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第一章
変身、斬心の魔法少女・クアンタ-06
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「クアンタ、お使いを頼まれてくんない?」
散歩から戻ったクアンタが「おかえり」より前にリンナから言われた言葉がそれであった。
「お使い。代理の買物という意味で構わないか」
「そそ。ジャガルモが思ったより無くてねぇ、市場、まだやってる所あると思うから買ってきて欲しいんよ」
一クルス札を財布から取り出したリンナへ「ジャガルモとはジャガイモの事で構わないだろうか」と問い、彼女は「それなんじゃない?」と適当な答えを述べた。
「アタシも別の領地とかでなんて呼ばれてるかなんかわかんないからさァ、ひとまず店主にジャガルモって言えば分かるっしょ。多分袋詰めで六十パルト位だと思うから、お釣りは好きにしていいよ?」
「了解した」
「あー……大丈夫だとは思うけど、夜盗とか賊とかに気を付けなよ?」
「そほど物騒な地には思えないが」
「最近は色々と皇国軍も警兵隊連中もシドニア領主の警護やら何やらに回されてっから、それを好機と見てる危ない連中が多いの。アタシはともかく、アンタは綺麗な女の子なんだから強姦とかにも気を付けて、ちゃんと人の通りが多い場所を通って自衛する事」
「了解した」
平屋の扉を開け、そのまま坂を下るようにしてエパリスへと向かう道すがら、クアンタは思考回路を稼働させる。
「私はリンナの元へと行く最中、二十人の人間とぶつかり、断片的にではあるが様々な情報を接触回線でダウンロードしたつもりであった」
思考を言葉にすれば誤りにも気付ける可能性もある。彼女は現地語でわざわざ語りながら、しかし歩む足を止める事は無い。
「リンナの言動からして、この世界に魔術や錬金術、剣技と呼ばれる技術が発展している事は間違いないと思われる。仮に食料保存庫が一般に流通していない物としても、その存在自体を仮にも首都であるエパリスを生活の場とする者が知らぬ、というのは少し考え辛い」
クアンタは元々、人間との接触による脳内情報のダウンロードが可能な存在である。確かに接触時間が長ければ長い程取得できる情報に差は発生するが、しかし二十人に触れて二十人が全員、この世界特有の技術に疎い事はあまり考えられぬ。
必然的に、彼女の持つ能力に、制限が掛かっているとしか考えられなかった。
胸元に触れ、歩きながらも目を閉じた彼女は、自身の中にある【力】を認識する。
「問題ない。私は元々地球人類ですらない。
仮に今後生きていく場をここと定めても、必要最低限の生活を続けるには何ら困る事は無い。
リンナというお師匠も得る事が出来た。彼女は勉強を教えると手を挙げてくれた。それで生活の基盤は整ったとも言えるだろう」
なのに、と。
クアンタは、意識せず言葉を繋げてしまう。
「私は、恐怖しているのだろうか?
本来私には――感情など、無いはずなのに」
**
クアンタが家を出て、三十分ほどの時間が経過した。
既に白米もムソ汁も作り終え、今はお使いに出てくれた彼女が屋台にジャガルモの袋詰めを購入してくれれば、鶏肉と野菜、そしてジャガルモを炒めた簡単な炒め物を作る事が出来る。
居間へ先に白米とムソ汁を並べ、虫がたからない様に折り畳み式の蠅帳で覆い、先ほど彼女へと見せた父の遺作をしまう為に掴んだ、その時だ。
ガララと、家の扉が開く音が聞こえた。
首を傾げ、もうクアンタが帰って来たのか、それとも道や品が分からず帰って来たという事も考えられたので、玄関まで出迎えに行く。
「クアンタ、早かったね。大丈――、ッ!?」
玄関にいた人物は、クアンタでは無かった。
計四人の男、その内の一人はヴァルブ・フォン・リエルティックだ。彼は偉そうにふんぞり返りながら「失礼するよ」と、今日一度訪れた時と同じ言葉でリンナへ挨拶した。
問題は、靴も脱がずに土足で上がり込む彼へ続いた、三人の護衛ともいうべき男たちだ。
一時間半程前に訪れた者達とは違う三人だったが、格好自体は似たり寄ったり。大方貧困街に住む者達を雇い、こうした荒事で使っているのだろうとは分かっているが――しかし、問題は腰に据える剣だ。
バスタードソード。刀の様に棟は無く、両面を刃とした剣の一種。両手でも片手でも扱える事から、現在はレアルタ皇国軍や警備兵士組織で制式採用されている。
一応、自衛目的と言う事であれば、一般人が所有していても、問題はない。
無いのだが――しかし、女一人が住まう家に、三人の男が剣を腰に構えて予定もない来訪となれば、穏やかではあるまい。
「……何の用さ」
「商いだよ。分かるだろう? そして君も、それを今この場に用意してくれているという事は、譲ってくれる気になった、という事でいいのかね?」
「ハッ、冗談じゃない。アンタこそ自分のやってる事、分かってる? これが立派な強盗で、アタシが警備兵の所にでも逃げ込んだらアンタの人生が終わるんだって。今このシドニア領を統べる第一皇子様は、随分と治安維持にご執心って聞いてるケド?」
「むぅ、それは確かに困る。だが私はあくまで商いに来ているだけだろう? ほら、ただの強盗ならば君と会話をする必要も無く、ただ殺し、奪うだけである筈が、こうして君へ譲ってくれと願い出ている。なぁ」
「へへ、そうでございますねぇ、旦那ぁ」
卑下た笑みを浮かべる三人は、チラチラとリンナへ剣を見せつけるように、しかし今は抜く気が無いとしている。
「何度も言うけど、この刀は売る気も、譲る気もねぇ。話はそんだけか?」
鼻で笑いながら、リンナは「帰んな」とだけ言って、背を見せた。
「……やれ」
「へい」
散歩から戻ったクアンタが「おかえり」より前にリンナから言われた言葉がそれであった。
「お使い。代理の買物という意味で構わないか」
「そそ。ジャガルモが思ったより無くてねぇ、市場、まだやってる所あると思うから買ってきて欲しいんよ」
一クルス札を財布から取り出したリンナへ「ジャガルモとはジャガイモの事で構わないだろうか」と問い、彼女は「それなんじゃない?」と適当な答えを述べた。
「アタシも別の領地とかでなんて呼ばれてるかなんかわかんないからさァ、ひとまず店主にジャガルモって言えば分かるっしょ。多分袋詰めで六十パルト位だと思うから、お釣りは好きにしていいよ?」
「了解した」
「あー……大丈夫だとは思うけど、夜盗とか賊とかに気を付けなよ?」
「そほど物騒な地には思えないが」
「最近は色々と皇国軍も警兵隊連中もシドニア領主の警護やら何やらに回されてっから、それを好機と見てる危ない連中が多いの。アタシはともかく、アンタは綺麗な女の子なんだから強姦とかにも気を付けて、ちゃんと人の通りが多い場所を通って自衛する事」
「了解した」
平屋の扉を開け、そのまま坂を下るようにしてエパリスへと向かう道すがら、クアンタは思考回路を稼働させる。
「私はリンナの元へと行く最中、二十人の人間とぶつかり、断片的にではあるが様々な情報を接触回線でダウンロードしたつもりであった」
思考を言葉にすれば誤りにも気付ける可能性もある。彼女は現地語でわざわざ語りながら、しかし歩む足を止める事は無い。
「リンナの言動からして、この世界に魔術や錬金術、剣技と呼ばれる技術が発展している事は間違いないと思われる。仮に食料保存庫が一般に流通していない物としても、その存在自体を仮にも首都であるエパリスを生活の場とする者が知らぬ、というのは少し考え辛い」
クアンタは元々、人間との接触による脳内情報のダウンロードが可能な存在である。確かに接触時間が長ければ長い程取得できる情報に差は発生するが、しかし二十人に触れて二十人が全員、この世界特有の技術に疎い事はあまり考えられぬ。
必然的に、彼女の持つ能力に、制限が掛かっているとしか考えられなかった。
胸元に触れ、歩きながらも目を閉じた彼女は、自身の中にある【力】を認識する。
「問題ない。私は元々地球人類ですらない。
仮に今後生きていく場をここと定めても、必要最低限の生活を続けるには何ら困る事は無い。
リンナというお師匠も得る事が出来た。彼女は勉強を教えると手を挙げてくれた。それで生活の基盤は整ったとも言えるだろう」
なのに、と。
クアンタは、意識せず言葉を繋げてしまう。
「私は、恐怖しているのだろうか?
本来私には――感情など、無いはずなのに」
**
クアンタが家を出て、三十分ほどの時間が経過した。
既に白米もムソ汁も作り終え、今はお使いに出てくれた彼女が屋台にジャガルモの袋詰めを購入してくれれば、鶏肉と野菜、そしてジャガルモを炒めた簡単な炒め物を作る事が出来る。
居間へ先に白米とムソ汁を並べ、虫がたからない様に折り畳み式の蠅帳で覆い、先ほど彼女へと見せた父の遺作をしまう為に掴んだ、その時だ。
ガララと、家の扉が開く音が聞こえた。
首を傾げ、もうクアンタが帰って来たのか、それとも道や品が分からず帰って来たという事も考えられたので、玄関まで出迎えに行く。
「クアンタ、早かったね。大丈――、ッ!?」
玄関にいた人物は、クアンタでは無かった。
計四人の男、その内の一人はヴァルブ・フォン・リエルティックだ。彼は偉そうにふんぞり返りながら「失礼するよ」と、今日一度訪れた時と同じ言葉でリンナへ挨拶した。
問題は、靴も脱がずに土足で上がり込む彼へ続いた、三人の護衛ともいうべき男たちだ。
一時間半程前に訪れた者達とは違う三人だったが、格好自体は似たり寄ったり。大方貧困街に住む者達を雇い、こうした荒事で使っているのだろうとは分かっているが――しかし、問題は腰に据える剣だ。
バスタードソード。刀の様に棟は無く、両面を刃とした剣の一種。両手でも片手でも扱える事から、現在はレアルタ皇国軍や警備兵士組織で制式採用されている。
一応、自衛目的と言う事であれば、一般人が所有していても、問題はない。
無いのだが――しかし、女一人が住まう家に、三人の男が剣を腰に構えて予定もない来訪となれば、穏やかではあるまい。
「……何の用さ」
「商いだよ。分かるだろう? そして君も、それを今この場に用意してくれているという事は、譲ってくれる気になった、という事でいいのかね?」
「ハッ、冗談じゃない。アンタこそ自分のやってる事、分かってる? これが立派な強盗で、アタシが警備兵の所にでも逃げ込んだらアンタの人生が終わるんだって。今このシドニア領を統べる第一皇子様は、随分と治安維持にご執心って聞いてるケド?」
「むぅ、それは確かに困る。だが私はあくまで商いに来ているだけだろう? ほら、ただの強盗ならば君と会話をする必要も無く、ただ殺し、奪うだけである筈が、こうして君へ譲ってくれと願い出ている。なぁ」
「へへ、そうでございますねぇ、旦那ぁ」
卑下た笑みを浮かべる三人は、チラチラとリンナへ剣を見せつけるように、しかし今は抜く気が無いとしている。
「何度も言うけど、この刀は売る気も、譲る気もねぇ。話はそんだけか?」
鼻で笑いながら、リンナは「帰んな」とだけ言って、背を見せた。
「……やれ」
「へい」
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