魔法少女の異世界刀匠生活

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第二章

シドニア・ヴ・レ・レアルター06

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 一体一体が木々の間を抜けるように歩んでいるのと同じく、サーニスもその足を疾く動かしたまま、レイピアを抜き放ち、一体の影に向けて突き付ける。

  それまでのゆったりとした動きがまるで演技であったかのようにヒラリと避ける影だったが、しかしそれを見切っていたかのように振り切ったレイピアの細い剣に殴打され、僅かに姿勢を崩す。

  その隙を狙い、左手の掌底を影の顔面目掛けて振り込み、元より姿勢を崩していた身体を更に地面へ倒れさせようとしていたが、落ちるより前に胸を貫く細剣。

  一瞬で刺し、抜き、胸ポケットに備えていたクロスで拭うと、サーニスは残る二体に向けて再び駆けだした。

  今度は二体の影が同時にその腕部を振り切り、近くの木を薙ぎ倒す。ギチギチと音を立てながら、殴打によって折れていく木々に隠れるようにしたサーニスは、懐から黒いキューブ状の塊を取り出す。


「ゴルタナ、起動」


 声と共に、溶けるようにしたキューブ――ゴルタナ。

  それは先日の浮浪者達と同じく彼の身体を覆っていくが、しかし細部が異なっているように思えた。

  先日のゴルタナは顔面を含めた頭部は覆わない仕組みであったのに、サーニスが装着したゴルタナはその肌を一切見せぬ、漆黒の鎧にも似た重装甲。


  しかし見た目に反して、動きは先ほどよりも数倍早い。


  駆けてくる影が対応できぬ程のスピードで懐まで潜り込んだサーニスが、一瞬の内に二突きを正確に影の頭部へと刺し込んだ。

  三体の影は痛みに足掻くようにしていたが、しかし力が抜けると同時にその身体として構成する影を塵へと変え、消えていく。

  彼は「状況終了」と声を吹き込むと、展開された鎧が溶け、逆算するように先ほどまでのキューブ状へと形を戻し、最後には宙に舞った所を、サーニスがキャッチし、懐へ仕舞い直した。


「シドニア様、お待たせいたしました」

「流石の手際だ。休んでくれ」

「はっ」


 数歩、シドニアから離れた位置に立って両足を肩幅分程開き、手を後ろで組んで姿勢を正す。


「先ほどの影は」

「正体は分かっていない。ここ数週間程前から、ブリジステ諸島全土で発生報告が上がっており、私とサーニスも既に何体か討伐をしている。魔術師の姉はアレを【災い】と呼んでいるようだがな」


 簡単に明かすシドニアに、サーニスが「シドニア様」と名を呼んで止めようとするも「目撃者には知る権利がある」と断定し、彼を黙らせる。


「災い、ですか」

「姉曰く、古い伝承に残っていた『太古より存在する、世界に災厄をもたらす存在』という事らしい。現状は人通りの少ない場所で、少数の人間を襲う様に行動している為、一般領民には存在が隠匿されている」

「公表の予定は」

「何も詳細がわからぬ状況での公表は、却ってパニックを生みかねない。戦闘能力としては低い存在であるから、各地皇国軍と警兵隊の警戒を強め、今後は皇国軍だけでなく警兵隊にも最新鋭のゴルタナを配備する事で対処を行う」

「なるほど。適切かと思われます」


 彼女が頷きながら同意した事に、シドニアは僅かに目を細めて「ほう」と関心の目を向ける。


「君は領民の一人だろう? 私の様な政治家がそうした事実を隠匿する行為は、好ましくないのではないかな?」

「それが意味のない隠匿、貴方の評価が下落しかねない事への隠匿であれば、一般的に好ましくはないでしょう。しかし領民がパニックに陥りかねない情報に関して、対処をしている上での情報統制という事ならば適切かと思われますが」

「ありがとう、理解して頂けるとは思っていなかったよ」


 シドニアは「先ほどのお話を続けよう」と言いながら、庭へと欠伸をしながら姿を表すリンナへと視線を向ける。


「ふぁ……クアンター? なんか、木ぃ折れる音とか聞こえたけど、何かあったん~?」


 お腹をかきながら庭へ出たリンナは、クアンタの隣に誰かいると気づき、寝ぼけ眼を擦りながら、その人物を凝視する。


「……え? シドニア……第一皇子ィッ!?」

「当然の来訪失礼。仰る通り私はシドニア・ヴ・レ・レアルタだ。貴女がリンナ刀工鍛冶場の刀匠・リンナさんで構わないかな?」

「え、あ、はいっ、アタ……いえ、私がリンナですっ」

「緊張しなくても構わない。それより――」


 シドニアは苦笑と共に、リンナへ背を向ける。

 何も言わずに背を向ける彼にリンナは首を傾げるも、そこでクアンタが「お師匠」と声をかけながら、リンナを指さした。


「今のお師匠は下着しか付けていない」

「へ…………~~ッ!?」


 リンナは顔を真っ赤にし、口を結んで慌てて頭を下げながら宅内へ走っていく。


「お上がり下さい」

「ではお邪魔するとしよう。サーニス、君も同席してくれ」

「かしこまりました」


 玄関からリンナ宅へ入り、しっかりと革靴を脱いだ上でサーニスの用意した下履きを履いたシドニア。

  彼を誘導しつつ客間へと行き、座布団(と思われる)を二人分用意した上で「少々お待ちください」とお辞儀して一時退室。

  寝室へ行くと、貫頭衣を着込みながら「あーマジで失礼な格好だったよなぁどうしよう腹切れって言われた時用に腰刀用意しとこうかなぁ……っ」と顔を真っ青にさせているリンナ。


「真っ赤になったり真っ青になったり忙しそうだな、お師匠」

「何で!? どうしてシドニア様がウチみたいな三流鍛冶場に来んの!? いい加減お前バスタードソードとかいう半端モン作れってカンジ!?」

『刀匠、声がこちらまで聞こえているよ?』

「し、失礼しました腹切りますっ!」

『気にしないでくれ。今日の立場は第一皇子でも政治家でも国防省長官でもない。あくまで突然押し掛けた無礼な客だと思ってくれればいい。公的記録にも残らないし、残せない』

「か、かしこまりました! すぐ行きましゅっ」


 クアンタに「アタシ今変なトコないよね!?」と全身を見せて「問題ない」と返答した彼女を信じ、リンナが小刀を持ちながら「よし!」と言ったので刀は没収しつつ、クアンタに手を引かれながら客間へと行く。
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