魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
31 / 285
第三章

アメリア・ヴ・ル・レアルタ-09

しおりを挟む
 シドニアとアメリアが表情をしかめ、警兵隊の者達から渡された書類を見据えた。


「横たわる老婆は皆、この村で災いに襲われた者達だ。ここだけでなく、各地で報告されている被害者も皆、このように自我を失い、言葉を発する事も無い。生きてこそいるが、生きる屍そのもの、と言っていいだろう」

「シドニア、アメリア、それは」

「左様。二十年前に流行した風土病と同様の症状じゃ」


 手渡された資料は、その二十年前に発生した風土病の症状が記された古い記録だった。見てもその殆どが、シドニアとアメリアの二者から聞かされた内容と違わない。


「二十年前にも災いが発生していた、という事か」

「発生だけならば、第二皇女であり魔術師でもある姉・カルファス曰く、何時の時代にもあったという事だ。

 だが問題はその発生件数で、仮に二十年前の風土病が災いによる被害だったとすれば、この年は異常なまでに災いが発生した事になる」

「そして今回も同様じゃな。カルファスめは一年に数件、災いによる被害が出れば多い方、と言っておったが、今回の件も二十年前の件も、それと比較すれば数百倍の被害という計算になる」

「そして――どちらの事件においても、被害がアメリア領に集中している事が問題と、二人はそう言いたいんだな?」


 資料をパンと手の甲で叩くと、二人は頷いてみせた。


「シドニア、アメリア、私とお師匠を今回、アメリア領土に呼んだ理由を、嘘偽りなく話して貰おう」

「アメリアが君とリンナさんに興味を持った、というのも嘘ではない。だがそれは理由の三割だな」

「残りは――コレが理由か?」


 腰に備えた、打刀『カネツグ』の鯉口を切ったクアンタに、シドニアが「気付いていたか」と頷き、アメリアが本を読み聞かせる朗読の様に、語り出す。


「『災い出現すべし時、刀を持つ麗しの巫女が、災厄を討ち滅ぼさん』――コレがカルファスの言う、災いに関する伝承らしいのじゃ」

「だが実際に私やサーニス、皇国軍や警兵隊が所有する刀以外の剣でも討伐自体は出来ているからね。ただの伝承であって刀でなくともよいのか、それとも根本的な解決に至る手段が刀なのか、それを知る為に現状、私が知る限り刀の使い手であり、巫女――乙女である君へ来て貰いたかった、と言うのが理由の七割だ」


 理解頂けたかな? と首を傾げて微笑むシドニアとアメリア。しかし、クアンタは首を横に振るって「足りない」と断じた。


「嘘偽りなく話せと言ったぞ。話は本当だろうが、割合は嘘で、まだ他にも理由はあるだろう」

「何故、そう思ったのじゃ?」


 ニヤリと笑いながら、アメリアは問う。クアンタも「簡単な話だ」と、淡々と返答をする。


「両方とも、話の内容は嘘でないと分かったが、しかし問題は別にある。仮に私とお師匠がアメリア領に来た所で、必ず災いが発生するという確証には至らん筈だ。災いの発生が災害や自然現象だとするのなら、我々が来た所で発生も未発生も考えられるのに、先ほどの割合はおかしいだろう。

 何よりこれまで、お師匠に災いの事を教えていない理由にもならん。もし本当に、刀が災いの対処に必要な可能性があるのならば、現状唯一の刀匠であるお師匠へ話を通す筈だ。通さない理由が薄い」


 私が考えている理由は二つ、とクアンタが二本指を立て、まず一つを語る。


「一つ。お前たちは今回発生している災いの異常出現を『災害』や『自然現象』等と同列に扱っていない。『人の手によって呼び出された人災』と考えている。違うか?」

「どうしてそう思う?」

「発生件数のブレを知って、そう思わない方がおかしい。年に数回被害者が出るか出ないかというのが本来の発生件数ならば、こうして何百件と発生している現状をおかしいと判断するだろうし、それが作為的に、人の手によって引き起こされたと考える方が自然だろう」

「しかし、それこそ自然現象の可能性も否定しきれんじゃろ?」

「さらに二つ目だ。私とお師匠をアメリア領に呼びつけた理由だな。

 災いの伝承には刀が関わっている。そして、ブリジステ諸島で唯一、刀工鍛冶場を生業にしているのがお師匠であり、その刀を主武装として扱う私という存在がいる。

  もし、災いを発生させている犯人がいるとすれば、その伝承を知っている可能性もあり、また私達の存在も知ったとしたら、排除に動く可能性が高いとお前たちは考えた。

  故に、現状アメリア領内でも被害が多発しているファーフェに呼び出した。――災いを引き寄せ、刀の有用性を実験する【囮】とする為と、作為的に引き起こされたモノかどうかを判断する為の、計二つ。

 お師匠に災いの事を教えない理由は、事情を知っていると警戒し過ぎて、囮として不適切になる可能性があると考えた……こんな所か」


  クアンタの言葉を聞いた二者――主にアメリアが、笑顔で手を叩きながら「いやはや、良いな」と、適した言葉を出せなかったように、短くそうとだけ褒めた。


「シドニアよ、お前が何故この娘を特別扱いするか分かった気がするぞ。こ奴、本当に人間かえ?

 自分を含めた物事を俯瞰的に捉えている。。希望的観測や憶測も含め、現状自身が分かる情報の分析能力……。ただの一般領民ではあるまいな?」

「人間では無いようですよ。ですが、私としても姉上にしても、彼女が人間か否かは重要ではない。――そうでしょう?」

「まぁ、そうじゃな。ヒトの言葉を理解し、ヒトの感情を理解しようとする者であれば、それが真のヒトでなくとも構いはせんわ」


 クククと笑うシドニアと、ほうほうほうと興味を持つようにクアンタを見据えるアメリア、二人のこうした所が似ていると考えたクアンタは、しかし「正しいのか?」とだけ尋ねた。


「ああ、君の言う通りだ。――正確に言うならば、囮という表現は適切じゃない。本当に災いの発生は作為的なのかどうか、本当に君達が狙われるかどうか、もし狙われるとすれば君か、リンナさんか、それとも両方なのかの確認、及び刀の有用性実験、これらを総合的に考えた結果、被害が多発しており、作為的に災いを発生させている者がいると思われるファーフェに呼び出すのが適切だと考えた、という事だね」

「後は最初に言った吾輩がお前たち二人に興味がある、も勿論嘘では無いぞ!」

「何にせよ私を試したいと思っていたという事だな。あまり気分の良いものでは無いぞ」


  ため息を付きながら資料をシドニアに押し付けたクアンタが、周りで横たわる老婆たちに触れながら、しかし何か違和感がある事に気付く。


「……【虚力】が無い?」


 クアンタの口から思わず零れた言葉に、シドニアとアメリアが首を傾げる。


「コリョク……? 何か分かったのかい、クアンタ」

「……いや、まだ仮説も立てられない状況だ。解れば報告する」

「水臭いではないか。何も解らん状況でも、それこそヒントでも思いつくのなら言うてみるが良いぞ?」

「では一つだけ問う。……この世界には、感情を使役する技術の概念は存在するのか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ
ファンタジー
 偉大なる魔女の守護者、それが騎士。  大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。  だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。  大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。  妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。  だけど……二人とも失ってしまった。  死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。  契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。  好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。  家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。

処理中です...