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第二章
シドニア・ヴ・レ・レアルター01
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「我々フォーリナーが太陽系第三惑星・地球を見つけ出したのは三千年前の事だった。
その星は他の惑星とは異なり、有機生命体【人間】と呼ばれる種が数多の生命を管理し、その上で生存を果たしていた。
我々、流体金属生命体【フォーリナー】は人間とは異なり、所謂一つの主となる個体が存在。その存在を分離させる事によって手足とする。
そうして手足である兵を数多の星々へと送り、生命体のある星へと辿り着いてはデータを収集、場合によっては同胞として迎え入れる事によって技術を発展させてきた、人間からすれば外宇宙生命体と言うべき存在だ。
私が降り立った時、地球は観測した時より圧倒的な進化を遂げていたと言っても過言ではない。
勿論、人間に近しい有機生命は他にも存在したが、有機生命として多様な形を保ちつつ、発展を遂げて来た種族は少ない。
多くは個と個による共存が出来ずに絶滅に瀕するか、個である事を無駄と認識した者達が集合して一つとなる『全の一』――【根源化】と呼ばれる進化を遂げるのだが、地球人類はそうしてまとまる事無く、散見する個の存在を許容していた。
大変興味深いと感じたフォーリナー本体は、地球への進行を一時停止する事を決定。地球への侵攻を進めていた我々へ静観するよう命令を下した。私の他にも何体かが、監視の名目上、地球へと降り立った。
私が降り立った場所は、日本と言う辺境の島国で、その中でも私達フォーリナーが活動する際に必要な虚力というエネルギーが潤沢に存在する秋音市」
「クアンタ」
「なんだお師匠」
「長い」
「そうか。では簡潔にまとめるとしよう」
「そうして」
「私は【フォーリナー】という宇宙人だ」
「……うん」
「地球と言う星へ侵略しに行ったが、思いの外面白い生態だったので、観察する為に地球で待機を命じられた」
「うん」
「そこで神さまを名乗る女に捕まった」
「………………うん?」
「魔法少女へと変身する魔法少女システム――マジカリング・デバイスの試作試験の為に利用された」
「……うん」
「気付いたらミルガスにいた」
「うん? ……うん」
「これが私の全貌だ。分かって頂けただろうか、お師匠」
「わかんねぇ。もっと詳細に説明しろっつの」
「理不尽とはこの事か」
「んー、まぁでも何となくわかった。アンタは普通の人じゃなくって、その流体金属ってのを固めて出来た宇宙人って事ね」
「概ねその通り。この体は元々秋音市で活動する為に、そこに住まう女性の体を模倣したものだ。
我々フォーリナーは流体金属を自在に変形させる事によって形を変える事が出来る為、地球社会への潜入は容易だった」
「だから、あのヴァルブの野郎に撃たれても死ななかった。そもそも撃たれて身体が砕けようが元々流体的な金属だから……って事ね」
「理解が早くて助かる、お師匠」
「いやマジであったま痛いわぁ……ッ」
既に冷めている食事に手を付ける事無く、リンナとクアンタは本日起こった出来事をまとめていた。
まずは本日起こったヴァルブ・フォン・リエルティックによる襲撃事件は、概ね問題なく処理が終了した。
捕らえた貧困街出身の三人を警備兵士に突き出し、その装備していたゴルタナ及びバスタードソードという証拠があった事、三人にはリンナとクアンタが無実であると証言するように説得(きょうはく)した為、賊として捕らえられたが、男たちは最後までヴァルブの名は出さず、またあえてリンナも彼の名を出さなかった。
これには一応「こちらは穏便に済ませる準備がある」という意思表示であり、ヴァルブが次に何かを愚策したら今度こそただでは済まさないという無言の圧力を与える為のもの、とリンナは言った。
「あのヴァルブ・フォン・リエルティックは武器の流通・管理を行う商人であるから、主な買い手である警兵隊や皇国軍での評価が下落するような事態は避けたいと思われるし、何よりあの三人が装備していたゴルタナの所有者がヴァルブだと判明すればそれだけで奴は終わる、という事だな」
「まぁ自衛手段の為に旧型のゴルタナは使用許可が出る場合もあるらしいけど、今回の場合は完全に賊のやり方だからねぇ。
それを揉み消す事が出来なければアイツは終わり、もし出来たとしてもアタシらが何でそれを言わないのか、奴は訝しむ筈さね。
……ていうか、そもそもアンタみたいなバケモノにまた狙われるかもって考えたら、自分の事だけ揉み消して大人しくするっしょ」
勿論ヴァルブが性懲りもなく刀を狙い、また襲撃を仕掛けてくる可能性自体は否定が出来ない。
その為、警兵には周辺地域の治安維持を目的とした見回りを徹底するようにお願いして、彼らもそれを呑んだ。
「だが、たかが一市民でしかないお師匠の要望をよく呑んだな」
「んーそこ説明ちょっとムズイなぁ……じゃあまず前提として、元々レアルタ皇国って独裁政治国だったんだけど、前皇帝陛下が亡くなって後継者問題が発生してからは混乱を避ける為に、五つに分断してる領土を五人の皇子・皇女がそれぞれの方法で統治をしてんのは知ってる?」
「五つに分けられている領地が存在し、それぞれが独立した政治運営によって成り立っているという知識は有している」
「その内の一つがここのシドニア領土。一応領主としてシドニア様がトップにはいるけど、その政治運営を行っているのは選挙によって選ばれた七人の政治家と、各関係省庁の官僚ね」
「独裁国家から民主主義国家となった、という事か」
「んでんで、基本『領主としての』シドニア様は政治運営に口出しはしない。そうしちゃうとあくまで主権がシドニア様にあるって事になっちゃうから。あの人はあくまで象徴であり、全ての責任を取る為の御方、なんだってさ」
「日本における天皇制が近いのか」
「テンノーって何かわかんないけど、象徴として担ぎ上げられてる王様って事なら近いんじゃね?」
その星は他の惑星とは異なり、有機生命体【人間】と呼ばれる種が数多の生命を管理し、その上で生存を果たしていた。
我々、流体金属生命体【フォーリナー】は人間とは異なり、所謂一つの主となる個体が存在。その存在を分離させる事によって手足とする。
そうして手足である兵を数多の星々へと送り、生命体のある星へと辿り着いてはデータを収集、場合によっては同胞として迎え入れる事によって技術を発展させてきた、人間からすれば外宇宙生命体と言うべき存在だ。
私が降り立った時、地球は観測した時より圧倒的な進化を遂げていたと言っても過言ではない。
勿論、人間に近しい有機生命は他にも存在したが、有機生命として多様な形を保ちつつ、発展を遂げて来た種族は少ない。
多くは個と個による共存が出来ずに絶滅に瀕するか、個である事を無駄と認識した者達が集合して一つとなる『全の一』――【根源化】と呼ばれる進化を遂げるのだが、地球人類はそうしてまとまる事無く、散見する個の存在を許容していた。
大変興味深いと感じたフォーリナー本体は、地球への進行を一時停止する事を決定。地球への侵攻を進めていた我々へ静観するよう命令を下した。私の他にも何体かが、監視の名目上、地球へと降り立った。
私が降り立った場所は、日本と言う辺境の島国で、その中でも私達フォーリナーが活動する際に必要な虚力というエネルギーが潤沢に存在する秋音市」
「クアンタ」
「なんだお師匠」
「長い」
「そうか。では簡潔にまとめるとしよう」
「そうして」
「私は【フォーリナー】という宇宙人だ」
「……うん」
「地球と言う星へ侵略しに行ったが、思いの外面白い生態だったので、観察する為に地球で待機を命じられた」
「うん」
「そこで神さまを名乗る女に捕まった」
「………………うん?」
「魔法少女へと変身する魔法少女システム――マジカリング・デバイスの試作試験の為に利用された」
「……うん」
「気付いたらミルガスにいた」
「うん? ……うん」
「これが私の全貌だ。分かって頂けただろうか、お師匠」
「わかんねぇ。もっと詳細に説明しろっつの」
「理不尽とはこの事か」
「んー、まぁでも何となくわかった。アンタは普通の人じゃなくって、その流体金属ってのを固めて出来た宇宙人って事ね」
「概ねその通り。この体は元々秋音市で活動する為に、そこに住まう女性の体を模倣したものだ。
我々フォーリナーは流体金属を自在に変形させる事によって形を変える事が出来る為、地球社会への潜入は容易だった」
「だから、あのヴァルブの野郎に撃たれても死ななかった。そもそも撃たれて身体が砕けようが元々流体的な金属だから……って事ね」
「理解が早くて助かる、お師匠」
「いやマジであったま痛いわぁ……ッ」
既に冷めている食事に手を付ける事無く、リンナとクアンタは本日起こった出来事をまとめていた。
まずは本日起こったヴァルブ・フォン・リエルティックによる襲撃事件は、概ね問題なく処理が終了した。
捕らえた貧困街出身の三人を警備兵士に突き出し、その装備していたゴルタナ及びバスタードソードという証拠があった事、三人にはリンナとクアンタが無実であると証言するように説得(きょうはく)した為、賊として捕らえられたが、男たちは最後までヴァルブの名は出さず、またあえてリンナも彼の名を出さなかった。
これには一応「こちらは穏便に済ませる準備がある」という意思表示であり、ヴァルブが次に何かを愚策したら今度こそただでは済まさないという無言の圧力を与える為のもの、とリンナは言った。
「あのヴァルブ・フォン・リエルティックは武器の流通・管理を行う商人であるから、主な買い手である警兵隊や皇国軍での評価が下落するような事態は避けたいと思われるし、何よりあの三人が装備していたゴルタナの所有者がヴァルブだと判明すればそれだけで奴は終わる、という事だな」
「まぁ自衛手段の為に旧型のゴルタナは使用許可が出る場合もあるらしいけど、今回の場合は完全に賊のやり方だからねぇ。
それを揉み消す事が出来なければアイツは終わり、もし出来たとしてもアタシらが何でそれを言わないのか、奴は訝しむ筈さね。
……ていうか、そもそもアンタみたいなバケモノにまた狙われるかもって考えたら、自分の事だけ揉み消して大人しくするっしょ」
勿論ヴァルブが性懲りもなく刀を狙い、また襲撃を仕掛けてくる可能性自体は否定が出来ない。
その為、警兵には周辺地域の治安維持を目的とした見回りを徹底するようにお願いして、彼らもそれを呑んだ。
「だが、たかが一市民でしかないお師匠の要望をよく呑んだな」
「んーそこ説明ちょっとムズイなぁ……じゃあまず前提として、元々レアルタ皇国って独裁政治国だったんだけど、前皇帝陛下が亡くなって後継者問題が発生してからは混乱を避ける為に、五つに分断してる領土を五人の皇子・皇女がそれぞれの方法で統治をしてんのは知ってる?」
「五つに分けられている領地が存在し、それぞれが独立した政治運営によって成り立っているという知識は有している」
「その内の一つがここのシドニア領土。一応領主としてシドニア様がトップにはいるけど、その政治運営を行っているのは選挙によって選ばれた七人の政治家と、各関係省庁の官僚ね」
「独裁国家から民主主義国家となった、という事か」
「んでんで、基本『領主としての』シドニア様は政治運営に口出しはしない。そうしちゃうとあくまで主権がシドニア様にあるって事になっちゃうから。あの人はあくまで象徴であり、全ての責任を取る為の御方、なんだってさ」
「日本における天皇制が近いのか」
「テンノーって何かわかんないけど、象徴として担ぎ上げられてる王様って事なら近いんじゃね?」
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