魔法少女の異世界刀匠生活

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第一章

変身、斬心の魔法少女・クアンタ-10

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「い……イヤ……っ、クアンタ、クアンタァッ!!」


 生きている筈がない。脳天を撃たれ、貫通までしているというのに、生きている筈が無い。

  それでもリンナはクアンタの身体を揺さぶり、起きてくれと、死なないでくれと願い、涙を流しながら、みっともなく乞う。


 ――自分のイザコザで、一人の少女が、自分の弟子が死んだ等と、思いたくも無いのだ。


「ふ、ふん……っ、ば、バカな女だ。抵抗しなければ、殺される事は無かったのに……っ」


 そしてヴァルブも、自分の撃った銃弾で人を殺めてしまった事に対する罪悪感と、恐怖心があったのだろう。

 もしかしたら衝撃によって命中精度が低くなりやすいフリントロック式の銃弾が当たると考えていなかったのかもしれない。

  自分を正当化するように放った声は震え、その両足も膝が笑っていた。


「リ、リンナ! これで、私に逆らうという事が、どういう事か分かっただろう!? さぁ、刀を私に寄越せ! 寄越すんだっ!」


 早く言葉から離れてしまいたいと考えるヴァルブの焦りが分かるようだったけれど、リンナは既に彼の言葉など聞いていない。

 抱き寄せる彼女の体温を感じるように、ギュッと、力を籠め、命の別れを惜しむように、頬ずりをした。
  

  ヴァルブは焦りながら舌打ちし、刀を奪おうと彼女へと近づく。


 ――その時、クアンタは目を開き、ヴァルブの足を取り、引っ張って、彼の尻を地面に落とした。


「ごぅ」


 勢いよく尻餅をついた彼のうめき声を聞きながら、クアンタはゆっくりと立ち上がり、後頭部から貫通して額に開いている穴に触れる。


「痛覚も、無い筈なのだが……痛みというモノを感じた。人間の体とは不便なモノだな」

「ひ……ひぃいっ!? バ、バケモノぉ……っ!?」

「バケモノではない。――私の名は斬心の魔法少女・クアンタだ。覚えておけ」


 身体を恐怖で震わせ、慌てながらもその場から逃げだしていくヴァルブを見届けたクアンタは、今一度傷口に触れた。

  彼女が手を傷口から離した瞬間――脳天に出来ていた傷は塞がり、ケロリとした態度で気絶させた三人を庭へ乱雑に並べると「お師匠、縄か何かを用意してくれ」と、まるで何事も無かったかのように言うので、リンナはクアンタへと駆け寄り、まくしたてる。


「ア、アアアア、アンタ一体何者ッ!? 何か変な格好にはなるし、ゴルタナ装着した男を三人のしちゃうし、果ては脳天撃たれても死なない、アンタホントに人間!? マホーショージョとか言ってたけどアレ何語よ!? んもぅ、何が何なのか教えて頂戴なっ」

「後で説明する。まずはコイツらを警備兵士組織とやらに突き出し、私達の無実を証言して貰わねば困るだろう。ヴァルブは取り逃がしたが、まぁ問題は無い」

「問題大有りよおぉっ!? もう、ホント――何なのよ一体ィイイイッ!!」


 リンナの叫びは、ミルガス中に響き渡った。
  
  
   **
  
  
  ヴァルブは走る。我武者羅に、足を止めれば死ぬと、女の形をしたバケモノに殺されると、必死に震えて上手く走れぬ足を動かすようにして、自分の住まう屋敷まで逃げ帰る。

  扉を乱雑に開け、すぐに閉じ、荒げた息を整えながら、扉に背を付けたまま、座り込む。

  何事かと屋敷で働く従者が数人寄って来たが、それを「下がれ、下がれっ」と叫ぶ事で遠ざけ、彼ら彼女らからも逃げるように、執務室へと急ぐ。


  これは夢だ。恐ろしい夢なのだと。

  早く温かなベッドに入り、眠ってしまおうと、自室へと繋がる執務室の扉を、開けた。

  
「やぁ、ヴァルブ・フォン・リエルティック」


 男の声が聞こえた。

 澄んだ綺麗な声。決して高くはないが、聞き取りやすく人を決して刺激しない柔らかな声色に。

 ヴァルブは顔をあげ、声を発した男の姿を、見据えた。


 来客用のソファに腰かけながら、優雅に紅茶のカップに口をつけ、音を立てる事無く飲む姿には、確かな気品を感じる。

 その綺麗な金髪と端正な顔立ち、何より白を基本色とした皺一つ、汚れ一つ無い王服を着こなした男は、従者にカップを預けた上で立ち上がり、ヴァルブへ笑みを浮かべたその男は――


「シ……シドニア、第一皇子……っ、い、いつ、こちらへ……!?」

「ついさっきだよ。君へお願いしていた、刀の件なのだが」

「そ、それが、それがですね!? しゅ、首都の外れに、リンナという刀匠がおりまして、彼女の持つ名刀を譲って頂く予定でして……っ」

「それは伺っているよ。ただ、その期限が明日までだと思ってね。もし難しいようならば期限を延ばす事も出来るが……君は何故、それほどまでに焦っているのかな?」


 カツカツと、足音を鳴らしながらヴァルブへと近づく男に、彼は息を呑みながら「い、いえ……っ」と声を漏らす。


「き、期限に関しましては、勝手なお願いとなってしまいますが、もう少し頂ければと、考えております。な、何分、気難しい刀匠でして、私も交渉に手間取っており」

「いや、構わないよ。君の交渉術は知っているし、それで尚相手が渋るというならば相当に気難しいのだろうさ。では期限を一週間延ばすとしよう」

「あ、ありがとうございます。必ず、シドニア様にもご納得いただける一刀を、用意致します」

「期待しているよ」


 では、と軽く頭を下げた男――シドニアという青年は、扉を開けた従者に礼を言いつつ扉をくぐるが、しかし足を止めた。


「ああ、そうだ。……失礼ながら、在庫数を少々確認したのだが、旧型のゴルタナ三丁と、古い小銃が一丁無いようだが、帳簿ミスかな?」

「そ、それは――ええ、恐らく帳簿ミスかと、思われます、はい」

「リエルティック商会は父上の時から懇意にしている。今後も是非にとは考えるが、小さなミスの積み重ねが大きな失敗に繋がる事もあり、それが信用に関わる事もあると、覚えておきたまえ」

「た、大変申し訳ございません! 肝に銘じます……っ」


 笑みを浮かべながら去っていくシドニアを見届けた後、ヴァルブは足を崩して床に倒れ込み、乾いた声で「もう、駄目だ……おしまいだ……!」と漏らしていく。
  

  シドニアはヴァルブ邸に停めていた馬車に乗り込み、ミルガスの端に存在するリンナ刀工鍛冶場の方角を見据え、小さく呟いた。


「……面白い事になりそうだな」


 この男こそ。


 シドニア領を統べる、レアルタ皇国第一皇子――シドニア・ヴ・レ・レアルタである。
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