魔法少女の異世界刀匠生活

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第六章

円卓会議(ちゃぶ台)-01

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 円卓と呼ぶにはこじんまりとしたちゃぶ台を囲んで、今五人の皇族が席に着いた。(一人は気絶してちゃぶ台にうつ伏せているが)

  
  イルメール・ヴ・ラ・レアルタ第一皇女。(気絶中)

  カルファス・ヴ・リ・レアルタ第二皇女。

  アメリア・ヴ・ル・レアルタ第三皇女。

  シドニア・ヴ・レ・レアルタ第一皇子。

  アルハット・ヴ・ロ・レアルタ第四皇女。


 イルメールを除く全員が視線を合わせながら、サーニスの入れた紅茶を湯飲みで頂き、まずはシドニアが口を開く。


「ではまず今回、皆に集まって頂いたのは他でもありません」

「ねぇねぇクアンタちゃん後でちょっとお時間貰えない? もしよかったら私の霊子魔術についての見解を」

「聞けカルファスッ!!」

「うひゃっ、シドちゃんが怒った!」


 進行を気にする様子の無いカルファスに苛立つシドニアがちゃぶ台を強く叩き、全員の湯飲みが僅かに揺れる。なお今の揺れでイルメールの頭に紅茶がぶっかかったが、サーニス以外は誰も気にしていなかった。


「ちぇー。じゃあ後で。……ん、続けて良いよぉシドちゃん」

「……集まって頂いたのは、災いに対処についてです」

「そう、そうよ! その【災い】! ねぇどうだったホントに真っ黒だった!?」

「カルファス」

「ん? なにアメちゃん」

「今多数決によってお主の発言権を一時失効させた。クアンタよ、口を塞ぐのじゃ」

「かしこまりました」

「え、いつの間にそんな、んむぐ、むぐ~っ!」


 カルファスの背後から猿ぐつわにて口を塞いでいくクアンタを見届ける全員。何故猿ぐつわを持っているかは、予めこうなる事を予想していたアメリアがクアンタに渡していたからだ。

  尚、多数決は「カルファスの発言権を一時失効させるか否か」について行われ、アメリア、シドニア、アルハットの三人が賛成、イルメールは気絶中の為に無効票、残るカルファスが反対した所で賛成多数となる為、彼女に話を通す必要も無かったという事だ。


「では安心して続けよう」


 スッキリとした面持ちのシドニアとアメリア。

  アルハットはカルファスに「申し訳ありません」と一言だけ謝ったが、しかし彼女がいると話が進まないと考えたのは彼女も同様だ。

  今、イルメールの頭を拭き終わり、サーニスが畳に正座するクアンタ、リンナの隣に着席し、会議が開始。


「まず災いに関してだが、幾つか進展があった。

 現在多発している災いの発生に関しては、恐らくだが大多数がマリルリンデと呼ばれる存在によって生み出されていると考えられる。

 姉上方やアルハットはアメリアからの特使より話を聞いていますね?」


 頷くカルファスとアルハットを見届ける。イルメールは話に参加する必要もそうないので、そのまま続行。


「特使より伝わっていない点に関しては、そのマリルリンデと呼ばれる人物がクアンタと同種の、所謂宇宙人というべき地球外生命体であった事が確認されています」

「地球外生命体」


 アルハットの視線がクアンタに向けられる。彼女はコクリと頷き、シドニアの元へ。


「クアンタは【フォーリナー】と呼ばれる流体金属生命体として、この星にやってきた。彼女いわく調査が目的だそうだが」

「肯定です」


 各皇女達を前にしているという理由から、クアンタは全皇女に対しても、皇子であるシドニアに対しても敬語で話す事としている。


「質問、いいかしら」


 手を上げたアルハットに、クアンタが「どうぞ」と頷き、彼女は手を下ろしながら、先ほど家宅の立て直しに使用した霊子端末を取り出した。


「流体金属という事は、貴女の体は本来、特定の形を有さない液体金属のような物なのかしら」

「肯定です。今は便宜上、人間の体を模していますが、人間としての形ではなく別の形を有する事も可能となります」

「そう。そのマリルリンデも貴女と同様の機能を有しているという認識で構わない?」

「奴がこの星へ訪れてから、二百二十年近く本体との合流が果たせていませんので、経年劣化故に能力としては私よりも劣る可能性があります。しかし奴が災いを使役して収集していた虚力という感情を司るエネルギーを多く有している可能性もある故、何とも判断が難しい所ではあります」

「分かった。貴女に関しての情報を後でまとめるから、時間を頂くことになるけれど、お兄さまも構いませんか?」

「クアンタさえよければ構わない」

「私も特に問題はありません」

「そう、ありがとう」


 続けて下さい、とシドニアに進行を願い出た彼女の様子は、あくまで会議の体を守っている。

  なのにその両隣は猿ぐつわによって発言権を失効された姉と頭を殴打され気絶している姉なので、何だか妙な光景だなとリンナが苦笑した。


「マリルリンデの目的は、クアンタの師匠であり、この刀工鍛冶場を経営するリンナの持つ虚力を収集する事だと思われます。クアンタ曰く彼女の虚力量はアメリアの四十倍という事ですので、仮にアメリアの虚力量が常人並みだと仮定しても、効率よく虚力を収集できるというわけですね」

「吾輩らが持っている情報としてはこの程度かのぉ?」


 アメリアがシドニアへ視線を向けると、彼も頷き「そうかと思われますが」と同意する。


「姉さま、虚力という概念に関して、情報はお持ちではないですか?」


 アルハットがカルファスに問うと、彼女は首をブンブンと横に振り、否定を示した。少なくとも名だけでは、同様の概念がこの世界にて知られていないという事なのだろう。


「シドニア兄さま、アメリア姉さま、一度カルファス姉さまの猿ぐつわを外していただいて、私と姉さまで集めた災いに関する情報をお話させていただいてよろしいでしょうか?」

「いいだろう。クアンタ」

「ハイ」


 カルファスに取り付けた猿ぐつわを取り外し「ぷはぁ」と空気を吸った彼女に「申し訳ありません」とだけ詫びを入れると、彼女は気にしていない様子で「全然いいよぉ」と手を振ってくれた。


「じゃあまず災いに関してだけれど、コレは予めシドちゃんとかにもお話ししてた内容通りね。

 太鼓より存在する、世に災厄をもたらす存在、それが災い。恐らく自然的に発生する個体もあるのだろうけど、それらが活動して出る被害は、おおよそ年に数件位だと思われるわ。これに皇国軍や警兵隊を動員しまくって対応しようとするのは非効率極まりないわねぇ」


  真剣な顔をして災いの報告をする彼女は、先ほどまでのふざけた態度とは違い、真面目だと感じるクアンタとリンナが目を合わせると、サーニスが小声で「魔術さえ絡まなければ比較的まともなお方だ」と注釈を入れてくれた。
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