魔法少女の異世界刀匠生活

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第四章

感情-02

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 リンナが少しだけ、しゅんと肩を落とし、落ち込んでしまっているように思えた。アメリアは「まぁ民から信用を得る事は良い事じゃ」と頷きつつも、しかし首を振った。


「ただ奴は勘違いしておる。あ奴ほど優秀な奴はとんとおらんというのに、自分自身を器用貧乏だと過小評価し、自分にすら敵わぬ普通の人間を愚鈍な者と捉えておる。

 じゃから、吾輩はあ奴を次期皇帝の器とは思っておらん。奴が皇帝になれば、それこそ自己評価の低さ故、多くの民草を不幸にしかねん。故に吾輩はあ奴よりも多く、優秀な人間を募り、奴を打倒しうる力を求めておるのじゃ」


 クアンタとリンナの手を取ったアメリアは、ニヤリと笑みを浮かべながら「どうじゃ」と言葉を置き、二人の反応を見た。

  リンナはゴクリと息を呑み、クアンタは平然としている。


「吾輩の臣下や、お抱えの刀匠とならんか? リンナの刀も拝見したが、刀匠としての腕は確かと見込んでおる。今後も吾輩や、吾輩の部下が使用する刀を作り続けて欲しい。

 クアンタは刀士としての実力も聞いておるが、何よりもお前の感情に惑わされん冷静沈着な思考能力を良しとしておる。吾輩の右腕に是非採用したい。そして何より――」


 と、そこで黙ってしまったアメリアに、首を傾げたリンナが


「……何より、なんです?」


 そう尋ねると、食い気味に二人へ近づいて、叫ぶ。


「お主ら可愛いんじゃ!! 吾輩の好みド直球! 是非とも近くに置いておきたい!

 正直先ほどの理由なんぞ、この理由に比べたら一割も無いわ! シドニアとかどぉーでもいいのじゃっ!

 ていうか、こんな愛い娘っ子二人をシドニアのような不能に渡したくないのじゃっ!!」


 彼女の怒号と落ち着きのない動きに、馬車が揺れた気がする。

 リンナは不意に大声で放たれた言葉へ恐怖してクアンタの袖をきゅっと握るし、クアンタも先ほどまで彼女が放っていた威圧感を急に感じなくなった瞬間、すん……と無表情をより強調した気もする。


「……アメリアは同性愛者だったのか」

「可笑しいかえ? 男より圧倒的にええじゃろ、可愛い女子。その点このファーフェは良いぞ、どこを見渡しても女、女、女。男の余分な遺伝子入っとらんからか美女が多い事この上無い!

 クアンタやリンナは違うか? 女は良いぞ、うむ、マジで良い!」

「ん、んー……ど、どうでしょ。アタシ、今まで色恋沙汰とか考えた事なかったし……」

「私はお師匠さえいればそれでいい。他の男や女などどうでもいい」

「ちょ――っ!?」


 突如クアンタが放ったカミングアウトに、顔を真っ赤にさせて慌てるリンナに、アメリアは腹を抱えながら笑い、零れそうになる笑い涙を拭いながら「本当にお主らは面白いのぉ」と感想を述べた。


「……まぁ、少しふざけたが、真剣に考えておいて欲しいのじゃ。吾輩は強欲故、無理矢理にでもお主らを拉致しても良かったが、こうして接してみると、そうした自然体のお主らが欲しいと思えた」

「アメリアはどうも、事前に聞いていたイメージとは若干異なる様に思えるな」

「吾輩が暴君という評判かえ?」


 首を傾げて問うアメリアの言葉に頷くクアンタ。彼女の言葉にリンナが(ちょちょちょちょっ)と慌てながらクアンタの脇腹を幾度となく突くが、しかし彼女は一切反応を示さなかった。

  そしてアメリアも、クアンタの遠慮ない物言いに笑いながら頷き、否定はしなかった。


「暴君ではある。吾輩は自分の立場を利用できるならば遠慮はせんし、こうしてお主らを拉致せず、穏便に招き入れたいと懇願するのは偶然が積み重なった結果じゃ。

 欲しいものは欲しいし、要らぬものは要らぬ。それをキッパリと行動で示すからこそ、暴君と呼ばれておるのじゃろうし、それを否定するつもりは微塵も無いわ。

 ――じゃがな、吾輩はシドニアの様に、民草を能力で卑下せん。

 勿論優秀な者を優秀と褒め称えはするが、仮に無能な者がおったとて、その者も吾輩の愛すべき民、子供とも言うべき存在じゃ。どれだけ幼かろうと、どれだけ年老いておろうとな。

  ヒトはな、一人では生きていく事なぞ出来ん生物じゃ。仮に吾輩が知恵を振り絞った所で、その知恵を活用できる民や家臣がおってこそ、吾輩は領主足りえる。

  誰一人とて、その命は、価値は、無駄ではない」


  キッパリとした物言いに、リンナはぼうっと嬉々惚れるようにしていたし、クアンタも少々驚くように、視線を逸らす。

  彼女の言葉に嘘偽りは無いだろう。その必要も無い。

  だが、もし仮にアメリアかシドニア、どちらかの下に就かなければいけないとなった場合――リンナとクアンタはどちらへ就く必要があるのかも、同時に検討をする。


  シドニアは選民思想である。故に能力があるとするリンナやクアンタの事を無下にはしないだろう事は想像に難くない。

 だがその分、彼が今以上の権力を有した場合、どの様な暴走を果たし、レアルタ皇国にどんな災厄をもたらすかも予想がつかない。

 アメリアの言う通り、彼は自己評価の低さ故か、他人には悟らせない焦りを感じるし、そうなる可能性は否定できない。


  しかし、アメリアもアメリアだ。彼女の言葉は正しいと感じるし、何より真っすぐで聞いていて気持ちのいい言葉を吐くと、リンナは考えているだろう。

 それが長年培ってきた領主としてのカリスマ性故なのだとも考えられるが、しかしクアンタは彼女も恐ろしいと考えている。

 確かに民を見捨てる事は無いであろう。しかしそれはあくまで「労働力」という、盤面上で見れば数字でしか見ていないようにも感じる。この辺りは物事の受け取り方次第であり、また難点になるかどうかではあるが。


 そして、そうした様々な物事の受け取り方は、クアンタにとってはどうでもよい。

 すべて、彼女が決めるべきだと、リンナへ向いた。


「お師匠」

「っ、え? 何、クアンタ」


 突如名を呼ばれ、驚きながらクアンタへ視線を向けるリンナ。


「今、我々は一応、アメリアからラブコールを頂いている。お師匠はシドニア領とアメリア領、どちらに居たいという希望はあるか」

「ん……アメリア様の前で、ぶっちゃけるのはどうかと思うんだけど……うん、別にどっちでもいいかな?」


 少々考えるようにしながらも、最後にはあっけらかんとした物言いで言い切ったリンナの言葉に、クアンタが今一度、問う。


「……どっちでもいいのか?」

「? うん。アタシは刀が打てるならどこでも構わないし。別にアメリア領でもシドニア領でも、それこそアルハット領だろうがイルメール領だろうが、カルファス領だろうが。あー、強いて言えばアルハット領かなぁ、玉鋼の搬入で税関通さなくていいから、もう少し安く済ませられるし。

 それにさ――クアンタは、どこに行っても一緒に居てくれるっしょ?」


 無邪気に、確信を持ってそう聞きながら、首を傾げた彼女の言葉に。

  クアンタは、若干ではあるが、少し顔が熱くなる感覚を覚え、思考が遅れた。


「ちょ、黙んないでよっ! え、一緒にいてくれるよね? ね!」

「……安心しろ。私も同じ考えだ。お師匠と一緒ならば、どこであろうと構わない」

「ふむ、振られてしまったかの?」


 少し寂し気に口をすぼめたアメリアに「あ、ごめんなさいっ」と慌てて謝罪をするリンナだったが、アメリアはすぐに笑顔となり、彼女の頭を撫でる。


「さっきも言ったであろう。今の吾輩は、お主らのそういう自然体な所に惚れておる。じゃから、お主らが吾輩を選んでくれることを願ってこそいるが、しかし強制はせん。これからも良き友人として、お主らと一緒に居られればそれで良いわ」


 わしゃわしゃとリンナの髪の毛を乱していた所で、馬車が少しずつスピードを遅めた。
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