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第三章
アメリア・ヴ・ル・レアルタ-03
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真っすぐに、正直な気持ちをぶつけられた事で、リンナが顔を赤くしてしまう。
「……アンタはさ、どうしてそんなに、刀の事を好きになったの? アンタってば、そのフォーリナーっていう宇宙人なんでしょ? 物珍しいから興味を持ったカンジ?」
「否、刀と言うのは別に珍しいものではない」
「え、そなの?」
「これまで数多く観測してきた様々な有機生命体の歴史において、近しい装備は多く確認されている。勿論、その殆どが刀の様に複雑な製法において製造される事は珍しいが。
何より、元々私がいた地球にも同じ日本刀という刀が存在する。殆ど同一と言っても過言では無いだろう」
「じゃあ何でアンタは、そんなにアタシの打った刀に心奪われてくれんの?
――確かにアタシャ、今のブリジステ諸島でだったら、誰にも負けない刀匠であるつもりだけど、あの親父の遺作だったり、それこそチキューって所にある全部の刀に勝てる刀作れる程の逸材でも無いと自覚してる。チキューの刀は知らないけどね」
「何故か。それは私にもわからない。だが私の知る限り、何事においても一番でなければ好きになってはいけない、というルールは無いハズだ」
私は、リンナの刀だからこそ、心惹かれたのだと思う。
そう臆面もなく言い切ったクアンタが、胸元に手をやった。
「私には本来心が無いハズだった。感情が無いハズだった。しかしもうフォーリナーとの通信は出来ず、少しずつ芽生えている感情に従う事は出来るのだ。
ならば、私は帰還を目指すのではなく、こうして芽生える感情に従い、リンナの元で生活していく事が一番だと考えている。
……それに、何といえばいいかわからないが」
「なにさ?」
「お師匠が、私以外の人間へ、技術を教えるという事を、考えると……胸の奥の方が、キュッと締め付けられる感覚がする。痛くはないが、いやに不快だ」
そう言って黙りこくってしまったクアンタに、リンナは深くため息をついて、しかし表情だけは笑顔のまま、クアンタの頭を撫でる。
「……ゴメンってば。アタシの弟子は、アンタだけ。だからそう、いもしない架空の弟子に嫉妬なんかすんな?」
「シット?」
「ヤキモチっていうんかな。その内、理解出来たらいいね」
グリグリと、クアンタの綺麗な髪の毛をわざと乱すようにしたリンナを気にする事なく、クアンタは自身にある知識から嫉妬の概念を検索。
【嫉妬】とは、主に何かを失う恐れや不安、懸念などから発せられるネガティブな感情の事である。
――なるほど確かに、リンナという師匠の存在を他者に、それこそリンナの言う通り、今は存在もしていない第三者に彼女と二人で過ごす日々を脅かされるという恐怖や不安などがあり、それがクアンタの胸を締め付けたのかもしれない。
「今日の勉強はひとまずここまで。……でもそろそろ刀の依頼が来ないと困るんだけどなぁ。あんま素材を無駄にしたくないから、クアンタに実習もしてあげられないし」
「シドニアからの連絡はないのか?」
「今ん所無いけど、あれだって別に確約じゃないっしょ? それにアタシが言うのもなんだけど、それこそ安い買い物になるわけじゃないんだから、皇国軍で使うにしても警兵隊で使うにしてもしっかり議題に持ち込むだろうし」
それに、とリンナが渋い顔をしながらどっしり畳に腰かけて、お茶請けとして用意した煎餅らしき菓子にかじりついた。
ボリボリと音を立てながら、しかし口を開けずに全て食べ終わった後に口を開く。
「あんま認めたくないけど、確かにバスタードソードに比べたら刀って品質落として生産しても高いしね。何でシドニア様が刀にご執心なのか気になってる所」
「元々奴は、親父殿の遺作に興味があったという事だしな」
「シドニア様だけが所有する、ってんならわかるのさ。刀ってのは昔から力の象徴として、お偉いさんに上納してきた歴史もあるしね。でもシドニア様が有してる部隊で試験運用行うって話なんでしょ?
試験運用って事は、今後別の部隊とかでも使う可能性あったり、場合によっては警兵隊にも使わせる事を考えてるって事じゃん。なーんか刀が必要な事態が起こったんじゃないかな、って邪推すんもの無理ないっしょ?」
クアンタが知る限り、彼女の言う「刀が必要な事態」というのは、考えられる事は一つ。
災いという存在だ。
彼曰く「太古より存在する、この世に災厄をもたらす存在」だという。
しかしサーニスとの戦闘を見ても、災いという存在に刀が有効であるというデータが取れず、クアンタもその理由として紐づける事が出来たわけではない。
と――考えていた、その時だ。
クアンタが気配を察知し、立ち上がってリンナの手を引く。
「え、何々?」
「来客だ。しかし数が多い」
「どんだけ? あー、刀の依頼とかならアタシが受けなきゃね」
「いや、恐らく違うぞ。――数が軽く二十人を超える」
驚きつつ、リンナへ「なんでもいい、刀を」とお願いすると、最近クアンタが刀を所望する事が多かった為、彼女が予め用意していた打刀『カネツグ』を渡し、クアンタは変身する事なく、まずは腰に刀を結んだ。
リンナの手を取り、彼女と共に玄関まで出向き――扉を開け放った、その時。
『クアンタ様、リンナ様、でよろしかったでしょうか』
クアンタの言う通り、二十名以上の人間が、玄関前にズラリと、綺麗に横三列に並びながら、同時に全員が言葉を放つ。
その人々は、全身を黒の衣服に身を包んで肌を一切出さず、顔にも黒のベールにも似た物がかけられているから、顔も見えぬ。
『アメリア・ヴ・ル・レアルタ様よりの命を承っております』
「あ、アメリア様? 隣の領主サマじゃん。アタシらに何の用が」
『「すぐにレアルタ皇国アメリア領首都・ファーフェまで参れ。命令ぞ」……以上です』
「……アンタはさ、どうしてそんなに、刀の事を好きになったの? アンタってば、そのフォーリナーっていう宇宙人なんでしょ? 物珍しいから興味を持ったカンジ?」
「否、刀と言うのは別に珍しいものではない」
「え、そなの?」
「これまで数多く観測してきた様々な有機生命体の歴史において、近しい装備は多く確認されている。勿論、その殆どが刀の様に複雑な製法において製造される事は珍しいが。
何より、元々私がいた地球にも同じ日本刀という刀が存在する。殆ど同一と言っても過言では無いだろう」
「じゃあ何でアンタは、そんなにアタシの打った刀に心奪われてくれんの?
――確かにアタシャ、今のブリジステ諸島でだったら、誰にも負けない刀匠であるつもりだけど、あの親父の遺作だったり、それこそチキューって所にある全部の刀に勝てる刀作れる程の逸材でも無いと自覚してる。チキューの刀は知らないけどね」
「何故か。それは私にもわからない。だが私の知る限り、何事においても一番でなければ好きになってはいけない、というルールは無いハズだ」
私は、リンナの刀だからこそ、心惹かれたのだと思う。
そう臆面もなく言い切ったクアンタが、胸元に手をやった。
「私には本来心が無いハズだった。感情が無いハズだった。しかしもうフォーリナーとの通信は出来ず、少しずつ芽生えている感情に従う事は出来るのだ。
ならば、私は帰還を目指すのではなく、こうして芽生える感情に従い、リンナの元で生活していく事が一番だと考えている。
……それに、何といえばいいかわからないが」
「なにさ?」
「お師匠が、私以外の人間へ、技術を教えるという事を、考えると……胸の奥の方が、キュッと締め付けられる感覚がする。痛くはないが、いやに不快だ」
そう言って黙りこくってしまったクアンタに、リンナは深くため息をついて、しかし表情だけは笑顔のまま、クアンタの頭を撫でる。
「……ゴメンってば。アタシの弟子は、アンタだけ。だからそう、いもしない架空の弟子に嫉妬なんかすんな?」
「シット?」
「ヤキモチっていうんかな。その内、理解出来たらいいね」
グリグリと、クアンタの綺麗な髪の毛をわざと乱すようにしたリンナを気にする事なく、クアンタは自身にある知識から嫉妬の概念を検索。
【嫉妬】とは、主に何かを失う恐れや不安、懸念などから発せられるネガティブな感情の事である。
――なるほど確かに、リンナという師匠の存在を他者に、それこそリンナの言う通り、今は存在もしていない第三者に彼女と二人で過ごす日々を脅かされるという恐怖や不安などがあり、それがクアンタの胸を締め付けたのかもしれない。
「今日の勉強はひとまずここまで。……でもそろそろ刀の依頼が来ないと困るんだけどなぁ。あんま素材を無駄にしたくないから、クアンタに実習もしてあげられないし」
「シドニアからの連絡はないのか?」
「今ん所無いけど、あれだって別に確約じゃないっしょ? それにアタシが言うのもなんだけど、それこそ安い買い物になるわけじゃないんだから、皇国軍で使うにしても警兵隊で使うにしてもしっかり議題に持ち込むだろうし」
それに、とリンナが渋い顔をしながらどっしり畳に腰かけて、お茶請けとして用意した煎餅らしき菓子にかじりついた。
ボリボリと音を立てながら、しかし口を開けずに全て食べ終わった後に口を開く。
「あんま認めたくないけど、確かにバスタードソードに比べたら刀って品質落として生産しても高いしね。何でシドニア様が刀にご執心なのか気になってる所」
「元々奴は、親父殿の遺作に興味があったという事だしな」
「シドニア様だけが所有する、ってんならわかるのさ。刀ってのは昔から力の象徴として、お偉いさんに上納してきた歴史もあるしね。でもシドニア様が有してる部隊で試験運用行うって話なんでしょ?
試験運用って事は、今後別の部隊とかでも使う可能性あったり、場合によっては警兵隊にも使わせる事を考えてるって事じゃん。なーんか刀が必要な事態が起こったんじゃないかな、って邪推すんもの無理ないっしょ?」
クアンタが知る限り、彼女の言う「刀が必要な事態」というのは、考えられる事は一つ。
災いという存在だ。
彼曰く「太古より存在する、この世に災厄をもたらす存在」だという。
しかしサーニスとの戦闘を見ても、災いという存在に刀が有効であるというデータが取れず、クアンタもその理由として紐づける事が出来たわけではない。
と――考えていた、その時だ。
クアンタが気配を察知し、立ち上がってリンナの手を引く。
「え、何々?」
「来客だ。しかし数が多い」
「どんだけ? あー、刀の依頼とかならアタシが受けなきゃね」
「いや、恐らく違うぞ。――数が軽く二十人を超える」
驚きつつ、リンナへ「なんでもいい、刀を」とお願いすると、最近クアンタが刀を所望する事が多かった為、彼女が予め用意していた打刀『カネツグ』を渡し、クアンタは変身する事なく、まずは腰に刀を結んだ。
リンナの手を取り、彼女と共に玄関まで出向き――扉を開け放った、その時。
『クアンタ様、リンナ様、でよろしかったでしょうか』
クアンタの言う通り、二十名以上の人間が、玄関前にズラリと、綺麗に横三列に並びながら、同時に全員が言葉を放つ。
その人々は、全身を黒の衣服に身を包んで肌を一切出さず、顔にも黒のベールにも似た物がかけられているから、顔も見えぬ。
『アメリア・ヴ・ル・レアルタ様よりの命を承っております』
「あ、アメリア様? 隣の領主サマじゃん。アタシらに何の用が」
『「すぐにレアルタ皇国アメリア領首都・ファーフェまで参れ。命令ぞ」……以上です』
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