魔法少女の異世界刀匠生活

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第六章

円卓会議(ちゃぶ台)-05

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「ではイルメールの快諾も得たという事で、今回の議題自体は終了だ。問題は今後どういった対応をしていくかだが、今まで寝ていたイルメールは、先ほど災いと相対したような口ぶりでしたが?」

「ん、アァ。ちょいと相手してやったが、ダメだなアリャ、兵隊としては強ェかもしれねェけどな。思考回路がねェのか、クアンタみたいに応用が利くわけでもねェ、ゴルタナ装着した奴が相手すれば問題なく勝てるレベルだ。そう大した脅威とは思わねェよ」

「しかし問題は数です。イルメール領における被害総数、記憶にありますかな?」

「えー……いっぱい」

「イルメールよ、主は領主という自覚があるのかぇ?」

「しゃーねェだろぉ? 一日に『今日は災いによる被害が何件ありました』だの、言われたって数えてらんねぇよ、二日目辺りまでは数えたんだけど、両指の数超えた辺りからもぉダメだ、計算できん!」

「足の指を使って数えられたらどうです?」

「あーその手があったな! ん、でも多分三日目くらいで超えるぞ?」

「ねぇイル姉さま、筆算って知ってる? その前に鉛筆って知ってる? 便利だから使ってみてね」

「バカにすんなよカルファス、鉛筆は知ってるぜ!」

「筆算はどうなんですイルメール姉さま……」

「ヒッサン……? なんか、必殺技の名前っぽいけど、何の意味なんだアルハット」

「何故コレで皇族に名を連ねる事が出来る?」

「むしろオレ以外は皇族の名折れだな! 強さがあれば、筋肉があれば何でもできるっ!」


 クアンタ、シドニア、アメリアが冷たい視線をイルメールに送るが、しかし彼女の力量は確かで、その力量を見込まれて、彼女は皇国軍の実質トップにもなっている。その才能は確かだ。


「ではイルメールに伺いたいのですが、各領土で多発している災いへの対処、もし各領土に駐屯基地を持つ皇国軍と、各領土が運用する警兵隊をどのように動かす事が最適と思われますか?」

「ん、そりゃまぁ戦術的にゃ定期配置だろ」


 イルメールにしては難しい言葉が出た気がした面々だが、しかし彼女が「アルハット、地図」と口にし、アルハットがレアルタ皇国全土地図の表示した霊子端末と、操作用タッチペンを渡す。


「まず基本的に各領土にゃ、オレが配置している皇国軍駐屯基地が二つから四つあるだろ? まずオレん所のイルメール領はもちろん四つあるが、コレは国土の広さがあっからな」

「広さで言えばアメリア領が一番広いですが」

「ただっ広いだけで六割は人も住んでねぇし開発も進んでねぇ山岳地帯だろ? ていうか多分そのマリルリンデは山岳地帯を超えてっから人目に付かねぇンだよ。詳しくは聞いてねェけど、報告聞いてる限りだとクアンタみてぇな人外だろ? なら山岳地帯超えるのもラクショーだろ」


 イルメールはマリルリンデの名と、彼がアメリアの皇居に彼が襲撃をかけた事は知っているが、先ほど話題に出たクアンタと同種であるという話の際には気絶をしていた筈だ。

  にも関わらず、マリルリンデの行動報告を受けた内容だけで、彼が人外だと見抜くのは、獣の直観か、それとも報告を聞いてそう感じたのか、どちらだろうか。


「話はちょいズレたが、各駐屯基地が三つから四つあれば上等だ。基本的に各駐屯基地にいる実戦人員は三百人弱で、六時間交代制で稼働させる事が出来るだろ」

「配置はどのように?」

「基本的には目の届く範囲全般、と言いたい所だが、それじゃ数が足りねぇ。基本的な警戒はゴルタナ装備の警兵隊に任せて、皇国軍の奴らは戦闘になりかねない、どの町や村にもある人通りの少ない道に点在させる。これなら警兵隊の負担も無くしつつ、皇国軍の数でも間に合わせる事ぁ可能だろうよ。ていうか、イルメール領じゃもうやってるぜ」

「無難――というか、基本的じゃが故に強固な守りじゃの」

「こういうのは奇をてらった所で意味ねェからな。実戦は何より数と質の両方を兼ね備えてようやく出来るモンだ。数が限定されてるなら、その数を疲弊させない方法でこなすしかねェ」

「てっきり『オレがいりゃ災いなんざ屁の河童よ』とでも言いそうでしたが?」


 シドニアの茶化すような言い方に、イルメールも「間違っちゃいねぇよ!」と笑いながら彼の背中をバチンと叩くが、それによってシドニアはちゃぶ台に頭を打った。ちゃぶ台にヒビが入ったが、それほどまでの勢いで頭を打ったシドニアは、普段の彼からは想像できない表情で悶絶している。


「っ~~~っ!!」

「実際、オレ一人でも戦争は出来る。んで勝つ自信もある。けどよォ、オレの体は一つしか無くて、今回の敵は数も出現場所もわかってねェ。なのにオレ一人で対処出来るはずもねェさ。

 人間っつーのは出来る事を愚直にこなすしか無くて、オレにゃ筋肉が、そしてオレの部下にゃ数っていう手札があってよ、それを使わねェのはもっとアホだ」

「シドちゃん大丈夫?」

「だい、じょうぶじゃ……ない……っ!」


 カルファスが「ぶふぅ」と笑いながら弟の事を心配し、頭を撫でるが、しかし彼も頭を押さえながら「しかし」と口を挟んだ。


「それでも被害は少なからず発生するでしょう。その被害に遭われた領民への対処は」

「そこはオレの仕事じゃねェ、オメェとアメリアの仕事だ」

「全く……で、アメリアはどうです?」

「うむ、正直な所、イルメールの配置案で基本問題ないと思うが、同時に心配も多い」

「? 今の、特に何ら問題ないような気もしますけど」


 リンナが手を上げると、その答えは今葉っぱや木の枝が服などに刺さったままのサーニスがやってきて、回答を。


「被害数の隠蔽について、です。配置数は基本的に警兵隊と皇国軍双方が多く出動する形となりますので、その事態を訝しむ者も現れるだろう、というのがシドニア様やアメリア様の心配でしょうね」

「あ、サーニスさん無事だったんですね」

「正直あそこまで吹っ飛ばされたのは、イルメール様に教えを乞うていた時以来です」

「オメェ、ホントに見ない内に弱くなったよな。昔はそれこそ、オレと張り合えるレベルにまで強くなったっつーのに」

「シドニア様のお付きとして、恥じぬ教養をと自分に課した結果です。事実、私は弱くなったと自戒しております。今後で挽回できるよう、精進いたします」


 眼鏡を整え、頭をイルメールに下げたサーニスにシドニアが「君はよくやってくれている」と労い、先ほどサーニスが述べた問題点についてを続けた。
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