魔法少女の異世界刀匠生活

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第三章

アメリア・ヴ・ル・レアルタ-09

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 シドニアとアメリアが表情をしかめ、警兵隊の者達から渡された書類を見据えた。


「横たわる老婆は皆、この村で災いに襲われた者達だ。ここだけでなく、各地で報告されている被害者も皆、このように自我を失い、言葉を発する事も無い。生きてこそいるが、生きる屍そのもの、と言っていいだろう」

「シドニア、アメリア、それは」

「左様。二十年前に流行した風土病と同様の症状じゃ」


 手渡された資料は、その二十年前に発生した風土病の症状が記された古い記録だった。見てもその殆どが、シドニアとアメリアの二者から聞かされた内容と違わない。


「二十年前にも災いが発生していた、という事か」

「発生だけならば、第二皇女であり魔術師でもある姉・カルファス曰く、何時の時代にもあったという事だ。

 だが問題はその発生件数で、仮に二十年前の風土病が災いによる被害だったとすれば、この年は異常なまでに災いが発生した事になる」

「そして今回も同様じゃな。カルファスめは一年に数件、災いによる被害が出れば多い方、と言っておったが、今回の件も二十年前の件も、それと比較すれば数百倍の被害という計算になる」

「そして――どちらの事件においても、被害がアメリア領に集中している事が問題と、二人はそう言いたいんだな?」


 資料をパンと手の甲で叩くと、二人は頷いてみせた。


「シドニア、アメリア、私とお師匠を今回、アメリア領土に呼んだ理由を、嘘偽りなく話して貰おう」

「アメリアが君とリンナさんに興味を持った、というのも嘘ではない。だがそれは理由の三割だな」

「残りは――コレが理由か?」


 腰に備えた、打刀『カネツグ』の鯉口を切ったクアンタに、シドニアが「気付いていたか」と頷き、アメリアが本を読み聞かせる朗読の様に、語り出す。


「『災い出現すべし時、刀を持つ麗しの巫女が、災厄を討ち滅ぼさん』――コレがカルファスの言う、災いに関する伝承らしいのじゃ」

「だが実際に私やサーニス、皇国軍や警兵隊が所有する刀以外の剣でも討伐自体は出来ているからね。ただの伝承であって刀でなくともよいのか、それとも根本的な解決に至る手段が刀なのか、それを知る為に現状、私が知る限り刀の使い手であり、巫女――乙女である君へ来て貰いたかった、と言うのが理由の七割だ」


 理解頂けたかな? と首を傾げて微笑むシドニアとアメリア。しかし、クアンタは首を横に振るって「足りない」と断じた。


「嘘偽りなく話せと言ったぞ。話は本当だろうが、割合は嘘で、まだ他にも理由はあるだろう」

「何故、そう思ったのじゃ?」


 ニヤリと笑いながら、アメリアは問う。クアンタも「簡単な話だ」と、淡々と返答をする。


「両方とも、話の内容は嘘でないと分かったが、しかし問題は別にある。仮に私とお師匠がアメリア領に来た所で、必ず災いが発生するという確証には至らん筈だ。災いの発生が災害や自然現象だとするのなら、我々が来た所で発生も未発生も考えられるのに、先ほどの割合はおかしいだろう。

 何よりこれまで、お師匠に災いの事を教えていない理由にもならん。もし本当に、刀が災いの対処に必要な可能性があるのならば、現状唯一の刀匠であるお師匠へ話を通す筈だ。通さない理由が薄い」


 私が考えている理由は二つ、とクアンタが二本指を立て、まず一つを語る。


「一つ。お前たちは今回発生している災いの異常出現を『災害』や『自然現象』等と同列に扱っていない。『人の手によって呼び出された人災』と考えている。違うか?」

「どうしてそう思う?」

「発生件数のブレを知って、そう思わない方がおかしい。年に数回被害者が出るか出ないかというのが本来の発生件数ならば、こうして何百件と発生している現状をおかしいと判断するだろうし、それが作為的に、人の手によって引き起こされたと考える方が自然だろう」

「しかし、それこそ自然現象の可能性も否定しきれんじゃろ?」

「さらに二つ目だ。私とお師匠をアメリア領に呼びつけた理由だな。

 災いの伝承には刀が関わっている。そして、ブリジステ諸島で唯一、刀工鍛冶場を生業にしているのがお師匠であり、その刀を主武装として扱う私という存在がいる。

  もし、災いを発生させている犯人がいるとすれば、その伝承を知っている可能性もあり、また私達の存在も知ったとしたら、排除に動く可能性が高いとお前たちは考えた。

  故に、現状アメリア領内でも被害が多発しているファーフェに呼び出した。――災いを引き寄せ、刀の有用性を実験する【囮】とする為と、作為的に引き起こされたモノかどうかを判断する為の、計二つ。

 お師匠に災いの事を教えない理由は、事情を知っていると警戒し過ぎて、囮として不適切になる可能性があると考えた……こんな所か」


  クアンタの言葉を聞いた二者――主にアメリアが、笑顔で手を叩きながら「いやはや、良いな」と、適した言葉を出せなかったように、短くそうとだけ褒めた。


「シドニアよ、お前が何故この娘を特別扱いするか分かった気がするぞ。こ奴、本当に人間かえ?

 自分を含めた物事を俯瞰的に捉えている。。希望的観測や憶測も含め、現状自身が分かる情報の分析能力……。ただの一般領民ではあるまいな?」

「人間では無いようですよ。ですが、私としても姉上にしても、彼女が人間か否かは重要ではない。――そうでしょう?」

「まぁ、そうじゃな。ヒトの言葉を理解し、ヒトの感情を理解しようとする者であれば、それが真のヒトでなくとも構いはせんわ」


 クククと笑うシドニアと、ほうほうほうと興味を持つようにクアンタを見据えるアメリア、二人のこうした所が似ていると考えたクアンタは、しかし「正しいのか?」とだけ尋ねた。


「ああ、君の言う通りだ。――正確に言うならば、囮という表現は適切じゃない。本当に災いの発生は作為的なのかどうか、本当に君達が狙われるかどうか、もし狙われるとすれば君か、リンナさんか、それとも両方なのかの確認、及び刀の有用性実験、これらを総合的に考えた結果、被害が多発しており、作為的に災いを発生させている者がいると思われるファーフェに呼び出すのが適切だと考えた、という事だね」

「後は最初に言った吾輩がお前たち二人に興味がある、も勿論嘘では無いぞ!」

「何にせよ私を試したいと思っていたという事だな。あまり気分の良いものでは無いぞ」


  ため息を付きながら資料をシドニアに押し付けたクアンタが、周りで横たわる老婆たちに触れながら、しかし何か違和感がある事に気付く。


「……【虚力】が無い?」


 クアンタの口から思わず零れた言葉に、シドニアとアメリアが首を傾げる。


「コリョク……? 何か分かったのかい、クアンタ」

「……いや、まだ仮説も立てられない状況だ。解れば報告する」

「水臭いではないか。何も解らん状況でも、それこそヒントでも思いつくのなら言うてみるが良いぞ?」

「では一つだけ問う。……この世界には、感情を使役する技術の概念は存在するのか?」
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