56 / 285
第六章
円卓会議(ちゃぶ台)-02
しおりを挟む
「気になっていたのですが、この災厄というのは災い自体が発生する事を指しているのでしょうか?」
シドニアの問いに、カルファスは首を振るし、その否定をした理由もしっかりと答えていく。
「伝承によると違うみたい。クアンタちゃんのお話とかをまとめると、多分災いはその【虚力】ってエネルギーを収集した後、放出する事によって、文字通りの災厄を引き起こすんじゃないかな? それぞれの個体が『地震』とか『火災』とか『水災』とかを司ってて、エネルギーを放出した結果として運命が書き換えられ、そうした災厄を引き起こす、って事だと思う」
「運命が書き換えられる?」
「例えば地震だけど、アレは地下で起きるプレート運動によって引き起こされる現象でしょう? 災いがエネルギーを放出すると、この『プレートは今大きく動かない』という運命を『今すぐ動かす』っていう運命に変更させるっていう事。火災でも、水災でもそうだね。
災いが火災を司っていたら、多分だけどその火災現場では何か火を取り扱っている。元々扱う予定が無かったとしても扱う事にされる。
水災も同じく、例えば雨水を貯水し塞き止める水壁に何ら問題が無かったとしても、問題があったと書き換えられて、破壊されて、水災が引き起こされる、みたいな」
「虚力にはそうした力があると?」
アメリアの問いに、クアンタも小さく頷く。
「可能かと思われます。これまで我々フォーリナーが調査してきた有機生命体の中には、この虚力を用いて空を飛んだり、はたまた戦闘能力として還元する者も居た程です。そうした因果性の書き換えという事も出来て不思議ではないかと。我々フォーリナーの動力源にもなります」
「なるほどのぉ。簡単に言ってしまえばトンデモエネルギーという事じゃな?」
「その辺はマナに似てるかなぁ。その虚力を解析できれば、ある程度の推察は可能かも。後でその虚力について詳しく聞くね」
話は少し逸れたかもしれないね、とカルファスがシドニアへ進行を戻したが、しかし必要な情報だったと彼も理解している。
「つまり災いが本来虚力を集める理由は、そうした災厄を引き起こす為に必要なエネルギーを補給するため、という事でいいのでしょうか?」
「伝承が確かならね」
「伝承には何やら刀の存在が重要視されているようですが」
「うん、この一文だね。『災い出現すべし時、刀を持つ麗しの巫女が、災厄を討ち滅ぼさん』――この巫女っていうのが何かわからなかったんだけど、この間調べてたら【姫巫女】って人の伝説が出てきたよ」
姫巫女、と聞いた瞬間、リンナが「あ」と言葉を発した。
「どうしたリンナ」
これまで喋らなかったリンナが、突如として言葉を漏らしたものだから、シドニアがそちらに視線を向けて問う。
「あ、いえ大したことじゃなくて、ただ姫巫女って人の伝説は、アタシも聞いた事あるなぁと」
「え、そうなの? 相当、それこそ四百年以上前の伝承だけど、知ってるもんなんだね」
カルファスが「やっぱ伝承系は民衆が強いよ民衆が」とコクコク頷き、シドニアが「どんな伝承か言えるか?」と尋ねる。
「えっと、親父が教えてくれたんですけど。
『災厄を引き起こす存在が現れし刻、姫巫女の一族、刃を以て災厄を打ち滅ぼす』……みたいなカンジ、でしたかね?」
「うん、概ね一緒。私が見つけたのも『災厄を引き起こす災い出現すべし時、姫巫女の一族が刃を以て、人々を襲う災厄を打倒するであろう』……っていうのが、今のイルメール領辺りで四百年位前に作られた絵巻に書かれていた伝承っぽいね!
多分災いの所に出てきた『刀を持つ麗しの巫女』っていうのと、リンナちゃんも知ってる『刃を以て人々を襲う災厄を打倒する』って伝承は、書いた人が違うだけで同じ事を指してるんだと思うの!」
なるほど、とシドニア達が頷きながら聞き届けているが、しかしサーニスとクアンタが同様の内容で疑問符を浮かべる。
「しかし、災いは刀ではない、サーニスのレイピアでも倒せました」
「恐れながらクアンタと同意見でございます。自分は幾度か災いと対峙しておりますが、全てレイピアか肉弾戦等において討伐を果たしております。
そして記憶が正しければ、シドニア様も幾度か、お持ちの長剣短剣の組み合わせ、及びゴルタナによる衝撃斬で討伐を果たしている筈では」
シドニアも二人の言葉には頷き「そうだ」と同意した。
「だが私は少々、疑問を持っている。クアンタ、リンナの持つ虚力量は、アメリアの所有する虚力量を常人と仮定した場合、それの四十倍はあると言ったな」
「肯定です」
「確かに常人よりも四十倍優れるという点においては、あのマリルリンデが狙う理由にもなるかもしれない。
だが、奴は既に四十人どころか、数百人単位の女性を襲い、虚力を集めている筈だ。であるにも関わらず、警備が厳重となりやすいアメリアの皇居にまで、リンナを狙うとは考えづらい」
シドニアの言葉には一理あった。
例えば百の労力を用いて四十あるリンナの虚力を奪うより、二の労力を用いて一の虚力を奪ばい、それを労力が百になるまで繰り返しとすれば、おおよそ五十の虚力が手に入る。効率としては後者の方が好ましいだろう。
「ですが事実、奴はお師匠の事を狙っていました」
「狙っていた理由が虚力だけではないのだろう。リンナの排除が目的ならば、虚力を奪い、動けなくすれば一石二鳥だからな。虚力以外に、彼女が狙われるに足る理由が、刀なのだろう」
冷静に考えているシドニアの言葉にクアンタも「なるほど」と同意する。確かに現時点では、リンナの虚力を狙った犯行として見るには説得力が薄く、別の目的があり彼女を襲ったと見るのが自然だろう。
だが皇居に本来あるべき警備だけではなく、それに加えて本来は守られる側であるシドニアが警護に加わった事、さらにはクアンタという不穏分子がいたことにより、前回のマリルリンデはリンナから手を退かざる得なかった、というわけだ。
シドニアの問いに、カルファスは首を振るし、その否定をした理由もしっかりと答えていく。
「伝承によると違うみたい。クアンタちゃんのお話とかをまとめると、多分災いはその【虚力】ってエネルギーを収集した後、放出する事によって、文字通りの災厄を引き起こすんじゃないかな? それぞれの個体が『地震』とか『火災』とか『水災』とかを司ってて、エネルギーを放出した結果として運命が書き換えられ、そうした災厄を引き起こす、って事だと思う」
「運命が書き換えられる?」
「例えば地震だけど、アレは地下で起きるプレート運動によって引き起こされる現象でしょう? 災いがエネルギーを放出すると、この『プレートは今大きく動かない』という運命を『今すぐ動かす』っていう運命に変更させるっていう事。火災でも、水災でもそうだね。
災いが火災を司っていたら、多分だけどその火災現場では何か火を取り扱っている。元々扱う予定が無かったとしても扱う事にされる。
水災も同じく、例えば雨水を貯水し塞き止める水壁に何ら問題が無かったとしても、問題があったと書き換えられて、破壊されて、水災が引き起こされる、みたいな」
「虚力にはそうした力があると?」
アメリアの問いに、クアンタも小さく頷く。
「可能かと思われます。これまで我々フォーリナーが調査してきた有機生命体の中には、この虚力を用いて空を飛んだり、はたまた戦闘能力として還元する者も居た程です。そうした因果性の書き換えという事も出来て不思議ではないかと。我々フォーリナーの動力源にもなります」
「なるほどのぉ。簡単に言ってしまえばトンデモエネルギーという事じゃな?」
「その辺はマナに似てるかなぁ。その虚力を解析できれば、ある程度の推察は可能かも。後でその虚力について詳しく聞くね」
話は少し逸れたかもしれないね、とカルファスがシドニアへ進行を戻したが、しかし必要な情報だったと彼も理解している。
「つまり災いが本来虚力を集める理由は、そうした災厄を引き起こす為に必要なエネルギーを補給するため、という事でいいのでしょうか?」
「伝承が確かならね」
「伝承には何やら刀の存在が重要視されているようですが」
「うん、この一文だね。『災い出現すべし時、刀を持つ麗しの巫女が、災厄を討ち滅ぼさん』――この巫女っていうのが何かわからなかったんだけど、この間調べてたら【姫巫女】って人の伝説が出てきたよ」
姫巫女、と聞いた瞬間、リンナが「あ」と言葉を発した。
「どうしたリンナ」
これまで喋らなかったリンナが、突如として言葉を漏らしたものだから、シドニアがそちらに視線を向けて問う。
「あ、いえ大したことじゃなくて、ただ姫巫女って人の伝説は、アタシも聞いた事あるなぁと」
「え、そうなの? 相当、それこそ四百年以上前の伝承だけど、知ってるもんなんだね」
カルファスが「やっぱ伝承系は民衆が強いよ民衆が」とコクコク頷き、シドニアが「どんな伝承か言えるか?」と尋ねる。
「えっと、親父が教えてくれたんですけど。
『災厄を引き起こす存在が現れし刻、姫巫女の一族、刃を以て災厄を打ち滅ぼす』……みたいなカンジ、でしたかね?」
「うん、概ね一緒。私が見つけたのも『災厄を引き起こす災い出現すべし時、姫巫女の一族が刃を以て、人々を襲う災厄を打倒するであろう』……っていうのが、今のイルメール領辺りで四百年位前に作られた絵巻に書かれていた伝承っぽいね!
多分災いの所に出てきた『刀を持つ麗しの巫女』っていうのと、リンナちゃんも知ってる『刃を以て人々を襲う災厄を打倒する』って伝承は、書いた人が違うだけで同じ事を指してるんだと思うの!」
なるほど、とシドニア達が頷きながら聞き届けているが、しかしサーニスとクアンタが同様の内容で疑問符を浮かべる。
「しかし、災いは刀ではない、サーニスのレイピアでも倒せました」
「恐れながらクアンタと同意見でございます。自分は幾度か災いと対峙しておりますが、全てレイピアか肉弾戦等において討伐を果たしております。
そして記憶が正しければ、シドニア様も幾度か、お持ちの長剣短剣の組み合わせ、及びゴルタナによる衝撃斬で討伐を果たしている筈では」
シドニアも二人の言葉には頷き「そうだ」と同意した。
「だが私は少々、疑問を持っている。クアンタ、リンナの持つ虚力量は、アメリアの所有する虚力量を常人と仮定した場合、それの四十倍はあると言ったな」
「肯定です」
「確かに常人よりも四十倍優れるという点においては、あのマリルリンデが狙う理由にもなるかもしれない。
だが、奴は既に四十人どころか、数百人単位の女性を襲い、虚力を集めている筈だ。であるにも関わらず、警備が厳重となりやすいアメリアの皇居にまで、リンナを狙うとは考えづらい」
シドニアの言葉には一理あった。
例えば百の労力を用いて四十あるリンナの虚力を奪うより、二の労力を用いて一の虚力を奪ばい、それを労力が百になるまで繰り返しとすれば、おおよそ五十の虚力が手に入る。効率としては後者の方が好ましいだろう。
「ですが事実、奴はお師匠の事を狙っていました」
「狙っていた理由が虚力だけではないのだろう。リンナの排除が目的ならば、虚力を奪い、動けなくすれば一石二鳥だからな。虚力以外に、彼女が狙われるに足る理由が、刀なのだろう」
冷静に考えているシドニアの言葉にクアンタも「なるほど」と同意する。確かに現時点では、リンナの虚力を狙った犯行として見るには説得力が薄く、別の目的があり彼女を襲ったと見るのが自然だろう。
だが皇居に本来あるべき警備だけではなく、それに加えて本来は守られる側であるシドニアが警護に加わった事、さらにはクアンタという不穏分子がいたことにより、前回のマリルリンデはリンナから手を退かざる得なかった、というわけだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる