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第二章
シドニア・ヴ・レ・レアルター07
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「お、おおお、お待たせしましたゴメンなさい!」
客間へと着いたリンナが綺麗に九十度の角度でお辞儀し、シドニアはサーニスが淹れている紅茶を湯のみで飲みながら「いや」と相槌を打つ。
「こちらこそ申し訳ない。ご迷惑だとは存じ上げているが、しかし私も時間を作るのに手一杯でね」
「それで今回はどのようなご用件で」
「ちょっ、クアンタは直球過ぎ!」
「いや、むしろこの後に公務が残っているのでね。話が早い方が好ましい」
湯呑を置き、姿勢を正したシドニアに続き、リンナがクアンタの用意した座布団に慣れていなさそうな正座を、クアンタが彼女の少し後ろで立ちながら、サーニスと視線を合わせる。彼も同じく立ちながら、こちらを見据えている。
「まずは先日、私の命でヴァルブ・フォン・リエルティックがご迷惑をお掛けしたと思う。クアンタ君に聞く所、それなりの大事であったようだ」
「あ……えっと、その」
「先にそちらをお詫びしたい。私が彼に注文したのは【最高の一刀】でね。そして彼は『リンナ刀工鍛冶場先代・ガルラの遺作は紛れもなく唯一無二』だと私へ謳い、ならばと彼へ注文した、私の責任だ」
「い、いえっ! あのヴァルブは確かに色々やらかしたけど、それはシドニア様のせいじゃないですっ」
「彼へ命じたのは私であり、そして私と言う【象徴】からの命というのは、彼へ重大な責任を押し付けた事と同義だ。彼に罪が無いとは言わないが、その罪は私にも償わせて欲しい」
申し訳ない。彼はそう言って畳に手を付け、深々と頭を下げた。
その姿にリンナはどうすれば良いかと右往左往し、サーニスは若干不満そうにクアンタを睨むが、睨まれた当人は平然としながら「何を仰っているのか分かりかねますが」と発言。
「ヴァルブ・フォン・リエルティックは確かに、我々へ無礼を働きました」
「ちょ、クアンタっ!?」
「しかし、貴方は先ほど『状況証拠としてはヴァルブの関与が疑われる』とだけ仰っておりましたね」
「ああ、その通りだ」
未だに頭をあげず、しかし返答は素早い。
「もし貴方にもヴァルブの罪を償う責任や必要があったとして、この件でヴァルブを立件できぬのならば、その罪自体が無い事となるのでは」
「君達は被害者だ。彼を立件しようとするならば、私としてもそれに従うつもりなのだが」
「我々リンナ刀工鍛冶場として今回の騒動で求める事は一つだけです。
あくまで商いというのは、対等な立場による交易です。今回ヴァルブは市場へ流通させるつもりのない刀に対し、その立場や資金力、そして貧困街の人間を雇った上での高圧的・威圧的な態度での不平等な取引の持ち掛けが目立ちましたので、そちらの改善を求めるだけであります」
チラリと、リンナを見ると彼女がハラハラすると言わんばかりの面持ちでクアンタを見ていたが、しかしグッと顎を引いて「弟子の言う通りです!」と手を叩く。
「確かに今回、アイツの態度に腹は立ちましたけど、そんだけですよ! ホラこの通り、弟子の腰にゃ先代の遺作はしっかり残ってて、アタシらどこも怪我してない! ヴァルブにはキーっツイお仕置きさえしてくれれば、アタシらとしても恨みっこなし! みたいなカンジで手を打ちましょうっ!?」
わちゃわちゃと身体全体を使ってジェスチャーというか、落ち着きのない動きをしていたリンナではあったが、シドニアは笑い声を漏らしながら「そう言って頂けると有り難い」と顔を上げ、今度は小さくお辞儀をした。
「ヴァルブには私の方から言いつけておこう。そして、お詫びというわけではないのだが、美術商に流れていたリンナさんの刀を全て、リエルティック商会の方で買い取り、私が指揮する部隊で試験配備をさせて頂く事になっている。場合によっては今後、お仕事を持ち掛ける事もあるかもしれないが、構わないかな?」
「ホ――ホントですかっ!?」
「ああ。何本かミルガス美術商にて拝見させて頂いていたが、どれも素晴らしい。バスタードソードよりも軽く、その上で切れ味も良い。強いて言えば少々値が張る事が欠点か」
「えっと、今美術商に流してんのは量産を目的としたのじゃなくて、ホントに美術品としての刀なんです。切れ味とか保存性は高いんすけど、もし今後量産品をお求めなら、早く仕上げれて値も下げられる奴をご用意できます!」
「ほう、それは初耳だ」
顎に手をやり、少々考えるようにしていたシドニアだが「しかし公的の場でない今、ここでは決められないな」と苦笑した。
「では、次に伺いたい事がある」
「はい、なんでしょう」
「――ヴァルブの雇った浮浪者を倒したのは、誰か」
先ほどまで緩かった空気が一瞬で凍り付く程、声には感情が込められていなかった。
リンナが冷や汗を流しながらクアンタへ視線を向けると、彼女は頷いて一歩前へ出る。
「私です」
「クアンタ君か。君、ゴルタナを所有しているのかな?」
「いえ、所有しておりません」
「ここまではいい」
そう言ったシドニアの声は、明らかに威圧的だった。
「だがここからは少しの発言にも気を付けてくれたまえ。
場合によっては警備防衛法第二十一条一項における『個人によるゴルタナの所有は一部例外を除き禁止とする』、
二項における『ゴルタナ以外の兵装・武装の所有・使用に関しては、自衛目的以外を除き禁止とする』、
さらに虚偽の発言が見受けられた場合は、単純に虚偽申告罪に抵触する場合があるからね」
客間へと着いたリンナが綺麗に九十度の角度でお辞儀し、シドニアはサーニスが淹れている紅茶を湯のみで飲みながら「いや」と相槌を打つ。
「こちらこそ申し訳ない。ご迷惑だとは存じ上げているが、しかし私も時間を作るのに手一杯でね」
「それで今回はどのようなご用件で」
「ちょっ、クアンタは直球過ぎ!」
「いや、むしろこの後に公務が残っているのでね。話が早い方が好ましい」
湯呑を置き、姿勢を正したシドニアに続き、リンナがクアンタの用意した座布団に慣れていなさそうな正座を、クアンタが彼女の少し後ろで立ちながら、サーニスと視線を合わせる。彼も同じく立ちながら、こちらを見据えている。
「まずは先日、私の命でヴァルブ・フォン・リエルティックがご迷惑をお掛けしたと思う。クアンタ君に聞く所、それなりの大事であったようだ」
「あ……えっと、その」
「先にそちらをお詫びしたい。私が彼に注文したのは【最高の一刀】でね。そして彼は『リンナ刀工鍛冶場先代・ガルラの遺作は紛れもなく唯一無二』だと私へ謳い、ならばと彼へ注文した、私の責任だ」
「い、いえっ! あのヴァルブは確かに色々やらかしたけど、それはシドニア様のせいじゃないですっ」
「彼へ命じたのは私であり、そして私と言う【象徴】からの命というのは、彼へ重大な責任を押し付けた事と同義だ。彼に罪が無いとは言わないが、その罪は私にも償わせて欲しい」
申し訳ない。彼はそう言って畳に手を付け、深々と頭を下げた。
その姿にリンナはどうすれば良いかと右往左往し、サーニスは若干不満そうにクアンタを睨むが、睨まれた当人は平然としながら「何を仰っているのか分かりかねますが」と発言。
「ヴァルブ・フォン・リエルティックは確かに、我々へ無礼を働きました」
「ちょ、クアンタっ!?」
「しかし、貴方は先ほど『状況証拠としてはヴァルブの関与が疑われる』とだけ仰っておりましたね」
「ああ、その通りだ」
未だに頭をあげず、しかし返答は素早い。
「もし貴方にもヴァルブの罪を償う責任や必要があったとして、この件でヴァルブを立件できぬのならば、その罪自体が無い事となるのでは」
「君達は被害者だ。彼を立件しようとするならば、私としてもそれに従うつもりなのだが」
「我々リンナ刀工鍛冶場として今回の騒動で求める事は一つだけです。
あくまで商いというのは、対等な立場による交易です。今回ヴァルブは市場へ流通させるつもりのない刀に対し、その立場や資金力、そして貧困街の人間を雇った上での高圧的・威圧的な態度での不平等な取引の持ち掛けが目立ちましたので、そちらの改善を求めるだけであります」
チラリと、リンナを見ると彼女がハラハラすると言わんばかりの面持ちでクアンタを見ていたが、しかしグッと顎を引いて「弟子の言う通りです!」と手を叩く。
「確かに今回、アイツの態度に腹は立ちましたけど、そんだけですよ! ホラこの通り、弟子の腰にゃ先代の遺作はしっかり残ってて、アタシらどこも怪我してない! ヴァルブにはキーっツイお仕置きさえしてくれれば、アタシらとしても恨みっこなし! みたいなカンジで手を打ちましょうっ!?」
わちゃわちゃと身体全体を使ってジェスチャーというか、落ち着きのない動きをしていたリンナではあったが、シドニアは笑い声を漏らしながら「そう言って頂けると有り難い」と顔を上げ、今度は小さくお辞儀をした。
「ヴァルブには私の方から言いつけておこう。そして、お詫びというわけではないのだが、美術商に流れていたリンナさんの刀を全て、リエルティック商会の方で買い取り、私が指揮する部隊で試験配備をさせて頂く事になっている。場合によっては今後、お仕事を持ち掛ける事もあるかもしれないが、構わないかな?」
「ホ――ホントですかっ!?」
「ああ。何本かミルガス美術商にて拝見させて頂いていたが、どれも素晴らしい。バスタードソードよりも軽く、その上で切れ味も良い。強いて言えば少々値が張る事が欠点か」
「えっと、今美術商に流してんのは量産を目的としたのじゃなくて、ホントに美術品としての刀なんです。切れ味とか保存性は高いんすけど、もし今後量産品をお求めなら、早く仕上げれて値も下げられる奴をご用意できます!」
「ほう、それは初耳だ」
顎に手をやり、少々考えるようにしていたシドニアだが「しかし公的の場でない今、ここでは決められないな」と苦笑した。
「では、次に伺いたい事がある」
「はい、なんでしょう」
「――ヴァルブの雇った浮浪者を倒したのは、誰か」
先ほどまで緩かった空気が一瞬で凍り付く程、声には感情が込められていなかった。
リンナが冷や汗を流しながらクアンタへ視線を向けると、彼女は頷いて一歩前へ出る。
「私です」
「クアンタ君か。君、ゴルタナを所有しているのかな?」
「いえ、所有しておりません」
「ここまではいい」
そう言ったシドニアの声は、明らかに威圧的だった。
「だがここからは少しの発言にも気を付けてくれたまえ。
場合によっては警備防衛法第二十一条一項における『個人によるゴルタナの所有は一部例外を除き禁止とする』、
二項における『ゴルタナ以外の兵装・武装の所有・使用に関しては、自衛目的以外を除き禁止とする』、
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