魔法少女の異世界刀匠生活

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第四章

感情-03

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 ふと周りを見渡すと、そこは森に囲まれたていて、更に先へ行くと高い塀に囲まれた屋敷があり、門を超えた広い庭に馬車を止め、そこでアメリアが率先して馬車より降り、リンナとクアンタを下した。


「ここが我が皇居じゃ。言うて、先代アメリアが所有していた屋敷をそのまま使用しておるがの」

「広いっすね。他にも誰か住んでるんですか?」

「使用人位じゃの。とは言ってもこ奴らじゃが」


 顎で示すは、常にアメリアの近くで防備に徹していた黒子達だ。結局、クアンタはこの者たちがしっかりと休憩を取っている場面を見る事は一度も無かった。


「シドニア等はもう少しかかりそうじゃの。では先に二人の客間に案内する故、ついてくるがよい」


 黒子たちによって、木造りの重たげな扉がギィと鳴らし開かれる。

  掃除が行き届き、綺麗な広間。そこから階段を上って二階へと上がり、通路を通る間にも高級そうな美術品が点在していた。


「あまり吾輩の趣味ではないがの。皇族ともなると貿易等の際に毎度頂くのじゃ。頂き物を適当に扱うのもよろしくない故、飾っておるだけの事よ」

「高そうな壺とか鎧だとかはく製だとか……アタシ、こう言うのよくわかんないからなぁ……」

「安心せい、吾輩もじゃ。否、壺や剥製はまだわからんでもない、しかし鎧は別に使えればよいではないか? 何故それを進呈されるのかという疑問は以前から尽きぬものでな……」


 と、そこでクアンタが僅かに目を惹かれ、足を止めた物が。

  それは恐らく、ガラスの様な材質で作られた剣と思われる逸品。

  所々に細かな粉飾がなされており、随分と綺麗だなと考えていたその時だった。


「あ」


 少し触っただけで、ピシリとヒビが入ってしまう。

 まだ、クアンタ以外の誰も気付いておらず、リンナとアメリアは何やら絵を見て「リンナこの絵をどう思う?」「アタシホントに芸術関連はわかんないんですよぉ」「そうじゃのぉ、吾輩もそういうのはとんとなぁ……」と世間話をしている。


(………………何故だ? 変身していない私の身体能力は今、人間のそれと同程度だ。簡単にヒビが入るわけもあるまい。

 そういえば私、返したとは言え虚力をシドニアから貰って一応栄養にしていたな。それで身体能力が自分でも気づかぬ内に上がっていたというのか?

 いや、大丈夫だ。この程度のヒビを補修する程度であれば、髪の毛一本の身体分離後、物質補間に回せば修繕は可能であるはず)


  そう考えながら今、剣を手に取ろうとした瞬間。

  パキパキパキパキガシャン、と音を奏でて粉々に砕け散ってしまう。


「あ…………」

「ク……アンタ……ッ!?」

「あー、やってもうたのぉ」


 流石に気付かれた。

  そして地面に落ち、粉々になったガラス細工を元に戻す技量は、クアンタに無い。


「お師匠」

「な、なに……?」


 ゆっくり、顔をリンナへと向けたクアンタ。


「ぜ、ぜぜぜ、全身の肌と言う肌から、水分が抜け落ちていく感覚があるのだが、これは一体何だろうか……?」

「それは冷や汗だと思う!!」

「こ、コレが冷や汗か……か、身体も若干震える……」

「クアンタが緊張のあまり身体を強張らせてるっ!?」


 表情は一切変わっていないが、彼女の言う通り全身から冷や汗をダクダクと流し、顔色も物凄く青ざめているようにリンナには見え、珍しくクアンタが非常に動揺しているのだと分かる。


「あー、あまり気にするでないぞ? それ自体に大した値は無かったと記憶しておる」


 あっけらかんとしたアメリアの言葉に、クアンタが少しだけ顔色を良くしてホッと息を付き「弁償出来る金額だろうか?」と問いかけると、アメリアは笑いながら「うむ、可能じゃろうな!」と強く頷いた。


「たかだか一千万クルス程じゃったぞ!」

「クアンタが未だかつてない程に顔色悪くなってる――ッ!?」


  クアンタはその場で動きを止め、ただ沈黙していた。流れる汗の量は増えたが。

 尚、捕捉すると、大体一クルスは日本円換算で百三円程度と予測している。


「お……おし、おシショー……っ、お、おキューキンの、前借……出来るだろうか……今後、給金はな、無しで、構わない……っ」

「声色は変わってないのに呂律が回ってないぞ!? む、無理無理無理! 一千万クルスなんて大金、ウチみたいな弱小鍛冶場で払えるわけねーじゃんっ」

「まずい、非常にマズい」

「んー。吾輩とお主らの仲じゃしな、別にその程度問題は無いのじゃが……しかし親しき中にも礼儀ありとも言うでのぉ」


 数秒思考を回したアメリアは、そこでポンと手を合わせて「そうじゃ」と、何かを思いついたように、リンナとクアンタへ言う。


「元々シドニアは二日ほどこの皇居を拠点にアメリア領の視察を行い、その間お主らを客人として招き、交流をするという予定じゃったが……その二日間、クアンタとリンナは吾輩の召使として仕えるがよい。それでチャラとしよう」

「ほ……本当か!」


 クアンタの脳内では「主らはコレで吾輩の下僕よケケケのケーッ」や「リンナの父が打った遺作は吾輩のモノじゃクククのクーッ」や「シドニア領がアメリア領に従僕すれば許してやらんことも無いぞカカカのカーッ」と言われる考えもあったのだが、そうした状況は回避できるという事だ。


「……だがこの不始末を起こしてしまったのは、私だ。勝手なお願いにはなってしまうが、お師匠に罪はない。私だけの奉仕でも構わないだろうか?」

「吾輩は別に構わんが」


 チラリと、アメリアがリンナへと視線を向けると、彼女は少々考えつつも、しかし首を横に振って、クアンタの手を取る。


「何言ってんの! アンタはアタシの弟子で、弟子の不始末はアタシの責任でもあんの! だからアタシもアンタと一緒に給仕としての仕事するってのっ」

「との事じゃな?」

「……本当に、申し訳ない」


 ペコリと頭を下げたクアンタを撫でながら「今度から気を付けなさいっ」と軽く叱ったリンナだったが――そこでフフッと笑みを浮かべる。


「アンタさ、そんなに慌てる事とかあるんだ。いっつも冷静沈着な奴かと思ってた」

「私も驚いたが……考えても、私だけが破滅する分には、特に問題はない。しかし」

「しかし?」

「……お師匠に、迷惑がかかると考えたら……落ち着いていられなかった」


 本当に、表情は変えないが、しかしリンナには、そう言って僅かに顔を俯かせたクアンタが、どこか落ち込んだ子犬のように見えてしまう。


「……ん、反省してるならアタシは良し! じゃ、アメリア様にちょっとでも恩返しする為に、身を粉にして働くよっ」

「了解した」


 いつまでも落ち込んではいられないと言わんばかりに顔を上げ、アメリアへと向き合った二者だったが――


  アメリアは、にんまりと笑顔を向けつつ、二着の着替えを用意していた。
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