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第二章
シドニア・ヴ・レ・レアルター08
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クアンタを見据えるシドニア。その目も口調も、決して笑っていない。
彼の言葉にクアンタは(試されているな)と感じ、一秒ほど思考を回す。
だが、それでも尚、彼女は首を横に振った。
「ゴルタナは所有しておりません」
「嘘をつくなよ娘」
声は、正面に立つサーニスから放たれた。
「浮浪者三人はゴルタナを装備した上で気絶していた。さらに内一人は明らかにゴルタナの展開装甲を破壊までされている。
例え旧式であろうとも性能に関しては最新鋭装備との差はほとんどない。むしろ頭部以外の防御性能だけを取れば旧式の方が優れている場合もある。
ゴルタナも無しにそれを破る事は不可能だ。それでも尚、ゴルタナを持たぬと法螺を吹くか」
「ええ――所有しているのは、ゴルタナではありませんので」
失礼。クアンタはそう言いながら、着ているVネックシャツを脱ぎ、その大きな胸を曝け出す。
突然の事に、サーニスはギョッとした表情を浮かべつつも顔を赤くして半歩下がり、リンナは「ちょちょちょっ!?」と慌てながら隠そうとする。
だがその前に、クアンタの胸元から一つの板――スマートフォンと同様の形をした魔法少女変身システム、マジカリング・デバイスが飛び出し、空中でそれを掴んだ彼女は先端の電源ボタンを押す。
『Devicer・ON』
「またこの板喋った!」
「変身」
『HENSHIN』
乱雑に空へ放ったマジカリング・デバイスの画面に人差し指で触れた次の瞬間、光が彼女を包んだと同時に彼女へ赤を基本色とした変身フォームを装着させ、光が散るとその乱雑に下された短髪を後頭部でまとめた小さいポニーテール状にし、変身完了。
先ほどまで白い薄手のシャツを脱ぎ上半身裸を曝け出していた筈の彼女は、一瞬で肌に張り付く形で展開された衣服、そして少なくはあるがフリルとレースの施されたミニスカートを見せつけた。
「これが私の戦闘服です。これによりゴルタナへ対抗は可能ですが、あくまでゴルタナではなく他の自衛兵装・武装ですね」
「これは、確かにゴルタナでは無いな。虚偽もないし罪には問えん。……いやしかし、これは想像を遥かに超え、面白い」
クククと笑いを堪えきれぬと言わんばかりに口元を押さえるシドニアと「しかしシドニア様!」と声をあげながらクアンタへと近づくサーニス。
「この衣装にどの程度の性能があるかはわかりませんが、しかしゴルタナを打ち破る程の性能を有している身体補助システムなら、拡大解釈によってコレをゴルタナと判断し、処罰する事も可能ではありませんか?」
「サーニス、落ち着きたまえ。罪とは法の下で裁かれるべきであり、法の拡大解釈によって罪の範囲を広げるというのは、罪を裁く事が目的ではなく罪を立件する事自体が目的となっている。私はあまり好きではないよ。
この問いは、あくまで彼女がゴルタナを有しているか否かの確認が主だったもので、彼女の断罪が目的ではないからね。……まぁ勿論、所有していた場合は立件しなければならなかったが」
彼の言葉にサーニスは数秒クアンタを睨むが、しかし視線を逸らして「申し訳ありません」と謝罪する。だが謝罪相手は、明らかにシドニアへだ。
「部下が重ね重ね、失礼を言った。謝罪しよう」
「いえ。私としてもこの魔法少女システムにて変身した姿をゴルタナとしない、というのは自分なりの勝手な解釈です。もしこの認識に誤りがあるのならば、謝罪するつもりでした」
「安心したまえ。ゴルタナというのはただの身体補助システムではなく、魔術と錬金術を用いた特殊製法において製造される兵装だ。故にしっかりと規定が存在し、その規定に沿っていない物はゴルタナと言わない。
――強いて言えば、警備防衛法の改正が必要かもしれないがね。ゴルタナ以外のシステムが存在する可能性を考える必要は無いと思っていたのだが」
シドニアの口調は楽しげだ。これが彼の望んだ展開なのだろうかと訝しみながらも変身を解除しようとするも、その前に彼は立ち上がり、クアンタと視線を合わせる。
「クアンタ君――いや、クアンタと呼ばせてもらっても構わないかな? 私の事も、シドニアと呼び捨てで構わない」
「シ、シドニア様、何を!」
「そちらがそれで良いという事ならば、私としても構いませんが」
「クアンタ!? 相手は皇族だっつの!?」
「ああ、それから敬語も無しで構わない。リンナ刀工鍛冶場とは、今後も友好的な関係を築きたいのでね。先に君と私とで、友達となろう」
「そちらがそれで良いという事なら」
「だーめーだっつーのーっ! 相手皇族ーっ! 象徴ーっ!」
「シドニア様、お戯れが過ぎます! 貴方は象徴なのです。領民への威厳を保つ為、全領民とは平等に接しなければならない立場であると自覚なさってください!」
マイペースなシドニアと彼の言葉に全て頷こうとするクアンタを止めるサーニスとリンナが、汗を流しながら互いに「苦労してるんだな」と言うような疲れ切った表情で視線を交わらせる。
「気にせず続けようか、クアンタ」
「ああ」
そんなリンナやサーニスの説得や注文を聞いていない様に、二人が続ける。
「私は、君に興味がある」
「それで?」
「一戦、交える事は可能かい?」
「何が目的かは知らんが――そちらがそれを望むのならば、私は構わないが」
客間から庭へと続く襖を開け、登って来た朝日の光を受けつつ、クアンタは外へと降りる。
止めるサーニスに気を止める事も無く玄関へと歩み、下履きを脱いで革靴を履いたシドニアは、馬車の近くに立つと追いかけて来たサーニスへ手を伸ばす。
「サーニス。何時もの剣を」
「――はっ」
諦めたように、サーニスは馬車から二本の剣を持ち、シドニアへ捧げるように「どうぞ」と差し出し、それを受け取った彼が固定用ベルトに鞘を刺した。
クアンタが見る限り、二本の剣は両方とも先日の賊が使用していた物とは異なり、約八十センチ程の剣と五十センチ程の剣で、長い一本を抜き放つ。
彼は流れるような動きで剣の振り具合を確かめつつ、その表面や切っ先、果ては持ち手の柄へ視線をやり、剣に異常が無いかを確かめる等、その慎重さも見て取れる。
彼の言葉にクアンタは(試されているな)と感じ、一秒ほど思考を回す。
だが、それでも尚、彼女は首を横に振った。
「ゴルタナは所有しておりません」
「嘘をつくなよ娘」
声は、正面に立つサーニスから放たれた。
「浮浪者三人はゴルタナを装備した上で気絶していた。さらに内一人は明らかにゴルタナの展開装甲を破壊までされている。
例え旧式であろうとも性能に関しては最新鋭装備との差はほとんどない。むしろ頭部以外の防御性能だけを取れば旧式の方が優れている場合もある。
ゴルタナも無しにそれを破る事は不可能だ。それでも尚、ゴルタナを持たぬと法螺を吹くか」
「ええ――所有しているのは、ゴルタナではありませんので」
失礼。クアンタはそう言いながら、着ているVネックシャツを脱ぎ、その大きな胸を曝け出す。
突然の事に、サーニスはギョッとした表情を浮かべつつも顔を赤くして半歩下がり、リンナは「ちょちょちょっ!?」と慌てながら隠そうとする。
だがその前に、クアンタの胸元から一つの板――スマートフォンと同様の形をした魔法少女変身システム、マジカリング・デバイスが飛び出し、空中でそれを掴んだ彼女は先端の電源ボタンを押す。
『Devicer・ON』
「またこの板喋った!」
「変身」
『HENSHIN』
乱雑に空へ放ったマジカリング・デバイスの画面に人差し指で触れた次の瞬間、光が彼女を包んだと同時に彼女へ赤を基本色とした変身フォームを装着させ、光が散るとその乱雑に下された短髪を後頭部でまとめた小さいポニーテール状にし、変身完了。
先ほどまで白い薄手のシャツを脱ぎ上半身裸を曝け出していた筈の彼女は、一瞬で肌に張り付く形で展開された衣服、そして少なくはあるがフリルとレースの施されたミニスカートを見せつけた。
「これが私の戦闘服です。これによりゴルタナへ対抗は可能ですが、あくまでゴルタナではなく他の自衛兵装・武装ですね」
「これは、確かにゴルタナでは無いな。虚偽もないし罪には問えん。……いやしかし、これは想像を遥かに超え、面白い」
クククと笑いを堪えきれぬと言わんばかりに口元を押さえるシドニアと「しかしシドニア様!」と声をあげながらクアンタへと近づくサーニス。
「この衣装にどの程度の性能があるかはわかりませんが、しかしゴルタナを打ち破る程の性能を有している身体補助システムなら、拡大解釈によってコレをゴルタナと判断し、処罰する事も可能ではありませんか?」
「サーニス、落ち着きたまえ。罪とは法の下で裁かれるべきであり、法の拡大解釈によって罪の範囲を広げるというのは、罪を裁く事が目的ではなく罪を立件する事自体が目的となっている。私はあまり好きではないよ。
この問いは、あくまで彼女がゴルタナを有しているか否かの確認が主だったもので、彼女の断罪が目的ではないからね。……まぁ勿論、所有していた場合は立件しなければならなかったが」
彼の言葉にサーニスは数秒クアンタを睨むが、しかし視線を逸らして「申し訳ありません」と謝罪する。だが謝罪相手は、明らかにシドニアへだ。
「部下が重ね重ね、失礼を言った。謝罪しよう」
「いえ。私としてもこの魔法少女システムにて変身した姿をゴルタナとしない、というのは自分なりの勝手な解釈です。もしこの認識に誤りがあるのならば、謝罪するつもりでした」
「安心したまえ。ゴルタナというのはただの身体補助システムではなく、魔術と錬金術を用いた特殊製法において製造される兵装だ。故にしっかりと規定が存在し、その規定に沿っていない物はゴルタナと言わない。
――強いて言えば、警備防衛法の改正が必要かもしれないがね。ゴルタナ以外のシステムが存在する可能性を考える必要は無いと思っていたのだが」
シドニアの口調は楽しげだ。これが彼の望んだ展開なのだろうかと訝しみながらも変身を解除しようとするも、その前に彼は立ち上がり、クアンタと視線を合わせる。
「クアンタ君――いや、クアンタと呼ばせてもらっても構わないかな? 私の事も、シドニアと呼び捨てで構わない」
「シ、シドニア様、何を!」
「そちらがそれで良いという事ならば、私としても構いませんが」
「クアンタ!? 相手は皇族だっつの!?」
「ああ、それから敬語も無しで構わない。リンナ刀工鍛冶場とは、今後も友好的な関係を築きたいのでね。先に君と私とで、友達となろう」
「そちらがそれで良いという事なら」
「だーめーだっつーのーっ! 相手皇族ーっ! 象徴ーっ!」
「シドニア様、お戯れが過ぎます! 貴方は象徴なのです。領民への威厳を保つ為、全領民とは平等に接しなければならない立場であると自覚なさってください!」
マイペースなシドニアと彼の言葉に全て頷こうとするクアンタを止めるサーニスとリンナが、汗を流しながら互いに「苦労してるんだな」と言うような疲れ切った表情で視線を交わらせる。
「気にせず続けようか、クアンタ」
「ああ」
そんなリンナやサーニスの説得や注文を聞いていない様に、二人が続ける。
「私は、君に興味がある」
「それで?」
「一戦、交える事は可能かい?」
「何が目的かは知らんが――そちらがそれを望むのならば、私は構わないが」
客間から庭へと続く襖を開け、登って来た朝日の光を受けつつ、クアンタは外へと降りる。
止めるサーニスに気を止める事も無く玄関へと歩み、下履きを脱いで革靴を履いたシドニアは、馬車の近くに立つと追いかけて来たサーニスへ手を伸ばす。
「サーニス。何時もの剣を」
「――はっ」
諦めたように、サーニスは馬車から二本の剣を持ち、シドニアへ捧げるように「どうぞ」と差し出し、それを受け取った彼が固定用ベルトに鞘を刺した。
クアンタが見る限り、二本の剣は両方とも先日の賊が使用していた物とは異なり、約八十センチ程の剣と五十センチ程の剣で、長い一本を抜き放つ。
彼は流れるような動きで剣の振り具合を確かめつつ、その表面や切っ先、果ては持ち手の柄へ視線をやり、剣に異常が無いかを確かめる等、その慎重さも見て取れる。
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