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第四章
感情-07
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「へぇー、じゃあアメリア様はどっちかというと米系よりパン系の方が好きなんだ。え、魚とかはどう? あ、やっぱ肉系? じゃあお酢とかは大丈夫かなー、結構使っちゃったけど」
「……お師匠、誰と話している?」
「ん? あ、クアンタ。誰って黒子さん達」
広々とした調理場の中心、黒子たちに囲まれながら調理を行うリンナ。エプロンを付けて、何やら調理をしているようだったが、黒子たちは彼女の料理にキョロキョロとしながら指さしたり、時々つまみ食いをしていたりする。
「よく言葉を喋らない黒子の言いたい事を理解できるな」
「あー……なんか、アンタと話す時と同じカンカク。アンタの反対で、喋らないけど感情は読み取りやすいよ?」
「……私はこの群がっている黒子たちと同等扱いなのか」
今つまみ食いをした者の襟を引っ張ると、ヤベバレた、と言わんばかりの動きでそそくさとどこかへ行ってしまう一人を見逃しつつ、しかし並べられた料理の数々に、クアンタも少々の驚きを見せる。
クアンタが元々いた地球での言語で言うと、和洋中風の入り混じる数多の料理。そのラインナップに黒子たちがコクンコクンと頷きながら、出来上がった料理周りをグルグルとし、これは良い物だと訴えかけているようにも見えた。
「これはお師匠が?」
「うん、アタシ料理得意だもんよ。食材さえあればどんな料理でもやっちゃうよ。……まぁクアンタは作った料理に全然感想言ってくれないけどねー」
ジトーっとした目で訴えかけるリンナに、クアンタも「今後善処する」とだけ返し、黒子たちが料理を運んでいく所を見届ける。
「アタシ達は飯どうすりゃいい? あ、使用人組は別で食べる? じゃあアタシまかない作っちゃうけど、皆食いたい物あるかな? あ、まかないは余ってる食材使っていいの? じゃ適当に作っちゃうね」
その後もすんなりと黒子たちの言っている事を翻訳する彼女と、彼女の作る料理を心待ちにするクアンタと黒子たち。
食堂に設けられた机にどんどん作られていく料理を、顔にかかるベールを少しだけ外し、決して顔は見せないがガッツリと食していく姿を見て、リンナは「こんだけ食材余ってるから男組が沢山食えていいわー」と喜んでいる。
元々彼女は誰かに料理を作ったり、誰かの世話をしたりというのが好きなタイプなのだろう。
「クアンタも食べな? アンタはそんな食うタイプ、というか食事が必要じゃないかもしれないけど、作った人に感謝しながら食うのよ?」
「そうする。では――頂きます」
リンナから事前にこうしろと教わっていた、両手を合わせて調理された食材と、作った者へ感謝の念と言うのを籠めつつ、木で出来た箸を使って酢豚を食す。少し酸っぱい、しかし確かに感じる旨味を味わいながら、何度も何度も歯で噛んでいく。
「美味しい」
「そ? なら良かった」
どんどん作るからいっぱい食べな、と喜ぶリンナの事を見据えながら料理を食べ進めていると、調理場にアメリアが顔を出した。
「おお、こちらも色々料理が並んどるの。黒子たちが作ったとは思えんかったから来たが、リンナが作っとったのか?」
彼女が顔を出した瞬間、黒子たちが食べるのを中断し、彼女の下に群がって頭を下げる。クアンタも続こうとするが、しかしアメリアに「そのままで良いぞ」と止められた。
「あ、アメリア様。食材勝手に使ってゴメンナサイ。口に合わなかったりとか、しませんでした?」
「まだ少ししか食べれとらんが、美味かったぞ! 吾輩、あの少し辛い感じの料理が好きじゃったわ。赤い奴」
「じゃあリュナス風の辛味料理が好きな感じですかね」
「おお、あの東洋にあるリュナスの料理か、アレ。また食べたい故、ずっとこのアメリア領に居ても良いのじゃぞ?」
今の発言には、アメリアに平伏する黒子たちが顔を上げてウンウンと頷いた。
「あー……アタシ料理は好きですけど、調理師になるつもりはちょっとないので。二日間だけで勘弁してください」
苦笑しながらそう断りを入れると、黒子たちがゴンと頭を打って悔しがり、アメリアも少々寂しそうにしたが、話を本題に。
「そうじゃ。今日の夜は、吾輩とリンナとクアンタの三人で交わる故、身体を綺麗にしてベッドに来るのじゃぞ!」
ニッコリ笑顔でそう言い切って「それじゃあのー!」と去っていったアメリアに、リンナが動きを止め、その場で固まりだした。
「お師匠、どうした」
「………………ね、ねえクアンタ、あ、あの、今、アメリア様、なんて言った?」
「三人で交わる故、身体を綺麗にしてベッドに来るのじゃぞ、と言っていたが」
「聞き間違いじゃなかったぁああああああああッ!!」
頭を抱えて膝を折るリンナに黒子たちとクアンタが顔を合わせて首を傾げるとリンナが「そうそう言う所そっくりなのアンタら!!」と叫び、最終的には壁の近くで口元を押さえてゴンゴンと頭をぶつけ始める。クアンタも黒子たちも何事なのだろうと、彼女の周りを群がる。
「え、えー……ちょ、ちょっと待って、交わるって、そう言う事だよね? だって身体綺麗にしとけって、そうしかないじゃん? で、でもアタシ一応女だし……あ、アメリア様って同性愛者なんだっけ? あーっ、でもでも、アタシだって初めてな上、アタシ心は男のつもりだし……っ!」
「よくわからんが落ち着いてくれお師匠。黒子たちが言葉にはしていないがザワついて心配している」
「クアンタはどうしてそんな落ち着いてんの!?」
「アメリア様の言っていた意味が理解できていないからだ。交わるとは何だ?」
本日の就寝は災い対処の関係上、女性三人が同じ部屋で寝泊まりする必要がある。しかしリンナにはまだこの事実を伝える事が出来ない故、アメリアはその【交わる】という事を口実にして、同室で寝泊まりするという条件を作り出したのであろうと、クアンタには分かっている。
しかしその【交わる】の意味が理解できていない状況では、リンナの反応が理解できず、首を傾げるしかない。尚黒子たちも交わるという言葉の意味に関しては理解していないようだった。
「ていうかよぉく思い返すとクアンタとアメリア様の三人で交わるって何それ――ッ!! アタシの初めて乱交になっちゃうじゃんよーッ!?」
「本当に意味等は理解できないが、少なくともお師匠が嫌がっているなら断る事も出来るのではないか? アメリア様ならば無理強いはしないと思うが」
「うぅ……でもアタシら、アメリア様に一千万クルスも本来は借りがある状況じゃん……?」
「そこを言われると私も否定し辛い」
「こ、こんな田舎娘の身体でアメリア様が一千万クルス分も満足してくれんなら、もうそりゃ身体差し出すしか無いじゃん……知らない男とヤれって事じゃないし、見知った人だからまだ……ていうかクアンタは良いの……?」
「だから、意味が理解できなければ良いも悪いも判断しかねる。交わるとは何だ?」
「師匠としては教えてあげた方がいいんだろうけど口にすんの超恥ずかしくて無理だし、もし万が一違ってたらアタシがイヤらしい奴って事になっちゃう……っ」
泣きそうになりつつも顔を真っ赤にして震えるリンナを心配するクアンタと黒子たち。しかし彼女はやがて覚悟を決めたように、ぶんぶんと首を振ってギュッと口を結び、椅子に腰かけて料理を食べ進める。
「考えてたってしゃーないっ! 人間、飯が食えて明日の朝日拝めりゃ幸せって親父も言ってたし! うん、死ななきゃ儲けモンっ! こうなったらそう言う初夜だって経験だと思えばいいんじゃい……っ!」
「……言っている意味は何ひとつ理解できないが、しかし元気になったようで良かった」
リンナの隣で同じく食事にありつくクアンタと黒子たち。
そうして彼女が作った大量の料理を食べ終えたリンナは、黒子に「水浴び場どこ!?」と怒りながら案内させ、クアンタもそれに続き、順番で湯浴びをしたのだった。
「……お師匠、誰と話している?」
「ん? あ、クアンタ。誰って黒子さん達」
広々とした調理場の中心、黒子たちに囲まれながら調理を行うリンナ。エプロンを付けて、何やら調理をしているようだったが、黒子たちは彼女の料理にキョロキョロとしながら指さしたり、時々つまみ食いをしていたりする。
「よく言葉を喋らない黒子の言いたい事を理解できるな」
「あー……なんか、アンタと話す時と同じカンカク。アンタの反対で、喋らないけど感情は読み取りやすいよ?」
「……私はこの群がっている黒子たちと同等扱いなのか」
今つまみ食いをした者の襟を引っ張ると、ヤベバレた、と言わんばかりの動きでそそくさとどこかへ行ってしまう一人を見逃しつつ、しかし並べられた料理の数々に、クアンタも少々の驚きを見せる。
クアンタが元々いた地球での言語で言うと、和洋中風の入り混じる数多の料理。そのラインナップに黒子たちがコクンコクンと頷きながら、出来上がった料理周りをグルグルとし、これは良い物だと訴えかけているようにも見えた。
「これはお師匠が?」
「うん、アタシ料理得意だもんよ。食材さえあればどんな料理でもやっちゃうよ。……まぁクアンタは作った料理に全然感想言ってくれないけどねー」
ジトーっとした目で訴えかけるリンナに、クアンタも「今後善処する」とだけ返し、黒子たちが料理を運んでいく所を見届ける。
「アタシ達は飯どうすりゃいい? あ、使用人組は別で食べる? じゃあアタシまかない作っちゃうけど、皆食いたい物あるかな? あ、まかないは余ってる食材使っていいの? じゃ適当に作っちゃうね」
その後もすんなりと黒子たちの言っている事を翻訳する彼女と、彼女の作る料理を心待ちにするクアンタと黒子たち。
食堂に設けられた机にどんどん作られていく料理を、顔にかかるベールを少しだけ外し、決して顔は見せないがガッツリと食していく姿を見て、リンナは「こんだけ食材余ってるから男組が沢山食えていいわー」と喜んでいる。
元々彼女は誰かに料理を作ったり、誰かの世話をしたりというのが好きなタイプなのだろう。
「クアンタも食べな? アンタはそんな食うタイプ、というか食事が必要じゃないかもしれないけど、作った人に感謝しながら食うのよ?」
「そうする。では――頂きます」
リンナから事前にこうしろと教わっていた、両手を合わせて調理された食材と、作った者へ感謝の念と言うのを籠めつつ、木で出来た箸を使って酢豚を食す。少し酸っぱい、しかし確かに感じる旨味を味わいながら、何度も何度も歯で噛んでいく。
「美味しい」
「そ? なら良かった」
どんどん作るからいっぱい食べな、と喜ぶリンナの事を見据えながら料理を食べ進めていると、調理場にアメリアが顔を出した。
「おお、こちらも色々料理が並んどるの。黒子たちが作ったとは思えんかったから来たが、リンナが作っとったのか?」
彼女が顔を出した瞬間、黒子たちが食べるのを中断し、彼女の下に群がって頭を下げる。クアンタも続こうとするが、しかしアメリアに「そのままで良いぞ」と止められた。
「あ、アメリア様。食材勝手に使ってゴメンナサイ。口に合わなかったりとか、しませんでした?」
「まだ少ししか食べれとらんが、美味かったぞ! 吾輩、あの少し辛い感じの料理が好きじゃったわ。赤い奴」
「じゃあリュナス風の辛味料理が好きな感じですかね」
「おお、あの東洋にあるリュナスの料理か、アレ。また食べたい故、ずっとこのアメリア領に居ても良いのじゃぞ?」
今の発言には、アメリアに平伏する黒子たちが顔を上げてウンウンと頷いた。
「あー……アタシ料理は好きですけど、調理師になるつもりはちょっとないので。二日間だけで勘弁してください」
苦笑しながらそう断りを入れると、黒子たちがゴンと頭を打って悔しがり、アメリアも少々寂しそうにしたが、話を本題に。
「そうじゃ。今日の夜は、吾輩とリンナとクアンタの三人で交わる故、身体を綺麗にしてベッドに来るのじゃぞ!」
ニッコリ笑顔でそう言い切って「それじゃあのー!」と去っていったアメリアに、リンナが動きを止め、その場で固まりだした。
「お師匠、どうした」
「………………ね、ねえクアンタ、あ、あの、今、アメリア様、なんて言った?」
「三人で交わる故、身体を綺麗にしてベッドに来るのじゃぞ、と言っていたが」
「聞き間違いじゃなかったぁああああああああッ!!」
頭を抱えて膝を折るリンナに黒子たちとクアンタが顔を合わせて首を傾げるとリンナが「そうそう言う所そっくりなのアンタら!!」と叫び、最終的には壁の近くで口元を押さえてゴンゴンと頭をぶつけ始める。クアンタも黒子たちも何事なのだろうと、彼女の周りを群がる。
「え、えー……ちょ、ちょっと待って、交わるって、そう言う事だよね? だって身体綺麗にしとけって、そうしかないじゃん? で、でもアタシ一応女だし……あ、アメリア様って同性愛者なんだっけ? あーっ、でもでも、アタシだって初めてな上、アタシ心は男のつもりだし……っ!」
「よくわからんが落ち着いてくれお師匠。黒子たちが言葉にはしていないがザワついて心配している」
「クアンタはどうしてそんな落ち着いてんの!?」
「アメリア様の言っていた意味が理解できていないからだ。交わるとは何だ?」
本日の就寝は災い対処の関係上、女性三人が同じ部屋で寝泊まりする必要がある。しかしリンナにはまだこの事実を伝える事が出来ない故、アメリアはその【交わる】という事を口実にして、同室で寝泊まりするという条件を作り出したのであろうと、クアンタには分かっている。
しかしその【交わる】の意味が理解できていない状況では、リンナの反応が理解できず、首を傾げるしかない。尚黒子たちも交わるという言葉の意味に関しては理解していないようだった。
「ていうかよぉく思い返すとクアンタとアメリア様の三人で交わるって何それ――ッ!! アタシの初めて乱交になっちゃうじゃんよーッ!?」
「本当に意味等は理解できないが、少なくともお師匠が嫌がっているなら断る事も出来るのではないか? アメリア様ならば無理強いはしないと思うが」
「うぅ……でもアタシら、アメリア様に一千万クルスも本来は借りがある状況じゃん……?」
「そこを言われると私も否定し辛い」
「こ、こんな田舎娘の身体でアメリア様が一千万クルス分も満足してくれんなら、もうそりゃ身体差し出すしか無いじゃん……知らない男とヤれって事じゃないし、見知った人だからまだ……ていうかクアンタは良いの……?」
「だから、意味が理解できなければ良いも悪いも判断しかねる。交わるとは何だ?」
「師匠としては教えてあげた方がいいんだろうけど口にすんの超恥ずかしくて無理だし、もし万が一違ってたらアタシがイヤらしい奴って事になっちゃう……っ」
泣きそうになりつつも顔を真っ赤にして震えるリンナを心配するクアンタと黒子たち。しかし彼女はやがて覚悟を決めたように、ぶんぶんと首を振ってギュッと口を結び、椅子に腰かけて料理を食べ進める。
「考えてたってしゃーないっ! 人間、飯が食えて明日の朝日拝めりゃ幸せって親父も言ってたし! うん、死ななきゃ儲けモンっ! こうなったらそう言う初夜だって経験だと思えばいいんじゃい……っ!」
「……言っている意味は何ひとつ理解できないが、しかし元気になったようで良かった」
リンナの隣で同じく食事にありつくクアンタと黒子たち。
そうして彼女が作った大量の料理を食べ終えたリンナは、黒子に「水浴び場どこ!?」と怒りながら案内させ、クアンタもそれに続き、順番で湯浴びをしたのだった。
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