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第三章
アメリア・ヴ・ル・レアルタ-04
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黒子全員が押し黙り、ただその場で立ち尽くすだけの光景を不気味に思いながら、リンナが「あの、いい?」と問おうとする。
「そんだけ?」
『アメリア・ヴ・ル・レアルタ様より承っております命は、これだけでございます。馬車にお乗り頂ければ、我々が皆さまをお連れ致します』
「いや、怪しすぎっしょ。アンタらホントにアメリア様の使いなのか証明してくんないと、馬車になんて怖くて乗れたもんじゃないじゃん」
黒子たちの奥には、確かに馬車が二つ存在する。
それも、複数人乗れればいいと言わんばかりに小さな荷台で、クアンタが見る限り、既に三人ほどが掛けているように思える。一つの馬車に乗り込めるのは、多くて四人と言った所か。
「――否、お師匠。どうやら真意の程は確かなようだ」
「え?」
「その通り。真意については問題ないよ。――何せ私の姉上が出した命だからね」
馬車より三人が降りた。そしてクアンタにとっては、内二人は顔見知りだ。
「シドニアとサーニスか」
「ちょ、だからクアンタは呼び捨て止めなさいってば!」
「良いのだよリンナさん。――とは言え、今後は状況に応じて敬語や敬称を付けて頂く必要があるかもしれないな。例えば今の様な状況では」
シドニアとサーニスの後ろに、もう一人、何者かが立っている。
女性だった。シドニアと同じ金髪を、胸程まで伸ばした長髪。
その大人びた顔立ちと合わせて施された優美な化粧、中でもベージュに輝く口紅が太陽の光を浴びて、輝きを放っているように感じる。
さらに、肌を晒す事に何ら戸惑いの感じられない、朱色の煌びやかな、それでいて胸元や足元が大胆に開かれたドレス。
何より――そのドレスによって全貌は見えぬが、確かな美を放つ、その人物の肉体は、あまりにも女性としての全てに優れている。
豊満な乳房、引き締まってくびれのある腰つき、そしてそこから反る様に膨らみを有するお尻――リンナは思わず、目線でそれを追ってしまう。
「ほうほうほう。シドニアが気に入ったにしては、なかなか愛い娘たちじゃ」
二者を押しのけ、リンナとクアンタへと近づいてくるその女性に向け、クアンタは思わず腰へ備えた刀の柄を握ってしまう。
――が、その寸前、彼女達の前面に配置されていた黒子の三人が、動いた。
疾く駆けた三人がクアンタの掴んだ刀の柄、鞘を掴むと、内一人が腰に巻いていた紐を乱雑に引き千切り、刀を遠くへ投げ飛ばす。
「チッ」
クアンタがリンナの手を放し、玄関の扉を閉めて彼女を宅内に避難させる一瞬の内に、三人はクアンタより離れ、手に小さなナイフにも似た刃物を取り出した。
「止めるべきでは」
「いや、黙って見ているべきだろう」
遠くから聞こえたサーニスとシドニアの声。クアンタは襲い掛かる三人の動きを見据えた上で、その素早い動きを読み、避ける事に精いっぱいであった。
広い庭に出ても、三人の者達はまるで舞う様に、走り、跳び、空中で身体を回転させながら、クアンタの目線を移させる。
彼女の視線が二人に向いたと同時に、別方向から迫る一人の刃。
しかしその行動を読んでいたクアンタが、迫る刃を持つ手首だけを捻り、刃を落とさせ、足でそれを弾き飛ばす。
残り二者にも続けて右足で蹴り込み、手首を掴んでいた一人の首を取り、喉物へ親指の爪を押し付ける。
「私なら爪で喉を斬り、頸動脈を傷つける事は出来るぞ」
短い脅しと共に、残る二者の動きは一応止まる。
しかし、やけに落ち着いている。クアンタに命を握られている一人も、その一人と共に戦うべきである二人も。
動きを止めているのも、あくまでクアンタが次に起こす行動次第で、どう動くかを既に決めているような、彼女以上に機械めいた動きが不快でもあった。
「よすが良い黒子共! 吾輩に余興を見せると言っても、血を見ても何ら面白くないわ!」
女性の声と共に、黒子たちがそそくさと彼女の周りへと向かい、地に足をついて、頭を下げた。
クアンタが首をホールドしている一人も、ポンポンとクアンタの手に触れる。クアンタが手を放すと、その一人も続けて女性の下へと駆け、同じように平伏する。
「大丈夫かい、クアンタ」
微笑みと共に、シドニアがクアンタへと心配するように言葉を発したが、しかし彼は面白がっていただけであろうと分かっていた彼女はため息を溢す。
「見物していたお前が言うのもどうかと思うぞ。まだサーニスの方が止めるかどうかを思考してくれた分マシだ」
「……相変わらず無礼な女だ」
そしてため息を溢したのはクアンタだけではない。眼鏡の位置を調整しながら、しかしシドニアの友人となったクアンタへ強く言う事も出来ずにいるサーニスである。
「それより――あの女がアメリアという、お前の家族か?」
「ああ。アメリア・ヴ・ル・レアルタ。……レアルタ皇国第三皇女であり、私の姉だ」
「……命を出した張本人が何故いる?」
「そう言うヒトなんだ」
オズオズと、再び玄関の扉を開けたリンナの姿を見て、女性――アメリアは平伏する者達へ気をかけることも無く、中には数人を蹴り飛ばして彼女の所へ向かう。
「すまぬの、吾輩の部下が失礼をしたようじゃ。お主がクアンタかえ?」
「あ、いえ……アタシはクアンタの師匠で、刀匠してます、リンナです」
「貴様がリンナか! 主の腕は聞き及んでおるぞ。聞く所によると、ブリジステ諸島イチの刀匠であり、唯一刀だけに入れ込む娘っ子だとな」
「えっと、失礼ですけど、貴女がアメリア様、で良かったですか? お顔とか、あんまりアタシ知らないので」
「ふむぅ、本来ならば不敬だと断じるべきであろうが、しかし他領土に身を置く者であれば、知らぬも致し方なしじゃな。
そう、吾輩こそが、アメリア領を統治するアメリア・ヴ・ル・レアルタよ!」
どれ抱いてやろうと、リンナの小さな体を抱き寄せてはしゃぐアメリアと、そんな彼女に抱かれて「ほあああああ……っ」と目を見開いたリンナ。顔を赤めて胸の感触を楽しんでいるようにも思える。クアンタはムッと表情をしかめて、二者へと近づく。
「そんだけ?」
『アメリア・ヴ・ル・レアルタ様より承っております命は、これだけでございます。馬車にお乗り頂ければ、我々が皆さまをお連れ致します』
「いや、怪しすぎっしょ。アンタらホントにアメリア様の使いなのか証明してくんないと、馬車になんて怖くて乗れたもんじゃないじゃん」
黒子たちの奥には、確かに馬車が二つ存在する。
それも、複数人乗れればいいと言わんばかりに小さな荷台で、クアンタが見る限り、既に三人ほどが掛けているように思える。一つの馬車に乗り込めるのは、多くて四人と言った所か。
「――否、お師匠。どうやら真意の程は確かなようだ」
「え?」
「その通り。真意については問題ないよ。――何せ私の姉上が出した命だからね」
馬車より三人が降りた。そしてクアンタにとっては、内二人は顔見知りだ。
「シドニアとサーニスか」
「ちょ、だからクアンタは呼び捨て止めなさいってば!」
「良いのだよリンナさん。――とは言え、今後は状況に応じて敬語や敬称を付けて頂く必要があるかもしれないな。例えば今の様な状況では」
シドニアとサーニスの後ろに、もう一人、何者かが立っている。
女性だった。シドニアと同じ金髪を、胸程まで伸ばした長髪。
その大人びた顔立ちと合わせて施された優美な化粧、中でもベージュに輝く口紅が太陽の光を浴びて、輝きを放っているように感じる。
さらに、肌を晒す事に何ら戸惑いの感じられない、朱色の煌びやかな、それでいて胸元や足元が大胆に開かれたドレス。
何より――そのドレスによって全貌は見えぬが、確かな美を放つ、その人物の肉体は、あまりにも女性としての全てに優れている。
豊満な乳房、引き締まってくびれのある腰つき、そしてそこから反る様に膨らみを有するお尻――リンナは思わず、目線でそれを追ってしまう。
「ほうほうほう。シドニアが気に入ったにしては、なかなか愛い娘たちじゃ」
二者を押しのけ、リンナとクアンタへと近づいてくるその女性に向け、クアンタは思わず腰へ備えた刀の柄を握ってしまう。
――が、その寸前、彼女達の前面に配置されていた黒子の三人が、動いた。
疾く駆けた三人がクアンタの掴んだ刀の柄、鞘を掴むと、内一人が腰に巻いていた紐を乱雑に引き千切り、刀を遠くへ投げ飛ばす。
「チッ」
クアンタがリンナの手を放し、玄関の扉を閉めて彼女を宅内に避難させる一瞬の内に、三人はクアンタより離れ、手に小さなナイフにも似た刃物を取り出した。
「止めるべきでは」
「いや、黙って見ているべきだろう」
遠くから聞こえたサーニスとシドニアの声。クアンタは襲い掛かる三人の動きを見据えた上で、その素早い動きを読み、避ける事に精いっぱいであった。
広い庭に出ても、三人の者達はまるで舞う様に、走り、跳び、空中で身体を回転させながら、クアンタの目線を移させる。
彼女の視線が二人に向いたと同時に、別方向から迫る一人の刃。
しかしその行動を読んでいたクアンタが、迫る刃を持つ手首だけを捻り、刃を落とさせ、足でそれを弾き飛ばす。
残り二者にも続けて右足で蹴り込み、手首を掴んでいた一人の首を取り、喉物へ親指の爪を押し付ける。
「私なら爪で喉を斬り、頸動脈を傷つける事は出来るぞ」
短い脅しと共に、残る二者の動きは一応止まる。
しかし、やけに落ち着いている。クアンタに命を握られている一人も、その一人と共に戦うべきである二人も。
動きを止めているのも、あくまでクアンタが次に起こす行動次第で、どう動くかを既に決めているような、彼女以上に機械めいた動きが不快でもあった。
「よすが良い黒子共! 吾輩に余興を見せると言っても、血を見ても何ら面白くないわ!」
女性の声と共に、黒子たちがそそくさと彼女の周りへと向かい、地に足をついて、頭を下げた。
クアンタが首をホールドしている一人も、ポンポンとクアンタの手に触れる。クアンタが手を放すと、その一人も続けて女性の下へと駆け、同じように平伏する。
「大丈夫かい、クアンタ」
微笑みと共に、シドニアがクアンタへと心配するように言葉を発したが、しかし彼は面白がっていただけであろうと分かっていた彼女はため息を溢す。
「見物していたお前が言うのもどうかと思うぞ。まだサーニスの方が止めるかどうかを思考してくれた分マシだ」
「……相変わらず無礼な女だ」
そしてため息を溢したのはクアンタだけではない。眼鏡の位置を調整しながら、しかしシドニアの友人となったクアンタへ強く言う事も出来ずにいるサーニスである。
「それより――あの女がアメリアという、お前の家族か?」
「ああ。アメリア・ヴ・ル・レアルタ。……レアルタ皇国第三皇女であり、私の姉だ」
「……命を出した張本人が何故いる?」
「そう言うヒトなんだ」
オズオズと、再び玄関の扉を開けたリンナの姿を見て、女性――アメリアは平伏する者達へ気をかけることも無く、中には数人を蹴り飛ばして彼女の所へ向かう。
「すまぬの、吾輩の部下が失礼をしたようじゃ。お主がクアンタかえ?」
「あ、いえ……アタシはクアンタの師匠で、刀匠してます、リンナです」
「貴様がリンナか! 主の腕は聞き及んでおるぞ。聞く所によると、ブリジステ諸島イチの刀匠であり、唯一刀だけに入れ込む娘っ子だとな」
「えっと、失礼ですけど、貴女がアメリア様、で良かったですか? お顔とか、あんまりアタシ知らないので」
「ふむぅ、本来ならば不敬だと断じるべきであろうが、しかし他領土に身を置く者であれば、知らぬも致し方なしじゃな。
そう、吾輩こそが、アメリア領を統治するアメリア・ヴ・ル・レアルタよ!」
どれ抱いてやろうと、リンナの小さな体を抱き寄せてはしゃぐアメリアと、そんな彼女に抱かれて「ほあああああ……っ」と目を見開いたリンナ。顔を赤めて胸の感触を楽しんでいるようにも思える。クアンタはムッと表情をしかめて、二者へと近づく。
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