ」
「その金持ちに刀を買われる事で生計を立てる鍛冶屋風情が。口の利き方に気を付けろとも、何度も言った筈だぞ」
「ごめんなさいねぇ。アンタと違って、アタシャまともな教育も受けてねぇガキなモンですから。……まぁ、アンタが取り巻きにしてるその辺の貧困街連中よりは、よっぽどマシな生活してるとは思うけど」
リンナの言葉にギロリと睨む三人の男たち。しかし動じることなく小さな金槌を、ヴァルブ・フォン・リエルティックと名乗った男へ向ける。
「あの刀はアンタに譲る気はねぇって、アタシも散々言ったわよね?」
「だからこうして交渉に来ているのだろう? 本来ならば、君の方から『買ってくれ』と商いに来る事が自然である筈なのに、わざわざ何度も足を運んでいるのだ。感謝してほしい」
「売ってる刀は街の美術商に全部流してんだよ。そうじゃねぇのは全部非売品だから、値を積まれたって売ったりしねぇの」
そう二者による会話の最中、一人の男が工房内を「おー、こりゃスゲェ」と言いながらジロジロと見て、作業道具に触れようとした瞬間、クアンタがその手を捻り、工房の外へと放り投げる。
軽く、十メートル程は飛んで行った男を見据え、ヴァルブが「な」と驚くようにして、一歩後ろへと下がった。
「――必要ならば殺すが」
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