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第六章
円卓会議(ちゃぶ台)-04
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殺気という殺気は感じなかったが、しかし人間から放たれる筈のない、圧気は感じた。
リンナの家宅前に立てかけられていたイルメールの剣――豪剣に向けて手を伸ばす。
すると距離が離れているにも関わらず、豪剣は引っ張られるようにして、イルメールの手に収まった。
「何する気だ」
イルメールの問いに、クアンタは答えない。
ただ、彼女は自分の手をイルメールへと伸ばし――手のひらから、数発の砲弾にも似た何かを放出した。
放たれた砲弾を避けるイルメール。
地面へと着弾すると同時に爆発し、地面を抉っていく光景を見据え、ピュウと口笛を吹かしたイルメールが、剣を構える。
構えていなければ、その喉は引き裂かれていたからだ。
クアンタの両腕には、まるで魚のヒレにも似た刃が生み出されていて、それが今彼女の喉元を向けて振り切られていたのだ。
通常、その程度の刃ならば弾き返し、追撃に出るイルメールだが、しかし彼女から発せられる威圧感に、強く出る事が出来ない。
「マジでナニモンだコイツ……ッ!」
両腕を振り切り、競り合っていた刃同士が弾かれ合う。
距離を取る互いに、イルメールが豪剣を捨てる。この武器は確かに強力だが、動き回るクアンタに対しては有効ではないと判断したのだろう。
「そぅら、よっと!」
距離を詰め、今刃を振るってきたクアンタの攻撃を寸での所で躱したイルメールは、左脚部を振り上げた後、クアンタの後頭部目掛けて、落とす。
強く叩き込まれた踵落としにより、地面へと顔面から落ちていくが、しかし地面に手を付けると、そこを起点として強く跳ね上がり、上空から四肢を使って、イルメールへと襲い掛かる。
「まるでケモノだな」
しかしイルメールは狼狽えない。決して四肢による同時の攻撃を、同じく同時に捌こうとするのではなく、あくまで攻撃能力として特化している両腕の刃だけ、手首を掴んで封じ込め、両足の蹴りを腹部に受けるが、コレは自前の筋肉を以て、防ぐ。
「クアンタ、オメェ死ぬ覚悟はあるって事で構わねぇか? さっきも今も、それなりに手加減してやってたんだぜ」
「勝手にしろ。私もお前を殺すだけだ……!」
「なるほどな、オメェっていう奴さえいなきゃ、オレがリンナとツガイになっても何ら問題ねぇなら、そうすっかな――ッ!」
左掌に、強く右手の拳を打ち込む。
それが一瞬衝撃としてクアンタを襲うも、しかし彼女は決して動じない。
先ほどは腕の刃だけで挑み、防がれた。
ならば全身を刃とし、触れるだけで敵を殺しうる力を手にすれば――
そう思考して、互いに動こうと足を前に出す、寸前。
「止めなさい、二人ともッ!!」
二人の間に立ち、声を張り上げる少女。
リンナがまず、クアンタを睨みつけ、彼女の近くに向かうと、強くその頭を殴打した。
「バカかお前は! お師匠が許可もしてねぇのに、皇族相手に大暴れすんなバカ!!」
「だ、だが奴はお師匠に乱暴を働いた」
「そう、それから助けてくれてありがと。でも、アタシはアンタにあのイルメールを殺せと命じてないじゃんか! アタシね、自発的に動く奴は好きだけど、動きすぎて暴走する奴、キライだから!」
キライ、という言葉が効いたのか。
クアンタが、リンナから見れば寂しそうな、他の者から見ればいつも通りの表情で、両腕に展開していた刃を、収めた。
「……申し訳ない、頭に血が昇った、という奴だ」
「ん。よろしい。ちゃんと謝れる弟子は好き。いい子だ」
しっかりと謝罪した弟子の頭は撫でてあげよう、と乱れた髪の毛を整える様にして撫でるリンナに、クアンタは僅かだが、寂しそうにしていた表情が和らいだ事を確認し、今度は頬と首元を撫でる。
それが落ち着くのか、ウトウトとした表情で、リンナの手の感触を確かめるようにしているクアンタが犬か猫のように思えて、思わず笑みを浮かべた。
「……ンだよ、殺し合いは終わりかぁ? つまんねぇの」
「アンタもアンタだ筋肉女っ!」
文句を言いながら近付いてきたイルメールの頭をゴツンと叩き、そのあまりに固すぎる頭に自分の拳が痛くなったが、しかし殴られた事にぽかんと口を開けるイルメールへ、リンナが怒鳴りつける。
「痛っつぁ……っ! っ、アンタね、分かってる? アンタはアタシん家を出会い頭にぶっ壊してて、しかもウチの弟子をどんだけ傷つけてると思ってるの? 嫁入り前の娘、痛めつけてくれちゃってさ、そりゃクアンタはただの娘じゃないけど女の子、ウチで大切に育てる若い弟子なんだから、傷モノにしてくれちゃ堪ったもんじゃねぇの、分かる!?」
「な、なんでんな怒るんだよ、ケンカしてただけだろ?」
「たった今そこで殺し合いっつったオメェが言うな! 第一皇女だか何だか知らねぇけど、アタシはオメェとの子を産む気も、オメェに産ませる気もねぇ!
アンタ、アタシに負けたんでしょ? ならアタシの言う事に従いなさい、速やかに、ちゃぶ台に戻って、皆の前でごめんなさいしなさいっ!!」
「ま、負け……っ!」
負けた、という言葉に弱いのか、イルメールは絶望したような面持ちで庭から縁側に、そして縁側から畳の部屋にまで戻ると、座っていた座布団の上に正座し、深々と頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「うむ。ではこれにて全領主・領土における協力関係が成り立ったという事で構わぬな?」
「は、は!? オ、オレァ暴れた事には謝ったけど、それに関しては認めて」
「イルメール?」
謝った事の誤解をされている、と感じたイルメールが、まとめようとするアメリアの言葉に反論しようとしたが、クアンタと手を繋いだリンナがジトーッとイルメールの事を見据えているので、グググ、と歯を噛んで、言葉を飲み込んだ。
「……ん、いい子だ。アタシはそうやって、負けを素直に認められるし、人の言う事を素直に聞く奴はキライじゃない。アタシの事を守ってくれる皇女サマになんなさい」
「そ、そしたらオレとの子を作ってくれるか!?」
「それとこれとは話が別。アタシは誰とも子を作る気、今の所ねぇから」
しっかりと謝れたし、負けを認めた事は褒めなければと頭を撫でたリンナに、僅かだが顔を赤めて嬉しそうにするイルメール。
そんな彼女を睨むクアンタの視線に気付き、鼻で笑うイルメールの二人がどんな低俗な争いをしているか、そこにいる全員が分かっていた。
リンナの家宅前に立てかけられていたイルメールの剣――豪剣に向けて手を伸ばす。
すると距離が離れているにも関わらず、豪剣は引っ張られるようにして、イルメールの手に収まった。
「何する気だ」
イルメールの問いに、クアンタは答えない。
ただ、彼女は自分の手をイルメールへと伸ばし――手のひらから、数発の砲弾にも似た何かを放出した。
放たれた砲弾を避けるイルメール。
地面へと着弾すると同時に爆発し、地面を抉っていく光景を見据え、ピュウと口笛を吹かしたイルメールが、剣を構える。
構えていなければ、その喉は引き裂かれていたからだ。
クアンタの両腕には、まるで魚のヒレにも似た刃が生み出されていて、それが今彼女の喉元を向けて振り切られていたのだ。
通常、その程度の刃ならば弾き返し、追撃に出るイルメールだが、しかし彼女から発せられる威圧感に、強く出る事が出来ない。
「マジでナニモンだコイツ……ッ!」
両腕を振り切り、競り合っていた刃同士が弾かれ合う。
距離を取る互いに、イルメールが豪剣を捨てる。この武器は確かに強力だが、動き回るクアンタに対しては有効ではないと判断したのだろう。
「そぅら、よっと!」
距離を詰め、今刃を振るってきたクアンタの攻撃を寸での所で躱したイルメールは、左脚部を振り上げた後、クアンタの後頭部目掛けて、落とす。
強く叩き込まれた踵落としにより、地面へと顔面から落ちていくが、しかし地面に手を付けると、そこを起点として強く跳ね上がり、上空から四肢を使って、イルメールへと襲い掛かる。
「まるでケモノだな」
しかしイルメールは狼狽えない。決して四肢による同時の攻撃を、同じく同時に捌こうとするのではなく、あくまで攻撃能力として特化している両腕の刃だけ、手首を掴んで封じ込め、両足の蹴りを腹部に受けるが、コレは自前の筋肉を以て、防ぐ。
「クアンタ、オメェ死ぬ覚悟はあるって事で構わねぇか? さっきも今も、それなりに手加減してやってたんだぜ」
「勝手にしろ。私もお前を殺すだけだ……!」
「なるほどな、オメェっていう奴さえいなきゃ、オレがリンナとツガイになっても何ら問題ねぇなら、そうすっかな――ッ!」
左掌に、強く右手の拳を打ち込む。
それが一瞬衝撃としてクアンタを襲うも、しかし彼女は決して動じない。
先ほどは腕の刃だけで挑み、防がれた。
ならば全身を刃とし、触れるだけで敵を殺しうる力を手にすれば――
そう思考して、互いに動こうと足を前に出す、寸前。
「止めなさい、二人ともッ!!」
二人の間に立ち、声を張り上げる少女。
リンナがまず、クアンタを睨みつけ、彼女の近くに向かうと、強くその頭を殴打した。
「バカかお前は! お師匠が許可もしてねぇのに、皇族相手に大暴れすんなバカ!!」
「だ、だが奴はお師匠に乱暴を働いた」
「そう、それから助けてくれてありがと。でも、アタシはアンタにあのイルメールを殺せと命じてないじゃんか! アタシね、自発的に動く奴は好きだけど、動きすぎて暴走する奴、キライだから!」
キライ、という言葉が効いたのか。
クアンタが、リンナから見れば寂しそうな、他の者から見ればいつも通りの表情で、両腕に展開していた刃を、収めた。
「……申し訳ない、頭に血が昇った、という奴だ」
「ん。よろしい。ちゃんと謝れる弟子は好き。いい子だ」
しっかりと謝罪した弟子の頭は撫でてあげよう、と乱れた髪の毛を整える様にして撫でるリンナに、クアンタは僅かだが、寂しそうにしていた表情が和らいだ事を確認し、今度は頬と首元を撫でる。
それが落ち着くのか、ウトウトとした表情で、リンナの手の感触を確かめるようにしているクアンタが犬か猫のように思えて、思わず笑みを浮かべた。
「……ンだよ、殺し合いは終わりかぁ? つまんねぇの」
「アンタもアンタだ筋肉女っ!」
文句を言いながら近付いてきたイルメールの頭をゴツンと叩き、そのあまりに固すぎる頭に自分の拳が痛くなったが、しかし殴られた事にぽかんと口を開けるイルメールへ、リンナが怒鳴りつける。
「痛っつぁ……っ! っ、アンタね、分かってる? アンタはアタシん家を出会い頭にぶっ壊してて、しかもウチの弟子をどんだけ傷つけてると思ってるの? 嫁入り前の娘、痛めつけてくれちゃってさ、そりゃクアンタはただの娘じゃないけど女の子、ウチで大切に育てる若い弟子なんだから、傷モノにしてくれちゃ堪ったもんじゃねぇの、分かる!?」
「な、なんでんな怒るんだよ、ケンカしてただけだろ?」
「たった今そこで殺し合いっつったオメェが言うな! 第一皇女だか何だか知らねぇけど、アタシはオメェとの子を産む気も、オメェに産ませる気もねぇ!
アンタ、アタシに負けたんでしょ? ならアタシの言う事に従いなさい、速やかに、ちゃぶ台に戻って、皆の前でごめんなさいしなさいっ!!」
「ま、負け……っ!」
負けた、という言葉に弱いのか、イルメールは絶望したような面持ちで庭から縁側に、そして縁側から畳の部屋にまで戻ると、座っていた座布団の上に正座し、深々と頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「うむ。ではこれにて全領主・領土における協力関係が成り立ったという事で構わぬな?」
「は、は!? オ、オレァ暴れた事には謝ったけど、それに関しては認めて」
「イルメール?」
謝った事の誤解をされている、と感じたイルメールが、まとめようとするアメリアの言葉に反論しようとしたが、クアンタと手を繋いだリンナがジトーッとイルメールの事を見据えているので、グググ、と歯を噛んで、言葉を飲み込んだ。
「……ん、いい子だ。アタシはそうやって、負けを素直に認められるし、人の言う事を素直に聞く奴はキライじゃない。アタシの事を守ってくれる皇女サマになんなさい」
「そ、そしたらオレとの子を作ってくれるか!?」
「それとこれとは話が別。アタシは誰とも子を作る気、今の所ねぇから」
しっかりと謝れたし、負けを認めた事は褒めなければと頭を撫でたリンナに、僅かだが顔を赤めて嬉しそうにするイルメール。
そんな彼女を睨むクアンタの視線に気付き、鼻で笑うイルメールの二人がどんな低俗な争いをしているか、そこにいる全員が分かっていた。
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