魔法少女の異世界刀匠生活

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第六章

円卓会議(ちゃぶ台)-09

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 有機生命における知識というのは生存の為に必要なものではある。動物であれば効率的な狩りの方法を体で覚え、頭の中で思考する知識として有す。

  が、こと人間という存在においては、必ずしも知識という物が正しい事に使われるというわけではない。

  高い水準の教育を受けていれば受けているほど、その者の基礎知識は蓄積され、善悪の区別無い物事の為に思考を巡らせることも容易となる。

  それに加え、国家という一つの括りにおいては、人民の統治を行う為、民衆の無教養というのは少なからず必要だ。

  無教養な人間ほど与えられた情報だけを鵜呑みにし易い。

  なるほど確かに、教育水準が高ければ高い程、今後の技術発展・経済発展に大きく貢献する事はあり得るが、そうなればなる程、教養があり、国が与える情報だけではなく、自分の知り得ている情報や考えによって動き、国の望む形で行動してくれない事もあり得る。


  ――人間という多様性を持つ有機生命が共存するにあたって『全て』の人間に高い水準の教育を施すのは、非効率極まりないのだ。


「やはりか、このレアルタ皇国では、教育統制が行われているのではないかと考えていたのだが」

「というより、それが当然よ。民衆に高い水準の教育が行き渡れば、確かに優秀な人材は増えるかもしれない。

 けれど仮に、今の民衆が全て優秀な人材となってしまえば、その高い教育水準が指標となり、その後は水準以上の者が優遇される。働く上でもね。そうした教育・知識格差が生まれてしまうという側面もあるわ」

「だが地球という星においては、その高い水準の教育を必要最低限、望む者にはそれ以上の教育を施す国策によって、格差はあるが競争社会となっている。その競争社会に弾かれた人間であっても、ある程度の生活は出来る様に仕組みも作られている」

「そうまでして教育水準を上げたというのに、質の低い人間を保護する理由は何? もしかしてアメリア領の様に人間の遺伝子調査による職業割り当て精度が高いとか? だから必要な知識水準も高いとか」

「否、日本の人間にはある程度、職業選択の自由が許されている。一部例外として、親が子供に跡継ぎになれと強要する場合も考えられるが」

「信じられない……それだと必要な知識と才能を有している人間が、気まぐれで別業種の職に就いてしまう事もあり得るわ……チキュー、ニホン……恐ろしい所」


 私は絶対に行きたくない、と嘆くアルハットに、クアンタも頷きつつも、しかし話が逸れたと軌道修正。

 先ほどまでの内容で疲れたのか、アルハットはクアンタの言葉に黙って頷きつつ、しかし視線は霊子端末に向けられていた。

  必要な情報を言葉で受け取りながら、上手く解釈できなかった内容は霊子端末にある情報から検索し、自分なりの解釈でクアンタの言葉を受け止める。


「……まとめるわ。貴女達……とは言っても貴女とマリルリンデの二人は、元々この塩基系銀河と、貴女のいた太陽系と呼ばれる銀河よりも遠く離れた外銀河系に本来在り、それから分離した存在を先兵として扱う。それが貴女やマリルリンデであり、【全】から分離した【一】ね。

 そして本来、貴女やマリルリンデは【全】から分離した【一】でしかなく、フォーリナー本体である【全】の繁栄を鑑みて動くだけなのね」

「肯定だ」

「なるほど【根源化】を果たした外宇宙生命体か……確かに人間とかの有機生命体は、それぞれの思考回路が非常に厄介で、こうした考え方を持つからして戦争や抗争が起こり得る。そうした違いを失くすための【根源化】は、確かに有効ではあるわ」


 根源化についてはかなり興奮した面持ちで聞いていたアルハットと、チラチラとこちらを窺うカルファス。彼女もある程度、こちらの話は聞こえているらしい。


「でもそんな、本来は兵器と言っても過言じゃない貴女には、段々と感情が芽生えてきている。フォーリナー本体と通信が遮断されてしまったからこそ、自分で考えなければならない状態になってしまった。

 考えると言うのは、それだけ思考する事、思考とは論理的なモノだけじゃなくて、感情的なモノも含まれてしまう。最初は論理だけだった貴女も、段々と感情を理解できるようになり、やがて感情も芽生えるようになる……うん、それは正直、あり得るんじゃないかしら」

「あり得るのだろうか」

「十分ね。言ってしまえば感情っていうのは人間にとっても説明が出来ない、致命的な欠陥よ。貴女達風に言えば【バグ】ね。

 本来であれば本能なり思考なり、効率良い生存方法だけ実践すればいいのに、なまじこうした感情を有するから、時に間違えるし、時に想像もしていない発見も生まれる。

 貴女達フォーリナーも、本来であれば感情的思考の必要のない、全てが完璧に統一された【全】だったかもしれないけれど、その【全】から逸れてしまった【一】が人の形を有し、人の善意や悪意に触れ、人が放つ感情の発露を受けていれば、人らしい感情だって生まれ得るわ」


 興味深いわね……と、ムッツリとしていた表情が高揚し、笑みを浮かべていると分かる。

  それと同時に、こうした知識と知識による掛け合いというモノを楽しいと感じる様に、彼女の言葉は止まらない。


「そして貴女達フォーリナーが主の栄養源とする虚力。コレは何のために収集するのかしら。正直貰った資料などを見ても、あまり概要が掴めないのだけれど」

「分からない。感情を司るエネルギーという事は分かっているが、しかしそれが私たちの流体金属生命を維持する為にどう必要なのか、知る権限が無かった」

「なるほどね。じゃあその虚力がある事で、貴女達の活動時間が延びる以外、例えば戦闘能力が向上する、等の作用は無いの?」

「不明だ」

「虚力に関しては分からない事だらけという事ね……了解したわ。お姉さま、そちらはどうです?」

「順調順調~、もうちょっと待ってねぇ~」


 十分楽しんだ、と言わんばかりに視線をカルファスに向けたアルハット。

  目を瞑り正座しながら「くかあ……」と意識を閉ざして涎を垂らすリンナの頬に右手で触れながら、左手で一枚の紙へ何か暗号の様な物を出力していくカルファスの様子が。


「お師匠に何をしているんですか」

「あ、危険なことはしてないよぉ。ただ眠りについて貰っている状態で、その人間が持つ能力値を計測してるだけだから」

「睡眠状態でなければならないのでしょうか」

「十全な調査は深い睡眠時じゃないとダメだね。脳が休んでいる状態じゃないと。例えば身体能力検査する前に遊び過ぎて疲れてたら、十全な検査と言えないでしょう?

 ……それと、アルちゃんに敬語じゃないなら、私も特に気にしないから敬語外していいよぉ。あっちは敬語、向こうは標準、とか疲れるよね」

「問題は無いが、了解」


 処理が終わったのか、今リンナの頬から手を離したカルファス。

  リンナの体を抱き寄せて「クアンタちゃん、リンナちゃん用のお布団敷いてあげて?」とお願いされたので、客間の隣にある寝室に布団を敷き、カルファスが寝そべらせて頬に軽く口づけた。


「うん、リンナちゃん面白いね」

「何がだ」

「まずその虚力ってのはよくわからなかったけど、魔術師としての素養と錬金術師としての素養も持ち得てた。多分だけど、家系を遡っていくと、それなりに高貴な家柄だったんじゃないかな?」

「魔術師と錬金術師としての素養を持ち得る事と、高貴な家柄だった事との繋がりが分からないのだが」

「簡単に説明するよ。一回座ろう」


 寝室から出た二人と、光が差し込まないように襖を閉めたクアンタが、着席した事で話を再開。


「そっちの話も概ね聞いていたけど、その前にアルちゃん、後でクアンタちゃんから貰った資料送ってね?」

「ええ、構わないわね?」

「問題ない。続きを」

「うん、そもそもリンナちゃんの家柄についてだね。

 まずクアンタちゃんは、この世界における魔術や錬金術について、知ってる?」

「細かいことは分からない」
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